第29話 近辺調査 《黒龍伝説》②
姫騎士はシュタイナーに呼ばれ、王都以上で活動するプレイヤーの組に組み込まれた。本人はフレックス周辺で活動しているようで、シュタイナーが言ったように近辺調査に出ようとしていたがそれをシュタイナー達が見逃すわけもなく、彼女はコロシアムのトッププレイヤーという肩書もあり特例として遠征メンバーに選ばれたようだ。
まさかリリル村も含めてまさか何万といるプレイヤーの中でまさか同じチームに選ばれるとは思わなかった。とは思いつつも彼女は遠征班、自分は近辺調査をする班だ。同じチームとはいえ話す事すらないだろう自分は意識をすぐ外へ追いやり新たになった黒龍伝説のエリアへと足を運んだ。
黒龍伝説のイベントエリアは中世ヨーロッパをイメージしたFWの世界観と違い、全体的に中国をイメージするような装いだ。高い岩山だったり、植物やモンスターが配置されている。自分は拠点の近辺、と言いつつも結構遠いとこまで足を運んでいた。幸い今日から三日ほどは特に資材集め等はせずに探索中心という方針をシュタイナーが打ち出したのでそれに合わせるように人とかち合わない場所まで来ていた。
「フッ!」
肺に貯めた空気を一気に吐き、縦に振り下ろす一閃を放つ、それと同時におもちゃのような大太刀はその刀身を青白いライトエフェクトを纏わせ、それに加える形で赤や緑と言った様々なエフェクトが重なり振った一閃に合わせて太刀を振る風切り音とは別の機械音が響く
キュオーンと高速で切り裂くような音が響き、剣を振り下ろした直線状に灼熱の焔が迸る。草原を焼き、大地を切り裂き、その衝撃が通った道は溶解して黒ずみそのさらに中心部は今なお溶岩のように赤く熱されていた。
「アクセサリー装備できないのにどうすんだこれ……」
こめかみを抑えるように声を絞り出す。先日までは10個の指輪によって大幅に制限されたステータスが解放された状態になり、ステータスの数値によって威力が変わる縦一文字に斬る大太刀スキル《偏向閃》は大地を切り裂く威力に様変わりしていた。
(堀先輩にマニュアル操作教えて貰ったから倍率が低いにしても通常攻撃ですらボスを一撃で屠りかねない)
今持っているのは初期に選べる大太刀、その攻撃力は+5と最低値を誇っている。それでも余りあるステータスから繰り出される大太刀の上位に位置する強力なスキルを繰り出す分には不足は無いようで、その威力を見てからも遥か遠い第3大陸の大型モンスターですら一撃で屠れるだろう。
はぁ、と空気を吐く、チーム戦ということでこれから色んな人と協力したりする場面が多々あるだろう、しかしこうやってやってみるとおもちゃのような武器ですらこの威力だとどうやっても不審に思われる。
(イベントは不参加、いやステータスは高いから態々拠点が無くても一人でやっていける。そうするしかないのか?)
数万という単位のステータスを持ってすれば第一大陸難易度のイベントなんぞイベントの間攻撃を受け続けても一ミリもHPのバーを動かすことは出来ないだろう、しかし折角のイベント、チーム戦おろか拠点を作るなんて要素は幻想世界では無かったし体験してみたいというのが正直な感想だ。
(とりあえず。当分は資材集めでもするか)
人気のないところで木材などの資源アイテムを回収しつつ裏でモンスターを狩る。荒波を立てないというのではこれが最適なのかもしれない、生産部門のプレイヤーに相談して配置転換のお願いをしてもいいかもしれない
「えっ?生産部に移動?」
予想外、と言った声に自分ははい、と答える。そっかーと頭をかきつつも生産部を指揮している女性プレイヤーは直ぐに切り返して指示を出す。
「とりあえず。生産プレイヤーも今は近辺調査と資材集め、その後はマニュアルに各施設に必要な資材量とか吟味しながら作っていく感じかな」
快活に答える女性は普段からこのような事をやっているのだろう、滞りのく作業を振り分けており、こうやって自分の突発的な問題にもすぐ対応しながら周りのプレイヤーを動かしていた。
「それとも鍛冶希望?それだと助かるんだけど鍛冶スキルはやってないとまともなもの作れないよ~」
生産部の指揮しているプレイヤー、ネネさんは今の状況を説明してくれる。今回のイベントでは拠点の他にプレイヤー自身の装備も一から作らないとだそうだ。シュタイナーの指示によって宿泊施設と装備を作る工房は真っ先に建設が予定されているようだが、人数に比べて鍛冶、特に金属系の装備を制作できるプレイヤーが不足しているようだった。
「はい、一応スキルも習得しているので出来ると思います」
そう答えるとなぜ最初からいなかったのか、とネネさんは疑問を浮かべるもすぐに切り替えて助かるよ!と肩をバンバンと叩く、こうやってフレンドリーに他人との距離を縮めるのは彼女元来の性格なのかもしれない
「といっても工房が出来るのは最短で明日だね、それも設備はまだ初期段階だし最低限って感じ、それまでは素材でも集めてくれると助かるよ」
それじゃ、といった感じにネネさんは離れて後ろで構えていたプレイヤーに指示を出して消えていった。
特に必要とされなかったので拠点周辺の森へやってきて先とは違いモンスターではなく木を伐採することに決めた。
(思いの外耐久値が高いな)
黒く太い幹を調べてみれば、外に比べたら3割増しぐらいに耐久値があがっていた。これを初期武器で伐採するとなると相当苦労するだろう、植物系に特攻のある斧があれば別だが、斧使いは剣に比べたら人気が無く数は少ないだろう、量産するにしても工房を立てるためにまずその資材が必要なのだ。
スパンッ
軽く大太刀を振れば、奇麗な断面と共に巨木が倒れる。ズシンと響く音と共に倒れた瞬間、巨木は加工された木材へと変換され地面にドロップする。
ここら辺は流石にゲームという事かと安心し、ドロップしたアイテムを回収する。この様子だとまともに木材は手に入らないだろうから拠点に渡すアイテムは絞りつつも次々と木々を切っていく
「ふぅ、これで良し」
マップ中心の拠点から南下して、六つあるうちの一つ、毒竜の沼地までやってきた。拠点付近にある森を抜け、荒野の先にある子の沼地はエリアボス《バジリスク》を主とする毒系の異常状態を付与してくるモンスターが生息するエリアだ。そのエリアの更に端、ボスが居る場所よりも更に奥の何もない辺境、見えない壁に阻まれるギリギリの場所で森で集めた木材を使い隠れ家を制作した。
ハンマーや釘と言ったクラフト用アイテムを制作し、最初からプリセット化されているカタログを参照しながら一番簡易的な隠れ家を作りマーカーを指す。
ここは毒竜の沼地を個人で探索する際に使用する個人的な拠点だ。普段はチーム拠点で生産に勤しみ、隙を見て抜ける。ログイン時間がバラバラなこのゲームにおいて二日ぐらいなら居なくても目にはつかないだろう
なぜこの毒竜の沼地で拠点を立てたかというと軽くエリアを調べた遠征組がこの異常状態や沼地が脅威となるこのエリアは初期装備だときついという事で後回しにされる方針に決定された。最初に遠征組が攻略するのは拠点から北西の遺跡群がある鋼蜘蛛の古代遺跡というほぼ反対に位置するエリアだ。
(当分攻略予定もないし、明日の拠点の出来ぐらいを見つつ今日は沼地探索するかな)
明日渡す分の資材はもう確保しているので思う存分エリア探索することが出来る。流石にボス討伐とはいかないがFWの新モンスターやそれらを素材を集めておきたい
コポッと沼地に存在する如何にも毒々しい紫色の液体から気泡がたつ、草木は枯れ、動物の骨が散乱して如何にも危険地帯という場所だ。対毒スキルはMaxまで上げきっているので特定の装備やアイテムが無くても十分に対抗できる。先ほどから視界に映るUIからは異常状態を知らせる毒状態ゲージが表示されているが、ゲージは0でしっかり対毒スキルが機能しているようだった。
ファンタジー感あふれるフレックス周辺のモンスターに比べて自分の周りをうろつくモンスターは皆やせ細り全体的に暗い色合いをしたモンスターが多い、その分手先の爪や牙と言った武器となる部位は異常に発達しており一目見ただけでこのエリアのモンスターたちの攻撃性の高さが伺える。
ギャアァ!
視界に映るミニマップにちょうど自分の死角を取るように赤い点が映る。体をひねり、横なぎで大太刀を振るえば黒いハイエナのようなモンスターが斬撃により体が真っ二つになった。
ドサッと地面に落下し、粒子となって消える。アイテムはドロップしなかったがポイントが追加されていた。
(60pt、拠点周辺のモンスターが5ptぐらいだったからだいぶ高いな)
毒竜の沼地、エリアごとに難易度分けされているかわからないが比較的ボスエリアとも近くここら辺のモンスター達はこのイベントエリアの中でも上位に位置するのだろう、ランキングを見てみればペガサス73ptと更新され、チーム内ランキングでも一気にTOP10にランクインしていた。
「まずいな」
素材集めをしようにも予想以上に獲得ポイントが大きい、トップを走るのは153ptを獲得しているシュタイナー、それ以外は一段落ちて110、105と刻んでいる。
この黒ハイエナをもう一体討伐すれば一気に2位まで躍り出てしまう形だ。FWの全体個人ランキングを見れば始まったばかりというのもあるが3000位以内に入っているようだ。
(討伐は目立つ、少なくともここのモンスターは一日狩れても2~3体ぐらいだろう、となると環境素材集めか)
拠点近辺で狩ったモンスターでドロップした革を選択し、簡易クラフトをする。そうして沼地にたくさんある毒を汲み採取しておく、その他にも植物を中心とした環境アイテムを採取し一日が終わった。
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