第25話 近接五人組
場所はリーラを出て少し歩いた所、前に道着を着て大量のモンスターを引き連れその場にいた女性プレイヤーに危うくMPKを仕掛けた辺りだ。
自分と田中先輩、霧島先輩は横一列に並びその相対するように堀先輩とニアさんが前に立つ
「もしかしたらと思ったが、この編成はよろしくない!」
そう堀先輩が切り出すと、アハハと隣のニアさんは苦笑の笑みを浮かべ田中先輩や霧島先輩もなんとなく察し、自分もその理由について確信していた。
「片手剣二人、大剣一人、双剣一人、槍一人……見事に前衛職だけで集まったもんだ」
前衛職ってあんまり人気ないんだけどな……と堀先輩はそうつぶやきつつ頭の後ろをかく
FW及び幻想世界においてパーティーの上限は無い、その為人が多ければ多いほど有利なのだが、大人数である程連携は難しく、ドロップアイテムや経験値などの分け前も減る。更に補給も少人数パーティー以上に気をつけなければならない
その為FWの世界では基本的に4~7人でパーティーが構成されるようだ。その人数も難易度によって変化し、特にFW内で有名なキルザからバルバトへ行く際に聳え立つ山脈のエリアでは20人以上のクラン単位動いたりもするようだ。
そんなパーティー事情だが、幻想世界も含め堀先輩曰く鉄板と呼ばれる構成があるんだとか
モンスターを引きつけ味方プレイヤーを守る壁役、パーティー内のバフや回復を担当するヒーラー、これらはどんな構成であっても入れないと難易度が変わると言われる役職で、どんなパーティーでもこの二つは必ず入っている。
それから物理攻撃担当の大剣や壁役のサポートに回る小盾を持った機動性の高い片手剣、遠距離から狙撃や異常状態、更にはダンジョンのトラップを回避したりする斥候役などもいる。
魔法で言えば、遠距離から大火力を放ったり、パーティーの生命線であるヒーラーの補助に回ったりと補っていく形だ。
ニアさんは壁役、堀先輩、田中先輩、霧島先輩は物理近接攻撃役、自分は小盾の片手剣なので分類で言えば物理近接補助役といった形だ。
明らかに攻撃型、こういう構成はまずアイテム消費は馬鹿にならないし長時間戦闘が出来ないなど絶対に組まないようにと堀先輩は念入りに言った。
「つってもオンラインゲームなんて自分のやりたいことをやるから補うようにプレイヤーを募集すればいい、FWでは魔法使い多いから需要はある」
魔法という憧れかFWでは魔法職のプレイヤーが多いそうだ。勿論高難易度になってくると魔法だけのパーティーでは攻略できないからトップ勢はちゃんと均等に分けられているようだが、それでも近接職特にニアさんのような壁役のプレイヤーは貴重なんだとか
「実際初めてFWで近接やった時目の前のモンスターとか怖いしな、ここら辺だとプレイヤー自体が多いからそうでもないけど、王都辺り行くとよほど上手くなきゃ魔法職は難しい、そういう点では需要のある近接職は良い判断かもしれないな」
目の前に対峙するモンスター、やはりその迫力は誰もが体験することだったようだ。画面の外から見ていた幻想世界などと違い、FWでは実際に相対することになる。画面上では可愛らしいウサギのような姿をしていても、FWの世界だったら腰の高さまである巨大ウサギだ。可愛らしいとは言え実際に現実世界に居たら思わず後ずさりしてしまう
まだウサギならいいが昨日戦ったような青カエルなども脅威だろう、昨日一緒にやったハルトさんたちはリーフの街でそれなりにやって慣れたのであろうが、初めてやるであろうリーフ周辺のプレイヤーはその巨大さから尻込みしてしまうプレイヤーも多いそうだ。
(自分の場合は見慣れたモンスターばっかりだったからかもだけど)
そんな環境を考えれば、こうやってFWのトップを走る堀先輩やニアさんにこうやって教えて貰えることはかなりのアドバンテージだと言える。ちらりと横目で見てもその考えは間違っていないようで、田中先輩や霧島先輩は真剣な目で堀先輩を見ていた。
「それじゃ俺とニアが敵を連れてきて一回戦い方を見せる」
そうやって堀先輩とニアさんは近くの森へ入る。数分と経たないうちに近くにいたゴブリンを引っ張ってきたようだ。
ガラァ!
人では出せない異様な雄たけびとともに、ゴブリンは地を駆けニアさんに飛びつく、木の棒に石を蔓で巻き付けただけの簡易な斧はカンと軽い音を立てニアさんの漆黒の大盾に阻まれる。殴った時に痺れたのかゴブリンは思わず武器を落とし手を摩る。そんな隙だらけのゴブリンを見てニアさんの後ろに構えていた堀先輩が姿勢を低くしニアさんを抜けるようにゴブリンへ駆ける。
「《双撃》!」
堀先輩が両手に構えた二対の小刀の刀身が白く輝く、地を駆け小刀の輝きが線となってゴブリンの頭に注がれる。自分の手を見ていたゴブリンは何が起きたかわからないのだろう、2つの白線がゴブリンの首で交差する。鋏のように斬られたゴブリンの頭はふっとび天高く上がる。放物線を描きながら草原の柔らかな土にボトリと落ちるとこちらを凝視するような目で絶命していた。
ゴブリンの首からは間欠泉のように激しく白い粒子が溢れゴブリンの体から亀裂が入りポリゴン状になって弾けた。
「おぉ~」
居旬の出来事を見ていた自分を含め田中先輩たち三人組は軽く拍手をあげる。ニアさんの頑強さもすごいが、双撃を使った堀先輩の動きに淀みは無く、かといって決められたモーションのように直線状でなく流麗な動作で繰り出された剣技はマニュアル特有の動きなのだろう
拍手を受ける堀先輩は少し恥ずかしそうに頭をかきながら戻ってくる。
「ま、まぁこんな感じだ。俺のは完全マニュアルだけど最初は難しいからオートでも全然いい、身体の動かし方は体験できるし」
堀先輩がそういうとニアさんが次のゴブリンを連れてきた。それに対してやってみろと堀先輩が言うと田中先輩と霧島先輩はゴブリンに向けて駆けた。
「うぉら!」
田中先輩が振るう大剣は現実世界では通常持つことさえままならない重量だ。それでもその大きな剣を大きく振りかぶり力任せに振りかぶる。
しかし、その一撃はまっすぐ振り下ろすことは敵わず。ゴブリンの右肩を裂くようにずれた。それでもこの一撃で絶叫を上げるゴブリンを横目に霧島先輩が斬られた右肩を抑えているゴブリンの胸元に鋭い一撃を繰り出した。
その一閃は布が巻かれただけのゴブリンの素肌を易々と貫き、その矛は背中を突き破る。ズルっと抜き取ればゴブリンは糸が切れた人形のように倒れた。
「お、やるじゃん」
横で見ていたニアさんがそういうともう一匹は自分の方向へと向かってきた。
《シールドバッシュ》!
左手に構える盾を前面に出しタックルをする要領で脇を絞め肩を前に出す。スキルを発動すると円状の小盾が白く光りゴブリンに向けて駆ける。
ドゴッといった鈍い打撃音相応にゴブリンは大きく吹き飛び態勢を崩す。このシールドバッシュは攻撃性能こそない物の早いチャージと自分の背丈ほどまでの大きさのモンスターなら態勢を崩すことが出来る優秀なスキルだ。
ザンッ!
尻もちをついた形のゴブリンの頭をかち割る用に剣を振る。こちらを見上げるゴブリンにまっすぐと剣が沈み一瞬でポリゴンとなって弾けた。
「ペガサスは装備からして初心者でないにしても、三人ともよくやるな」
ほーっと目を見開きながら今の光景を見ていた堀先輩が言う、ニアさんも同様で驚いている様子だった。
その後も何度もゴブリンをはじめコボルトなどを狩り続ける。途中でチェインを起こし複数体出来た時は堀先輩とニアさんが一瞬で刈り取る。自分は先程のバッシュで崩して致命傷を負わせる戦法で狩り続け、田中先輩堀先輩は新たに習得した剣技を試しながらモンスターを狩っていった。
「うーむ、ここまで出来るとは」
結構な時間が経った。現実世界と連動するFWの世界では陽が傾き赤く染まる。数度の戦闘で怪我を負い初期装備のポーションも数が乏しくなり、場は終わりのような雰囲気になった。
「夜は視界も悪いし出てくるモンスターも違う、出来ないことは無いがポーションも無くなってきたし街へ戻ろうか」
パンパンと堀先輩が手を叩くと全員が集合する。霧島先輩はまだやり足り無さそうで終わった後も一人でやるのかもしれない
「そうだな、お金も貯まったし装備新調できるかもしんねぇ」
田中先輩がそういうが実際その通り、同じぐらいモンスターを狩った自分の所持金を見ても2000ゴールドぐらい増えている。リーフの街だったら武器の新調が出来るだろうし、防具に関しても一式とは言えないまでも数か所の防具は買えるかもしれない
「それでなんだが……お前ら三人ウチにこないか?」
終わりの雰囲気を漂わせていた中で堀先輩がそういった。そのことは同じクランメンバーであるニア先輩も事前に知っていたようで細くする。
「今回うちのクラン……タイタンズって言うんだけど、アイテム補充も理由の一つなんだけど、新規団員を増やすため新人勧誘も含めてこの街に来たんだよね、別のゲームで一緒だったクラメンも来週には出来るようだからもし一緒に……てこと」
他のクラメンとのレベル差があるため今すぐに最前線とはいかないが、別のゲームで所属していたメンバーも近日FWを始めるなど色々と都合がいいようだ。無理にとは言わないがと堀先輩とニアさんはそう説明してくれた。
田中先輩や霧島先輩は特に約束もなかったようで快諾した。しかし悩む自分をみて不思議そうにしてた。
「ペガサスもソロならいいんじゃないか?」
それでもいろんな秘密がある自分にとってこの誘いは非常に嬉しいが色々と厄介事を巻き込みそうで悩む、そんな姿を見て堀先輩は助け船を出してくれた。
「まぁすぐにとは言わないし、気が向いたらいつでもいいぞ」
これから夏休みの大学生は強力なメンバーなんだけどなーーーと冗談交えて場を閉めた。
軽く笑いが場で起き、少し雰囲気を悪くしてしまった感があった自分にとってその言葉はとてもありがたかった。
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