第37話 発掘結晶 《黒龍伝説》⓾

 先に折れたのはシュタイナーの遠征班だった。


 シュタイナー自身は少し未練を残している物の、流石と言うべきか自分が出した意見を飲み込み次の日には毒竜の沼地攻略について検討会が行われていた。


「確かに発掘武器は欲しいし魅力的だが、ネネさんが言う事ももっともだ。第一俺らのチームには優れた装備が既にあるし装備という物はいつか更新される物」


 だからここは一つでも順位を上げるために努力すべきだろうと彼は言った。


 自分の意見と真っ向から反対が出た意見を飲むというのは中々難しい、しかし今は八月も後半に入りボスエリアが解放されるまでもう一週間しかないという状況の中、いつまでもチームの中心の二人が反発しあって時間を浪費する事こそが一番避けねばいけない事だ。


 1人のプレイヤーとしては発掘武器は非常に魅力的だ。出来る事ならぎりぎりまで発掘したい、とシュタイナーは言っていた。そしてそれは今も変わらないとの事


 しかし一人のリーダーとしてプレイヤーを率いる立場であればネネさんが言う事が正しい、発掘武器は採掘している遠征班のプレイヤー達は楽しいだろうが実質ネネさんたち生産部は待ちぼうけを食らう事になる。


 だから俺が折れるしかないとの事彼はそう思ったそうだ。


 それでも彼がFWに備え付けられているブラウザー機能でSNSを見てる際にも続々と出てくる発掘武器に対して羨ましそうに未だ見ているのだけど。


 しかし遠征班の長たるシュタイナーの決定によりチームは致命的な決裂には至らなかったのは幸いか


 話を戻せば今現在拠点の会議室では毒竜の沼地を攻略するための様々な検討会が行われている。


 毒竜の沼地についてのエリア情報やボスの情報と言った物はもう開示されており、後はどのような方法で攻略するかといった形になる。


 会議室の正面に張り出されるイベントエリアの地図、拠点やグリーンドラゴンが居る封印の祠、そして六つのエリアが書かれたその地図には各エリアで取れる採取場所やモンスターの分布が事細かく書かれている。


 そして毒竜の沼地にも事前に集められた情報がいっぱいある。


 毒竜の沼地は各エリアの中では比較的難易度の高い場所になる。その為イベントの最初期に今は廃棄されたキャンプ地を設置した理由の一つだが


 エリアに出没するモンスター自体も強ければ、沼地という特殊地形の効果も相まって難易度は相当高い、実際に毒竜の沼地は攻略記事にも最難関エリアと評されていた。


 まず毒についてだが、幻想世界では毒と言っても鉱毒、植物毒、生物毒といった大まかな種類にその場所、モンスターの持っている毒によって解毒するための方法が一つ一つ違った。


 毒に関する資料は街を探索したりクエストの報酬で知識を得ることが出来るが実際保存されている毒に関する資料を纏めたらちょっとした本が出来るレベルだ。


 そしてファンタジー世界の毒となると幻想世界に比べて大幅に簡略化されている。


 毒、猛毒といった区別しかなくそこに解毒ポーションやポイズンヒールと言った方法で殆どの毒は解毒出来る。


 しかし毒竜の沼地はモンスターは勿論沼地に含まれる水分にも微量の毒が含まれており、蓄積した毒を一々ポーションなどで解毒していては到底エリアを探索することは出来ない


 つまりは毒を未然に防がないといけないのだが方法は主に3つある。


 魔法で状態異常耐性を上げる。毒耐性スキルを上げる。装備の効果で補うといった形だ。


 魔法で状態異常の耐性を上げる事は出来るが蓄積速度を低下させる程度なので根本的な解決にはならない、毒耐性スキルもMAXまで上げて完全耐性を得なければ先ほどと同じで根本的な解決にはならない


 そして最後の三つ目が装備による毒耐性の取得、高ランクの装備になればアクセサリー一つで大体補えたりするのだが、第一大陸程度だと全身を毒耐性を持ってる装備にしないと完璧な毒耐性は得られない


 エリアに対する攻略の入れ具合がどの程度あるか分からないが、最終ボスを挑むにはどの道毒竜の沼地を攻略しないといけないので事前に装備は制作してある。


〈蛇竜のレザーアーマー〉   レア度D

 制作評価 6

 種類   革鎧

 装備条件 無し


 追加効果 物防+10 魔防+7 被ダメージUP確率・小 毒耐性 Ⅳ


 蛇竜という毒竜の沼地に巣を置き隣接するエリアを飛び回っているモンスターで毒耐性装備を作れる。


 蛇竜と竜の名を冠するが実際は蝙蝠に近い風貌のモンスターでちょこまかと飛び回るせいで戦闘の際邪魔されると非常に面倒な存在だが戦闘能力自体は低い


 蛇竜自体が弱いモンスターなのと毒耐性という効果を持つ為か防具の性能は非常に低い、物防だけで言ったら拠点近辺に出没するファイラビットの装備より低いのだ。


 他にも毒耐性を持つ性能の良い装備は幾つかあるが数を揃えれてかつ完璧な毒耐性を得る装備と言ったら蛇竜一択と言った感じだ。




 鍛冶プレイヤーが増えた事によりイベント前半に比べて自分がやる仕事は少ない、装備の修繕もオーダーメイドで作った装備以外ならまだ鍛冶を始めたばかりの新人プレイヤーに任せている状態だ。


 正直に言えば暇になった。今更モンスターを狩りまくって個人ランキングを伸ばすのも不自然だ。


 他を手伝おうにもネネさんが既にイベントのラスト一週間前までスケジュールが組まれているので不要だと言われた。


 不要というよりは先週まで一番忙しく負担をかけてきたから休んでいて欲しいと言われた。


 気を遣われてしまえば強く言えないので今現在、シュタイナー達が希望していた岩相の僻地エリアに来ていた。


 勿論目的は発掘武器、発掘防具の入手だ。


 実を言うと発掘武器や発掘防具自体の要素は幻想世界にもあったが黒龍伝説イベント内、しかも第一大陸では存在しない


 総じて発掘装備は鍛冶などでは作れず店売りもされない、幻想世界で言えば発掘装備の中には古代シリーズというのもあり古代シリーズにしかないユニークな特殊効果が付いたやつなどもある。


 つまりはロマン、実際にシュタイナーが言っていることは間違っていないのだ。


 岩相の僻地エリアは毒竜の沼地の丁度反対側、難易度もエリアの中では高い部類で他にプレイヤーは居ない


 一つの岩山がエリアとなっている岩相の僻地では所々淡く乳白色に発光する結晶が埋め込まれている。多分あれが発掘装備が手に入る結晶なのだろうか


 一番手前の発掘結晶に近づきクラフトしたピッケルで振り下ろす。

 結晶と岩との付け根部分を狙って振り下ろす。パキンと割れる様な音と共に結晶が地面に落ちる。


 地面に落ちた後も結晶は淡く光っている。発掘結晶を手でつかめば視界に映るアイコンに〈鑑定〉というのが出現する。


 鑑定を選択すれば淡く光っていた結晶が一気に強く輝き収まってみれば手には先ほどの発掘結晶ではなく一つのペンダントを握っていた。


〈円石のペンダント〉    レア度 F


 制作評価  5

 種類    アクセサリー

 装備条件  無し

 追加効果   物防+2 


「これは外れだな」


 幻想世界において見た目と性能が合わないというのは多々あるが、手に入れた発掘装備は見た目も性能も外れと言ったところだ。


 事前に情報を集めた感じで言えば場所によって出てくる装備の傾向があるらしい、実際に岩相エリアの南部ではアクセサリー系、北部に、西部に防具、東部に武器、中央は比較的レア度の高いのが発掘できるようだが出てくる装備は完全ランダムで敵も強い


 今現在は中央と武器が出る東部が人気なようだ。使わない装備でもイベント後オークションなどで流せば金になるし、金策目的としても発掘は活発的に行われているようだ。


 となると目指す場所は中央、敵が強いと言われておりトッププレイヤーぐらいしか現在中央で発掘作業をしていないらしいが、発掘装備でも有名になっている『ライラの雷弓』や『炎氷の双拳』といった強力な武器は皆中央エリアで採掘されたようだ。








 中央エリアへ向かってみれば切り立った崖に人ひとり進める小道がある。壁に手を当て慎重に進む、実際落ちても死なないがファンタジーワールド上で見る高所は死なないと分かっていても足が竦むような恐怖がある。


(これ無理な人は無理だぞ)


 進めばパらりと小石が崖から落ちる。幸いにも強風は吹いていないが数十メートル下は固い岩盤だ。現実なら滑落したら死は免れない


 ファンタジーワールドは他のゲームに比べてまるで現実世界かの様な圧倒的グラフィックを誇る。他のVRゲームをやったことない自分は比較できないが様々なゲームをやってきた人たちが皆口をそろえて言うのだから実際そうなのだろう


 しかし、本能的恐怖を植え付けるレベルはどうなのだろうか、どんなにゲームが上手いプレイヤーでも今進んでいる絶壁の小道だったり、虫が大量に這いずっている森とかゲームスキル云々を別にして行けない場所も出てきそうだ。


「これだったら天使族とかに変更しておけばよかった」


 プレイヤーの強さを決める。レベル、種族レベル、職業レベルの内種族に関する天使族は種族的に弱い部類に入る。今現在自分がなっている種族〈神人族〉は強力な種族スキルや優秀なステータス補正を持つが天使は精々聖属性やINT(知力)、LUK(幸運)に補正が入る程度


 STR(力)はマイナス補正が酷く強力な武器防具を装備出来ない為攻撃力も無いし防御力もない


 しかし天使族は飛べるのだ。背中に生える二対の翼、上位種族になれば四対だったり光翼になったりするが酷い補正の代わりにMPを消費して空を飛べる。


 幻想世界で飛べたからと言って特別エリアをショートカット出来たりはしないがこのファンタジーワールドではこのような高所でも安全に進めるだろう


 まぁ人間サイズの翼など大きすぎで目立つのは間違いないのだが


 そんな現実逃避をしながら危険な道を渡りきる。中央エリア岩山の内部には湖や鍾乳洞が存在する。


 辺りを見渡せば手付かずの発掘結晶がたくさんある。


 SNSでは取り合いになってるチームもあるようで、シュタイナー達が後ろ髪を引かれる思い出毒竜の沼地を攻略している中で独占するのは罪悪感があるが、一応ネネさんに相談して了承を得ているので多分大丈夫……だと思う


(一応幾つか結晶のまま持っていくか)


 物珍しさで採掘しに来た自分が全部使ってしまうのは流石に悪い、使う可能性も低いし欲しがっていたシュタイナーやネネさんなどにお土産として幾つかは持ち帰ろうと採掘を始めた。

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