第34話 オーダーメイド     《黒龍伝説》⑦

 さらに次の日、チーム拠点へログインしてみれば建設途中だった工房は完成されていた。早朝だというのに数人のプレイヤーが最終チェックをしているようで話しかける。


「出来たんですか?」


 そのうちの一人に話しかけると仮想世界とはいえ眠そうな顔をしてプレイヤーが振り返った。んぁ?ともはや言葉にならない様子で少しまずかったかな?と思った。


「おぉ!あんたがペガサスさんか、話は聞いているよ」


 眠そうな顔もしていた男性だったが、自分の顔を確認するや疲れて眠そうな顔は一気に覚醒したようで様々なことを教えてくれた。


 チームの生産プレイヤー総出を挙げて急ピッチで進められた工房建設は今貯蔵されている最高品を使って作られたらしい、内装や鍛冶に必要な道具までどれもが一級品、イベントという環境下じゃなきゃどこも作れないレベルの施設になったようでフレックスや王都の工房にも引けを取らないと自負しているとの事


 自分が思ったように彼らは最終チェックをしていたようで丁度今終わったようだ。


 折角だから見ていけとの事で早速中を見させて貰うと、ほぉと感嘆の息が漏れる。そんな様子を見てかうんうんと何やら後ろで自分の様子を見ていたそのプレイヤー達は達成感を得たような満足そうな顔をしていた。






 流石に疲れたから、と見学して数分最終チェックをしていたプレイヤーの皆さんはログアウトした。ここまで頑張ってくれて感謝しかない、その間毒沼の方の拠点で調合して遊んでいた自分としては頭が上がらない


 それでも結果で答えるべきだろうと、早速作業台や新設された機能を見ていく


 ただの板が張り付けられていた旧工房の作業台だが、新しく作られた作業台は棚から引き出しが増設され、ハンマーやハサミと言った器具を吊るせるフックのような場所も設置されていた。


 炉もピザの石窯のような物から本格的な大型の炉へと変更されていて、熱した装備品を叩く場所から冷ます水場も完備されている。


 多少歩かなければいけなかった工房用のアイテムボックスも建物内に併設され、外から納入できるように壁に埋まった形で宅配ボックスのように置かれていた。


(防具、もいいが折角だし武器作りたいよなぁ)


 んーと悩みながら工房を見渡し考える。ボックスの中身を確認しても武器を作れるほどの鉱物もあり一発目だし景気の良く奮発して作ってみてもいいかもしれない


 鍛冶王のハンマーは例に漏れず持ってこれなかったので自力での制作だ。しかしここ数週間で技量は格段に上がったので致命的な失敗はしないだろう、ただオートに限ると付くが


 鍛冶も戦闘のようにオートとマニュアルが存在する。オートでもそれなりにカスタマイズが出来、NPCが販売する既製品やドロップする武具と違い様々な変更を加えることが出来る。


 一つとして能力の振り分け方だ。例にアイアンソードを挙げてみると、アイアンソードの基礎値は物攻+30、そこから耐久値や追加効果などが付与される。


 そのアイアンソードの総合的な能力値を100とすると制作評価ではその100の能力値を評価の段階によって、80だったり120だったりと変動する訳だ。


 総合的な能力値内で物攻などの基礎値に多く割り振ったり、追加効果に割り振ったり、耐久力に割り振ったりと出来る。勿論各項目には最低限必要な値はあるもののその振り分けは防具より大きい


 マニュアルではここから更に変更が出来る。まずは武器の形、同じ武器でもマニュアル鍛冶によって刀身を細く、薄くしたりして重量を軽くする。また重心をずらしてその使用者の使いやすいようにするといった細かいところまで出来る。


 その分難易度は跳ね上がるが、それは追々と言った感じだ。


 オート鍛冶ではリズムゲームのような感じでタイミングよく叩く、そしてランダムで発生するイベントを適切な方法で対処する。これに鍛冶のスキルを用いて評価の高い装備を目指す。これが一連の流れだ。


 魔剣となるとまた話は変わってきてこれも塗装と同じように加工過程が追加される。魔力を貯めるために必要な宝珠の装着からその魔力を流す為に刻むルーン文字


 ルーン文字は実際に存在する文字に加え幻想世界オリジナルの文字もあり、中にはクエスト報酬や秘伝鍛冶の一種だったりする大事なものだ。


 しかもただ覚えれば良いのではなく上位以上のルーン文字は資格が必要で、幻想世界では非常に面倒だったりする。


 魔剣でなくともルーン文字を刻めばその文字に対応した効果が発揮され強力な武器になる。使う素材によって刻めるルーン文字の数は変わるが今自分が持っている中では最大20文字、ドロップアイテムなら50文字を越える物もある。


 まぁルーン文字は下位の文字でも大量に魔力を使うので多分第一大陸ならよくて3個が限度だろうな使う素材の関係もあるし


 流石にルーンを刻む専用の彫刻刀は無いが別に無くても刻めないことは無い上位や特殊文字でもないし


「これは」


 そんな事を考えながらボックスをごそごそ漁っているとやはり鉱石関係でも様々な新アイテムが追加されているようだ。


〈パルフォ鉱石〉   レア度D+

 種類 鉱物・調合用アイテム


【ガラスのような性質を持つ不思議な鉱石、叩くと結晶のように割れ魔力込めると固くなる性質がある】


〈雹冷鋼〉   レア度C

 種類 鉱物・調合用アイテム


【氷の魔力を帯びた変質した鉄鉱石、強度は鉄鉱石と同じだが氷の魔力を帯びており魔力を流し込めば強力な冷気を放つ】


 二つとも見たことない鉱物だ。雹冷鋼に関しては似たようなアイテムで氷獄石という物があるが、下位の新アイテムだろうか?鉄鉱石と同じ強度ということだから序盤でも魔剣や魔力を帯びた防具など登場させる意図がありそうだ。


 パルフォ鉱石に関しては似たような性質を持つアイテムは無い、鋭利な形状という説明文があるように武器に使いそうだ。


 カーンカーンと聞きなれない高い金属を叩く音を響かせる。熱せられた炉を明かりに赤く輝いた金属を叩く、まっすぐ振り下ろし叩けば火花が散り形状が変化する。そして軽く細かく叩き形を調整しつつ剣を制作する。


 視界には通常時のUIと違い、鍛冶専用のUIが表示される。金属の温度、形状を360度見渡せる3Dオブジェクトが表示され叩くごとに上昇する各パーツのゲージを吟味しながら次はどこを叩くか考えつつ完成へと近づけていく


(うん、やはり鍛冶王のハンマーに比べたら難しいけどこれだと普通品レベルは作れそうだ)


 鍛冶王のハンマーを使ったときは強力な補正により、武器の品質を決めるゲージが常に最適になっていたが、今作っている武器は幾つかの箇所が最適な部分を越えてしまって位はいるが致命的な部分は無い


 赤く熱せられた金属は少し平べったい棒状に形成され、誰が見ても剣とは言い難い



「よし、説明文ではこれで割る要領で……」


 棒状の金属はパルフォ鉱石、説明文では魔力を込めると固くなるというという事だ。刃先となる部分を細かく叩き割っていく、大きな力を一気に籠めると棒自体が割れてしまう可能性があるので慎重に行う


 先端の尖った器具で削っていけば割れたガラスの断片のように鋭利になる。削ってみれば思いの外柔らかく粘性が高いようだまだ魔力を込めていないからだろう。


 棒を裏返し、反対側も同じように削る。本当なら両刃にしたいところだが形状が細いので耐久値が心配だ。


「うーむ」


 一通りできた剣を掲げてみれば日本刀のように細い、刃先はノコギリのようにギザギザで斬られればまさに引き裂くといった攻撃性を感じる。


 視界に表示されている3Dオブジェクトを見てみれば若干重心がずれていた。重心のズレ自体はカスタム要素なので基本評価には関係しない、ただ今回は片刃にした関係で左右のバランスが悪くなり振りにくい形になっていた。


 ブンと軽く振ってみれば思い描いた軌跡から少しズレていた。表示されるステータスを見てみても右に偏っているようで調整する必要がありそうだ。


 幸いにも魔力を込めない状態だと加工がしやすいので調整は簡単だ。炉で少し熱し叩いてやればズレていた重心はしっかりとあるべき位置に調整出来た。


 刀身が出来れば後はお好みだ。持ち手のグリップ部分も人の好みで決められる。魔剣だったらこの部分もこだわり魔力の伝導率が高い素材が良いとされる。


 特に魔剣にする予定で作った訳じゃないので木を挟み伸縮性のあるモンスターの素材をテープのように持ち手に巻き付ける。本来なら鞘も作る必要があるが刃の部分が様々な方向に尖っている為収める事が出来ない


 完成してみれば非常にシンプルな刀のような剣、刃は荒々しく尖っており威圧感がある。差し込む陽の光に当ててみればパルフォ鉱石の暗い緑色の輝きが見える。


 手に力を籠め魔力を流し込む、するとパキパキと音が鳴り腕を伝って刃先まで硬化したようだ。


〈バンディーチョッパー 〉    レア度C


 制作評価 5

 種類 長剣  

 装備条件  片手剣レベル8以上


 追加効果 物攻+81 物防-8 魔防-6 〈出血効果・中〉【ダメージに応じて微回復】


 見た目からして悪役が使いそうな荒々しい武器が出来た。見た目通りに性能も凶悪でまさかの防御デバフが付いてしまった。しかし物攻の値は81と今出来るであろう長剣の中だと攻撃力は非常に高いだろう、下手をすれば一番物攻の値が高い刀剣類の大剣よりも高いかもしれない


 それに加え出血効果は出血という異常状態を付与する。毒と同じように継続ダメージを与え特に行動すればその大きさによってダメージが変動するという物だ。言ってしまえば動かなければダメージは無いが戦闘中そうは言ってられないので中々強力な異常状態だ。


 それに回復効果もあるようだ。流石に回復魔法レベルでは無い物の長期戦ならその回復量は馬鹿にならないしこれも有用効果だ。


「とりあえず一つ目か」


 武器に関して言えば防具以上に種類が分かれるので他の種類の武器も作らねばならない


「そういえば……」


 彼女、ユナにも武器を作るみたいな事言ってたなと思いだした。彼女は確か大剣だったはずだから今回作った長剣は合わない、華奢な体の彼女には厚みのある超重量の大剣だ。


 まぁゲームなので筋肉は関係なくそれ相応のSTRがあれば装備できるから姿は関係ないのだが


(特大剣クラスになるとルーンも彫れそうだな……)


 大剣の中でも彼女が使うのは更に大きい特大剣と言われるクラスだ。重量は非常に重たく例え重量を軽減するスキルを複数取っていたとしても、その重量が武器に使われ防具に充てる重量があまりない


 その為鈍足紙装甲というリスキーな戦い方になる。まず自分ならやらない戦法だ。


 しかし、そのデメリットを補うように強力な武器性能が特大剣にはある。


 幻想世界でもFWの世界でも重量が重い=性能が良いというのは前提としてある。ブレストボアのレザーアーマーが驚かれたのはその重量の割に性能が良かったのであって、基本的に重い物は性能が良いのだ。


 アイアンシリーズで例に例えると全部評価5とすれば、鉄の短剣は物攻+10、片手剣なら30、長剣だと60を超え大剣になると80以上になる。


 鉄の特大剣なら130とこの種類だけ数値がぶっ飛んでいるのだ。


(雹冷鋼だと……駄目だ、属性が偏ると汎用性が無くなる。ならルーンを刻んで能力を上げたほうが良いか)


 特大剣の他にも耐久値や刻めるルーンの数も多い


 自分が持っている古代の魔法特大剣も81個のルーンが刻まれていて自分が持っているルーン武器の中で一番多い


 武器種によって詰め込める器の大きさが違う、片手剣なら一種類の属性しか込められないが大剣だと2種類は出来るし、特大剣なら3種類だ。ロマンを求めるなら大剣以上なのだろうがそこはプレイスタイルやパーティーメンバーの兼ね合いになる。


(他の鉱石で試しつつ……て感じかな)


 とりあえずルーン文字や魔剣に彫る魔力伝導率を上げる魔力彫の上限は各々の鉱石で鉄板を作り実際に刻んでみるのが一番だ。刻みすぎれば耐久値が減りオーバーすると制作中に消滅する。


「今後やらないといけないことだろうし、今日はそれにするか」


 ひとまずは作った〈バンディーチョッパー〉も見て貰って意見を貰わないといけないし取り合えず今日はまた実験かな?









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