第27話 イベント告知
姫騎士とすれ違うようにギルド会館へ入ってみれば、先ほど外からも聞こえた笑い声などは静まり周りはどよめいた空気が漂っていた。
「今出てったの姫騎士だよな、初めて間近で見たけどマジ可愛い」
「Flashとか有名クランの誘い断ってずっとソロでやってるんだろ?まさかこんな村で見れるとはな」
ギルド会館のドアを開けて開いている席を探し座る。すると聞こえてくるのはヒソヒソ静かに、それでも興奮の感情が抑えきれない上ずったような言葉の会話だった。
(やはり誰が見ても似たような反応になるよな……)
FWでは半ば常識となっているプレイヤーエディット機能、FWを初めてプレイする際にVRキットの機能を使った自分の顔の造形をスキャンしその出力されたデータを選ぶか、自分で一から顔の形から目や唇、といったものをクリエイトするかの二種類が存在する。
FWでもクリエイト機能は多彩で様々な造形が可能だがやはりスキャンして出力されたデータに比べたら明らかに不自然さが残る。どちらかを選ぶかは個人の自由だがFWの世界において大半がスキャン方式で登録しているためエディットで編集されたキャラクターは嫌な意味で目立つ
それでも現実世界ではありえないような猫目や犬耳といったスキャンした顔から編集するハイブリット方式もあったり、髪型や髪色自体は変えても違和感が無いのでちょっとした改造が今の流行りだ。実際自分も髪型を少し変えたり色も暗めの茶髪にとささやかな変更をしていたりする。
そんな中で姫騎士というのは今酒場の空気のように、彼女を見れば全員が振り返るような美貌を持っている。姿だけでいったら年齢は大学生の自分より少し下ぐらいだろう、腰まで届く白に近い輝く銀髪にしみ一つない肌
華奢な体つきも相まって姿だけを見たら儚い少女といったイメージだが、その意思を強く感じる蒼い瞳、しかも背中に担がれている大剣、某有名RPGを彷彿とさせるバスターソードを手にコロシアムで圧倒的な実力を誇るプレイヤーだ。色は変更してあるだろうがエディットでは再現できないぐらい自然で、現実世界では中々お目にかかれない容姿に実力、これは人気が出るわけである。
(まぁこんな広いFWの世界で見られただけラッキーって事かな)
FWでは1~10までサーバーがあり、それぞれ各サーバーで最大3万人という単位で収容できる。現在日本で発売されているVRキットは約5万台、近日中に第二弾が発売されるようで約10万台以上が売り出される予定だが、VR先進国である中国や韓国でもFW運営が今年中にリリースを予定しており、引継ぎも出来るという事から1~6鯖が日本、7鯖が韓国、8~10が中国と別に運営が決めたわけじゃないがプレイヤー間でそう住みわけがされているようだ。
他にも1~6個もある日本向けサーバーでも各鯖ごとに大手ギルドが分かれるように存在し、特色があるという……
サーバー自体はログインするときに行き来できるが、基本同じサーバーじゃないと出会う事が出来ない、フレンドであればUIにそのフレンドが今どこのサーバーに接続しているかが分かるので合わせる必要があるのだ。
そういう訳で同じサーバーかつ、数万と居るプレイヤーからこの広大な第一大陸の小さな村で偶然FW内でも10指に入る有名人とあったというのはとてつもない幸運という事だ。コロシアム?あれは意図的に運営が合わせたので別である。
彼女のファンと言う訳ではないが、現実世界でも有名人を見かけたら記憶に残る。それらはギルド会館にいるプレイヤー達も同じだろう
(こんな気持ちはクリスタルマッシュを初めて見つけた時みたいだな)
幻想世界でマップ上、数キロ四方の森林に10個しか存在しないキノコをやっとの思いで見つけた時と似たような気持ちになった。と思いつつ例えが悪いなと思いながら張り出されているクエストの紙を見るのだった。
リリル村はとても新鮮な体験が出来る場所だと言ってよかった。
アップデートによって新規追加されたリリル村はその周辺も含めてマップが改変されており、幻想世界には無かったクエストから洞窟と言った新要素が多分に含まれていた。流石にモンスターやアイテムが追加されたわけではないものの、元々幻想世界でも膨大にあったサブクエストを攻略したりするコンプ癖というものが自分にはあったので思わず熱中してしまい、気が付けば週の初めに来た村は気が付けば金曜日もクエスト埋めをしていた。
「これでコンプリートっと」
平日ではあるものの毎日少なくない時間を村のクエストを中心に攻略していき空白になっていたサブクエストの最後の空欄が埋まる。その最後のサブクエストを埋めると何とも言えない達成感が心の中に生まれる。報酬としては街にあるクエストに比べたら幾分しょっぱいものだが、攻略することに意味があるのだと思う
(武器の制作依頼かぁ、やっぱ来るよね)
前に好奇心で出品した三つの武器は無事、というには大分大騒ぎを起こしつつ落札された。
魔剣が1億5000万ゴールド、大剣が7000万、杖が5500万まで伸び魔剣は中国の大手クランが、大剣は黄昏猟団の系列が、杖はflashという日本のトップクランが競り落としたようだ。
「第一大陸ではありえない金額だよ……」
自分も所持金には自信があるが、それは幻想世界において数年単位しかも何十倍という膨大なブーストのおかげでもある。FWのように第一大陸で稼ごうと思ったら一般プレイヤーなら数万ゴールドでもきついはずだ。廃人と人海戦術とは恐ろしいものである。
そして落札されたが、匿名であっても出品者に対してメールが送ることが出来る。それぞれ落札した人たちが丁寧に長文でメールが届き開いてみるとまぁ全員がギルド勧誘と個人間のフレンド申請の要望、武器の要望といったものだ。
その一通はかの有名なトップクランのクラン長、ライネから来てたり中国のクランでは外国の人が書いたとは思えないしっかりとした文章で丁寧に勧誘だったりその制作方法について聞きたいなど書かれていた。
流石に火種になった原因もあったのでオークションの推移を観察していたのだが、ほんの前日までは魔剣は1億前後、大剣や杖も最終落札価格の半分ぐらいだった。なぜ急に金額が吊り上がったのかというと
20xx-7-23 18:00
【ファンタジーワールド 大型イベント開始予告】
8月1日、正午に終了予定となるメンテナンス作業終了後よりファンタジーワールド初の大型イベント《黒龍伝説》を開催する予定です。
《黒龍伝説》とは?
黒龍伝説とはファンタジーワールド内で各語り継がれる伝説の黒龍を追っていく大型イベントになります。今回はその黒龍伝説の始まりの地へ皆さまをお連れ致します。今回のイベントでは特別に用意されたマップに今後追加予定のモンスターやアイテムが多数用意されており、中には強力な武具も存在します!
特別なマップではリーフ周辺のレベルから、大陸最終地のバルバトと同レベルの幅広い難易度のエリアが存在し、ファンタジーワールドを始めたばかりのプレイヤー様から熟練のプレイヤー様まで幅広く楽しめるコンテンツとなっています。一部レアモンスターには特別な力が付与されたアイテムが低確率でドロップしたり危険なエリア程性能が良いアイテムが出現します。これらのアイテムはイベント終了後も保持され使用することが出来ます。
と後は軽微のバグ修正や、スキルの調整などが書いてあった。
「黒龍伝説かー」
そこも幻想世界となぞってくるかと思った。黒龍伝説は幻想世界でも実際に行われたイベントで第一大陸から第五大陸を又にかけた大型イベントだ。
その大陸ごとに一章、二章とイベントが実施されその各大陸に普段は行けない隠された場所が黒龍イベントの実施場所となる用だ。
黒龍伝説で初のドラゴン系モンスターが追加され、ドラゴンと名に相応しい強靭な体に鋭い爪と言った高い戦闘能力を持つ、第一章では地中に潜るミミズのようなワームや大蛇と言ったドラゴンとは呼べないような亜竜種が多数出てくるが、エリアの一番奥に存在する各ボスはちゃんとした強大なドラゴンが出現する。
そして各章進んでいく事に強力なドラゴンが出現し、最終章である第五章では黒龍伝説の元である《黒い龍》がボスとして現れる。第五大陸レベルとはいえその素材で作られた装備品は第七大陸でも通用するほどの超高性能で、近接職から魔法職まで幅広い職業に対応している。自分も黒龍装備はお気に入りの一つとして保管している。
そんな黒龍伝説のイベントだが、イベントということもあってランキングが存在する。これはFWが幻想世界の時と全く同じなら、今後のイベントにも個人ランキング、クランランキング、ボス討伐と三つがあってランキングであれば上位の物には強力なアイテムや装備品が贈呈される。ボス討伐は、全体と個人間で違いがあるものの、各章のラスボスを討伐すると特別な称号が貰える。
これらはオンラインゲームでは結構あるようで、告知の文面にもランキングで上位入賞を目指し、豪華報酬をゲットしよう!と書かれていたことから間違いは無いだろう
そんなこともありオークションに出品された武器はとんでもない値の上げ方をしたのだ。
(下手に作っても返信しても騒ぎになりそうだしなー)
所詮オートで作っているので別に作る分には問題ない、リリル村のクエストも終わり、黒龍イベントまで暇である。もしかしたら堀先輩から誘われたりするかもしれないが今の所特別用事は無いのが現実だ。
だからと言って作ったら泥沼にはまりそうである。制作方法を教えるにしても鍛冶王のハンマーでズルしているだけなので無理な話だ。俺はこの返信を無視という形で閉める。更に余計な波を立てなくてもいいだろうし、定期的に出品すればそういう人物だと勝手に解釈してくれるかもしれない
先日あった姫騎士だが、それ以降村で会うことは無かった。流石に移動したのだろうか?また会えるかと淡い期待を持っていたりしたがまぁ期間なんて普通は無いだろう
と、自分はその時思っていた。
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