第21話 鍛冶の街

 リーフが景観豊かな花の街と例えるなら、フレックスは石材で建てられた石の街といったところか、舗装された道から建物やら何もかもが石を基調とした街はリーフと違った特徴があった。


 リーフの街と同じく幻想世界と比べ街全体が複雑化しており、もはや別の街と言ってもいいぐらいだが、街のどこかしらから聞こえる金属の叩く音や、煙突から吹き出る煙の景色を見てまさに鍛冶の街とも言えるところだった。


 初期装備のプレイヤーが多かったリーフの街と違い、フレックスでは初期装備から一部装備のランクを上げたプレイヤーがちらほら居るのを見かけた。中には場違いな金属鎧を纏ったプレイヤーなども散見しており、堀先輩のような事情を持った人たちなのかもしれない


 フレックスの街の入り口をくぐり、大通りを歩く、入り口付近にあったフレックスのマップを見てみると、街の中心に行政区が集まっており、冒険者ギルドもあるようだ。クエストを受注する場合は街の中心へ行けばいいだろう


 自分はフレックスの南門から入ったので、現在いるこの大通りは南地区、宿屋や道具、武具を扱っている区画だ。説明通り石材で建てられた立派な建物にはでかでかと○○武器店、△△道具店などの看板が立てられていた。


 フレックスの北地区は職人が集まる工房が集まっており遠くから見ても煙がもくもくと昇っている、東地区はフレックスや周辺のダンジョンでドロップした貴重な武器防具が売られる市場となっており、今歩いているプレイヤーの大半が市場のある東地区に向かっているようだった。


 西地区はフレックスに住む住民が住まう住宅で、プレイヤー達にはあんまり関係のないところだろう


 自分の目的は工房のある北地区なので、街の中央を抜けて北地区へと向かった。



 カンカンカン


 北地区へ入ると、あらゆるところから金属を叩く音が聞こえる。南地区とうって変わり体格の良い男性が闊歩していた。


 道路から見える建物の中ではNPCからプレイヤーまで汗水たらしながら金属を叩いている所もあれば、ルーペ眼鏡のようなものを付け針金を器用に動かしながら緻密な作業をしているところもあった。


 道の中心には馬車が走り、ここで作られたアイテムを市場へと運搬していたりと、現実世界では中々見ることのできない光景がそこには広がっていた。


(どこもいっぱいだな、もう少し路地の奥へと入らないといけないかもしれない)


 他の地区へとアクセスのしやすい比較的中心に近く大通りに面している工房はどこもプレイヤーでいっぱいだった。


 建物自体は大きく、プレイヤーが使用可能な大衆工房は結構な数の炉もあり収容人数は多そうだが、それでも生産に勤しむプレイヤーは多く入ることが出来なかった。


 中にはクラン単位で集まって占用している工房もあり、明らかに生産プレイヤーではないプレイヤーとかも出入りしていた。


「掲示板でも書いてあったがやはりフレックスが一番人が多いか」


 他の街にも工房はあるが、フレックスに比べたら規模が小さいし、設備自体もあまり整っておらず装備と作るというよりは、整備目的が大きいようだ。


 その為、ほとんどのプレイヤーは設備の整っている王都かこの街に拠点を構えているらしく、王都に比べ使用料も安いことから、大勢の生産プレイヤーはこのフレックスにいるようだ。


 俺は街の中心から離れるように使用可能な工房を探す。


 それでもどこも満室で空きがない、そこで大通りからそれる脇道へ入り、探してみると大通りのような数百単位で入れる大規模工房ではないが、それでも十数人が入れる工房へ入れた。


『はい、これが許可書ね、とりあえず時間になったら近くのベルが鳴ると思うけど延長したいならそのまま放置してくれればいいよ、その後は一時間ごとにベルが鳴るから終わったら追加の料金を払ってくれればいいから』


 工房の主人に入場料を払い、説明を受ける。大通りから結構外れた場所に存在する工房だが自分と同じように、大通りの工房へ入れなかったのであろうプレイヤーがアイテムを制作していた。


 一人で集中して金属を叩くプレイヤーもいれば、同じクランのメンバー同士と思われるプレイヤーは作られた剣を眺めながらあーでもないこーでもないと相談しているところもあった。


「よし、作るか」


 自分が指定された場所は工房を一番奥、ギリギリ滑り込めたようで、自分が入ってここの工房も満室になった。


 後から来たプレイヤーであろう人たちは「えー、ここもだめか」など残念そうに帰っている。


(装備を作るわけだが)


 今回作るのはアイアンシリーズだ。その名の通り鉄インゴットから作られる鉄装備で、フレックスの街で装備を更新するなら最もコスパが良く、フレックスについたばかりであろう初期装備以外のプレイヤーの大半がアイアンシリーズだった。と言っても近接職限定だが


 しかし今回作るアイアンシリーズではたとえマニュアルで武器を振るっても木刀のように特殊効果が無いため、ダメージ倍率が下限でも素のステータスの高さから一撃でモンスターを吹き飛ばしかねない、その為アイアンシリーズにとあるアイテムを合成することが今回の目的だ。


〈吸魂鋼インゴット〉     レア度C


【多くの命が失われた場所で長い年月が経ち変異した鉄鉱石のインゴット、素材アイテムであるが持つだけで徐々にHPとMPが吸われていく】


 吸魂鋼インゴット、第一大陸でもダンジョンの奥地とかで取れることのあるアイテムをインゴット化したものだ。その説明通り徐々にHPとMPが吸われていくといった弱体化アイテムだ。


 近接職のプレイヤーだと単なる外れアイテムになるのだが、魔法職であれば杖の媒体にするとデバフ魔法の威力や闇属性の魔法に補正が入ったり、弓職であればこの鉄を鏃にすると〈吸魂の矢〉が製作できる。


 これは元々鉄鉱石が変異したものなので見た目はアイアンシリーズにそっくりになる、ただしこの素材だけで作った弱体化でもまだ効果が弱いので更にこれを付け加える。


〈嘆きの宝珠〉        レア度A+


 ・このアイテムを使用すると以下の効果が発揮される。【物防中ダウン3分・魔防中ダウン3分・衰弱60秒・呪文阻害30秒・一定レベル以下即死】


【一定の強さを持ったアンデット系モンスターを倒すと極稀にドロップする貴重なアイテム、このままアイテムとして使うと敵に対して様々な弱体化や状態異常を引き起こす。杖の媒介にすると死霊系魔法の威力が向上し、消費MPも少なくなる】


 これを吸魂アイアンシリーズに装着するようにするとすさまじいデバフが付く、FWの一般のプレイヤーが装備すれば一瞬で死亡するレベルだ。


 そしてもう一つこれを使う


〈初代鍛冶王のハンマー〉      レア度ユニーク


【第一回武具コンテストで最優秀賞を取ったものに送られるユニークなアイテム、このアイテムを使用すると金属系アイテムの制作難易度が大きく下がる。どんな扱いをしても一定以上の制作評価が保証され、このアイテムで制作した場合にしか発現しない効果もある。】


 幻想世界で入手したユニークアイテムの一つだ。これを使うことでどんな下手な鍛冶をしても一定以上の品質が保証される。ただの鍛冶ハンマーと違い、これだけで芸術品と言っても過言ではない豪華な装飾がされており、叩くヘッドの部分には漢字の一が刻印されている。ちなみに第五回まであって全部揃えているのは自慢できるものの一つだ。


 今自分は工房の奥にいるため、このハンマーや他のアイテムに気が付くプレイヤーはいない、その為この派手な鍛冶王のハンマーを熱した赤くなった吸魂鋼インゴットを叩く






 作業を始めてから3時間ほどが経過した。予定していた時間を過ぎたが防具作りはまだ続く、鍛冶王のハンマーの恩恵もあり失敗はしない、よほど奇を衒った事をしない限りはオート操作にすれば一般的な防具の形になるようで、防具の基礎的な部分は各部位製作が完了した。その後は留め具や宝珠を装着する部分と内側に敷く獣皮やサイズを確かめていくのみだ。


〈叫びの鉄鎧〉    レア度A

 制作評価  8

 種類    重鎧

 装備条件  無し

 追加効果  物防+23 魔防+18 自傷ダメージ中 消費MP増加大 物攻低下大、魔攻低下大

      状態異常 衰弱 【カースレベル60】


【見た目は鉄鎧と変わらないがこの防具を装備した瞬間、様々な状態異常になる恐ろしい呪いのアイテム、常にHPとMPが減少し各種ステータスが軒並み下がる。これは防具ではなく装備者を殺すための暗殺アイテム】


 胴部分だけに嘆きの宝珠を4つ付けたので恐ろしいほどの効果が付与された。胴部分だけでこの効果なので他の防具と組み合わせればそれはそれは恐ろしいほどの弱体化が起きるだろう。


〈叫びのアイアンシリーズ〉     レア度A


 装備条件 無し

 追加効果 物防+98 魔防+80 自傷ダメージ特大 消費MP増加特大 物攻低下特大、

     魔攻低下特大  状態異常 衰弱 【カースレベル240】


【装備者を殺すためのアイテム、間違っても装備してはいけない呪いのアイテム、装備した場合複数の異常状態に弱体化が発動しHPとMPが尋常ではない速度で減少していく】


 という形にできた。追加効果では特に胴部分と変わりないが、籠手や靴といった部分にも効果が付与されているので特大に変化している。この特大という効果だけで最大値の3割減少と秒間50ずつHPとMPが減少しているが自然回復量のほうがまだ多いのでそこはすでに持っているアクセサリー等で調整するしかなさそうだ。


 そしてカースレベルも200を突破した。元々呪いの装備自体は多くあり同じレア度でも1部品だけで100を超えるものもある。今回は見た目も気にしないといけないのでこのようになったが240というのは中々にすごい数値だ。


【カースレベル260】


 被ダメージ量+78% 被回復量-78% スキル再使用時間+35% レアドロップ確率+2.6%

 獲得経験値量+13%


 カースレベルというのはその名の通り呪いのレベル、呪いのアイテムに付与されていてこの数値が大きいほど呪いの力も大きいという事だ。このレベルが上がれば上がるほど受けるダメージ量などが大きくなるといったデメリットはある反面、ドロップ率だったり貰える経験値が増えたりとメリットも存在する。


(流石に使うとは思わなかったが)


 幻想世界でも一度このカースレベルを上げてレベリングやレアドロップを狙おうとしたことがあるのだが、それ以上に被ダメージ量といったデメリットがきつすぎて数戦であきらめた思い出がある。結局数をこなした方が良いという結論でもう二度と使わないものだと思っていたが何があるかわからないものだ。


(ふぅ、とりあえず及第点かな、あとはアクセサリーでごまかせば何とかなりそうだ。)


 これだけやってもまだ足りないのでアクセサリーで補うことにする。この装備だけで半分近くはステータスが下がるだろうがまだ足りないだろう、アクセサリーならごまかしは聞くので今持っている呪いのアイテムで調整が出来そうだ。


 とりあえず当初の目的は達成したかな……


 時間を見てみると、更に1時間が経過したころだった。もう延長分が発生しているので適当にオークション市場に流すように装備を作ってみてもいいかもしれない


(武器も作ってみたいし、流石に第一大陸以降の装備はまずいだろうけど鍛冶王のハンマーを使った評価の高い装備をオークションに流したら面白そうだ)


 掲示板でも見たが、評価の高い装備というのは最初自分が考えていた以上にヤバイ代物らしい、作るアイテムによって難易度や評価が変わっていくが、アイアンシリーズなら評価5もあれば話題に出るレベル、トップ生産プレイヤーと言ってもいいだろう6ともなればもう見ることは殆どなく噂レベルでトップクランの生産プレイヤーが幾つか作っているレベルで市場には流れてこない


 そこで自分はそんなオークションで鍛冶王のハンマーを使ったアイテムを流したらどんな反応があるかちょっとしたいたずら心で装備を作ることを決めた。



 ……それが自分が思った以上の大騒動になるとは今の自分は思いもしなかった。






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