第40話 山師のサムライ『ヤスケ』①

 折角大陸を渡って師匠に会いに来たのに物の数十分でとんぼ返りを果たした翌日、師匠から渡された仮面と新調された道着を見てみた。


〈火口野道着・蒼炎〉 レア度S

 制作評価 無し

 種類   特殊装備

 装備条件 火口野鉄華から一定上の信頼


 追加効果 物防+50 魔防+25 〈敵ターゲット集中・中〉 〈開放 Ⅲ〉〈火口野一門・蒼炎〉


 固有スキル〈火口野一門・蒼炎〉

 ・この装備を着た状態でMPを消費すると消費した分、〈ターゲット集中〉上昇、〈発見率〉上昇、〈エネミーチェイン率〉上昇する。

 ・一部味方NPCが敵性NPCになる。

 ・装備時、大太刀スキルツリー 新月流【奥義】解放


 これは元々あった師匠から貰った道着の性能が少しマイルドになったバージョンのようだ。発見率などは発動式になって随分と使い勝手が良い装備だがやはり一部NPCが敵性NPCになるのは変わらないようだ。


 黒い生地に赤い火口野一門と書かれていた道着は、深い藍色の生地に水色と白で構成された火口野一門が描かれている。


 狐のお面(白)  レア度EX

 制作評価 無し

 種類   着せ替えアイテム

 装備条件 火口野鉄華から一定上の信頼


 追加効果 NPCキャラ『ヤスケ』に強制変身


 弥助って誰だよって一瞬思ったが、それ以上に自分も両手の数ほどしかもっていない特殊レア度EXに驚く、見た目はただの白い狐のお面だが特に性能が上がったりするわけじゃなさそうだ。


 早速両方装備してみる。蒼炎道着自体は一般的な装備なので特に問題ない、問題なのは師匠から貰ったお面の方だった。


『なんだこれ』


 着せ替えアイテムと言われただけあって姿形、声までもが今までの自分と全くの別物になっていた。


 声は高く中性的な声質に、焦げ茶の短く揃えられた髪は漆のように艶やかな長髪を高い位置で紐で結ぶポニーテールに、身長自体は余り変わらないが肌色が白くなり筋肉質にならなかった分全体的に女性っぽくなった。


 顔こそ狐のお面で覆われて分からないが姿格好や声からして女性と間違われても可笑しくない姿になっていた。


『凄いな、こんなことが可能なのか』


 大体のVRゲームは現実世界の姿を大幅に変えることは出来ない、そこには技術的な問題があるようで肌色だったり髪色を変えるのが精々と言われている。


 この世界では現実世界の身長+-5㎝までなら変更だし、エルフ種族で始めたら耳も尖ったように長くなる。これも結構衝撃的な出来事で話題になった一つの理由だ。


 そして今自分の格好は中性の謎の侍と言ったところだろうか、幻想世界では別キャラに変装する種族スキルは存在したが装備でそう言った効果を持った物は無い流石レア度EXと言ったところか


(NPCに化けるって相当だと思うけど)


 プレイヤーがNPCに変装できるってかなり問題が起きそうだが入手方法が師匠から一定の信頼となっているのでかなり難しいと思う、他にどんな方法があるか分からないがレア度EXというだけあって一般的に取れる様な難易度では無いのだろう


 師匠からの言いつけは他プレイヤーやNPCを助ける旅をすること、それでマニュアル操作の修行をしつつ何故か人々からの評判が最悪な(師匠のせいだけど)火口野一門の評判を上げることを言われた。


 これで悪役プレイでもしろと言われたら流石に困ったがお助けキャラの様なロールプレイなら特に問題無かった。






 一週間、王都に向けモンスターを討伐しながら旅をした。その間に霧島先輩などと一緒に冒険をしたりしつつ修行は順調と言えた。


(そう都合の良い場面は中々出会えないな)


 火口野一門復興という名の他プレイヤーのお助けは出来ていない状態だった。


 王都まで行けば全員誰かしらパーティーを組んでいることが多く慎重だ。やはりと言うかプレイヤーが居ない場合代わりに入るお助けNPCの性能は実際のプレイヤーに比べたら余り良くないらしく見向きもされない


 この中世ヨーロッパ風な第一大陸の世界観に中性的な侍スタイルなので話しかけられたり無断で写真を撮られたりすることは多々あったが傭兵キャラとして登録してもNPCと先頭に表示されてしまうので今の今までお助け件数は0となっていた。


(リーフまで戻るかキルザまで行くか)


 王都やフレックスに居るプレイヤー達は皆傭兵NPCの無能さは知っている。だったらそれらを知る前の新米プレイヤーをターゲットにするか、それこそ未だに第一大陸最大の難所と言われるキルザ-バルバト間の山越えの埋め合わせを狙ったお助けキャラになるか


「そうだキルザに行こう」


 第一大陸最大の都市、王都でも悲しい事に傭兵案件は0だった。










 第4の街『キルザ』は大陸最高峰の山脈キルザの名を冠した街だ。西洋チックな街並みをしている他の場所に比べ標高の高い場所に位置する為かそれまでの街とは違った文化を醸し出している。


 イベント終了後に大量に流入した武器防具のお陰で山脈を横断したFlashの主力メンバーに続き幾つかのクランが第5の街『バルバト』まで到達している。


 それでも大陸最高難易度と謳われる過酷なエリアは高低差の激しい地形にそれらに特化したモンスターの数々、キルザ以降にはまともな補給地点やセーフティーゾーンは皆無で平均的に3日かけて山を踏破する。


 初見突破率は驚異の0パーセント、装備や物資を潤沢に揃えた状態で平均15回挑戦して攻略できるかと言われるレベルだ。


 イベント後で装備の質が上がった状態の今でも王都から意気揚々とたどり着いたプレイヤーを絶望に染め上げる魔の山脈と言われていた。


[山脈専門傭兵]


 そんな場所でキルザの街の正門横でそう書いたプラカードを手に掲げ待つ、悲しい事にNPC傭兵の無能さはみんな知っているのでこれまで同様依頼されることは無い


「キルザ山脈専用傭兵だって……」

「しかしNPCだしな、遊撃職つかまらんし連れていくか?」

「今日は様子見だ。数合わせには良いだろう」


 自分をNPCと思っているのか目の前で相談する男女混合の4人パーティー


 全員キルザまで到達するだけあって王都に居るプレイヤーとは比べ物にならない程強力な装備をしている。


(黒鉄装備のタンクに銀槍アタッカー、本持ち神官にドイルドか)


 彼らのパーティー編成はとても良い、元々近接職やアタッカー職のプレイヤーが多い中でタンク、アタッカー、支援二人とは中々お目にかかれないメンバーだ。雰囲気も良く話している感じ長い間一緒にプレイしていそうだ。


 リーダーと思わしき槍使いの男性が言っていたように遊撃手やサブアタッカーが足りないのは間違いない、それを分かっているタンクの男性も同意して幸いにして傭兵案件第一号が彼らに決まった。


「よし、打ち合わせ道理に南側の洞窟等はルートで進む、今日は野良のプレイヤーがつかまらなかったからNPCを連れてきているが一応本番と思っていくぞ」


 リーダーの槍使い、ハイセと呼ばれる自分と同い年ぐらいの男性が声をかける。


 ハイセの言葉に従いおーとまるでピクニックに行くのかと思う掛け声で他のメンバーが反応した。


「NPCは……設定不可って珍しいな流石専門NPCか」


 雇い主のハイセが自分の目の前に来て一瞬ドキッとしたがNPC専用ウィンドウの行動設定が不可となっていたので向こうが驚いている様子だった。


「山脈のバランスぶっ壊れてるから、このNPCは運営のてこ入れかもね」


 神官の女性がそう言うとハイセはそう言い出発した。自分は無言でそれに続く









 キルザ山脈には主に三つの踏破ルートがある。北側の山脈を迂回し低い標高の山を登るルート、こちらは険しくないがモンスターが他ルートに比べてかなり強く素材や経験値が美味しくない、数も多いため人気のないルートだ。


 二つ目はキルザの山脈を登る中央ルート、こちらは北側の反対でモンスターは弱いが厳しい環境がプレイヤー達を襲う、高所という恐怖感や滑落すれば確実に死ぬこともあるのでここで踏破したプレイヤーは一つしかない


 そして最後の南側の山脈をバルバトまで繋ぐ巨大洞窟の踏破ルート、一般プレイヤーは実質ここ一択なようで先ほどの中央ルートを突破したパーティー以外のFlashらプレイヤー達は全員ここのルートを踏破しているようだ。


「敵が来るぞ!」


 リーダーのハイセがそう言うとすぐさま全員が戦闘態勢に入る。黒鉄装備のタンク、ロックスが黒鉄に見合う巨大な盾を構えヘイトを管理する。


「ユイナは継続回復!ルミーネはロックスにバフをかけろ!」


 ハイセはそう指示を出すと己も動き出す。銀製の槍を手に目の前に今にもロックスを踏みつぶそうとしている巨大なモンスターの関節部を狙って澄ました一撃を放つ


「〈脈動回復〉!、このままだとロックスが落ちるよ!」


 後方で呪文を唱えるドイルドのユイナがそう叫びながら報告する。実際に今ヘイトを取っているロックスの体力は6割を切っていた。


「NPCも居るのにいきなりアイアンゴーレムかよ!」


 そう吐き捨てるように愚痴りながらも攻撃の手を緩めないハイセ


「まずい!」


 パーティーの誰かが言った警告、実際アイアンゴーレムの手には特殊なエフェクトがかかり腕を振り上げている。


 自分は全体を見渡すが不意を突かれたのかハイセはモーションを阻害するスキルを放つ準備は出来ていない、これまでの戦闘でロックスもアイアンゴーレムの攻撃から耐えるスキルの再使用時間、リキャストも終わっていないだろう


 青く輝いた鉄でできた巨大な拳がロックスに迫る。誰もが動けない状態で自分は動いた。


「〈波風〉!」


 大太刀のカウンタースキル〈波風〉、木製の大太刀をガード状態に構えると目の前には円状の水色壁が現れる。薄い水色の壁を容易くその巨腕が破り粉々に砕け散る、しかし条件を満たした〈波風〉はその衝撃を跳ね返し振り下ろした腕を天高く打ち上げた。


「!?ルミーネ、デバフだ!」


 自分が腕を〈波風〉でカウンターを放ち打ち上げたことで胴体ががら空き状態になる。それに驚きつつも好機を見逃さないハイセはドイルドのルミーネに指示をする。


「〈ブレイクスペル〉!行けるよ!!」


 呪文を唱えると〈ブレイクスペル〉、汎用性の高い防御力を下げる魔法がアイアンゴーレムに命中し、能力低下のエフェクトが発生する。


「〈雷光一閃突き〉!」


 ハイセの槍には雷光纏うエフェクトが発生し、雷の輝線を迸らせながら露わになった胸の中心部に存在するコアを的確に撃ち抜いた。


 槍先は見事にコアを打ち抜きパキリと割れる。そこから蒸気の様な物が噴き出し未だ半分以上残っていたアイアンゴーレムのHPが一気に減り消滅した。

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