第28話 イベント開始《黒龍伝説》①
三日に及ぶ大規模メンテナンスは無事終わり、8月1日の正午丁度にサーバーが解放された。
直近の課題を終わらせ、十全な準備を整えたと同時にVRキットを頭に装着しログインする。ログイン画面では事前にダウンロードしていた追加ファイルが更新され普段使う第1サーバーを選択し、視界が白く染まり収まってみれば少し懐かしさを感じるリリル村の広場で立ち尽くしていた。
自分と同じようなスタートダッシュ勢は多いらしく、夏休みなども含めて平日昼間ではあるもののログインして辺りを見渡すプレイヤーは多い
ポンと音が脳内で鳴ると視界ウィンドウの端には運営お知らせのメールが届いていた。そのメールに指を合わせてクリックするとメールが開きメールの文章ウィンドウに重ねるようにアイテムを入手した。
〈転移の鐘〉 レア度 C
制作評価 不明
種類 イベントアイテム
装備条件 無し
追加効果 転移【イベント】破壊不可 トレード売却不可
イベント《黒龍伝説》用の専用アイテム、これを使用するとイベント限定エリアへ転移する。
取り出してみれば若干黒ずんだ青銅のような素材で作られた呼びベルのようなアイテムが手元に現れた。早速アイテムをクリックし詳細を確認してみると思った通りのイベント専用アイテムでこれを使えばイベント会場へ行けるようだ。
早速クリックして使用してみると
『登録完了、転移は1時間後に確定されエリアに転移します。中止しますか?Y/N』
直ぐに行けるわけじゃないのか、そう驚きつつもこれが仕様なのでは仕方がない、幻想世界ではこのような登録せずに直行できたはずだがFWになって色々と仕様変更がなされたようだ。
一時間後、転移の鐘の待機時間が終了し転移開始!のボタンが現れる。中には早速転移しているプレイヤーも見かけチリンと耳に澄む音が鳴り響くと光の球体となって消えていった。
自分もそのプレイヤー同様、視界に映る転移開始のボタンを押し実行する。チリンとやけに脳内に響く音と共に一瞬視界が切断され。まばたきをしてみればリリル村の広場とはまた違った場所へ転移していた。
ざわざわと騒ぎが最初に脳内で反応し、徐々に周りを確認してみれば皆町民のデフォルト服に胸当てやひざ当てなどの簡易な防具を身にまとった。所謂初期装備のままだった。
自分の手を確認してみれば今は懐かしい茶色い革の手袋に簡易的な留め具が施されたひじ当て、靴も革靴のような戦闘向きなものではなく武器すらも百均に売ってるようなおもちゃの剣のような安っぽさが出る大太刀が背中に背負われていた。
なぜ大太刀?と思ったが、振り返ってみれば師匠のマニュアル修行で道着を装備せず10ダメージしかでない木刀を装備してたなと思いだした。
そんな考えをしてみればざわざわとしていた空気は次第に大きくなり地震のウィンドウを表示して状況を確認しているようだった。
(アイテムは……何も無いか、しかしステータスは前みたいに高くなっている。アクセサリーが消えたからか?)
ステータスを見てみればレベルは1のままだが、HPの数値が5万を越しており、スキルツリーや職業ツリーも確認してみれば幻想世界で獲得したものは全部解放されていた。
(ステータスやスキルは問題ない、アイテムだけが没収されたってことか?幻想世界にはこんなの無かったし殆ど別イベントみたいだ)
手を顎に当てて思案する。装備がロストしたと仮定してもステータスやスキルが初期化されるのに比べたら微々たるものだ。といいつつもイベントアイテムを使用してこれなのだから真っ先に思い浮かぶのはイベントエリアではFW内で得た装備品やアイテムの持ち込みが不可という事だ。
「皆さまお集まり頂いたでしょうか?」
喧噪騒めく広場の奥で一人の男性の声が聞こえた。
その言葉の主は文官らしい装いで、三角目の少し相手を畏縮させるよな厳しい目にそれを助長させるクマ、猫背と右手に抱える一冊の本
「えーこれより、ファンタジーワールドイベント、《黒龍伝説》の概要を説明させていただきます」
彼の頭上を見てみれば白いネームで表示されていた。赤や緑、青と違った新しい表示の先には運営と表示されており、それは彼がFWの運営サイドの人間という事を現した。
「黒龍伝説のイベントでは、エリア内においてFWのプレイによって得た武器防具やアイテム等の持ち込みは出来ません、またエリア内で獲得したアイテムもイベント終了まで持ち帰ることも出来ませんので先にご確認をお願いします」
「そしてイベントの内容ですが、今回の黒龍伝説のイベントでは運営によって選ばれたプレイヤー100人1組になってのチーム戦になります。無論個人ランキングやクラン単位での報酬は別途ご用意しております」
「そしてイベントではモンスターを討伐することによって個人、クラン、チームにポイントが加算されその他に皆さまに作っていただく拠点の発展度合いやイベントクエスト達成によって更に追加される場合がございます」
詳しくはこれから配布する資料に、と男性は締めくくると手元にA4サイズの紙の束が現れた。それを軽く流し読みして確認してみるとこう書いてあった。
黒龍イベントについて
黒龍イベントでは今後追加される予定のモンスターやアイテムが先行追加されます。獲得経験値も多少増加され、レベルやスキル上げにも最適な環境となっております。
イベントでは個人、クラン、チームの三つのランキングに分かれそれぞれ上位入賞されると様々な希少アイテムが付与されます。
ランキングを上げるイベントポイントは主にモンスター討伐によって加算され、討伐するモンスターの脅威度によって加算されるポイントが違います。またファンタジーワールドを始めたばかりのプレイヤー様向けにもクエストや後述する拠点発展による貢献によってもポイントが加算されます。
拠点、100人一組で行われる今回のイベントでは6つの広大なエリアを捜索するためにその中心部である広場に拠点を築くことになります。モンスターや環境素材を一定量集めると設備がグレードアップし、様々な恩恵が得られるようになります。またクエスト、エリアやボスの情報も追加されるので拠点発展はエリア等はと同等レベルで重要な要素です。
と書いてあり、その後はイベントエリアへアイテムが持ち込めなかったりと先ほど運営の男性が言ったような説明が書かれていた。
「それでは皆様のご健闘を心よりお祈り申し上げます」
そう言い残し、転移の鐘を鳴らし男性は消えていった。互いに知らない者同士なのだろう、ざわざわとするだけで協力するわけでもなく行動するわけでもなくただプレイヤーがそこで立ち止まっていた。
「おーい、とりあえずこっちを見てくれ~」
先程運営の男性が居た方向から声が聞こえる。その場所を見てみればひとりの男性が手を上げ呼び掛けていた。
「とりあえず状況が掴めたってことはいいだろう、イベントの良し悪しは後で語るとして、先に状況を整理しよう」
男性はこの状況になれているのだろう、100人のプレイヤーが居る広場の前で演説を始める。低い声から繰り出される言葉は混乱している周りを自然と落ち着かせるような頼もしさがあった。
「俺はシュタイナー、現在第五の街バルバトに拠点を構えるFlashの副クラン長を務める。この手のゲームだから熟練者や初心者がバランスよく組まれているだろう、その中で嫌味になるだろうが俺はバルバトに到達したトップを走るプレイヤーだと自負している。そして俺はこのイベントで上位を目指したい」
男性の告白に先ほどとは違ったざわめきが起きる。シュタイナーはコホンと言葉を区切ると更に述べる。
「勿論みんなリアルの生活があるだろうから強制は出来ないが、出来る範囲で協力してほしい、そして他に候補が無ければ俺が暫定的にこのチームのリーダーを務めたいがいいか?」
シュタイナーはそう皆に投げかけるとざわめきが起きるが周りからは特に反対意見は出ない、それもそうだろうFlashと言えば今やFWで最も先を行くクランだ。そしてその副クラン長となるとそれは有名で知られているようで、自分の周りでもあれは確かにシュタイナーだ。まじかよと感嘆が零れるように呟くプレイヤーが居た。
「よし、とりあえず状況整理だ。まず俺の右手からリーフの街に拠点を構えるプレイヤー、そしてその拠点の生産系プレイヤーと列を作ってくれ、その左にフレックス、リア、キルザと並んでくれ」
パンとシュタイナーが手を叩くと同時にプレイヤーが動く、自分もその流れに合わせてフレックスの一般プレイヤーとして並んだ。
「ふむ、流石に王都以上となると人が少ないな」
列を見てシュタイナーはそういった。自分も周囲を見てみるとリーフが最も列が長く、時点でフレックス、王都となるともう全体の2割程度しかおらず。キルザに至っては二人、バルバトの列は無く今前に立つシュタイナーだけだろう
「こうやって分けられるのは嫌だろうがまずはリーフ、フレックスのプレイヤーはこの広場周辺、近場のモンスター討伐や資材集めをして欲しい、王都……リア以上のプレイヤーは俺の所に集合して今後のスケジュールを確認する。生産プレイヤーはキルザや王都のプレイヤー中心でこの拠点の発展を指揮してほしい」
では解散!と同時に全員散り散りとなる。全員他人同士のようで、親しそうに話すプレイヤーは居ない、皆拠点の外へと足を向ける中
「そこの女性待った!」
シュタイナーの声が響いた。何事かとそのシュタイナーが指したであろう女性プレイヤーを見てみれば先週見たあの姫騎士がシュタイナーの方を向き首を傾げていた。
「私?」
まさか呼ばれとは思っていなかっただろうと予想外そうな感じでシュタイナーに問いかけた。その一部始終をみていた周りのプレイヤー皆いや、あんたしかいないだろう、と心を一致させたのは難しくない
「あんたはまさか姫騎士、いや、こんな言い方は良くないんだろうがまさか俺以外に有名なやつが居るとは」
シュタイナー自身驚いたのであろう、その驚きは先程の演説でも余裕を持った顔を驚愕という言葉で表せる驚きに染まっていた。
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