第39話 最終決戦、グリーンドラゴン  《黒龍伝説》⑫

 グリーンドラゴンを討伐しているチームは未だ居ないようだ。


 今回のイベントではグリーンドラゴンを一番最初に討伐したチームと上位10チームにイベント称号とグリーンドラゴンのレア素材が手に入る。


 未だSNSでも情報は出回っていない、それはそうだろう誰も討伐していない中態々敵に塩を送る人間は居ないのだから


 自分は当然グリーンドラゴンのイベントを知っているが伝えるつもりはない、流石にイベント系の称号はファンタジーワールドで引継ぎ出来なかったようでグリーンドラゴンを最初に討伐した物に貰える[緑竜を討伐・達人]は持っていないが別に称号が無くても困らない、これでステータス等が上がるのなら考え物だが効果はプレイヤー頭上に表示される名前の上にキラキラと表示されたりプロフィールに出てくるぐらいだ。


 グリーンドラゴンは12人のプレイヤーが協力して討伐するレイドボスだ。そしてグリーンドラゴンの祠の封印が解けたと同時に拠点へ大量の魔物が押し寄せてくる。


 つまりはグリーンドラゴンを討伐する精鋭12人のプレイヤーとその影響で拠点を襲ってくる大量のモンスターを撃退するその他のプレイヤーに分かれる。


 グリーンドラゴンを討伐するか拠点が完全に破壊尽くされるまでモンスターの大行進は止まらない、実際にはグリーンドラゴンの体力に合わせてモンスターの量も変わっていくのだが下手をすれば拠点が破壊されて詰みだ。


 これらの仕様は事前に告知されている。その規模や難易度が分からない、そして失敗すれば拠点が破壊されるというリスクを恐れて慎重になっているチームが多そうだった。というよりは様子見をして情報が出てくるのを待っていると言った方が正しいか


 実際にSNSでは討伐を始めたチームの幾つかは失敗しているようで復旧に数日はかかりそうとの話もある。だからこそ拠点の設備のレベルを上げることは重要だったと発掘結晶集めに精を出していたチームは泣きを見ている様子だった。



 そして我らシュタイナーが率いるチームは張り詰めた様な空気を醸し出していた。


 討伐に向かう精鋭メンバーはシュタイナーをはじめとした遠征班メンバーが中心、そこに先日騒動の一人となったタケジロウさんを含め出発の儀を行っていた。決起集会ともいう


 そして残りのメンバーは拠点の防衛だ。全員の士気も高く特にこの拠点を建てた生産部のメンバーは気炎が立ち昇る勢いだ。


 そして自分は拠点の南側、拠点内にある櫓に設置された巨大な設置型の弩砲バリスタで敵を撃退する担当だ。


 精鋭メンバーが祠へ侵入し、グリーンドラゴンと戦闘が始まった瞬間にモンスターの大群が拠点へとやってくる。グリーンドラゴンのいる祠は拠点からそう遠くはないすぐにでも戦闘が始まるだろう、今までにない大規模戦闘に自分の近くにいるプレイヤーと若干緊張の面持ちで今か今かと待ち構えていた


 グオオオオォォォォォオォオオ!


 祠の方から響き渡る咆哮、つまりはシュタイナー達がグリーンドラゴンと戦闘が始まったのだ。


「戦闘配置に付け!」


 指揮をするネネさんの元に配置に着いたプレイヤーが武器を構える。


「こりゃすげぇ……」


 自分の横に居たバリスタの弾の補給係を担当するプレイヤーの人が思わずそう呟いた。


 草原の向こうからやってくるのは大小様々な種族も多種多様のモンスターの大群、地面を覆いつくす密度で向かってきていた。


「魔法隊、バリスタ撃てーー!」


 ネネさんの号令と共に巨大なバリスタの弾と火、水様々な魔法がモンスターの大群に着弾した。


 魔法やバリスタによって地面が抉れ、大小様々なモンスター達が吹き飛ぶがお構いなしに拠点へと突撃する。それでも間髪入れずに次々に魔法やバリスタを撃ち込む。


 ドオォン!


 自分から二個西にある櫓に反撃として飛んできた巨大な岩が着弾した。木で組まれた櫓は木っ端みじんになり粉砕され倒壊する。


 現実であれば即死確定な状況に思わず作業を止めてしまったが当の本人たちは未だピンピンしていた。


「休むな!撃ち続けろ」


 激励と共にバリスタの弾を撃ち続ける。すでに拠点の城壁にはモンスターが張り付いて壊そうとしているが注意すべき巨大なモンスター達はまだ後方に位置している。


 拠点を最大まで強化している為、モブモンスターがどれだけ大量に張り付いていても早々に壊れることは無い、危険なのは先ほどの投石攻撃や巨大モンスターが攻撃を仕掛けてきた場合で、受けてしまったら拠点の耐久値がガクッと下がる。


(グリーンドラゴン討伐は大体30分前後って言ったところか……)


 自分はバリスタを撃ち続けるながらそう考える。装備も比較的強力でプレイヤーとしてもスキルの高い遠征班達がグリーンドラゴンの討伐を失敗するとは考えにくい、しかし初の12人用ボス、事前情報も無いとなれば苦戦はするだろし時間もかかるだろう







「門が壊れるぞーーー!」


 モンスターの大軍は拠点の南側を集中して攻撃していた。最大まで強化された壁や門も20分も経てばゲージがレッドゾーンへ突入し今にでも壊れそうな状態になっていた。


 ドシン、ドシンと向こう側から門を突き破ろうとする音、衝撃に閂は軋みひびが入っているのが見えた。


 実際に拠点を建てる際、門が壊れた時を想定して門から50メートル直線で拠点の外壁と同じ壁に囲われた道が続き第二の門がある。


 しかし第二の門は第一の門に比べ小さく耐久値も低い、しかしプレイヤー側の行き来がしやすく実質的な最終防衛ラインだ。その門の目の前には拠点の防衛隊が集まって緊張が張り詰め額に汗が伝っていた。


 生産部は万が一防衛隊が壊滅した際、リスポーンの移動で防衛隊が戻ってくるまでの繋ぎとして後方に待機している。ファンタジーワールドのリアルな戦闘に慣れず生産部へ移動したプレイヤーも多い、そんな彼らでも武器を取り構えていた。


(これがゲームか……)


 後方で待機しながら自分はそう思っていた。今ある光景はまさに戦争、自分の背丈の何倍もの巨躯を誇るモンスター達が門を破壊しようとしておりそれを70人近い大人数で引き留めるのだ。


 ドォン!


 ひと際大きな音と衝撃と共に遂に門が打ち破られる。戦闘が始まって25分、予想では後5分防げれば勝ちだ。


「でけぇなおい」


 打ち破った門の前に目立つはジャイアントゴルドと呼ばれる青白い肌にゴブリンを筋肉質、巨大化させたような風貌で、背丈は二階建ての建物ぐらいはある。巨人族の中でも一番弱いモンスターだがディスプレイの向こうから見ていたジャイアントゴルドと仮想現実から見るジャイアントゴルドとでは迫力が違う。


「撃てえええええぇ!」


 声が裏返る程の大声で一斉に魔法が放たれる。炸裂系魔法を中心に群れのリーダーであるジャイアントゴルドに突き刺さる。巨大な身体に炸裂魔法が数十に突き刺さり黒煙が上がる。


 その黒煙が晴れてみれば目に見えてジャイアントゴルドはダメージを受けている様子だった。


 ヴオオオオ!


 野太い咆哮と共に炸裂魔法を受けて怒ったジャイアントゴルドが突進してくる。それに続くかのようにモブモンスター達が押し寄せ、防衛隊のプレイヤーもそれぞれの武器を構えて突撃した。


 壁に囲われた道に一進一退の攻防が行われていた。それは戦争というより乱闘に近く時々モンスターやプレイヤーがこちらに吹き飛ばされていく


 モンスターはたこ殴りにしてプレイヤーはポーションやヒールをかけてすぐ戦闘復帰していった。


 ガァア!


 そんな断末魔と共にジャイアントゴルドの巨躯が地面に倒れる。ドシンと大きな振動と共に近く似た他のモンスターを間見込みながら倒れた身体は数秒してポリゴン状に消し飛んだ。


 ワァと自分を含め周りから歓声が巻き起こる。モンスター達の間にも動揺が生まれたのか幾分積極性が無くなっていた。これに転じてモンスター達を押し返す。


 後は残党狩りと正門の位置まで押し返せば草原を覆いつくしていたモンスター達はいつの間にか居なくなっていた。



 オオオオォォォォォォーーーー


 祠の方からもグリーンドラゴンの最後の叫びが響いた。










「かんぱーーーーい」


 ガツンと木で出来たジョッキを打ち合わせ思いっきりジョッキの中に入った炭酸ジュースを飲み干す。


 口に広がるのは爽やかな柑橘系の酸味、ぱちぱちと炭酸が口の中を暴れまわれ更に盛りつけられた肉串を乱暴に頬張る。


「これで酒が飲めたら最高だがな!」


 ワハハと隣でシュタイナーが笑っている。仮想世界ではお酒やたばこと言った類は日本で禁止されているので勿論ファンタジーワールドでも実装されていない


 ファンタジーワールドの特徴の一つでもある味覚エンジンは味覚も嗅覚も現実に匹敵するほどの性能を持つ。食事制限がかけられている患者やダイエットしたい若い女性を中心に話題となっているご自慢の味覚エンジンを堪能しつつ宴は行われていた。




 前半は下位グループ、それからイベント折り返し辺りから猛烈に追い上げ、遂にはグリーンドラゴン初討伐を達成したシュタイナーを中心としたチーム、シュタイナーのSNSにはグリーンドラゴンを討伐した直後に取られたであろう巨大なグリーンドラゴンを背景に討伐メンバーが一堂に揃った集合写真、そして今現在宴が行われている風景のスクリーンショットが投稿されて巷では話題になっているらしい


「俺らが初討伐か!ライネや海外勢を上回ったのはスカッとしたぜ!」


 そう言いながらひと際大きなジョッキを片手にビール擬きのドリンクを飲む、実際にシュタイナーの所属するクランのクラン長ライネが率いる日本有力勢は4位、その他TOP10位以内のチームは全部中国や韓国系が集まったチームが討伐したようだ。


 未だグリーンドラゴンに挑戦していないチームもあるので一概には言えないが、それ以外の上位チームでも失敗したところは結構多いようで、初日で討伐したのは30チーム程、最速がうちらのチームで後は夜になってから続々と現れた。


 防衛施設はボロボロだ。殆どが南側に集まってしまったので門を破られあわやと言った感じだ。一部城壁もイエローゾーンまで耐久値が減っており下手をすれば横穴から破られて甚大な被害にあっていた可能性もあったので結構ギリギリだったと後でわかった。


 シュタイナー達討伐班は一人も掛けることなく31分で討伐していた。他チームの討伐班は一時間を超えているのが殆どなのでどれだけシュタイナー達討伐班が優秀だったか際立っていた。


「あとはガチャ武器回すだけだな!」


 シュタイナーがそう締めると大衆の笑いと共に宴は終了した。


 後から聞いてみるとやはり自分で採掘して鑑定したかったとこぼしていた。








 次の日の夜にはシュタイナー達討伐班や自分たちの拠点防衛班の様子が公式SNSで発表されたようだ。


 討伐班でやはり目立ったのはユナの存在で淡くルーン文字が輝く刀身を全身を使い振り回す様子は反響を呼び、彼女の可憐な容姿も相まって彼女と彼女が装備しているフェルライト特大剣が話の中心になっているようだった。


 勿論他のメンバーもそれぞれ活躍している動画も公開され、それまで防衛隊メンバーだったタケジロウさんも古代の兵士の剣を片手にグリーンドラゴンの片目を潰すなど大活躍していた。


 防衛班は討伐班と違った大規模戦闘という別の迫力がありこれも人気を博した。陣頭指揮を執っていたネネさんは勿論、ジャイアントゴルドの頭をハンマーでたたき割った防衛隊プレイヤーなども話題を呼んでいる。


 結果的には1万5000以上のチームが参加し計14万7800人のプレイヤーがイベントに参加してプレイしていた様子だった。


 個人ランキングではシュタイナーとユナがトップ100入りし、他のメンバーもちらほら1000位以内には入っていたりした。


 チームランキングでは堂々の一位、初討伐と発掘ガチャ騒動で結構なポイントを加算したようで大逆転勝利と言った形だ。


 クランランキングでは上位は中国チームが独占、30位以内にはチラホラ日本チームも居てその中にはシュタイナーが所属するFlashも存在していた。


 一か月という長期イベント、チームバランスやイベントの拘束時間の長さなど色々と不満は各地で上がっている物のそれらが消し飛ぶぐらい大盛況の中黒龍イベントの序章は終了した。




「戻ってきたか、この光景も久しぶりだな」


 リリル村に久しぶりに戻ってきた。イベントエリアで装備していたアイテムは全て収納されているようで、しっかりとイベントで獲得したアイテムが並んでいた。


 メールでは相変わらず数えれない程に溜まっているがフレンド関係以外のメールは全て削除する。


 スッキリしたメール欄を見てみればフレンドになったチームの人達から何通か来ていた。


 それらはクランの勧誘だったり装備の制作依頼だったりと変わらずといった感じだったかが数も少ないのでそれぞれ目を通し個別でお断りの返信を行った。


 まるで祭りの様な一か月だったがリリル村に帰ってみればぽつーんと一人で突っ立っていた。


 無論村の周辺では早速イベントの素材を使って装備を作ろうなど話ながら移動するプレイヤーを見かける。それでもそれまで気にならなかった孤独感がイベント後から顕著に表れた感じだ。






 やる事のない自分は第五大陸に居る師匠、新月流師範の火口野鉄華の元へ再びやってきていた。


「どうしたそんな顔をして」


 出先で相変わらず攻撃をしてきた師匠に苦笑せざる得ないが、悪びれもせず道場に併設されている家屋に入る。


「実は……」


 これまでイベントであった出来事、そしてこれから何をすればいいか分からない事など悩み事を素直に話した。


 NPCである師匠に話したところでどうするかと言われれば困るのだが師匠は特殊なAIを組んでいるのか、街に居る他NPCに比べて随分表情が豊かでまるで実際のプレイヤーと話しているかのように言葉の流れに不自然が無い


 技術の発展はすごいなーなんて内心で思いつつ、ふむとその凛とした美しい顔で思案しつつ思いついたかのように立てば物を持ってくると言って部屋を出ていった。


 数分部屋で待ち、師匠がバン!と勢いよく開けると手には一つの仮面が握られていた。


「弟子よ、これを付けて修行してこい」


 なんだ?と思いながら渡された仮面は白色の狐のお面だった。

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