第42話 山師のサムライ『ヤスケ』③
「そっちへ行ったぞ!」
アルマジロみたいなモンスターがロックの横を抜けて後衛のプレイヤー達に襲い掛かる。
ガキン!と地面を削りながら転がってくるモンスターを大太刀を盾にして防ぐ、ガリガリと盾にした大太刀が鉱石を纏った装甲に削られるような音がするが耐久値が減った様子はない
「まだ来るぞ!」
そう警告を出すと次々にモンスター達が現れる。アルマジロ擬きを防いでいる間にタンクプレイヤーでは抑えきれない程のモンスター達が俺らを襲ってきていた。
「難しくなると思う」
二日目、ハイセ達と違いシュウザ達のプレイヤーは20時過ぎの集合となった。そこから出来ても4時間、となれば迅速な行動が求められる。
しかし主に近接アタッカー職の多かったレジン達が離脱したことでロック達のPTはタンク1、アタッカー1、魔法1、神官2、ドイルド1と後方支援職の偏りが酷かった。
先輩たちとゲームをやった時のように近接職だけという状況よりはマシではあるがタンク1というのは少し危険ではあった。
現在は昨日に比べて苛烈となった敵モンスター達を相手にサブタンクと言った唯一のタンク職を補助する立ち回りをしている。
なるべくタンクプレイヤーのリキャストを見て的確にヘイトを買う、それでもさばける量は少なく、魔法の通りが悪いモンスターが集まると長期戦を余儀なくされた。
第五の街『バルバト』へ向かう為には挑まねばならないキルザ山脈、大きく五つのエリアに分かれてそれらが連なって出来ている巨大なダンジョンには様々なルートがある。
そのエリアの狭間を縫う道には『彼ら』が徘徊している可能性が高い
「むぅ、山地では平地より値段が高くなるのは常だが生肉一個1500Gはな」
『彼ら』から購入した生肉は漫画に出てくるようなハムの様な形をしたお肉に一本の骨が刺さっているイメージの物だ。
料理用素材アイテムである生肉は王都周辺なら一個150G、他より物価が高いキルザの街でも400Gぐらいだ。
そして彼らが生肉一個に付ける値段は一個1500G、最も安いフレックス周辺の10倍の値段だ。
しかしロック達は生肉を含めた平地の何倍もするアイテムを複数購入していた。
二日目、レジン達と別れてから破竹の勢いで進んでいた行程はものの見事に破綻し二日目は二つ先の休憩地点へ到達するのでやっとの思いだった。
その理由はやはりモンスターが多くなるルートに変更したというのもあったが、最大の理由はロック達PTの編成の偏り、支援職が多いロック達のPTは攻撃力に欠け戦闘の長期化を生んでいた。
戦闘が長期化するという事はすなわち物資や装備の消耗が多くなるという事で余裕をもって用意していたポーション等の物資は二日目終了時点で危険域まで消費している状態となっていた。
撤退するか……ロックらパーティーの誰かがそう呟いたのは聞き間違いではないだろう、実際にロック達メンバーは数度キルザ山脈の踏破に失敗している。
しかし過去の失敗と違い今回は3/5程度まで攻略できていた。それまでは半分も攻略できていなかった状況からすれば大きな進歩とも言えた。
「ロックさん、相談があるんだが」
そんな諦めムードを漂わせる中、自分は彼らにある提案をした。
『商人ネズミ』、彼らはキルザ山脈の様な中型~超大型ダンジョンに一定数徘徊する中立モンスターだ。
黄色いキャップを被り、背丈以上の巨大なバッグを背負いながら徘徊する彼らに話しかければ値段は張るものの街の店と同じ品ぞろえをしたアイテムを売ってくれる。
過去幻想世界で調べた限りだとキルザ山脈の様な超大型ダンジョンでは10匹の商人ネズミが徘徊しているはずだ。その内の一匹は現在ロック達が居る付近のルートを徘徊している。
(今回の挑戦でかかる費用も馬鹿にならないだろう、それならもう少し費用が掛かっても結果だけは残した方がいいはず……)
ロック達は50人からなる大きなクランの精鋭メンバーのようで、話を聞く限りキルザ山脈の難易度を誰もが知っている為、度重なる踏破失敗でもクラン内の空気が悪くなることは無いだろうが成功できればそれに越したことは無い。
物資は消費したが戦闘自体は最初に比べれば慣れもあり補給さえできれば突破はそう難しくないと思った。
「大丈夫だ。蓄えはある」
そう堂々とロックはメンバー達に語っていたがNPCと思っている自分の前では今後のやり繰りについてぶつぶつ独り言をしていたが
キルザ山脈の最大の難所は中盤にかけて広がるエリアの反意だろう、大洞窟ルートで言えばスタートから数十に道が分岐し、ゴール地点は大体4つの地点に収束する。
大まかに4PT 、8TP、12PT用と用意されパーティーの規模によって通れる道が変わってくる。
そんな中でロック達の6人PTは自然と8人想定のルートを通るしかない
想定難易度より二人少ない不利な状況であってもそれを埋め合わせれたのは彼らが強いプレイヤーだったのとそれまで挑戦してきた経験値があった。
キルザの街で待つ彼らの仲間にもしかしたら踏破出来るかもしれないと報告するパーティーの人達を見ると自然と仮面の内側で笑みを浮かべてしまう。
社会人ギルドの時間的制約もあってかそれから出発して五日間という長い時間をかけて踏破した。
幸いにもパーティーメンバーが欠けてしまうという事故は未然に防ぐことが出来、ハイセ達同様キルザ山脈を抜けた先の村へ到着して解散となった。
五日間油断のできない難易度を長時間潜っていたのは流石の彼らでも堪えたようで村へ到着した際の喜びようは一入だ。
やはり商人ネズミから割高でも物資を補充したことが成功のカギだったと思う、その後ももう一度商人ネズミを探し出して買い物をした。今回の挑戦で三回分ぐらいのお金がかかったようだが攻略できれば些細な問題に過ぎない様だ。
五日間も彼らと行動すれば自分もロック達もそれなりに話せるようになっていた。その際実はプレイヤーなんじゃないかと内心ヒヤッとする場面はあったが自分の表示される情報は完璧にNPCと変わりないので事なきを得た。
「レジンも焦らなければよかったのに」
消費した物資の確認が終わって広場に戻ってきたロックがそう呟く、初日に分かれてしまったレジン達は残念なことに強行した後その日のうちに全滅してキルザの街に戻ったそうだ。
それでも彼らの事を心配するロックというプレイヤーは善人と言うべきか
とにかく村へ到着すれば契約も完了し、彼らは問題なくバルバトへ到達できるだろう、その日のうちにバルバトの街へと行きたいロック達一行を自分は軽く手を振りながら見送った。
幻想世界やファンタジーワールドには『名声』というシステムがある。
コロシアムで上位入賞したり、街へ貢献するような行動をすればその『名声』ポイントは上昇し、様々な特典が得られる。
特典の主な内容としては街の各施設の使用料が割引されたり、クエストの報酬金が上がったりなど基本的メリットになることが多い
逆に盗みなど悪行を行えば名声ポイントは下がる。下がれば街の設備の一部が使えなくなったり一部クエストが受けれなくなったりする。
極め付けはステータス『犯罪者』状態になると都市や町などの大きな場所へ入ることは不可になる。村に関しても殆どの施設が使用不可になり非常に面倒な状態になる。
ただこの犯罪者状態じゃないと入れない場所があったりと一概にデメリットだけとは言えないのだが
そして現在自分の名声ポイントは0だ。
これまで悪行はジョブやスキル獲得の為に何度か犯罪者になった事もあるし賞金首になった事もある。
それでも悪行以上に善行の方が遥かに多く一応コロシアムでも最上位に位置するので普通であれば名声ポイントの最高位、英雄状態になってても可笑しくないはずなのだ。
英雄状態になればどの施設も最大割引で使えるし、土地の購入も可能だ。大陸によっては爵位も貰えるレベルの偉業なはずだがそれを相殺するレベルで火口野一門の名は重い
門弟というだけで犯罪者ステータス一歩手前というレベルだ。当時は他より圧倒的に有用な奥義スキルが使える最強レベルの流派『火口野』はそのぶっ壊れバランスを調整の為、強制的に悪人一歩手前までの名声レベルが固定される物だと思っていた。
それでも当時の自分は名声ポイントの特典より火口野流派を取ったからその有用性は推して図るべきだろう。
名声ポイントはポイントを獲得する行動をした場所から一番近い所に100%反映される。隣接する街に80%とだんだんと下がっていくシステムだ。
今現在自分はキルザ山脈で案内人の様なまねごとをしている。契約発生場所がキルザの街なので一番名声ポイントが貯まるのはキルザの街となる。
そして幾つかの実績を得ることでやっとキルザの街にある全部の宿屋で泊まることが可能になったのだ。
元々第一大陸は殆ど戻ってくることが無かったので名声ポイントは皆無に近かった。名声ポイントの獲得システムが変わったのかキルザ山脈の踏破による名声ポイント獲得である程度街の中で自由が利くようになった。
ざわざわ
ロック達の踏破のお手伝いを終えて街へ戻ってみれば、自分が戻ってくる情報を得たのか正門付近には不自然なほどの人だかりが出来ていた。
「すいません、この人達どうしたんですか?」
念のために狐の仮面を外し普段の自分の姿に戻る。そして身を隠していた宿屋から出て正門周辺で待機していたプレイヤーの一人に話しかける。
「ん?あぁ、例のNPCが戻ってくるとかでみんな張り込みしてるんだよ」
「張り込みって」
予想していた懸念は不幸にも的中していたようだ。聞いてみたところ運営は想定していた以上にキルザ山脈の突破率が低い状況を鑑みて踏破をお手伝いする専用AIを積んだ高性能NPCをキルザ正門に配置したそうだ。
「いやー、最初は眉唾物かと思ってたんだけどな」
「でも今回で2回目でしょ?」
「そう、Tmitterで突破報告あった連中が全員ヤスケっていうNPCを連れてたって呟いてた」
彼の連れと思われる人たちも会話に参加しその例のNPCヤスケについて話が広がる。
「なんで3鯖だけなんだろうね?」
「知るかよ、高性能AIって言われてるけど実は運営の人が入ってたりしてな」
なわけあるかと、笑いが生まれたが案外的外れな事でもないので自分は笑いでも苦笑いを浮かべて相槌を打った。
他にも聞けばヤスケが居るサーバーは第3サーバーでしか目撃報告がなく現在噂を頼りに第3サーバーに訪れるプレイヤーは多い
平均的に稼働率の高い各サーバーでも第3サーバーの稼働率は突出して高くログインに順番待ちが出来るほどだそうだ。
更に普段は来ないはずの外国人プレイヤーもキルザの街へ訪れていることからどれだけキルザ山脈踏破が難しいのかが分かった。
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