第38話 発掘結晶ガチャ屋『ペガサス』 《黒龍伝説》⑪
岩相の僻地で取れるものは取ったと言えるぐらいには発掘結晶を掘りつくした。
全く人の手が付いていなかったというのもあるが隠密スキルでモンスターに邪魔されない形で一日中ずっと掘り続けた。
中央エリアで90個、北部と南部で50個、西部は60個で東部は80個程だ。
自分は各エリア10個ずつあればいいので後はお土産として持ち帰る予定だ。日付が変われば発掘結晶は復活するようなので好評であれば明日も続ける予定だ。
「ペガサス君帰ったんか、ずいぶん遅かったね~」
拠点に戻り、工房にある自分の一室へ向かおうとすれば生産部のプレイヤーに指示を出していたネネさんが挨拶をしてきた。
相変わらず生産部は忙しそうで昼過ぎに納品されたシュタイナー達遠征班の素材を使って拠点設備を改造しているらしい
巨大な設備も現実世界に比べて楽だが建材にして自ら建てないといけない等面倒ではあるがネネさん曰くそこが良いらしい
「あっ、そういえばこれお土産です」
折角呼び止められたことだし自分は大量にボックスに入れていた発掘結晶を一つ取り出しネネさんに譲渡する。
ん?とネネさんは一瞬疑問を浮かべたような顔をしていたがアイテムを見た瞬間少しの驚きと喜びが見て取れた。
「これ発掘結晶やん!いいの?」
「えぇ、皆さんのお土産にいっぱい取ってきたので」
隠密スキル持ってるんですよと伝えたらネネさんは納得した表情で手に持っている発掘結晶を見る。ネネさんも発掘結晶を実際手に取ったのは初めてのようで残っている作業が終わったら鑑定するとの事
「作業が終わったら生産部の人達にも伝えておいてください、工房の箱に入れておきますので」
工房にある素材納品する箱は納品や取り出したプレイヤーの情報が残る。その為不正して複数結晶を持ち出す奴は早々居ないだろうと今現在もイベントをプレイしている人数分の結晶を工房の箱にぶち込んだ。
「発掘結晶!まじか~ありがとう!」
今日は日曜日という事もあって一日中毒竜の沼地攻略をしていた遠征班が帰ってきて施設に納入するための打ち合わせをしている際に今日自分が持ってきた発掘結晶の存在をしったようで皆から感謝の言葉を貰った。
現在発掘結晶は独占レベルだと言い目をされないが基本的に発掘したプレイヤーの物となっている。自分がやっていることは独占だが今回お土産として持ってきたおかげでそれらの不満が無かったのは幸いだ。
「ネネさんちょっと相談が……」
発掘結晶、シュタイナー達はガチャ石なんて呼んでいるがそれらを鑑定して一喜一憂している横で面白そうな顔でシュタイナー達の様子を見ていたネネさんに相談するように耳打ちした
「……どうしたん?」
自分が周りに聞こえないように話しかけたのを察知してかネネさん自身も小声で答える。
ネネさんと個別に話すために拠点の一室を借りた。
「それで相談事って?」
個室は最低限の物しか揃って泣く簡素な作りになっている。
それでもゲームのシステム上この部屋は個別エリアとなっていてエリア主が設定を変えない限り外に聞こえることは無い
「えっと発掘結晶なんですけど」
自分がネネさんに相談したのは未だ残っている発掘結晶についてだ。
今発掘作業が出来るプレイヤーは自分しかいない、岩相の僻地は比較的強力なモンスターが多い最終エリアなので遠征班以外のプレイヤーが大量に採掘するのは難しい
しかしその遠征班も毒竜の沼地攻略で手が離せないので今後も自分が今日のように採掘したいと話した。
しかしプレゼントし続けるのもあまりよくない、今日はちょっと空気が悪くなっていたチームの雰囲気を変える為全員にプレゼントしたが明日からは素材と交換という形で発掘結晶を配ってみてはどうかと提案した。
勿論素材ごとにレートは変わるが先にレート表を張り出して一定のポイントと共に発掘結晶を渡す。すれば発掘をしたがってたシュタイナー達遠征班や他のプレイヤー達のモチベーションも上がるし生産部としても今以上に素材が手に入ればお互い得をするだろう
そういう考えで自分はネネさんに対してこれらの事業とレートの選定と人員の貸し出し、そしてその一部の素材を自分に流して欲しいと相談したのだ。
「いいじゃん、いいじゃん!面白そう!!」
自分が言い終わった後、それまで静かに聞いていたネネさんは今までにない程に楽しそうな顔をしていた。
簡素な木の椅子が壊れそうな程の衝撃で立ち上がると自分を置いて真っ先に部屋を飛び出した。
……返事は聞いていないがOKを貰えたということかな?
ネネさんやその他生産部の人達の展開は早かった。
その日のうちに明日から素材と交換で発掘結晶の交換をすると告知し、その夜通しでレートの裁定、拠点の入り口付近にその発掘結晶の交換所となる屋台の様な建物を建てていた。
これらの作業を行うプレイヤーもすでに決まっているらしい、生産部は素材を採取しに行けないので拠点設備を建設する際の活躍に応じてと言う形になったそうだ。
元々生産そして商人としての側面を持つ生産部の人達の熱量はとても凄い
しかし、その生産部の人達を凌駕するレベルがシュタイナーを中心にしたプレイヤー達だった。
シュタイナーはその日の告知を聞いて未だ決まっていない素材レートで間違いなく高くなるであろう素材の採取場所を目指して毒竜の沼地へ単身突撃しに行っていた。
今日は土曜日、ただえさえ一日中攻略していたはずなのに彼も夜通し素材集めに勤しむに違いない
遠征班の他にも中堅層の素材集めや拠点防衛のプレイヤー達にも活気が戻っていた。
拠点の設備も進み拠点を守るに必要なプレイヤーの人数自体が殆ど要らなくなったのも理由の一つだ。
ノルマを達成していれば後に取った素材は自分の物になるのでそれらで集めた素材を使って早速交換所が開設した際に大量のプレイヤーが交換所に押し寄せた。
それでも発掘結晶は高い、元々高レベル帯のエリアでしか取れないというのもあるしまだ集めて一日なので数も少ないと言うのが原因だ。
それでも発掘結晶は見る見るうちに在庫が減り急いで補充の結晶を取りに岩相の僻地へと向かった。
……しかし彼らのガチャ欲を甘く見ていたようだった。
先に言っておくと遠征班のプレイヤーは他より拠点へ納める素材アイテムの量は結構多い、その分装備や補給面で優遇されてはいるが暇な時間は全てファンタジーワールドでプレイしているレベルの彼らの納品する量は多い
だから決して彼らがそれまでサボっていた訳じゃ無いのだが補充した発掘結晶は夜の内に売り切れ状態になっていた。
本来であればイベントギリギリに全設備がフル強化できるぐらいの予測がもう必要量の半分を超えている。それまでに彼らが稼ぐ素材の量が多く拠点開発の方が間に合ってないぐらいだ。
「ガチャというのは目的を達するかお金が無くなるまで終われないのだ」
シュタイナーはそうキメ顔で語り、周りにいたプレイヤーも一同頷いていた。肝心のネネさんも苦笑いしつつも一応肯定しているようだった。
最終ボス解放の前日、毒竜の沼地や岩相の僻地は当初の予定を大幅に繰り上げて攻略していた。その異様な光景は外にも伝わっていたようで堀先輩からも『お前のチームどうした?』とチャットが来ていたぐらいだ。
事実尋常ではない、チーム全員仕事、飯、風呂、睡眠以外はずっとファンタジーワールドにログインしているのではないかという状態で士気も高い
それまでのほほんとプレイしていた中堅層の人達も装備を更新、修繕、アイテムの補充をすれば他エリアにすっ飛んでいくぐらいだ。
それを加速させたのが前日自分が採掘してきた奇妙な発掘結晶のせいだった。
「なんだこれ?」
嵐のように岩相の僻地を攻略して納品用素材を集めに行ったシュタイナー一向によって駆逐されたモンスター達を横目に今日も採掘を行っていた。
連日採掘していれば流石に慣れも出てきて最適なルートも確立できていた。
取りこぼしが無いかだけ確認していると洞窟の奥の広い空間、それの高い天井の上にポツンと赤ワイン色に輝く発掘結晶があった。
一般的な発掘結晶は乳白色に輝く、自分は最初見た時全く別の鉱石かと思ったが実際採掘してみれば発掘結晶と表示されている。
しかし通常のと別枠でアイテムに収納されているので名前は同じでも違う扱いのようだ。
なんだこれ?と調べてみてもSNS等にそれらの書き込みは見つからなかった。
とりあえず拠点へ持ち帰りネネさんらの指示を仰ぐことにした。
「んー、確かに赤い発掘結晶はウチらの界隈にも一切情報が入ってないね」
「やっぱりそうですよね」
赤い発掘結晶をテーブルの上に置き、他生産プレイヤー達とあーでもこーでもないと悩んでいた。
自分が発掘したので一応自分の物という形ではあるが、素材が集まった今も独占的に採掘できるのはそれまでの行いのお陰でもある。
怒られることは無いにしても皆の信頼を裏切る事はしたくない、相手がNPCならまだしもこのゲームはMMOだ。
と言う訳で取り扱いに困るこの変な発掘結晶をどうするかという話に戻るのだが
「ペガサスが方法を決めたらいいんじゃないか?」
最初は一番チームに貢献した人という事になった。しかしそれでは遠征班のメンツが有利でどうなのかと、なれば採掘したペガサスに決めて貰った方が納得できるだろうと言う形に落ち着いた。
「では……」
なればファンタジーワールドで新規に追加された素材を、という形を取った。
新アイテムにも入手確立が低いレア素材も多数存在する。幸いにも自分が欲しているアイテムは採取や採掘系のアイテムが多い、それらの一覧をネネさんたちに見せガチャ屋のようにポイント制にして貰った。
その自分の一言でそれまでバブル状態だった交換所がさらに忙しくなったというのは当然の事だった。
流石にこの状態のままイベント最終日まで続けると誰かしら倒れかねないので、赤い発掘結晶が発掘された日から三日後という形になった。
今自分が貰っている素材は9999枠もある納品用アイテムボックスが3っつ目に入った。それらのアイテムは皆一定以上のレア度を誇り、貴重素材だけでも1ボックスの1/3を占めるほどだ。これだけでちょっとした財産になる。
これだけあれば色々な研究が出来るとイベント終了後について考えていたが今現在のトップは我らがリーダーシュタイナー、ユナはあまり興味画無いようでモンスターを狩っているようだ。ネネさんも同様に拠点の開発を続けている。
そして2位にタケジロウという以外にも遠征班以外のメンバーが入っていた。彼は中堅プレイヤーの一人で特に採取系を最初期から行っていたプレイヤーだったようで彼しか知らない採取場所も多数存在するようだ。
時間とプレイヤースキルで集めるシュタイナーとそれ専門で行ってきたタケジロウ、実質彼らの一騎打ち状態になっていて途中からはどちらが勝つか賭けが行われていたぐらいだ。
「結果発表ーーーーーー!」
今ではグリーンドラゴンが居る祠の封印も解かれ、SNSでは最終ボスのグリーンドラゴンについて盛り上がっているがそんな一方でチームは誰が赤い発掘結晶を手に入れるかについて盛り上がっていた。
拠点の中心にある広場にはイベント初日ぐらいにしか見かけなかった大勢のプレイヤー達が揃っていた。
広場の壇上に立つのはネネさん、大衆の前には有力候補であるシュタイナーとタケジロウさんが立っている。
その大衆の中で結果発表を待っていた。周辺ではざわざわとどちらが勝つか予想していた。大方はシュタイナーだろうと見ていたが制限時間の半日前には途中報告が見れなくなったので予想するしかないのだ。
「優勝者は……タケジロウ!!」
壇上に立つネネさんがマイクの様なアイテムを持って報告書を読み上げる。発表した瞬間うおおおおおおお!と歓声が上がり盛り上がりを見せた。
「では優勝トロフィーならぬ優勝発掘結晶を……」
ここからは自分の出番だ。アイテム欄にある赤い発掘結晶を取り出し壇上へ上がる。その上には司会のネネさんと若干緊張した様子のタケジロウさんが待っていた。
壇上の上から大衆の最前列でorzと見事に打倒された様子のシュタイナーが見て取れる。
「タケジロウさん、おめでとうございます」
簡潔に述べる。このアイテムを前に長々しい口上は要らないだろう、それもそのはず自分も観衆もネネさんもタケジロウさんも皆がこの赤い発掘結晶の鑑定結果を待っていた。
あーけろ!あーけろ!
タケジロウさんへ赤い発掘結晶が渡った瞬間観衆の方から開けろというコールが響き渡り始めた。それは直ぐに広がりその場で鑑定するような雰囲気になる。
「まぁまて、すぐ開けるから」
タケジロウさんも壇上で鑑定する予定だったのだろう、手に入れた赤い結晶を取り出し、鑑定のボタンを押す。
パリン!
ガラスが割れる様な音と共に赤い光がタケジロウさんを包み込んだ。
「……なんだこれ?」
光が収まりタケジロウさんの手には一つの剣が握られていた。
(これは……)
丁度タケジロウさんの目の前で見ていた自分にはタケジロウさんが持っていた剣についてすぐわかった。
「シンプルな剣だな……」
横に居るネネさんが沿う感想を述べる。大衆の皆さんも特別な結晶からまるで外れ武器の様な剣が出てきたら誰もが困惑する。
この前幻想世界では性能と見た目が合わないことがあると初めて発掘装備を鑑定したときに思ったが、その性能と見た目が合わない代表例が今目の前に存在したのだ。
あからさまに落胆した様子のタケジロウさんが念のためにと期待の無い目で持っている剣を鑑定する。鑑定したウィンドウが表示されその内容を流し見する。
そのウィンドウをスクロールするごとにその期待の無い目は驚きに満ちていき、見終わったころにはまさに絶句と言った形だった。
(やはり古代シリーズだったな)
タケジロウさんの様子からやはり自分が考えていた予想は間違ってい無さそうだった。
〈古代シリーズ〉それは発掘でしか手に入らない非常に貴重な装備品のシリーズ名だ。
全部の装備に古代シリーズは存在し、どれもが同レベル帯より一回りも二回りも強力な効果を持った装備だ。
タケジロウさんが今持っている片手剣、これは〈古代・兵士の剣〉と言い兵士の剣とぱっと見弱そうな印象を受けるが第一大陸で言えば最強クラス間違いない剣だ。
兵士の剣というのは実際に存在し、第一大陸の第3の街、王都リアであれば店売りで買える兵士の剣と見た目は似ている。
しかし古代・兵士の剣には古代シリーズ特有のルーン文字が刻まれている。
勿論基本性能も兵士の剣より数段階も上だが、片手剣で[力のルーン文字Ⅱ]が付いており、実際にユナにもルーン文字を刻んだ武器を作っているがあれは武器の中でも特殊な特大剣カテゴリー、間違っても片手剣でルーン文字を掘ることはは逆立ちしても出来ないと言えばどれだけこの武器がぶっ飛んでいるかがわかる。
(ご愁傷さまです……)
自分は思わず目の前にいるタケジロウさんに黙とうをささげる。これはメイクの名で作った魔剣以上の代物だ。これからタケジロウさんに降り注ぐであろう問題事を思えば哀悼の意を捧げずにはいられない、
そんな状況で赤い発掘結晶のイベントは終了を迎えた。
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