第43話 森の雫

【バランス調整のお知らせ】


「ファンタジーワールド」をお楽しみいただき、誠にありがとうございます。


 9/6に行われる臨時メンテナンスについて実施内容をお知らせさせていただきます。


 何時もは何気なしに第3サーバーにログインしていたが気分を変えて第7サーバーに来ていた。


 ログインした瞬間、ピロリン♪と普通のメールとは違う通知音に見てみれば明後日に臨時メンテナンスを行うと言う通知が来ていた。



 【普段よりユーザーの皆様からのご要望を聞きつつバランス調整を行ってきていましたが、ご要望の中でも特に多かった【キルザ山脈】に対するバランスアップデート及びサーバーメンテナンスを実施予定です。期間は9/6正午から約6時間を予定しています。】


 要約すればサーバーのメンテナンスとキルザ山脈関係のバランス調整だそうだ。その他にもいくつかのアイテムの追加やスキルの調整はあるようだがメインとなるのはキルザ山脈のバランス調整だろう


 ●キルザ山脈のバランス調整

 キルザ-バルバト間に位置するキルザ山脈ダンジョンの難易度調整を実施いたします。内容は以下の通りです。


 ・一部地形の変化

 ・セーフティーゾーンの追加

 ・ダンジョン内に配置されるモンスター数の減少

 ・キルザ山脈専用傭兵NPCの追加

 ・ダンジョン内に街を追加




「おぉ」


 ただ敵を弱くしたりする類の調整かと思えば街も追加となればバランス調整というよりアップデートに近いだろう、幻想世界でもダンジョン内に街は存在していなかったので楽しみな要素の一つだ。



 ・キルザ山脈専用NPCの追加について

 ユーザーの皆様からのご要望により、それまでの傭兵NPCと違った行動パターンを持つ特殊なNPCを追加します。彼らはキルザ山脈を知り尽くしておりとても大きなキルザ山脈でもプレイヤーの皆様にあった最適なルートを提示しつつ戦闘の際も頼りになる存在になることでしょう。


 まさかの商売敵の登場である。


(いや、これが正しいんだろうけど)


 自分がやっていることは一種のロールプレイなので運営の対応についてとやかく言うのはお門違いである。


 第一キルザ山脈の案内人を始めたのもその高い難易度による低い突破率というのもあるし、そのバランスを運営が放置しておくとも思えない


「運営の人が見てたりして……流石にないか」


 ユナとコロシアムで戦う際に運営を名乗る人が出てきたりと見られている気がしないでもないが流石にうぬぼれだろう








(全然つかまんねぇな)


 今日は気分を変えて第7サーバーでログインをした。


 このゲームでは各サーバーごと特色があって、第1~第3サーバーは高レベル帯のプレイヤーが多い、オークションに出品されるアイテムの質も高くガチ勢が多い印象だ。


 第4~第6サーバーはその逆でワイワイやゆったりといったカジュアル層のプレイヤーが集まっている傾向にある。こっちはチャット文化が盛んで、王都付近までな野良プレイヤーを募集したらすぐ捕まることが多い、また第1~第3サーバーで活躍するトップクランの姉妹クランが活動していることが多いようで棲み分けが出来ているようだった。


 そして第7サーバーは生産プレイヤー達が集まるサーバーだ。


 特に運営が決めたわけではないがファンタジーワールドが稼働し始めていつしか生産、商人プレイヤーはこのサーバーに集まることが多くなった。


 一級品の装備がオークションに出品されるのは第7サーバーが最も多く、それらの経済活動も第7サーバーが最も活発的だ。


 という事もあってか第7サーバーのキルザの街に居るプレイヤーは全然居ない


 それもそのはずでキルザでは物価は高いし鍛冶などの工房設備も最低限で乏しい


 大体のプレイヤーがちゃんとした工房やオークション会場のある王都やフレックスにいてキルザの街は閑古鳥が鳴く状態だった。


「サーバー間違えたかなぁ……」


 いつもログインする第3サーバーは1000越えの待機列が出来ているし、だからと言って第7サーバーへ何気なしにログインしてみればまさかのプレイヤーが一人も居ない状態だとは思いもしなかった。







「いらっしゃい!ウチの武器屋は専属の鍛冶屋から卸している一級品だよ!」


 閑古鳥が鳴いていたキルザの街を出て気分転換に王都までやってきた。


 キルザにプレイヤーが居なかった分、この第7サーバーではフレックスや王都に人が集中しているようであまり印象に残っていない第3サーバーの王都よりも確実に歩いているプレイヤーの数が多かった。


(えーと森の雫は)


 今回はイベントでお世話になったネネさんが所属するクラン【森の雫】の拠点を探しにやってきた。


 理由としてはイベントの際幾つか持っている発掘武器を買い取ってもらう事で何度かその旨のメールを送ってみたが反応はなく、いつでも来てねと言っていたのでとりあえず森の雫の本拠点が置かれているはずの王都までやってきたのだ。


「えーと場所は」


 王都にあるとは聞いていたが詳しい場所は分からない、ネネさん曰くクランのメンバーは皆右耳に緑色の雫の形を模したイヤリングをしているそうなのでそのイヤリングをしているプレイヤーを探す。


(というか多くね)


 探すと言っても該当するプレイヤーは直ぐに見つかった。


「ここ一帯を独占してるのかな?」


 王都の商店街や職人街を軽く見ても6割近くのプレイヤーが緑色の雫の形をしたイヤリングを付けていた。


 職人街では殆どの工房を占有している状態で素材を運ぶプレイヤーから装備を作る鍛冶職人、何なら護衛まで付いており正直誰に声をかければいいのか迷っている状態だった。


「あの……すいません」


 そんな中で職人街でひと際大きな工房の出入り口で指示をしている幹部っぽいプレイヤーに話を駆ける。


「ん?なんだい」


 細かく他プレイヤーに指示を出しつつ空いた瞬間を見計らって声をかけてみると指示を出してる際に感じた威圧感とは正反対の人の良さそうな表情でこちらを伺ってくる。


「ネネさんに会いたいんですけど、どうすればいいでしょうか?」

「ネネさんに?幹部は伝手が無いと会うのは無理だよ」


 話を聞くと一瞬疑わしそうな眼を見て一蹴された。聞けば森の雫は日本系の生産クランとして最大規模を誇りその中の大幹部と呼ばれる5人の首脳陣プレイヤーに何の伝手もないプレイヤーがアポイントを取るのは不可能との事


「最近は引き抜きも多くてね、この手の類の話は聞かない様にしているんだ」


 それじゃと言われてリーダーと思われる男性は工房の中へ入っていった。あっと手を出して止めようとしてもすでに遅かった。


(うーむ、肝心のメールも反応が無いしどうしよう)


 森の雫は2000人を超える日本の生産系クランとしては最大規模を誇るそうだ。厳格に統一された階級制度はゲームの中であっても会社と変わらない様な構造をしているようで発展目覚ましい海外プレイヤーに後れを取らないよう常に技術発展を目指しているようだ。


 森の雫とインターネットで調べてみても専用のホームページが出るほどだ。それも自分が幻想世界の攻略wiki作った時のような簡易的なブログの様な類では無く、その道の人が作った洗練されたデザインに外部向けやメンバー向けに分かれているようだった。


 総勢3000人超のクランの大幹部となればメールの量も凄いはずだ。それなら見逃していても可笑しくは無いだろうし伝手もない状態だとネネさんが自分のメールを見つけてくれるまでどうすることも出来なかった。






「君、どうしたの?」


 折角来たし王都巡りでもしようかななんて考えていたら後ろから声をかけられた。


 振り向いてみれば黒と赤のメッシュをした女性、ふと耳元を見てみるが森の雫のメンバーであるアクセサリーは見当たらない


「とある人を探して来てみたんですが伝手が無くて」

「とある人?」


 道のど真ん中だと交通の邪魔だったので付近の路地近くまで寄った。特に隠し事も無いので素直に話せば更に内容を問いてきた。


「えぇ、ネネっていうプレイヤーの人なんですけど伝手が無いと会えないって言われて」

「あーあの人は有名だからね~」

「知っているんですか?」


 聞けば当然と言った感じにその女性は話してくれる。見た感じ森の雫の人でもないし彼女と一体どんな関係があるのだろうか


「そりゃそうでしょ、森の雫の大幹部ともなれば生産プレイヤーで知らない人は居ないよ」


 彼女曰くネネさんは元々別に生産系クランを運営していたそうだ。ただ他クランが台頭するにつれ生産プレイヤーは冒険プレイヤーの補助と言った等、生産プレイヤーを下に見る風潮があったそうだ。


 実際に素材が無ければ生産プレイヤーはスキル構成の都合上何もできない、優秀な生産プレイヤーはトップギルドが抱えていることが多く、それに危機感を覚えた生産系プレイヤー達は連合を組むことによって生産プレイヤーの地位向上を目指したそうだ。


 その動きは早く森の雫は7月下旬には結成し、当時一番規模の大きいクランのクラン長をリーダーに据え、そして集まったクランの主要人物を幹部に添えることで超巨大生産クラン『森の雫』が誕生したそうだ。


 そして今目の前でその話をしてくれている女性、ナミザさんは過去ネネさんが運営していたクランに所属していたようだ。現在では森の雫が発足する際に分裂し職人クラン『路地裏の工房』を設立したそうだ。


「王都の工房は今じゃ森の雫が占有しているからね~空いてる場所無いか探していたんだけど」


 そんな中で一人突っ立っている野良プレイヤーが自分だったと言う訳だ。


「それにしてもネネとフレンドなんてすごいね、彼女に直接連絡取れるプレイヤーなんてほとんどいないはずなのに」

「でも連絡繋がらないから困っているんですけどね……」


 んーとナミザさんは何やら思案しているように指を顎にあて考えている。


「とりあえずウチのとこ来てみる?」

「ナミザさんの所ですか?」


 聞けばナミザさんのクランは丁度職人街の近くにあるそうだ。ネネさんとフレンドになった経緯も聞きたいし寄っていきなよという事で折角なのでお邪魔することにした。


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