第20話 リアルでの誘い
朝から大学に行き、特筆すべきこともなく授業と授業の間な暇な時間に食堂へとやってきた。
お昼時程ではないが同じような状況の人達が課題をやったり、雑談していたり、スマホをいじっていたりと各々自由な時間を過ごしていた。
「お、新田じゃんかお前も今来た感じか?」
さて、どこに座ろうかと考えてたら数人でたむろしていた先輩が声をかけてきた。俺は堀先輩と呼んでいる。堀先輩は同じ学科の先輩でサークルの新歓で知り合った人だ。特にプライベートで遊ぶという程でもないがこうやって校内であったら雑談をしたりするぐらいには仲が良い
周りの人も堀先輩とよく一緒にいる人たちで自分も面識のある人たちだった。その人たちが座っている場所までいきなんの話をしていたのか聞いてみる。
「最近流行っているファンタジーワールドっていうゲームがあるだろ?田中と霧島がそのゲームの抽選販売に当たったからリリースからやっている俺が色々教えてたんだよ」
「そうなんですか!?」
これは意外だ。FWはまだしもVRキットは入手困難っていうレベルで買うことが難しい、実際自分もFW運営から送られてきた優先販売券が無かったら買うことは出来なかっただろう、値段も値段だしこうやって身近な人がFWをやってることに自分は純粋に驚いた。
「お?その反応は新田もやってるのか!、こいつらは実家が金持ちだからそのつてで買ったらしいけど、お前はどうやったんだ?」
堀先輩はそう聞いてきたが、さすがにFW運営から優先販売券を貰いましたとは言いづらい、まぁ運がよかったです、と答えると堀先輩は「俺と一緒だな~」と特に気にすることなく次の話題に移った。
「新田はわからんけど、田中と霧島は初心者だ。そして俺は最前線を行くトップクラン……とは言えないがトップ勢に近い位のクランに所属している。だからこうやって色々序盤のおいしい狩場とか教えてたんだ」
まじか、と俺は驚いた。堀先輩はその反応を見て満足そうに頷いたが、横に座っていた田中先輩が「こいつは最近ファンタジーワールドばっかやってるからこの前の定期試験やばかったんだよ」とあえて堀先輩が聞こえるように言ってきた。
「うおっほん!、とりあえずだ。俺は現在第4の街、キルザっていうとこに居る。そして再来週にはバルバトっていう最初の大陸の最終地点の港町に行く予定だ。しかし、ポーションやら消費アイテムの在庫が無いからクラン全員でそれを集めないといけない、そのついでに冒険しようという話だ。」
堀先輩は咳ばらいをすると、状況を説明してくれた。
まずFWというか元となった幻想世界の設定の話をすると、最初の大陸には4つの街に一つの都市が存在する。
第一の街リーフ、第二の街フレックス、第三はこの大陸を統治している王都であるリア、第四の街キルザ、第五の街バルバトという形だ。
それぞれ花の街、鍛冶の街、王都、山岳の街、港町という形で特徴があり第四の山岳の街であるキルザはその名の通り、標高の高い山々が連なる場所に存在する所だ。
第一大陸ではキルザとバルバトの間が最も険しく難易度が高い、防御力の高い岩系モンスターから集団行動をする獣系モンスターが多数存在し、幻想世界でも突破したプレイヤーはほとんどいない
キルザの街の中でクエストを進めていくと護衛を雇えたことから運営からしても意図的に高くしているものだと感じる。護衛を雇えるまで信用を得るには結構な数のクエストをこなさないといけないから時間がかかる。ある意味ここで装備やレベルをしっかり上げるように警告しているのかもしれない
そんな情報は出回っていない可能性が高いから、堀先輩のクランは力業で険しい道を踏破するようだ。その為に結構な量の消費アイテムが必要らしく、モンスターも強くあまり薬草系のアイテムドロップの悪いキルザ周辺よりいったんリーフやフレックスまで戻りアイテム集めを各自でするようだ。そのついでに初心者の自分、田中先輩や霧島先輩を呼んで遊ぼうという事だ。
「自分も先日始めたばっかりなのでありがたいです。ぜひお願いします」
せっかくのオンラインゲームだしやるなら実際に知っている人とやれることに越したことはないので、その提案を受ける。堀先輩はリアルの事情やFWの移動などを含めて明後日リーフの街に集合してやることになった。
(とりあえず。急いでフレックスで装備を作ってリーフに戻るか)
家に帰り早速FWにログインすると、フレックスまでの間にある中継村の宿の中で目を覚ました。
状況を見て空いていたらこの前大規模戦闘のあった村に再度行ってもいいかと思っていたため中途半端な場所でログアウトしたのだが、目的ができた以上行動は早めにすることに越したことはない
(流石に装備が目立つし、今後のことを考えても目立たない装備を今のうちに作っておいた方がよさそうだ)
ソロならまだしも、今後堀先輩や他のプレイヤーと一緒にやることを考えたら新月流の道着と木刀はちょっと目立ちすぎる。何より道着は呪われた装備以上いヤバイ物だし、木刀に関してもマニュアル操作だと10ダメージしか現状与えられないから足を引っ張ってしまう
かといってオート操作だとここら辺のモンスターなら素のステータスが高すぎて一発で倒してしまうためその為用の装備を作っておかないといけないだろう
第二の街フレックスは工匠の街だ。ここで武具の制作などの基礎を学べる用になっている。リーフと違い鍛造所や武具を売る市場も存在する。(市場はプレイヤーが居なくて動いてなかったけど……)
フレックス周辺も薬草系が多くドロップするリーフと違い、鉱物系のアイテムが比較的出やすい
(アイテムは幻想世界から引き継いでいっぱいあるから問題ないとして肝心の制作がな……)
ちらっとFWの情報サイトを見たところ、幻想世界と武具の制作方法がだいぶ違っているようだ。
幻想世界ではリズムゲームのように、タイミングよくハンマーを叩き最適なゲージを保つという形だったが、FWでは幻想世界にはなかった方法が増えているようだった。もちろんここもオートマニュアルの区別はあるが、戦闘以上にマニュアルによるメリットが大きいようで、掲示板ではアイテム制作系の板がホットのようだ。
(事前に情報は知ってるとは言え、実際にやってみないとわからないこともあるだろうし、下手をしたら幻想世界の調合法が全然変わってる可能性もある。急いでいかないと)
後々アイテム制作もマニュアルで行いたいとは言え、時間がないオートで仕方ないとはいえ初めてやる事から何かと時間がかかるかもしれない
色々と整理が終わり中継村の宿を出て、俺は第二の街フレックスに移動を始めた。
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