第48話 魔道具の研究
「レイネスさん」
お互いの自己紹介が終わり、レイネスさんは工房へ入り早速例の魔道具の研究を始めようとしていた。
「ん?なんだ」
「自分も魔道具製作に興味があるので見学させてもらえないかなと」
自分がそう言うとレイネスさんは切れ長の目を真ん丸にして驚いた様子でこちらを見ていた。
「驚いた。魔道具製作に興味があるとは」
「魔道具って人気無いんですか?」
そんな馬鹿な……と思ったがレイネスさん曰くまず魔道具自体が無いため興味を持つ以前の話のようだ。
「魔剣とかあるぐらいだから魔道具があってもいいはずなんだがなー」
魔道具自体はさして珍しい物でもない、確かに大魔法を使える魔道具となれば相応に珍しいが小さな魔法が込められた魔道具なら第一大陸でもあったはずだ。
「まぁ俺が作っているのはこれだな」
レイネスさんがゴトンと作業台の上に置いたのは炊飯器ぐらいの四角い道具
「一応この世界では水晶とかに多く魔力が貯めれる。それを電池代わりにして魔法の伝導率が一番良い銀を電線代わりに使っている」
レイネスさん曰く炊飯器のような試作品はコンロのような火をつける魔法のようだ。それを現代と同じような原理で制作しているらしい
「IHコンロ擬きはできたんだよな、ただ火を出すとなると着火部分が難しい」
銀を電線に見立てて魔力を流せばIHコンロの様には出来たそうだ。流石に料理が出来るほどの熱量は無いが魔力が銀の電線を流れることでほんのり熱が生じたらしい
(魔力が流れる。となれば火のルーンを刻んだ物質を載せてそれに魔力を流せば……)
自分はそのコンロの魔道具から視線を外し後ろで製作していた練習用の魔法版を見る。
「少し待っててください」
「……これで火が付くのか?」
「多分」
ノートサイズの鉄板を四等分に分け、その一つに火のルーン文字を彫る。最初は大きくても綺麗に歪みが無いように丁寧に彫る。
その様子を見ていたレイネスさんは訝し気に作業の様子を見ていたが特に口をはさむこともなくコンロ擬きの上に火のルーン文字を彫った鉄板を接続した。
「おぉ!」
銀の電線を接続した瞬間、様子は劇的に変化した。薄い鉄板だが急に発熱し始めた。それはレイネスさんが最初に作ったIHコンロ擬き以上にはっきりとした熱量を発したのだ。
「……収まったな」
「はい」
しかし事態はそううまくいかなかった。レイネスさんが見る先には発熱した鉄板、鉄板の中心部は炭化したかのように真っ黒になっている。
「効果時間10秒もなかったぞ」
行き成り成功したかと思えば結局熱を発するだけで火は灯らなかった。それどころか発していた熱はものの10でガス欠ならぬ魔力欠になってしまったのだ。
「火炎壁3回分は水晶に込めたはずだぞ、それが鉄板熱すのに10秒ぽっちとは」
レイネスさんが言う火炎壁は魔法職が使う火属性の魔法の一つ、名前の通り火の壁を生成し行動を阻害するのが主な目的だ。火炎壁は初級魔法とは言え人の身長以上の火柱が壁となって出現する。
それの三回分の結果が10秒間熱を発する。とんでもない燃費の悪さだ。
その後はルーン文字を何種類か制作したが結果変わらなかった。劇的な変化があったのは火の文字だけで水や雷はうんともすんとも言わない
次の日、今日は夜までメンテナンスがあるので暇な時間は幻想世界で使っていた第一大陸で使っていたアイテムで魔道具に仕えそうなものをピックアップしていた。
レイネスさんとは21時に合流した。遅い時間帯であったけどレイネスさんは社会人だそうで余り早い時間帯からは出来ないのだそうだ。
「おい、こんなアイテムどこから……」
ドサリと作業台の上に今日の昼間にピックアップしたアイテム類を載せる。これらは全部黒龍イベントの際に得たガチャ結晶との交換で貰った素材の一部だ。これなら怪しまれずに済むだろう
「これだけありゃ色々調べられる」
レイネスさんも自前で使えそうな素材を調べてくれていたようでそれぞれ案を出しつつ試作を作っていた。
「んでこの火のルーンが魔力を変換している訳か……」
ルーン文字についても幾つかレイネスさんに伝えてある。最初は全部の文字を教えようと思ったのだが一つの問題が起きた。
「下位ルーンは彫ることが出来た。しかし二文字以上、もしくは上位ルーンとなると彫るだけでも消滅してしまう……技量的には問題ないはずなのだが」
問題とはレイネスさんが二文字以上のルーン文字が彫れなかったのだ。
上位ルーンは分かる。上位ルーンにはその継承者から伝授してもらう必要がある。これらはサブクエストに位置して上位となればとてつもなく長い物ばっかりだ。しかも第一大陸では精々中位ルーン文字が幾つかしか覚えられない
上位ルーンに関してはある程度予想はしていた。しかしレイネスさんは『火』のルーン文字を彫って発動することが出来た。しかし『火炎』や『発火』となると素材が破損してしまう
勿論これらは一文字しか耐えれない鉄板では無く黒鉄鋼の板でだ。自分が同じようにやった場合はちゃんと『発火』のルーン文字が発動した。
(複数文字に制限開放イベントは無かったはず。レベルか?)
複数文字のルーンに耐えれる素材がおいそれと第一大陸にあるか疑問だが複数文字を書くために解放せねばならないイベントなどは無かったはず。となればレベルや幻想世界で攻略したサブイベントが気が付かない間にトリガーとなっていた場合だ。
しかし今現状複数文字となれば自分しかできない
しかし悪い事だけではない、先ほど言ったように『発火』のルーン文字を黒鉄鋼の板で使用した場合ちゃんとマッチの火の様に点火した。
「おぉー」
具体的なルーン文字が必要となるようだ。しかも昨日よりも格段に魔力消費が少ないことも分かった。
今の段階で言えばたかだかマッチの火を灯すのがやっとだ。幾ら魔力消費が少なくなったとはいえ魔道具でマッチの火をつけるぐらいの魔力があれば魔法なら辺り一面を火の海に出来るのだがこの際気にしないことにした。
「黒鉄鋼はルーン文字を多くかけるが魔法耐性も高い、ここは多少大きくても魔力が流しやすい銀とかにすべきじゃないか?」
他にも魔力が通しやすい銀や火の魔法の威力を上げる炎石を使ったり様々な素材を試していった……
気が付けば一週間も経っていた。主にレイネスさんがプレイできる時間帯に限るが、二人で一緒にプレイできる間は只管魔道具の研究に勤しんでいたほどの充実した一週間だった。
最初はナミザさんや猫さんなども興味を示してくれたがやってることが回路の勉強に近いなのでなんとなくは分かる物の助言が出せる程は精通していないらしく遠目から様子を伺うだけだ。
レイネスさんはそこら辺の知識はあるようで本業では無いにしろ本で調べながら挑戦している。自分も大学へ課題を提出がてら図書館などで回路関係の調べ物をしたりした。その際教授から勤勉だと褒められたがこれがゲーム関連と聞いたらどんな顔をするのだろうか……
今現在はコンロをオンオフできるスイッチを付けた。あとは魔法への抵抗値が高いアイテムを一通り回路の抵抗として用いれないか挑戦している所だ。
「ロマンは大事だけど大分赤字じゃないかな?」
自分とレイネスさんの研究を横目で見ていたナミザさんが呟いた。
「ロマンは大事、そういうナミザだって人の事言えないでしょ?」
今朝がたやっとの思いで出来た魔力の出力を調整するボリュームを設置しながらレイネスさんはそういう
「そういえばナミザさんは何やっているんですか?」
自分は作業の傍ら顔を上げナミザさんの方を見る。
「あー私は新武器の製作かな?」
「こいつはガントレットの製作者」
新武器、と考えこめば作業台の反対側で作業をしていたレイネスさんがボリュームを設置しながら話す。
ガントレット、素手に装着する籠手のような武器で幻想世界では無かった物だ。そしてそのガントレットという概念をナミザさんはこのゲームで作ったようだ。
「大したことないよ、こういうのは他のゲームではあったりするものだしさ」
ガントレットはイベント手前ぐらいに生み出された武器種のようだ。
既存の武器種と違いスキルが存在しない為ここら辺は一から作っていかなければならないとの事
幻想世界やファンタジーワールドである既存の武技スキルはモーションや使用する魔力量によって発生する効果を運営が設定して作ったものが現在の武技スキルだそうだ。
その中にはモーションや使用する魔力量によって発生する効果を自身で決めてオリジナルの技が作れたりする様だ。これらは冒険プレイヤーの中でも結構盛んに行われる研究のようで専用の掲示板もあるそうだ。
そして全く新しい武器種のガントレットはその新しさから既存の武技スキルが無く完全にオリジナル。勿論ナミザさんは武技スキルを作るなんて出来ないそうなのでガントレットを使用しているプレイヤーはごく少数だと聞いた。
生産プレイヤーでは魔道具製作、冒険プレイヤーではオリジナル武技どれも幻想世界では出来なかったことだ。
意外な新要素について知ることが出来た。その内調べてみるのもいいかなと思った。
【サーバー拡張のお知らせ】
そんな充実した魔道具研究だったが一つの転機が訪れた。
本来であれば黒龍イベント終了後すぐ加俸される予定だったサーバーの拡張、及び開放が行われるようだ。
半月ぐらい遅くなったものの、当初の予定の1.5倍の人数が参加できるようになったらしいそこには有名芸能人や大手ストリーマー達が多数参加するとの事、これで既存の勢力がどう変化するか。ネネさんと何やら確執のあるナミザさんは興味深そうに見ていた。
サーバー拡張から更に半月、自分はまだ魔道具研究に勤しんでいた。その間のファンタジーワールドと言えばキルザ山脈が難易度が緩和されたという事もあってバルバトへ到達するプレイヤーが増えた事により上位プレイヤー達は皆キルザからバルバトへ居を移していった。
そして王都も様変わりしている。九月中旬に行われたサーバー解放によって参加したプレイヤーが王都周辺まで進出してきたことだろうか
最初期組は大体王都到達は2か月かかっていたようだがそれまでに情報や地盤が出来たこともあって第二期のプレイヤーは猛烈な勢いで攻略を進めていた。
以前は森の雫一色の第7サーバーの王都も野良と思われるプレイヤーが結構増えていた。
「……よし、これで湧水の水差しが完成だ!」
作業台に鎮座されているのは銀色の水差し、魔法のランプに近いその魔道具はその名の通り魔力で水を生成して理論上魔力があれば無限に水が出てくる代物だ。
「でもこれは誰が使うの?」
ひょこりと顔を出して完成品を覗くのは猫の姿をした猫男爵さん、彼から映る瞳には一切の悪意は感じない
「……完成だっ!」
自分もレイネスさんも途中からこれ魔法でよくね?なんて思っていたが、発端であるレイネスさんはゴホンと軽く咳を入れると、ここは魔道具という可能性が証明されたのだ!と尊大な様子でレイネスさんは研究の完了を宣言した。
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