第51話 大洞窟に存在する街『ラビ』②

「おーいペガサスじゃんなんでこんなところに居るの」


 場の主役であった女性二人と同じぐらい目立つ装備をしたシュタイナーがこちらを不思議そうに見る。


 バッと自分の周りにいたプレイヤーが一斉にこちらを向き少し距離を取る。


「や、やぁシュタイナーイベント以来だね……」


 自分は再開を喜ぶようにそう笑みを浮かべたつもりだが上手く笑顔に表情が出来ているか自信が無かった。






「はぁーーーー!?ペガサスがクランに入っただと!?」


 シュタイナーと無事?再開を果たし今日一番の賑わいを見せる広場を脱出して個室のある近くの酒場へ入った。


 四方を区切られた居酒屋のような部屋へ入り自分の正面にシュタイナー、左側に雪音と呼ばれたピンク髪の神官とヨルファと言われていた若獅子のローブを羽織る魔法使いが連なって座る。


 部屋に入って一息ついた開口一番、大声でシュタイナーの怒声のような声が響いた。


「あ、あぁ色々あってね」


 無言で伺う女性二人がとても気になるが自分がそう答えるとまるで神が死んだかのような大げさなモーションで嘆くシュタイナーが目に映る。


「イベント終わった後メール送ってたのに無視されたのはもう入っていたのかーーー!」


 辺りを気にしない様にそう嘆くシュタイナーに自分は一瞬ん?と気になる点を見つけた。


「あ、ごめん無視してたわけじゃないんだ。メールが来すぎていて多分見れてない」


 自分がそう弁明するとそれはそれで悲しい!とテーブルに顔を伏せた。


「……所でシュタイナーいい加減説明して貰いたいのだけど」


 そんなシュタイナーを横目に見つつやり取りを静観していた魔法使いの女性、ヨシュアさんがテーブルに伏せているシュタイナーに向かってそう言葉を放った。


「んぁ?あぁこいつは黒龍イベの時のチームのメイン鍛冶だよ俺の武器を作ってもらった」


 テーブルに伏せていたシュタイナーが顔をちらりと上げるとそう言う、すると本当か!?といったようにヨシュアさんと雪音さんが驚く様な様子でこちらを見てきた。


「彼がバンディーチョッパーを……なるほどね」

「シュタイナーさんのメイン武器を……はぇ~」


 両者とも驚いた様子でこちらを見てくるが正直噂が独り歩きしている感がある自分としては非常に居心地が悪い


「一か月も反応ねぇから嫌われたかなって諦めてたんだけどよ、まさかこんなところで会うとは思わんかった」


 こっちのセリフだよ!と内心叫びたくなったが無視していたのは完全にこちらが悪いのでその疑念を晴らせたのは良かったのかもしれない







 聞けばシュタイナー一行は12人規模のPTでクランの新人メンバーをバルバトへ連れていく途中だったようだ。丁度シュタイナーが仕事で遅れるという事なので広場で待っていたら横で顔を赤くしている雪音さんがはぐれてしまったので探していたそうだ。


 そんな中でばったりと自分と再会したから今メンバーを待機させてFlashの幹部メンバーであるシュタイナー含めた三人がここに集まっているようだった。


「『路地裏の工房』……聞いた事ねぇな、二人は?」


 自分が所属したクランを告げると流石にシュタイナーは知らないようだった。横に座る女性二人に聞いてみるもどちらも知らないと首を横に振る。


「まぁどんなクランに入るのは本人の自由だが勿体ねぇ……お前なら俺らのクランに入れたのに」

「シュタイナーのクランってなんか資格が必要なの?」


 今も嘆くようにそう答えるシュタイナーに質問をぶつけた。


「あぁ、Flashは基本紹介制のクランだ。幹部メンバー以上の紹介が無いと入れねぇ」


 Flashは全員が冒険者プレイヤーで固められたクランだそうだ。クラン長であるライネさんを筆頭にシュタイナー、ヨシュアさん、雪音さんを含めた幹部メンバー以上の紹介が無いとFlashには入れないそうだ。


「これでも入りたいっていう奴は多いんだぞ?それを断ったのはお前で二人目だ」

「……ちなみにもう一人は?」


 自分がそう聞くと「姫騎士だよチクショー!」と再度テーブルに顔を伏せた。


「すまない、シュタイナーもクラン内で大分君を推しててね、冒険クランのFlashに生産プレイヤーの君をどうしても入れたいとライネ……ウチのクラン長に言ってたんだよ」


 そう言うヨシュアさんに自分は悪い事をした……と罪悪感が芽生える。少なくともお断りのメールをシュタイナー含め誘ってきてくれた人に送るべきだったと思った。


「すいません、自分が決まった時点でシュタイナーさんにメールを送ってればよかったんですけど、なんせ数が多くて……」


 正直言えば自分のメールボックスの中身は全然把握していない、最初は全部目を通していたが魔剣事件以降、どこからかイベントでシュタイナーの武器を作っていたことがバレたようでひっきりなしにメールが飛んできている状態なのだ。


「気持ちはわかるよ、私や雪音……そこで死んでいるシュタイナーも経験はあるからね」


 THE大人の女性と言った感じのヨシュアさん、フフと軽く笑うしぐさはどこか様になっていた。


「まぁなんというか雪音の迷子癖で再開できるとはなぁ」

「迷子癖ってなんですか!?迷子癖って!!」


 ぷんぷんと可愛らしく怒る雪音さん、その横で楽しそうに笑っているヨシュアさん、日本のトップを走るクランとあってかどこか殺伐とした緊張感があると思っていたのだが結構雰囲気は良いらしい


「話している途中悪いんですけど……外で待たせている人たち大丈夫ですか?」


 ちらりと個室の入り口から顔を出し酒場の窓を見てみると物珍しそうに覗いている野次馬プレイヤーがたくさんいた。


 すぐさま覗いた顔を戻しその様子を見て


「まぁ外はこんな様子よ、とりあえず当分は動けんしまだメンバーが集まって無いからどのみち出発出来ないしな」


 もうメールは送ってあるとシュタイナーは言う、これまでの印象でガチャ廃人のイメージが強かったがしっかりと副クラン長としてやることはやっているようだった。





「ペガサスが別クランかーだったら連合組んだらよくないか?」


 連合?と疑問を浮かべるとその様子を見たシュタイナーが話を続ける。


「連合はだな一種の同盟関係だな、主に姉妹提携をしているクランが使う方法で連合を組むと様々な特典がある」


 幻想世界では碌にプレイヤーが居なかった関係かまさかクランシステム関係で教えを乞う立場になるとは思わなかったがシュタイナーが説明を要約すると


 1、連合を組んだクランは連合チャットを使用できるようになる。

 2、共同出資などで連合名義で建物を建てたりアイテムを購入できる。

 3、連合プレイヤー同士でパーティーを組むと経験値にボーナスが入る。(クランメンバー、フレンド同士のボーナスとは重複しない)


 こう聞くと結構連携が強い様だ。シュタイナーが言うにクラン合併程では無いにしろ連合となれば信用できる相手じゃないとやらないようだ。


「外部には秘密にして欲しいんだが、Flashはイベント終了後辺りから生産クランと連合を組もうと考えていたんだ」


 別に他へ声が漏れる訳じゃ無いのにひそひそと小声で話し始める。


「今までは森の雫とかオークションとかから装備を整えていたんだけどな、流石に自前ないし専属の鍛冶プレイヤーから装備が欲しくてな」


 それまでFlashは森の雫から委託という形で装備を作って貰ったりオークションで競り落としたりしていたそうだ。その間はドロップ品を中心に装備していたが今回のバンディーチョッパーや他有力クランが高性能な製作装備を作り始めたことにより生産クランと提携を組みたいと考えているようだ。


「森の雫は規模がデカすぎて無理だ。しかしあそこレベルで良い腕の生産プレイヤーとなるとどこも大規模クラン所属でな」


 シュタイナーが言うに良い腕の生産プレイヤーはすでに森の雫のような巨大クラン、もしくはライバル的存在の有力クランに所属しているそうで、野良の鍛冶プレイヤーとなると殆どいないそうだ。


「最近では鍛冶プレイヤーの囲い込みが酷い、場所によっては半ば脅しだ」


 そう嘆くシュタイナーに同意するように頷くヨシュアさんと雪音さん


 俺も実はナミザさんに半ば脅されたんですよ……と冗談でも言えないのでここはなるほどと相槌を打つ。


「Flashが動き始めた時にはすでに大半が決まっていた。だからこそこの連合だな」


 正直言えばトップクランの『Flash』と自分が所属する『路地裏の工房』は天と地ほどの力の差がある。


 クラン長のナミザさんはガントレットの製作者、そして本人の高い技量も界隈で広まっているがFlashのクラン長、ライネさんに比べると苦しい


 他にも正宗さんは一般的な鍛冶プレイヤー、猫男爵くんやサラちゃんは新人レベル。レイネスさんは研究者だ。どう見ても全員が有名人みたいなFlashに比べて格落ち感は否めない


「しかし、自分はただの一クラン員です。しかも一番新参なので話はしますけど期待はしないでくださいよ?」


 聞かれたからには一応話は通しておくべきだろう、正直迷惑と言っても過言ではないがただえさえシュタイナーの勧誘メールを無視していたのだここはちゃんと話を通しておきたい。


「あぁ、勿論無理にとは言わない」


 頼んだ。とシュタイナーは真剣な表情でそういう、ヨシュアさんと雪音さんも特に反論が無いという事はクラン長であるライネさんにも話が通っているのかな?と感じ話は終わった。








「ペガサスも一緒にいくか?」


 酒場を出ると店外で待機していた野次馬プレイヤーがわっと騒ぎ出す。そんな光景にも目をくれずにシュタイナーはパーティーに誘ってくれた。


「一緒に行くって、人数は?」

「9人だ。どのみち12人用のルートを通るから一人生産プレイあーが居ても大して変わんねぇしな、顔合わせも済ませておきたいし」


 気にしてないとの様子でそう言ってくれる。ヨシュアさんたちも不満は無さそうだ。正直この機を逃して広場でパーティーを再度探すとなるとシュタイナーとの関係がバレているので嫌な勧誘が来そうだ。


「あぁ、お願いしてもいいかな?」


 自分がそう言うとシュタイナーはおう!と楽しそうな笑みで了承した。






「ペガサスと言います。関係としてはシュタイナーの武器を作っていました」


 お祭り騒ぎと言った広場の中を泳ぐように人を掻き分け残りのFlashのメンバーと合流する。このままでは話もままならないのでパーティーを組みダンジョンへ突入した。


 ダンジョンへ入ればパーティーメンバー以外のプレイヤーとは遮断される。正門をくぐった瞬間、あれほど煩かった周辺は一気に静かになった。


 正門から歩きつつ軽く自己紹介が行われた。パーティーの中には広場へ最初来た時にヨシュアさんと話していたプレイヤーの人も居た。


「へぇー、いなさんの武器を作ったんですか」


 いなさんとはシュタイナーのイナーを文字った略称だそうだ。


「あ、自己紹介遅れました自分は柊といいます」


 柊と紹介してくれた男性プレイヤーは神官やドイルドと同じぐらい珍しい弓使いのプレイヤーだった。


「柊さんって弓を使っているんですね」


 幻想世界では弓も強力な物理系遠距離スキルを持ってた強武器の一つだがファンタジーワールドではいまいち人気が無い、大体のプレイヤーは剣を持って戦う近接職だし、遠距離職にしてもライバルには魔法使いが居る。


「えぇ、高校の頃は弓道部だったんですよその経験からですね」


 それでもやっぱり勝手が全然違うと柊さんは笑うがそれでも魔法使いでは出来ない様な弓独自の遠距離狙撃はチームに必要な力だと話を聞いていたシュタイナーが言う


 他にもタンク役に豆しばさんにDARSさん、アタッカーのしゅんしゅんさんに支援で箱丸さんとセーナさんを含めた計10名が今回バルバトへ向かうメンバーだ。


「幹部以外ならDARSと柊以外が新規メンバーだな、豆しばさんはヨシュアと黒龍イベントで同じチームだったようで誘ったんだ。あとは……」


 10人中4人が今回募集で集まったFlashの新メンバーだそうだ。元々Flashはトップクランであるが少人数クランで有名で今回の追加メンバーも含めても15人しかいないそうだ。


 それでも凄いのがクラン長のライネを含め元メンバーや今回新たに入った豆しばさんなども全員が黒竜イベントで個人ランキング1000位以内に入った猛者中の猛者だそうだ。


 しゅんしゅんさんはコロシアムでも上位1%未満しか到達していないゴールド帯に居る個人技が得意な槍使い、支援職の箱丸さんやセーナさんはまず支援職という希少性、そしてトップクランでも戦える実力となればそれはそれは血みどろの勧誘合戦があったそうだ。




(やっぱりトップクランって言う事もあって全員強いな……)


 ラビの街を抜けてバルバトへ向かう後半ルート、自分やシュタイナー達と行くルートは12PT用の一番難易度が高い設定だ。


 キルザ山脈のダンジョンがアップデート後初の後半ルートだが総じてルートが簡易化されているようだった。高所などの落下死する危険性があるような場所は無くなり見通しが良く道幅が広くなっていた。


 モンスターの数も多いがこれは12人ルートなら普通ぐらいだろう、今現在自分を含めて10人なので人数的に厳しいはずだがそれでもトップ勢のプレイヤーで固められたパーティーのお陰て危なげなく敵を処理していく


「次くるぞー」


 パーティーリーダーのシュタイナーが注意すると地面から隆起するようにアイアンゴーレムが二体現れる。


「〈錆の茨〉、〈アタックエンチャント〉!」


 ヨシュアさんが隆起した直後に敵を拘束する〈錆の茨〉を設置し、シュタイナーやしゅんしゅんさんに攻撃バフを駆ける。


 ガ…ガ……


 アイアンゴーレムが完全に出現した直後、事前に設置されていた〈錆の茨〉が発動しアイアンゴーレムの足を這うように茨が巻き付く、その場で拘束し少しずつではあるが茨の棘がアイアンゴーレムの金属の表面に食い込む


「五連突き!」


 拘束され動けない状況のアイアンゴーレム、その晒しだされた胸のコアに向けて槍の鋭い攻撃が連続して当たる。的確にコアを打ち抜き、みるみると体力を削っていく


「〈クイックモーション〉、〈グラビティマイン〉 」


 メインアタッカーのシュタイナーやしゅんしゅんさんに攻撃速度バフを付与、ヨシュアさんが放った〈錆の茨〉の効果が終了する瞬間に合わせて同じ位置に再度阻害魔法を設置する。


(うわぁおっかねぇ)


 アイアンゴーレムはキルザ山脈でも特に強いモンスターだ。行動不能状態じゃないと出現しないコアに攻撃を当てる以外は物理も魔法のダメージを大幅にカットする特性がありその巨体による広い攻撃範囲もあるそれが複数体出現したら並みのプレイヤーでは苦労するのは間違いない。


 しかしシュタイナー達メンバーは所謂ハメ技に近い形でアイアンゴーレムが出現してから何もさせずに無傷で倒した。


 ハメ技といってもスキルの練度によって効果時間が変わるファンタジーワールドに置いて少しでもタイミングがずれるとアイアンゴーレムは阻害耐性を一時的に獲得しめんどくさい状態になる。


 勿論的確にコアを打ち抜いたしゅんしゅんさんの技量もさることながらヨシュアさんと雪音さんの阻害コンボはまさしくトップクラスのプレイヤーにしかできない離れ業だと言えた。


 

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