第41話 山師のサムライ『ヤスケ』②
前日のアイアンゴーレムの一件もあり翌日も彼らハイセのパーティーに組み込まれた。
積極的に話すとどこでボロを出すか分からないので返事は最低限の言葉で済ましていた。それが幸いしたのかそういう無口なキャラなのだろうと彼らは解釈してくれたようでホッとした。
活躍のお陰もあって後ろの支援を担当する女性二人からも回復やバフが飛んでくるようになったのは地味に嬉しい、未だマニュアル操作に慣れずカスダメばっかりだが南側ルートに出てくるモンスターの戦闘モーションは幻想世界で嫌という程見たので所々で活躍は出来ていた。
アイアンゴーレム戦もあったが、どちらかというと戦闘よりキルザ山脈の移動に対しての貢献度の方が高い
元々キルザ山脈横断は幻想世界でも最難関で何度も死んだ。その際にコツコツとマッピングや敵の構成、配置を書き込んだので鮮明に覚えている。
この道は罠、ここはこう降りる。この場所のモンスターは段違いに強いから隠れて進むなど最低限の言葉で効率よく進んだ。
「もしかしたらこれ踏破できるんじゃないか?」
「あぁ、専門傭兵とあったからちょっと期待はしていたのだが予想以上だ」
1日目の夜、中盤のセーフティーゾーンに案内しキャンプを設置する。洞窟を抜け出し雪も積もっていない用意された中間地点で火を焚き今日の出来事を話し合っていた。
焚火を囲う四人から少し距離を置き目を瞑りながら彼らの会話を聞く
「攻略サイトで予習していたとはいえ二回目だぞ、ライネ達だって12人PTだ。4人PTなら初じゃないか?」
「正しくは4人+1だがな」
焚火を囲んで楽しそうに会話をするハイセ達、言葉を聞くにリアルでも知り合いのようだ。これ以上聞くと彼らの個人情報を聴きそうになるので彼らが聞こえない位置まで移動する。
そんな自分を見て何か話していたがボロが出さないように振り向くことは無い、広い敷地に小さなテントを建てその日はログアウトした。
二日目は18時スタートだった。
ログインのズレは多少あれど彼らは仕事から帰って真っ先にログインしたそうだ。一番遅れてログインしたのがリーダーのハイセだったのはちょっと意外だった。
「マップ広すぎねぇか大型ダンジョンの何倍あるんだよ」
(大型ダンジョンで比較するなら面積は大体7倍強かな)
内心で答えるが実際キルザ山脈のダンジョンはとても広い、一番大きいダンジョンである第三大陸を別にすればキルザ山脈の大洞窟は直線距離にすれば五指には入ると思われる。総面積も上から数えたほうが早いはずだ。
現実と違い疲労というステータスが無いので移動が遅くなることは無い、モンスターとの戦闘も物資の兼ね合いから極力しない方針で進んでいる。
「イヤーーー!ここ無理っ!」
神官の女性が道中でそう叫ぶ、他のメンバーも叫ぶことは無いにしても顔を青くしているのは間違いない
「ついてきて」
その場所は人ひとり分の小道、落ちれば地面は硬い岩盤にムカデの様なグロ目のモンスターがうじゃうじゃと居る。
高所の恐怖と生物的な恐怖が相まって思わず叫んでしまったのだろう、叫ばないにしても男性二人も他の道はないのかと尋ねてくるが他の道となればアイアンゴーレム2体同時に戦う羽目になるがいいか?と答えたら本当に嫌そうな顔をしながら壁に手を当て歩き始めた。
「ここ気を付けて」
先頭で進む自分が注意すべき足場を教える。高所の移動は黒龍イベントの岩相の僻地で慣れているので特別恐怖な無い、というか何度か滑落したがまともにダメージを受けなかったので死の恐怖が薄れたといった方が正しいか
小道を抜ければ後の難所は特にない、別ルートであればキルザ山脈のボスから逃げるイベントなどもあるがそれらから外れるルートを進んでいるので問題ないだろう
「まじかよ、本当に踏破しちまった……」
最長でも一週間近くかかるといわれたキルザ山脈踏破を二日で終了した。キルザ山脈を越えバルバト方面に着けば標高の高い位置からバルバトは直ぐ見える。
そしてバルバトは港町なので海も一望できるスポットだ。バルバトからしか海が見えないので彼らの感動は当然とも言えた。
最寄りの村でチェックポイントを建てる。これで事故でデスしてもキルザの街に戻されることはないこれにて彼らのキルザ山脈横断は終了した。
その後のバルバトへの道は彼らでも問題なく行けるだろう、雇用条件はキルザ山脈の踏破なので村に着いた瞬間、雇用形態は解除された。彼らは再雇用しようとしていたが目的は多くの人を助ける事なので定型文で断らせてもらった。
……キルザの街へまた戻るには億劫だがこればかりはしょうがないのだろう
彼らを連れていた時は2日かかったが中央ルートを強引に突破すれば半日もかからない内にキルザの街に戻れた。下りは降りると言うより落ちるに近かったがまぁ早く帰れたので問題は無いだろう
そして彼らと会う前と同様キルザの街の正門前でプラカードを掲げる。次は何時になるかなーなんて待ち構えたらプラカードを掲げた瞬間近くに居たプレイヤーに捕まった。
「NPCヤスケ!こいつだ」
一瞬なんだ!?とびくっとしたが何か自分が悪い事をした訳では無い様だ。半ば強引に傭兵契約を結ばされると周りにいたプレイヤー達から「契約出来なかった」という落胆の声が聞こえる。
契約した彼らの会話を聞くにハイセ達がキルザ山脈を踏破したのは大きな話題になっているようだ。
Flashら彼らが踏破したのは先を走るトップギルドそしてそれに裏付けされた実力があったからだ。
そしてハイセ達は全体から見れば上位に位置するプレイヤーだが彼ら踏破組に入れるほどの実力はない、そんな彼らがたった4名で踏破したとなればそれはそれは大きな話題を生んだそうだ。
後々知ったことはキルザ山脈を4人PTで攻略したのは彼らが初めてのようだった。それまでは8~12人の中規模PTで踏破されているようで現在契約を結んでいるパーティーも12人だ。
【運営のてこ入れ?キルザ山脈専用NPCヤスケについて】
これらの情報が上位プレイヤーを中心に出回っているらしい、到底踏破出来ない様なパーティーがバルバトまで来たとなればそれまで巨額の投資をしながら挑戦し続けてきたキルザに居たプレイヤーは血眼でそのヤスケを探していたらしい、そんな中で何も知らずにノコノコ帰ってきた自分は見事休む暇もなく捕まったと言う訳だ。
「ではヤスケ、君の推奨ルートを聞きたい」
12人を率いるリーダーは30代の男性だった。ロックと書かれたネームのプレイヤーは若い人が多いこのゲームでは比較的珍しい中年の男性、自分が在学する教授に似てるなーなんて内心思うが一応ここは無難な南側ルートを推した。
「やはりそうか、では問題ないな」
彼も元々南側ルートで考えていたのだろうすぐに結論は達していた。
ロック達12人のプレイヤーは全員がハイセ達よりも上等な装備をしていた。
構成こそ若干近接職が多めだが数の少ない希少な支援職も最低限確保しているようだ。聞けば2つのクランが合同で組んでいるようで途中の休憩ポイントでも二つに分かれて休んでいた。
(大人数か、となるとハイセ達のルートは難しい……幸いにも彼は実力もあるしモンスターが多めでも問題ないか)
ハイセ達と通ったルートは極力モンスターと戦闘をしないルート、その場合険しい道になるが大所帯の彼らだとそれらのルートは難しい、一応彼らの実力は十分にあるし多少モンスターとの戦闘が多めでも地形が安定したルートを通るべきだろう
「うむ、わかった」
自分がリーダーのロックがそう提案すると彼も問題ないと同意を得た。
「俺らは先に行くぜー」
ロックが率いるクランの片割れ、ちょっとおちゃらけた雰囲気のもう一つのクランがロックとの言い争いの末、休憩ポイントを無視して強行した。
一日目の夜、予想以上に進み行程の半分を消化していた。そこで若干早い物の余裕をもって休憩ポイントで今日はここで終了した方が良いとロックに告げた。
ロック自身もまだ与力は残っているが案内人の自分の意見を尊重してくれてキャンプの設営を始めていた。その中でもう片方のクラン長のレジンが待ったをかけた。
「思っていた以上に楽だしこのままいかね?」
高校生ぐらいなのか言葉の端々には無礼さを感じる。これはゲームの世界なので多少の無礼さは気にしないが明らかに年上であるロックに対しても舐めた様な口調で喋っていた。
「いや、案内人が休憩すべきだと言っているのだここは休むべきだろう」
レジンの言葉に表情を変えずロックはそう答える。大人の余裕という物だろうかそれを聞いた自分は内心感心していると反対されたことにイラついたのか喧嘩口調になる。
「大体あんたはびびりすぎなんだよ!難しいって聞くが全然余裕じゃねえか!」
「それは案内人がいるからだな、いなかった時の難易度は比にならないぞ」
聞けばレジンたちクランは今回が初挑戦のようだった。それに比べロックは何度か踏破に失敗しているようでこの洞窟を舐めるなと一蹴した。
それが決定的になりレジン達片方のクランは休憩ポイントで碌に休むことは無く強行していった。
そんな彼らを見てはぁとため息をつくが気を取り直して他の残ったメンバー達に設営の指示を出す。
「ここ以降の休憩ポイントは」
『無い、少なくても今日の倍は移動しないと無理』
キャンプを設営し、明日の行程について話し合う元々ロックのクランは社会人で構成されているようで比較的遅い時間帯から始まるようだ。となればルートを変更せざる得ないし、事前に言ってほしかったというのもある。
「時間がないなら少し来た道を戻って別のルートの方がいいそこなら休憩地点は多くなる」
その分難易度も上がるけど、と付け加えると流石のロックも来た道を戻ることに抵抗感はあったようだがそこまで時間が取れない平日の中の移動なので最終的には難しいが休憩ポイントが多いルートに変更された。
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