第24話 集合場所へ

 土曜の午前中、早めの昼食を取りVRキットを頭に装着しFWへログインする。ログアウトしたフレックスの南地区にある宿屋から早速出発し、南門付近にある馬車屋の待合室に入る。


 現実世界と同じように待合室には時刻表が張り出され、受付がありちらほらとプレイヤーが居た。今いる場所はフレックスとリーフ間の定期便で大体10分に1回と中世をモチーフとするFWだが、ここら辺は利便性を考慮して多くの馬車が走るようだ。


 所有しているワイバーンを使って一気にリーフまで移動してもよいのだが人の目もあるし今後パーティーを組んだ際にも利用することもあるだろうとして今回利用してみる。


 ガラガラと土が固められた道を馬車の車輪が削るように回る。自分の想像していた以上より胴長の馬車には四頭の馬が馬車をけん引する。


 馬車の窓から見る道中では自分のようなフレックスからリーフ方向へ歩くプレイヤーより圧倒的にリーフからフレックスへと向かうプレイヤーが多い、全員2~3人で集まり喋りながら楽しそうに冒険をしている。中には馬車を物珍しそうに窓の外を見ている自分を見るプレイヤーもいた。


 リーフ到着予定は約1時間半、ゲームとしては結構長い時間だが仮想世界という特徴から現実世界と同じように移動にかかる時間は長い、ここら辺は幻想世界のほうが移動という観点では良いかもしれない、それでも馬車内だとモンスターには絶対襲われないという保護や盗みが行えないように特別なエリアと設定されている。視界の端に映るUIの情報ではアイテムすら取り出すこともできなかった。


 自分を含め馬車の中には4人のプレイヤーが居る。生憎堀先輩とその連れの人は居なかったが、予定では午後の早い段階にはリーフに着くと言っていたので、自分が先に田中先輩や霧島先輩と合流しそうだ。


 馬車の中では何やら一点を見つめているプレイヤーや完全にログアウトしているプレイヤーもいる。一点を見つめているプレイヤーは単純にゲーム内に実装されているインターネットブラウザを開いて動画や攻略サイトでも見ているのかもしれない、プライバシーという観点からフレンドだとしても本人から許可を貰わないとその人物のFW内のブラウザ共有閲覧は出来ないとの事だ。


 30分ほど外の景色を堪能していたが代り映えのない草原が広がり流石に飽きる。自分も他プレイヤーと同様にブラウザを開く、空中に広がるディスプレイを指で操作しながら、仮想現実独特の操作に戸惑いつつも普段使っているSNSや動画サイトを周っていく、その中に気になる記事が目に入った。


『改造?先日オークションにて出品された三点の武器まとめ』


 物凄く心当たりのある記事の内容を軽く読んでみると、自分が想定していた以上に反響があったようだ。


 自分がフレックスの工房で制作した魔剣、大剣、長杖の三つが出品されて数時間でその界隈で話題となり、幾つもの大手クランが獲得に名を挙げて争っているようだ。先日キルザの山脈を踏破し、バルバトへ到着したflashのクラン長であるライネ氏も自身の配信にてこの話題に触れたらしい


 現在では魔剣に5000万、大剣に2200万、杖に1400万もの値が付きそれまでに最も高額で落札されたアイテムの価格の数百倍というレベルに達し、出品されてからまだ二日だがFW内で最もホットな話題となっていた。


 それに関係するように、この三つの武器を作ったメイクというプレイヤーについての噂話やそれに呼応するように、トップの生産プレイヤー達がこの圧倒的な性能の秘密を全力を挙げて研究しているらしい


(思いの外大ごとになっているな……)


 驚きを苦笑に変えながら、手を額に当てる。


 ちょっとした好奇心でそれなりの話題にはなるだろうとは思っていた。謎の鍛冶師メイク……というロールプレイもやってみたかったし、その思惑は十分に達成されたのだろう


 その記事を指でスクロールして更に読んでいく、最近FW内で台頭しはじめている中国人プレイヤーなどは特にこの話題が過熱になっているようで実際にオークションに売り出されいてる魔剣と同程度の性能を持った剣を作れるなら1本30万円ほどで買い取ると声明を出していた。


 流石に嘘だろと思っていたがそのプレイヤーは実家が資本家で、そのプレイヤーが所属するクランも後ろに中国大手ゲームメーカーが付く超大規模クランでそれに類するクランが諸手を上げて交渉したいとメッセージを発信していた。


 一本30万円という冗談のような値段で思わず目がくらみそうになるが、そんなことをやればせっかくこの幻想世界から引継ぎをしてくれた会社に申し訳が立たない、現実のスポーツジムがFW内で店を構えていたりなどゲーム内アイテムと現実世界のお金関係は他のゲームに比べて寛容な部分があるようだ。


 その為FWにて攻略争いが激化しているのは新アイテム発見によるそれに付随する現実世界での収入が関係している部分も多々あって、FWという次世代の基盤となるVRという業界において圧倒的な人気を誇るこのゲームタイトルが巻き起こす社会現象は計り知れないものとなるというのが大勢の見方だ。


 今ですら日本内でVRキットの供給が間に合わない中でこれなのだ。今年年末にかけて、更に量産されたVRキットが売り出されればFWというゲームはどこまで行くかわからない、そんなゲームを投資家とみる昨今の経済状況という記事で書いてあった。


 はっきり言えばここまで大事になると予想できなかった自分が馬鹿というのが結論でここまで話題になれば出品取り消しも出来ない


(6000万ってなんだよ……)


 特に値段のついている魔剣を見てみると出品者ページから見ても現在6000万を突破していた。当然この魔剣にそんな価値はない


 アイテムはレアであってもこの第一大陸で入手できるものだ。大体この性能も幻想世界を基準で言うならば第二大陸序盤でも入手しようと思えば出来るレベルなのだ。


 これがMMOという性質の怖さかと思いつつも、心の中ではもうどうにでもなれ~と半ば諦めの境地に居た。


 フレックスでは何人もの雇われたプレイヤーがオークション会場を監視し、出品したプレイヤーと実際に出品されたアイテム一覧をみて謎のプレイヤーメイクを探そうとしている人も居るらしい、それを知った瞬間この件が落ち着くまではオークション会場には近づかず。このような好奇心を出さないようにしようと心に誓った。










 そんな出来事もありつつも馬車の進行方向の先にはリーフの街の外壁が見えてきた。その周辺にはフレックスと同様街の近くで戦闘をするプレイヤーが多く存在し、やはり一番最初の街の為か装備もそれ相応に新しい物のようだった。


「えーっと先輩たちは……」


 待ち合わせをしているのはリーフのギルド会館、フレックス同様併設されている酒場だ。


(田中先輩はミロード、霧島先輩はシンというプレイヤーネームというが)


 フレックスのギルド会館同様リーフも人混みにあふれている。酒場といいつつもそのテーブルは何十にも及び、ウェイターの数も数十人と及ぶ


 辺りを見渡して探してみると、そのミロードとシンとあるプレイヤーネームをした人たちが会話をしていた。


「あの……」


 伺うように談笑している二人の後ろから伺う、自分に気が付くと疑わし気な目線で自分を見渡すが、頭上、自分のプレイヤーネームを見た瞬間その疑っていた顔は驚きに変わった。


「お、新田か!ってもゲーム内ではプレイヤーネームが基本だな、うっすペガサス」


 そうやって自分も二人のついているテーブルの椅子に着席する。キャラメイクをすると明らかに不自然になるため多くの人は現実世界と似たような姿になる。それは先輩たちも同じようで、大学でよく見る姿をしていた。


「とりあえず自己紹介だな俺がミロード、大剣装備の剣士だ」

「同じく自己紹介、シンだ。俺は槍使いだな」


 二人は背中に構える己の得物を指し見せてくる。二人とも今日の朝に荷物が届いたようで色々設定をして丁度2時間前にログインしたらしい


「いやー、すげぇわVRの世界!俺もシンもこの街でずっと迷子になってたわ」


 うんうんと同意するように頷く霧島先輩、このギルド会館も見つけるのに相当苦労したようで、田舎大学ではまず無い人混みの多さも含めて休憩していたようだ。


「それにしてもペガサスの装備すげぇな、俺とかは初心者一式だけどお前は全部鉄か」


 そうやって感心するような目で自分の格好をまじまじと見る。


「僕は次の街まで行きましたから、フレックスっていう街なんですがそこで工房とかで武器防具を作ったり買ったりできましたね」

「次の街か、攻略サイトとか見ると結構移動にも時間かかるらしいし大変そうだな」


 うーむと手で顎をすりながら思案する田中先輩、同じように腕を組みながら考え込む霧島先輩、二人ともゲームはするがVRは勿論オンラインゲームは初めてのようでいろんな戸惑いがあるようだ。


「堀も女連れてくるらしいし、俺にはわからん世界があるのかもしれん」

「女連れって言っても、その方すごい上手い人らしいじゃないですか」


 田中先輩は何やら勘違いしつつも自分が返すと横で聞いていた霧島先輩が口を開く


「堀は高校から結構この手のゲームをやりこんでいたからな、堀が言うからにはよほど優秀な人なんだろう」


 高校から長い付き合いの霧島先輩はそう評した。田中先輩と霧島先輩は部活動をしていたが、堀先輩は帰宅部でよくゲームをやっていたようで普段遊ぶ時でもその培ったゲームセンスで何度も助けられ苦汁を舐めさせられたらしい、クラス内でもゲームオタクと呼ばれていたそうだが元々運動神経は良く人付き合いも良い人だったためクラスの人気者で文化祭の出し物ではテレビゲームだけでなく、お手製のボードゲームなどでも活躍したようだ。


 そんな堀先輩が上手いというからにはとても強いプレイヤーなのだろうなと一種の信頼を霧島先輩は置いているようだった。


「まぁ、訳アリみたいなことも言ってたし、ゲームでも上手い人から教えて貰える機会なんて滅多に無いだろうから楽しもうぜ!」


 ニカッと笑いながら田中先輩がそう締める。


 そうやって先輩二人と話していると周りにいたプレイヤーがざわつき始める。


「おっす田中と霧島、それと新田もこの世界では初めましてだな」


「よろしくね~」


 丁度二人は自分の後ろにいたようで振り向いてみてみるとそこには明らかにレベルの違う装備をした男女の二人組が立っていた。アギトとニア、二人とも黒を基調とした装備で、アギトと書いてある堀先輩は鉄の胸当てに鎖帷子が見える。頭巾はつけてないが、上衣や腕に巻く手甲など全身が黒の布地で覆われいかにも忍者というイメージを彷彿とさせる。一方の女性の方は堀先輩より一回り小さいが装備している防具が自分と同じ金属、それも黒く輝いていることもありその可愛らしい姿の反面装備している防具は威圧感万歳だった。


 背中には甲羅のように背中を覆う程の大きな盾に腰には鉈のような剣を装備していた。


「お前堀か、口元隠しているからわからなかったぞ」


 そう言葉を返したのは田中先輩だった。先ほどリアルネームでは呼ばないと言っていたが堀先輩たちの装備を見てその事が頭から抜けていたようだ。


「これでもやりこんでいるからな、早速だが俺の隣に居る女性がニア、今回一緒に手伝ってくれる凄腕のタンク職だ」


「凄腕って程でもないけど、よろしくね~」


 堀先輩に紹介された女性は手を軽くひらひらと振って挨拶をする。


 ざわざわ


「っと、流石にここに留まると人の目に着くな、移動しようぜ」


 そうやって堀先輩が言うとおぉと戸惑いつつも田中先輩含め自分や霧島先輩も急いで席を立ちその場を後にする。




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