第26話 再び村へ
次の日も、昨日と同じようにモンスターと戦った。ゴブリンやコボルトを含め、角の生えたウサギから人の頭ほどの大きさの蝙蝠など、種類は増えつつも危なげなく倒していく
クラン勧誘の件は気が向いたらという形で落ち着いた。それでも丁寧に教えてくれる堀先輩やニアさんに恐縮しつつもその後も、野良でパーティーを組んだらしい田中先輩たち二人はその稼いだお金で買ったであろう2つ上のグレードの武器を構えて楽しそうに戦っている。
堀先輩たちは今日終わったらフレックスの街に行くそうだ。そこで目につくプレイヤーを勧誘してキルザの街へ戻るらしい、田中先輩と霧島先輩はまだこのリーフの街で待機して新たにFWを始める同じクランの人を待ちながら装備を更新していくようだ。
そんな中、自分は先日騒動で行けなかった追加された村の方へ向かうことにした。途中までは堀先輩やニアさんと共にしつつ分かれる形となる。
その日も順調に狩りを続けた。田中先輩や霧島先輩のレベルも幾つかあがりスキルも複数習得した。王都まで行けば転職が出来るので、今より上位の職を目指して頑張っていた。
自分はレベル1のままだった。正しくは転生99回で止まっていた種族レベルがFWにより更新され、転生100回目のLv1だ。能力もそれ相応に落ちる物の、転生100となれば1回目のLv100に迫る分必要経験値量もけた違いに上がった。
FWがパーティー情報をHPとMPやバフ、異常状態だけの表示で助かった。プレイヤー情報も非公開設定に出来るしで運営様々だ。
そして自分は何故、ここまで一生懸命秘匿しようとしているんだろうと思った。
長年やり続けた幻想世界の努力の結晶を捨てるのも惜しい、しかしFWという世界を1から楽しみたいという気持ちもある。誰も持っていない高性能な武具や鍛え抜かれたステータスなど優越感も無いといえば嘘になるだろう
だからといってそれを公に晒せば争いの種となるのは誰だって分かる。折角運営が態々1プレイヤーの自分に気を利かせてくれた気持ちも嬉しいし感謝もしている。
(こうやって幻想世界を残してくれた運営の為にも気をつけないとな)
一昨日騒ぎを起こした奴が何を言うと自分を自分でツッコミたくなるが、まぁバレてないから良しと調子の良い事を思いつつ苦笑いを浮かべる。
次の日は平日月曜日だったので夕飯を食べた後の少し遅い時間からのログインだった。それは堀先輩やニアさんも変わらないようで多少前後しつつも大体同じ時間帯にログインとなった。
辺りは暗く街の外を出ればそこは漆黒の闇が広がる。現実世界のように道に街灯のような明かりなんぞなく、遠くに火の球のようにゆらゆらと揺らめく光があるが、たぶんそれはこの夜間移動しているプレイヤー達なのだろう
「王都辺りからだと夜間移動してたけどここら辺じゃ初めてだね、来るときは昼間だったし」
堀先輩もニアさんも手慣れた様子でアイテムボックスから松明を取り出し火を灯す。
「ん?ペガサス松明持ってないのか、松明は消耗品だからストックあるし少しやるよ」
感心している自分に対して堀先輩は自分が松明を灯さないことに持ってないと解釈したようで渡してくれる。
(松明か、あっちでは魔法で灯りをつけてたからすっかり存在を忘れてた)
堀先輩に一言ありがとうございます。と返し自分も松明に火を灯す。ジッポライターのようにボッと勢いよく燈り灯油のような独特な鼻に突く臭いが漂う
幻想世界でも辺りが暗くなると野外では周りが全く見えなくなる。しかし夜間に活動するモンスター達は夜目がきく為、非常に危険だ。
幻想世界を始めた当初、それを知らず帰りに夜になりひどい目にあったことがある。なんとかクエストは達成した物の帰りの道中に夜になって松明も無く、そのまま死んで結果クエスト失敗、なんていうのも一つの思い出だ。
その為に街には松明が売られている。一つ100ゴールド、一個使えば灯りは照らされ視界が良くなる。それでも昼間に比べたら照らされる場所には限りがあるので、とても危ない、慣れない頃は崖から落ちたり少し距離の離れたところに居る強大なモンスターの接近を許してしまったりなど散々だ。
一個につき大体1時間程度と心もとなく序盤となれば100Gの消費アイテムは結構な出費だ。アンコモンの体力ポーションより高い始末である。
その為幻想世界ではなるべく夜間は出歩かないのが鉄則だった。それはサービスが終了するまでも変わらない、イベントなどで強制的に夜間戦闘が必須な場面もあったがやらなくていいなら避けるべきだろう
それはFWでも同じなようで、堀先輩曰く王都のプレイヤー達はそうでもないが、リーフでまだ活動してた頃はやはり夜間で戦闘するプレイヤーはごく少数だったようだ。それでも堀先輩たちの上位層になると昼間とは違ったモンスターやアイテム、クエストなどあるため精力的にやっていたそうだ。
それでもやはり夜の時間になると外で活動するプレイヤーは少ない、それが今歩いている道中でも如実に表れていて人は昼間に比べたら圧倒的に少なかった。
「夜間だと松明があっても視界が限られる。しかもソロだと猶更だから気をつけろよ」
フレックスと村が分かれる道、堀先輩とニアさんと別れる時に先輩はそう言ってくれた。その言葉に頷くと先輩は気をつけろよ~と先ほどの真剣そうな言葉とは裏腹に気が抜けたように別れの挨拶をしながら手を振って歩いて行った。
主要な道から外れたため、今歩いているプレイヤーは自分だけとなった。辺りは風やそれに揺らめく草木の音、暗闇を微かに照らす月光に人工物が何もない自然の中、話す相手もいないので黙々と歩く
(こうやって観察してみるとすごい世界だな)
幻想世界は何かと批評を浴びたが、それでもグラフィックは良いと皆が口をそろえて言う、それはFWでも引き継がれたようで今自分の視界に映る景色は現代では中々見ることのできない光景だった。
実際、このFWの自然豊かな絶景やモンスターや街の作りこみはFWの売りの一つでFWで、現実世界ではない絶景を撮るために態々プレイをしている人も居るぐらいだ。
SNSでもフレックスやリーフの建物群、王都の城、キルザとバルバト間に聳える山脈などの風景写真だったり、魔物に注目したりどれだけ魔法を奇麗に撮れるかなど、FW界隈ではその手の界隈が中に存在するらしく自分も何度か見たことがある。
動画で『崖から落ちてみた』と現実世界では出来ないような落下するシーンをゲーム内キャプチャで撮ったり、街で生活する猫や可愛いモンスターの写真を撮っている人も居るようだ。
そんな訳でFWの世界はどこを取っても絵になる。
FWを違った点で楽しみながら歩けば先日来た新たに追加された村が見えてきた。視界に映るミニマップでは【リリル】と表示がされておりそれが村の名前なのだろう
近づいて村の出入り口を見てみれば、出入り口に篝火が建てられ、何人かの人間が居るようだった。村の警備する人とプレイヤーがやり取りをしていたようで問題か?と見てみれば単にクエスト関係の話のようだった。
どうやら村のクエストが発生したようで、村の住人に聞きまわっているようだった。そんな様子を見ていた自分に気が付いたようでそのプレイヤーは近寄ってきた。
「こんばんは、いきなりですまないんだけどリリルに来るまでに白い狼を見なかったかい?」
「白い狼か……いや、見てないですね」
突然質問され戸惑うが、白い狼と今までの道中思いだすがそのようなモンスターは見覚えが無かったのでそう返した。
男はそうか、と思案顔で少し考えるといきなり質問してすまなかったねと軽く謝り村の中へ戻っていった。
リリル村の出入り口で警備している人と数度やり取りをした後、多少の金銭を渡し、滞在許可書を貰う、ずっと持っててもいいが、長く訪れる予定が無ければ返還してもらえれば渡した分の金銭が帰ってくるようだ。
許可書をアイテムボックスにしまいつつ村を歩く、村と言ってもこの夜間でも多くの人が辺りを歩いていた。いくつかの建物には明かりが見え笑い声が聞こえるなど夜だからと言って全員が寝てるわけじゃないようだ。
それでもリーフやフレックスに比べたら幾分寂れた様子が伺える。道具屋などは流石に閉まっているようで、24時間営業の街の道具屋とは違うようだ。ここは注意が必要だろう
今開いている施設は村のギルド支部、それに併設される酒場ぐらいか、村の奥にも数件明かりがみえるぐらいで全体的に薄暗い
アップデート直後は黄昏猟団が半ば占領じみていたようだが今では彼らのマークである黄色の装備を付けたプレイヤーなどは居らず帰ったようだ。リーフと違い村で活動するプレイヤーはフレックスと同じぐらいの装備を身に着けたプレイヤーが多く、しかも少人数で動いているようだった。
現実世界でも日付を跨ぐ時間帯というのもあるだろうが村を基盤にしているプレイヤーはソロでやっている人が多いようだ。村を探索してた中でも3人以上で固まって動いているプレイヤーは見かけなかった。街は24時間騒がしいし、MMOとはいえ一人で黙々とやりたいプレイヤーは人気の少ない村を拠点として構えているようだった。
「ん?」
そう考えながら村を歩いていると、丁度ギルドの建物から自分の前を横切るように一人の女性が出てきた。
フサァと絹のように白近い銀髪が月夜に照らされ輝く、それと同時にまるで金縛りにあったかのように衝撃を受けるその女性の横顔
(姫騎士だ……)
前に運営の計らいによってコロシアムで試合をした相手、その可憐な姿とコロシアムにおいて2歩も3歩も先を行く実力者、流石にプレイヤー名は隠しているようで名前はわからなかったがその噂されるほどの美貌は見間違えるはずもない
それでも名前も装備も違う自分にその姫騎士が気が付くわけもなく、コロシアムとはまた違う装備を身にまとった彼女は夜の暗闇に消えていった。
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