第30話 装備制作  《黒龍伝説》③

 次の日、軽く大学の課題をやり昼前の午前10時過ぎ、早速FWへログインし拠点に向かってみればチラホラと幾つかの小さな建物が建てられていた。


「お、ペガサス君こんにちは」


 拠点へやってきた自分をみて声をかけてくれるのは生産部のトップのネネさん、軽く喋るとネネさんは専業主婦だそうで昼食前の軽く一時間、昨日のうちに集められた資材を確認し先に建設する施設を確認していたようだ。


「ペガサス君、いまんとこ初期段階の工房は今日の夕方には完成すると思うよ、他には素材の保管庫とみんなが止まる宿屋が完成した感じ、宿屋は遠征組が先に入ってその後私ら生産部、そしてそれ以外の人達が出来次第部屋に入れると思うよ」


 宿屋、そういえばこの拠点に入る際、その拠点の外側で小さなテントが幾つも集まっていた。クラフトのページを見てみれば手道具を除けば一番簡単かつ少ない資材で作れる建物が一人用テントだったなと思いだした。


 ネネさん曰くテントは殆どがログアウト専用の場所といった感じで街にある宿屋のように一定時間休めば回復するといった機能は無い、その為今建設されている宿屋は街の宿屋と同じく回復機能を持っているようだ。子の宿屋にもグレードがあるようで各エリアで採取できる上位の素材を使えば時間当たりの回復量増加やバフが付与されたりするようで拠点制作において宿屋は比較的優先度の高いもののようだ。


「そしてここが工房、流石にフレックスや王都に比べると見窄らしいけどこの工房だと革装備までかな、簡易的な留め具とかも作れるようだけど金属鎧とかはまだまだ先のようね」


 紹介されてみれば、学校の運動会で使われる大きなイベントテントに縦長の作業台、小さな石の炉が用意されていた。


「いまのところペガサス君以外だと3人くらいかなぁ、同じクランの人間に聞いてみたけど私たちのチームは余計に装備制作できる生産プレイヤーが少ないみたい」


 他のチームでは10人、多いところで15人ほどはいたようだ。このチームではシュタイナーや姫騎士と言ったFWを代表するプレイヤーが居る一方生産プレイヤーの数は少なくその点では苦労しそうとネネさんは語っていた。


「私もそろそろ戻らないとだからログアウトするけどなんか質問ある?」


 ネネさんはそう言う、先ほどログインしてきたばかりの自分と違い、ネネさんは丁度落ちる時間だったようだ。特に聞きたいことは無いので大丈夫というと


「工房班は専用の保管庫があるよ、その中に入れてあるアイテムはペガサス君たち工房班が自由に持って行っていいよ、拠点の保管庫を使う場合はその専用の人達が居るからその人に聞いて」


 それじゃまたねと手を振ってネネさんは小走りでその場を後にした。


 早速工房を見てみれば3つ用意されている作業台はまだ使用された形跡は無く自分が初めてのようだ。


 作業台の自分を挟んで反対側にはハンマーやノコギリといったツールがあり素材を一時的に入れておく箱や簡易とは言え機能は十分にある用だった。


「さてさて中身のアイテムは……」


 工房横に設置されている大人一人軽々入れる大きな収納ボックスを除いてみると早速幾つかの素材が入っていた。


「ファイラビットの毛皮に、これはブレスボアの獣皮か二日目ですごいな」


 様々なモンスターの素材から鉱石まで様々あった。中にはバルバト周辺に生息するブレストボアと呼ばれる強モンスターの素材まで入っており、遠征班は中々仕事しているようだった。


「いきなり貴重な素材は使えないから比較的簡単なやつ……と」


 この拠点周辺でも入手できるファイラビットの毛皮を中心に比較的安い素材を手に取っていく


「とりあえず毛皮を広げてっと」


 作業台に先ほど選んだ素材を並べ主役となるファイラビットの毛皮を広げる。ローブとして覆えるぐらいの大きさの若草色の毛並みはしっかりと加工されて鞣されており、ここから胴、腰、足、手といった各部位に使う用に裁断していく、予め決められたテンプレートをなぞり適切な素材で編んでいく


(裁縫スキルも皮装備制作もレベル上げてたからサクサク進むな)


 鞣された皮は防具になるため現実では並みのハサミでは裁断できないほど強靭な硬さを持つ、裁縫自体も昔学校の授業でやったことはあるが今FWの世界の用にサクサクとは進まないだろう


「できた!」


 ちまちまと作業をして小一時間、多少の失敗はありつつもこの拠点で初の生産防具が出来た。


〈草原兎のレザーアーマー〉    レア度F


 制作評価  6


 種類    革鎧


 装備条件  無し


 追加効果  物防+12 魔防+4、斬撃耐性小


 制作評価は6、評価に直結する鍛冶スキルは殆ど使わずにしては上出来だろう、素材もボックスの中で一番レア度の低い物を使ったから比較的簡単だったというのもあるかもしれない


「すいませーん」


 早速できた防具をアイテムボックスに入れ、拠点の一番大きな建物、第一保管庫と名された場所にやってきた。


 数人の生産プレイヤーが複数の保管庫を増設しており、完成された第一保管庫にはメモ用紙を片手に搬入作業をしている男性プレイヤーが居た。


「はいなんでしょうか?」


 保管するアイテムを分けていたのだろう、保管庫入り口の机に様々なアイテムが並べられ植物、鉱物撮った大雑把な分類で分けられていた。


「あの工房班の者なんですけど、一応防具が出来たんでここに伺いに来たんですが」


 自分がそう言うと管理人の男性は本当ですかとはっきりとわかるように喜びを露わにした。早速見せてくださいと言われると先ほど制作した〈草原兎のレザーアーマーを〉取り出す。そうすると男性はアーマーを手に取りコンソールを開いて防具の情報を流し見する。何やらテストの結果を待つような緊張感に胸をドキドキさせていると、一通り防具の情報を見た男性は


「凄く良いですよこれ!皮装備で評価6,斬撃属性を持つモンスターはあまり見かけないので、斬撃耐性自体は現在微妙ですが防具の基礎数値は十分、イベントじゃなかったらうちで買い取りたいくらいですよ」


 男性は捲し立てるように早口でそう語った。彼は生産プレイヤーのクランに所属しているようで、その中でも生産プレイヤーと一般プレイヤーの間を取り持つ卸業者のような生業をしているらしい


 彼曰く、皮装備で評価6を出せるのは居るにはいるがまだまだ珍しく、トップ層に追いつきたいプレイヤーには高値で売れるようだ。ぜひイベント外でも防具を作るなら商業クラン『ハルート』へと、何故か売り込みをされた。



 よろしく頼みまーす。と手を振られながら保管庫エリアを後にする。工房へ戻ってみると先ほど誰もいなかったところに二人組のプレイヤーが話し合っていた。


「どうしたんですか?」


 同じ工房班の人かな?と思って声をかけてみれば話し合っていたプレイヤーはあっ、気づきこう話す。


「工房班の方ですか?ちょっとお聞きしたいことがありまして」


 そのプレイヤーは工房班の人ではなく、遠征班の人達だった。何事だろう?と思って先の質問を聞いてみれば彼はこう話した。


「探索していたエリアで武器がドロップしまして、決まりでは入手した装備品類はその本人の物という事なんですが元から破損してまして……」


 そう男性が言うとコンソールを開き例の破損した武器を見せてくれる。


〈フリストダガー〉    レア度D


 制作評価  4


 種類    短剣


 装備条件  短剣レベル3以上


 追加効果 物攻+18  極低確率で出血付与


 表示された短剣は奇麗に装飾された氷のような刀身をした短剣だった。手に取っていいかと言って了承を得てみると、奇麗な刀身に小指の爪先程の小さな欠けがあった。


「耐久値があと30で使うにしても腐食攻撃とか喰らったら破損してしまう可能性があるので直せないものかと」


 幻想世界及びFWの世界には装備品に耐久値というものがある。高レアな装備になると自動修復とか、元々の耐久値が高すぎてあって無いようなものだが低ランクの装備になると耐久値は気にしないといけない値だ。


 耐久値が全体の半分を下回るとその装備の性能が80%まで低下する。25%になれば半分、0になれば破損と言った状態になってちゃんとした工房で修理をしないと装備できない状態になる。


 破損まで行くと修理にかかる素材や難易度は跳ね上がり、基本的に25%を下回るなら急いで修理をしないといけないものだ。耐久値を上げるにはその装備に対応した素材を使い鍛冶で修理する。砥石という修理アイテムもあるが高額な割に回復する数値は微々たるものでコスパが悪い、装備のランクが高ければ砥石は使えなかったりとあって無いようなものだ。


 そんな訳でこの男性は修理するべく工房へと訪れたのだろう


『修理しますか?Y/N ※修理するための素材が不足しています!鉄鉱石×4 フルルレ草×2』


 修理に不足している素材を確認し、工房のアイテムボックスを除いてみても、鉄鉱石は足りたが肝心のフルルレ草が無かった。


 持っているか?と聞いても二人は首を横に振る。自分はこの修理にフルルレ草というのが二個必要だと伝えるとその持ち主は残念そうにそうですか、と武器を受け取り離れていった。


 フルルレ草、幻想世界には存在しなかったアイテムだ。基本植物系アイテムは消費アイテムの調合で使われることが多いが武器の修理素材として必要というのはとても驚いた。武器も至って普通の性能をしていたがこれもFWで追加された武器だ。


(まさか二日目にして知らないアイテムを見れるとはな、アイテムドロップか洞窟とか探索してもいいかもしれない)


 モンスターを討伐するのはptの上昇の点からあまり派手にできないが洞窟や谷と言ったポイントには宝箱が存在し、武器や防具が入っている場合がある。


 こうやって男性が持ってきてくれた短剣は至って普通の短剣だったがそのデザインは全く新しい物だった。


 フルルレ草、これも素材アイテムとなると今後何かの拍子で使う可能性があるかもしれない、フルルレ草も含め他にも知らないアイテムがこのイベントに多数追加された事だろう


「よし、やるぞ!」


 一気にモチベーションが跳ね上がり、まだ見ぬアイテムに心躍らせるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る