第23話 弱体化後とパーティー戦闘

 青白い雷光を纏った剣尖がモンスターの頭部を貫く。


 目の前に対峙する黄緑色の肌をした二足歩行のトカゲ、『レインパッカー』と呼ばれるモンスターは俺の放った剣技によって頭部が吹きとんだ。


 レインパッカーの頭上に表示された赤いバー、敵のHPバーは一瞬にして削れ黒く染まる。表現規制による断面は白く光りその部分から光の粒子が溢れる。


「フッ!!」


 一気に息を吸い込み、全身に力を貯める。仲間が倒されたことに驚きつつも戦意を失わない残りのレインパッカーが蛙のような水掻きを広げながら自分の頭上から振り下ろすように飛び掛かる。


 雷光を纏っていた鉄剣は紫色に輝きだし、自分の腕は決められたモーションを寸分の狂いもなく動き出す。モンスターに切っ先を合わせ、その旨の中心に向かって穿つ、腕を振り上げ隙だらけのレッドパッカーの胸元に切っ先はまっすぐ伸び刺さる。


 その剣先が刺さった瞬間、鉄剣に纏っていた紫色のオーラは剣先に集まり胸元に吸い込まれていった。ドウッ!と衝撃音と共に剣先の行先、レインパッカーの背中から噴き出すように、紫色の花のようなエフェクトが噴き出す。


 剣技ブライトネス、片手剣専用のこの技は突きによる基本ダメージに加え闇と斬属性を帯びた追加ダメージを加える。20秒の硬直時間を有するが、あらゆるスキル硬直軽減のスキルを習得している自分の硬直時間は1秒にも満たない


 連射する《ブライトネス》はあらかじめ決められたモーションを連続で突きを繰り出し、複数のレインパッカーの群れを穿つ、紫色のエフェクトが身体を突き刺し背中に《ブライトネス》の花が咲き誇る。


 全てが一撃で6体のレインパッカーが一瞬で白い粒子となって消える。


「駄目か……」


 誰もいない空間でぽつりと呟く、自分の望んだ結果に比べて未だ弱体化は未完全だった。


 戦闘が終わり、一息ついて装備しているごつごつとした革の手袋を脱いでみれば両手の十指には様々な指輪がはめられている。どれも異なる形、異なる効果を発揮する指輪は呪いのアイテムと呼ばれる類だ。


 見た目は何の変哲のないエメラルドのような緑色の四角くカットされた宝石をはめられた指輪、蛇の鱗を巻いたようなリングなど流石に全部の指に指輪をはめればたとえ手袋をしていたとしても外見からごつごつと違和感がある。


 そんな指輪をみていても、視界の右下に移る二つのバー、上部に位置する緑色のHPバーとその下に合わさるように連なる青色のバー、MPバーがぐんぐんと上昇する。


 先の戦闘でMPバーの6割が黒い空白はものの数秒で消え上限に到達した。


(各種ステータスは相応に弱体化されたけど、回復量が抑えられない)


 十指にはめられた強力なアクセサリーのおかげで元のステータスの9割を超える割合で弱体化が施された。視界に映るHPとMPのバーに書いてある数字を見てみれば300/98となっており左が体力、右が魔力になっている。


 今いる第二の街フレックスにおいて平均的なステータスが表示される。流石に今まで覚えた剣技や魔法などスキルは隠せないが使わなければいいだけの事


 それでも元が万単位のHPとMPのため時間経過による自然回復量が膨大なのだ。即死レベルの攻撃じゃないと瞬時に回復し、これまで習得してきた膨大な各種剣技、魔法の軽減スキルや高速発動系スキルが重なり明らか不自然な戦闘が出来上がっていた。


 それでも今装備している指輪は自分が持つアイテムの中でも特に強力な部類のアイテムだ。一つ装備しただけで一般プレイヤーなら立てない程STRが低下し、装備要件を満たせず装備が強制的にはがされるだろう


「そんな都合よくいかないか」


 毒づきながらも考えを切り替える。こればかりは仕方がない、時間も足りない中自分が選べる最高の選択してこれなのだ。上手くいかないことなんで幻想世界からずっとあった。


 幸いにもスキルの待機時間の情報は頭に入っている。すぐに繰り出さなければそこまで疑問に思われないだろう、威力も幾分高いがラストアタックを狙っていけばいいと結論をつける。


「ん?」


 ピコンと軽い電子音が脳内で鳴ると視界の左端にスマホのアイコンが表示される。FWと連携させてる自分のスマホ端末に何かメッセージが届いたようだ。


 宛先は堀先輩、『今度の集合で一人追加が来る。女性なのだが前に変なプレイヤーに付け回された事があるから、そこら辺を気に留めて接してくれ』との事だった。他にもFWでトップクラスのタンク職の人のようで、色んな職業のプレイヤーが居たほうが良いだろう、という事で今回来てくれるそうだ。堀先輩繋がりだから畏まらなくていいが、ちゃんとした態度をしてくれとの事


 自分は手先にキーボードを表示させ、タイピングする。『了解です』と簡潔に変身する。するとすぐに堀先輩からOKとハンドサインのスタンプが届いた。


 先輩との約束は明日、まだ余裕があるが弱体化についてこれ以上進展はないだろうという事でフレックスの街に戻る。工房がある北地区でも市場のある東地区でもなく街の中心の若干南寄り、冒険者ギルドがある建物に来た。


【リア王国冒険者ギルドフレックス支部】でかでかと書かれた看板の建物には多くのプレイヤーが行き来する。


 冒険者ギルド本部は王都の3の街にあり、今いる建物はその支部となる。それでもフレックスの街の中でもひと際大きく5階建てだ。


 解放されている入り口を通して中を見てみると長い行列と10以上もある受付場が設置されていた。酒場も併設されていて受付場の横には丸い机にプレイヤーが囲み酒盛りをしていた。このゲームではゲームのお酒を飲んでも酔わないが皆雰囲気を楽しんでいるようだ。


 酒場の反対を見れば様々な紙が張り出されたボードがある。これに今受付中のクエストが張り出されている。その周りには人だかりが出来ていてとても賑やか


 一緒に野良でパーティーを募集しているボードもあり俺はそのボードに近寄り覗いてみる


(坑道クエストに賞金首モンスター討伐、色々あるな)


 単にクエストを攻略するものから賞金首とされる特別なモンスターを討伐する高難易度のものまで様々だ。そんな中で俺は一つの募集に視線が止まった。


《フレックス周辺でモンスター狩り、報酬は山分け※近接職1名募集》


 この方他プレイヤーとパーティーを組んだことがないので野良で軽く連携の練習をしようと探してみると、丁度良さそうな募集の紙があった。その紙に触れると《申請しますか?》とアイコンが表示され、それにはいと押す。


 そうしてから数分も経たないうちにメッセージが飛んできた。今現在オークション会場に居るらしく少し待っていてほしいとの事だ。そうして併設されている酒場で待つと頭上に緑色のアイコンと同じ色をしたプレイヤーネームの三人組が現れた。


 先頭の男性がキョロキョロと探す仕草をすると向こうもコツらに気がついたようで、真っ直ぐ向かってくる。


「こんにちは、君が今回来てくれたペガサスさんか、よろしくね」

「こちらこそよろしくおねがいします」


 軽く出された手を握り握手する。三人組は全員知り合いのようで、全員が魔法系のステータスの伸びが良いエルフ族の様だ。最初に挨拶してくれた長髪を後ろで軽くまとめている優しい顔立ちの男性、そしてこの三人組のリーダー的人物がハルトさん、職業は弓使い


 そして後ろに仕えるように居るのは彫りの深い巌の様な大柄な男性のミナトさん、こちらは前衛の剣士だ。そしてもう片方が女性で名前はユウリさん、ほわほわと柔らかい笑みを浮かべる温和な女性で神官をやっているようだ。


「ペガサスさんは剣士でいい?特にアイテムの補充等無ければ行きたいけど?」


 ハルトさんがそう言うと特に問題は無いので大丈夫と答える。





 小さなやり取りをした後ギルドを出る。南地区の大通りを歩きながらちょっとした自己紹介をする。ハルトさんの三人組は先週始めたんだそうで、ミナトさんやユウリさんとはリアルでも付き合いがあるようだ。このFWも折角だからと一緒に始めたようだ。


 広い大通りはハルトさんを中心に4人が横に並んで歩いても問題ないほど大きい、そんな通路を並んで話す中分かったことがある。三人組の話の中心はハルトさんだが、気難しそうな雰囲気のミナトさんも結構話す。特に武器の話題などになるとハルトさん以上に饒舌だ。それをユウリさんが楽しそうに聴き、時折意地悪な返しをしたりと楽しんでいた。


 視界に映るフレックスの南門、入場は大分混み合い列ができているが、街を出る方は空いているようですんなりとフレックスの街から出た。


 フレックスの街の外側はリーフ周辺と変わらず穏やかな日差しに緩やかな地形の草原が広がっており見渡しが良い、周りを待てみれば人の背丈以上の巨大カエルと戦っていたり、自分が先程戦っていた黄緑色のトカゲ人間、レインパッカーと戦闘しているパーティー等で賑わっていた。


「うーん、ここら辺だとリポップ争いが起きそうだから少し遠くでやろうか」


 そうやって戦っている光景を見ながらフレックスの街から少し離れる。


「おらぁ!」


 太い掛け声と同時にミナトさんが、先程見かけた巨大な青色のカエルに斧を振るう、鈍色を放つ鉄製の斧は青カエルの白いお腹部分斜め上から振り下ろすように切り裂く、ズバッと肉を裂いたような音とともに青カエルのお腹に先程斧で裂いた部分から白く発光する粒子が溢れる。


「ミナト退け!《ポイズンアロー》!」


 ミナトさんが後ろに退いたと同時にミナトさんを横切る様に濃い緑色の一閃が青カエルのお腹に命中する。その衝撃で腹が波打ち青カエルは苦悶の声を上げる。青カエルのHPバーを見てみれば後4割程度、その上部にはポイズンと毒の異常状態を知らせるマークが浮かんでおり毒の緑色のシャボン玉の様なエフェクトが青カエルにかかっていた。


「攻撃来るぞ!」


 ハルトさんがそう叫ぶと同時に青カエルの大きな口から鞭のようにしなりながらピンク色の舌が飛び出る。先程の弓矢による攻撃でヘイトがハルトさんに向かったようだ。舌先はハルトさんの方向へと向かっていく


 自分はその攻撃を許す訳もなく間に入る。ドムッ!と身体の前面に構えた盾が青カエルの舌先に辺り押し出すように全身へと衝撃がくる。ズズッと数歩後ろへ後退舌が受け止めきれたようだ。


「ナイス!」と後ろから声が聞こえたあと先程退いたミナトさんが斧を構え突撃する。その斧の刃には揺らめく火が灯っていた。


(あれはエンチャントか)


 1番後ろにいるユウリさんは付与と回復に長けた職業の『神官』だったなと思い出す。そんな一瞬の考えをしている間に視界の端が淡い緑色のエフェクトが掛かり同様に全身が包まれる。持続回復を早めるリジェネを唱えてくれたようだ。一定以下にならないと回復魔法をくれないNPCとは大違いだなた思いつつ、火のエンチャントを付与された斧でミナトさんが青カエルを切り裂きその一撃で青カエルのHPは全損した。


 青カエルの巨大な亡骸から吹き出る白い粒子を見ながら後ろから「おつかれ~」と2人の声がきこえる。カエルのすぐ近くにいた自分とミナトがその方向を見てみるとハルトとユウリがこちらへ駆け寄ってきていた。


 粒子となって消えた青カエルの場所からはピンク色の液体が瓶詰めされたアイテムが合った。ガマの粘液、調合用アイテムで比較的レアなアイテムがドロップしたようだ。


「ペガサスさん先程のカバーは助かった。ミナトもナイスタイミングだ」


 ハルトさんが軽く総括をする。まだ始めて間もないが良い感じに連携が取れたようだ。


 その後も青カエルを含めたレインパッカーを含めた様々なモンスターを狩っていく、ミナトさんが前に立ち自分がカバーを、ハルトさんが狙撃し絶妙なタイミングでユウリさんがバフをかける。


 気がつけば数時間が経っていた。ハルトさん曰く、ここまで狩りがスムーズだったのは初めてだそうだ。ありがとうという感謝の言葉に自分もこちらこそ、と返す。


 フレックスの辺りも薄暗くなり始め狩りは終わった。ハルトさん達3人と互いにフレンドを登録してまた今度やろうと約束をし、FWからログアウトした。







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