第35話 合金実験 《黒龍伝説》⑧
専用で作られた大きな作業台の上に早速今ある鉱石の金属板を制作した。
赤、緑、青から波紋のような模様から縞々デザインなど様々な金属板を用意した。
板は全部同じ個数のインゴットを使用し作った。金属板となった板はやはり板でも耐久値が違うようで基本となる鉄板が500、パルフォ鉱石の金属板が340と低く、氷属性を持つ雹冷鋼の金属板に関しては180と非常に低かった。これではルーン文字を刻むどころか補強してやらないと破損しやすいという非常に使い勝手の悪い武器になってしまう
これらの傾向を見るからにやはり質量のある重たい金属は総じて耐久値が高く設定されていた。それに伴い軽い金属は耐久値が低く、雹冷鋼のように魔力を帯びた金属は更に低くなっていた。
(黒鉄鋼が900と今ある素材の中では一番重たいか)
ただ鉄が変質しただけなのになぜ倍近く耐久値が違うのかは疑問だが気にしても仕方がない、そういう設定という事だ。
試しにルーンを掘ってみれば下位ルーン文字が板に2つ彫れた。鎧にすれば4つは彫れるかもしれない、それに加え鉄板は1つでギリギリ、パルフォ鋼は1文字の約7割ぐらい刻んだら消滅してしまった。
「まぁ結果はこうなるよなー」
まぁここら辺のシステムは大体幻想世界と一緒のようだった。どうするかなと後頭部を手でかきながら考える。黒鉄鋼だと特大剣にしたら持てないレベルだろうし、だからと言って妥協もしたくないと
「合金、って出来るのかな?」
あーでもないこーでもないと考えているとふと頭にピンとアイディアが浮かんだ。
この前ロケットや航空機関係の動画を見た時に合金について解説している場面がありそれをふと思い出した。
(しかしファンタジー鉱物の合金ってなると途方もないぞ)
現実世界にはない奇妙な性質を持ってたりするアイテムが多数あるFWの世界で一から合金について研究しようと思えば時間が足りない、少なくともイベント期間中で奇跡的な配合を運良く見つけない限り、何も成果が無いまま終わってしまうだろう
「なんかヒントは……あ!」
これぞまさに天啓と言うべき閃きが脳内を走った。
「確かローカルに……あった!」
昔全部自分で作り上げた幻想世界の攻略サイト……その資料が自分のパソコンのローカルファイルに残っていたのだ。
幻想世界のモチベーションの中にはサブクエストやNPCに話しかけてわかる幻想世界の設定などがあり一時期それを収集していたことがある。
その中には幻想世界の書籍も含まれており、基本モンスターや魔術本しか興味が無かったが一応それら以外の本も攻略サイトに載せていたはずだ。
「懐かしーーーー」
早速パソコンからVRキットにデータを移し、PDFファイルで保存されていたデータを漁る。そういえばこんなのあったなとまだ一年も経っていないのに何やら懐かしさを覚えつつ書籍関連のページを開く
「お、あった」
膨大な量の書籍を関連順に纏めていた過去の自分に称賛を与えつつ、肝心の鉱物関係のページを開く
(これは分布図か、こっちは鉱物の性質……合金は……これか)
探してみると合金と思わしきページを見つけた。
【錬金術師マフェルクスの錬金本・鉱物編①】
軽くスクロールしてみれば①とあるだけ第一大陸にある鉱石を中心とした鉱物を取り扱っているようだ。鉱物の状態変化から合金する際に相性の良い鉱物の組み合わせ、まさに自分が求めている情報がそこにはあった。
(流石にFWの鉱石は無いよな……)
元が幻想世界の攻略サイトの為、パルフォ鋼を含めたFWオリジナルの鉱石についての解説は無い、落胆はしつつも今ある金属板の7割は幻想世界にもあった種類で今ある素材でも何種類か合金として出来る組み合わせがあった。
〈フェルライト合金鋼〉 レア度?
種類 特殊鉱物・調合用アイテム
【自然界には存在しない金属、金属ではあるが電流を通さず熱にも強い、微弱だが光属性を帯び硬く丈夫だがその割に軽いという不思議な金属】
マフェルクスの錬金本の情報を元に黒鉄鋼とグルー鋼の二種類のインゴットを溶かし混ぜる。本によれば炉の温度は出来る限り高くとの事なので、今使っている炉の最大火力にする。すると二種類の素材は混ざり合いドロドロになった金属は型に入る。
そこから光属性の魔力を耐熱性の高い棒を伝って流し込み、魔力が金属から溢れたら止める。ある程度冷ましてから一気に強い力で叩くとその叩いた部分がフェルライト合金鋼になる……ようだ。
「わかるか!」
装着してた耐熱性の高い手袋を地面にたたきつける。簡単に整理したがこれ以外にもちょっとした工程を含めれば到底自力で見つけるなんて不可能だ。
そんな複雑だからこうやって本としてヒントを残していたってことなのだろう……
肝心の出来た〈フェルライト合金鋼〉は黒鉄鋼、グルー鋼とどちらも暗い色の鉱石から出来たとは思えないピンクパールのような優しい明るい色合いに光属性を帯びているためぼんやりと輝いている。
手に持ってみれば重量は鉄と同じぐらいか?肝心の耐久値を見てみれば
「ブッ!!」
思わず吹き出してしまう程の能力値をしていた。
「1300ってなんだよ、黒鉄鋼より軽いのに耐久値は約1.5倍とか」
重量比の耐久値で言えば第二大陸終盤クラス、それが第一大陸の合金で作れるとかぶっ壊れというしかないだろう
(やべぇよ、こんなの市場に出したらどうなるかわからん)
ニアさん含め非常に重量の重たい黒鉄装備が人気なのは重いが非常に性能が高いためだ。イベント前の発見されている鉱石の中で言えば重さも性能も2段程飛ばしている。重くてもその魅力ある性能が防具であったり武器に使われ人権を得ているのだ。
今手にあるフェルライト合金鋼はその常識を覆す金属だ。かなり複雑な工程が必要なため存在がバレなければ作られる心配は無いだろう、肝心のマフェルクスの錬金本に関して第二大陸で入手できる本なので、その時点で取ればフェルライト合金鋼以外にも優秀なのがあるので目立たたない
ゴクリと唾を飲み込む、はっきり言ってしまえばこれは悪魔の囁きに近い、未知の金属、それで武器を作ってみたいだろ?触ってみたいだろ?自慢してみたいだろ?と心の中の悪魔がそう囁く
(ま、まぁ作ってもバレないだろもうやばいの作ってるし)
〈冷炎纏う息吹猪の革鎧〉という今回のフェルライト合金鋼程ではないにしろ問題の種になりかねない防具をすでに渡してしまっているのだ。いまさら何をとポジティブな考えをして心の悪魔に完全敗北した。
(これだけあればルーン文字も結構彫れそうだ)
もう俺を止める人間は居ない……まぁ、元から居ないのだが自重と言う言葉を失った自分は只管自らの欲望のために突き進んでいった。
〈フェルライト特大剣〉 レア度C+
制作評価 4
種類 特大剣
装備条件 大剣レベル15以上 STR390以上
追加効果 物攻+202 魔攻+20 物防+10 〈光属性・小〉
〈ダメージ軽減Ⅱ〉[力のルーン文字Ⅱ][光のルーン文字Ⅰ]
「おぉ……」
出来てしまった。これぞまさにバランスブレイカーと呼ぶにふさわしい武器だ。制作評価はギリギリの4だがそれでもこの能力値、効果ともに完璧と呼ぶにふさわしい武器が出来た。
作業台に置かれる光輝く神聖な特大剣、そこには力と光のルーン文字が刻まれておりまるで石碑のような装いも感じる。
力のルーンは体力を消費して一時的にステータスを上昇させる能力、光のルーンはその上昇させる効果が光属性だ。この剣は光属性を帯びているので実質火力上げとして使える。特に光が弱点であるアンデット系にはもってこいの一品だろう
正直特大剣というのもあるが、能力だけ見たら第3大陸でも十分に通用するレベルの武器だ。第2大陸でも使えるレベルの塗装防具とはレベルが違う
あっちはあっちで調べる必要があるが、流石は錬金術師マフェルクスだ。自身の名前を本に冠するだけある研究成果だ。おすすめと書いてあったから試してみれば想像以上の結果となった。
「用事?」
気が付けば昼過ぎになっていた。早速出来た武器を見せる為、ユナにメッセージを飛ばしたのだが反応が無かった。もしかして嫌がられたかな?と冷や汗をかいたが単にログインしていなかっただけのようで夕方ごろ他の武器の制作中に彼女はやってきた。
「あぁ、早速だがこれを見てくれ」
彼女を驚かす為布に包んで工房の端に置いてあった特大剣を作業台の上に載せる。何?と尋ねる様子でこちらを見てくるユナに開けてみてと促すと彼女は恐る恐る布を解いていく
「……」
中から刀身が見えると彼女の横顔ははっきりと驚いた表情をしていた。ステータスを見ていいと彼女が聞いてくると、勿論と返し彼女は武器のウィンドウを開く、真剣な眼差しで情報を流し読んでいく
ふぅ、と一通りの情報を見た彼女にどんな事を言うかドキドキしながら待っていると
「これ、大丈夫?」
?と一瞬疑問を浮かべた。喜ぶのかと思ったらまさかの心配が先に来た。彼女の顔を見ても心配そうにこちらを見つめていた。
「大丈夫も何もこの通りだよ、様々な金属を使って作ったんだ」
「これ能力他の人に見られたら昨日みたいになるよ」
昨日みたい……とはブレストボアのレザーアーマーを作った時のような勧誘合戦の事を彼女は言っているのだろう、その忠告にうっと一歩後退してしまうが
「ま、まぁバレなきゃセーフだし教えなきゃいいよ」
ほら、と言って自分は彼女に対してトレード申請を出す。
彼女はまさか貰えるとは思わなかったようで先ほど以上の驚きの表情を浮かべていた。
「もうお金ないよ?それにこんな良い物貰うのも……」
彼女は気が引けるという事で遠慮していたが何をいまさらと言う感じだ。フェルライト特大剣程ではないにしてもシュタイナー達にも結構良い性能の武器を作っているし大丈夫、と彼女に告げるとそれでもと渋りつつも彼女は手に取ってくれた。
遠慮しててもやはり嬉しいようで剣をまじまじと観察する。
「それでルーンは他にもあって今回はこの二つを使たんだよね」
新たにルーンを刻んだ武器を作ったので彼女にルーンスキルの使い方を教えていた。
ルーンは魔力や体力、武器の耐久値を消費して様々な効果を発揮する。そこに特別なスキルは必要とせず使えるのがルーンの強みだ。
その説明に彼女はふむふむと軽く頷きながら時折質問も交えて説明していく
「お、武器が出来たのか……って姫騎士もいるのか」
「シュタイナーさん、あなたの武器も出来ていますよ」
そんな風に彼女と話していたら工房へシュタイナーがやってきた。
入ってきたシュタイナーはまさかユナが居るとは思わなかったようで少し驚いた様子だった。
「それでシュタイナーさん用に作ったのがこれ、重心も持ち手側に寄せているから振りやすいと思うよ」
事前にシュタイナーから要望を聞いていたためそれに合わせて武器を作っていた。シュタイナーはおぉ!とまるで子供の用に喜び武器を受け取るとユナのように真っ先に貰った武器のステータスを見ていた。
「なぁペガサス、やっぱり俺らのクランに来ねぇか?ライネも来て欲しいしって言ってたしよぉ……」
武器を一通り眺め確認すると惜しむようにそう言ってくる。
「まぁ考えておきますよ」
今の所どこかに所属する気はないし、するとしても堀先輩の所が良いなぁなんて思っていると
「俺たちから勧誘なんて滅多にねぇし、入りたい奴なんて山ほどいるのにな……」
それでもやっぱり名残惜しいようでどうだ?と再度聞いてくる。あははと苦笑の笑みを浮かべつつも対応する。
それから少し二人と会話し、二人とも遅れた攻略を取り戻すべく遠征班の方へ戻ると先ほどまで騒がしかった工房に静けさが戻る。
ふと、フレンド欄を開いてみるとそこには予想外の事故で様々な誤解がありつつも初めてフレンドになったトウカさん、堀先輩、田中先輩、霧島先輩にニアさんのリアル関係の繋がり、フレックスの街で知り合ったエルフの三人組に今回のイベントで知り合ったユナやシュタイナーなどの遠征班のメンバー(半ば強引だったけど)
こうやって見ると少しずつではあるものの実際のプレイヤーとの関係が広がっているんだなと思った。ずっと一人でやっていた幻想世界ではNPCと共闘することはあってもプレイヤーと一緒にプレイすることは一度も無かった。
それがこうやって武器を作ったり、相談したり雑談したりとこうやって思うとオンラインゲームってこんな感じなのだなとふと思った。
幻想世界は幻想世界で良いところはあったが、VRという仮想世界という事を含めてもやはりファンタジーワールドというゲームは凄いと感じた。
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