第18話 大混雑
アップデートにより追加された村は幻想世界では存在しないFWオリジナルの村になる。
春風の草原はその穏やかな気候、モンスターの脅威度から始まりの街『リーフ』を中心として大小さまざまな村があるという設定が幻想世界の中にはあった。しかし、それは設定だけで実際には次の街への中継地点として2~3個存在するのみで今回追加されたのは特に次の街への中継地点でも何でもない辺鄙な村だという
その為、村へ向かう道は舗装されておらず土が人の足によって固められたもので道幅も大きくない、そんな道をまるで大蛇のような長い列を成して人が歩いている。見渡しの良い春風の草原において異様な光景だ。
(昔知り合いに連れられて行ったコミケ会場のようだな、あそこまで地獄じゃないけど)
数年前、知り合いに半ば無理やりに連れていかれた夏のコミックマーケット、その名物のような長い待機列をふと思い出した。あの時のように真夏の日差しから熱を貯めたアスファルトの熱気やらのまるで人間バーベキューのような地獄ではないが、この混み具合は普段人混みとかが無い田舎の人間からしたら少しきついものがある。
(それにしても……)
リーフから出発して早数十分、前を見ても後ろを見ても人の列が途切れることはない、これだけのプレイヤーがいるせいなのかモンスターすら寄り付かない、現実と違い延々と歩いても疲れないのもあり、暇を持て余したプレイヤー達は楽しそうに周りにいるプレイヤーと話しながら歩いている様はまるで遠足を思い出す光景だった。
『そういえば昨日のハルの配信観たか?バルバトっていう港町に最速到達だってよ、ゲームの世界なのに海とかスゲー奇麗だったな、これで大陸の最北まで横断したらしいから次のアプデで新大陸進出かもしんねえ!早く行きてぇ~』
自分の丁度前を歩いている男性プレイヤーが興奮気味に隣のプレイヤーに興味深い話をしていた。
(へぇ、もうバルバトに着いたのかFWがリリースされてからまだ三か月も経ってないのに第1大陸攻略したのか)
物凄いペースである。現在自分の状況がそうなのだが現実世界と同じく移動に結構な時間がかかる。俺の場合は幻想世界でほとんどの世界を見て回ったため自由にファストトラベルで瞬時に移動できるが今回のように新しい場所へ行くとなると実際に移動してファストトラベルをマーキングしなければならない、もしかしたらFWで新しい移動手段が生まれているのかもしれない
その後も目の前の男性の話は続く、彼曰く、そのハルという人物は元々別のゲームでプロとして活動していて、その後配信者として様々なゲームをして活動を行っているようだ。ただ別のゲームとはいえプロになれるほど高いゲームセンスと配信者としてのトークスキル、そしてFWという一番ホットなゲームという要素が合わさってい最近FW配信者の中では一番目立つ存在のようだ。
そんな彼のクランはいわゆるガチ勢と言われるクランで、誰よりも早く攻略して誰よりも詳しく調べるのが信条で、彼のクランにはプロゲーマーから現実世界で格闘家として名をはせる人間から起きている時間の大半をゲームに注ぐ俳人やらで構成されているらしい
リスナーと呼ばれる彼のファンや視聴者による下部組織からの支援も潤沢でマーケットで流れないような良質で最新装備、消費アイテムも常に補充されるとか
そんな興味深い話を聞きつつ歩いていると、先は長蛇の列が無くなっておりたぶん今回のアップデートで追加されたであろう村が見えた。
特筆すべきないまさに村といった感じで、村周辺を木の柵で囲いその中でキャベツのような作物を育てている畑を見つけた。更にその畑をさらに進むと先ほどの木の柵より幾分丈夫な柵を見た。その柵の奥に建物があることから村の人々の居住地なのだろうしかし何やら騒がしい
『ふざけんじゃねぇ!何が我々が調査するから入れないだ!お前にそんな権限はないだろう!』
列の横から顔を出すように伺ってみると村の入り口で数人のプレイヤーが今にも戦闘に発展しそうな険悪な雰囲気で言い争いをしていた。
『だから!この村にはもう我々のクランが入っており村の大きさ的にもう入る場所はないと言っているだろう!』
『だから、なんでお前らのクランが独占するんだよ!』
『我々が先に入ったのだからいいだろう!先着順だ!』
ギャーギャーゲーム内で言い争いをしているところを見ると滑稽だが、当人からしてみれば笑い事じゃないのだろう
一人は全く知らないプレイヤーだが、言い争いをしているもう片方は全身が黄色に統一された装備を着ていることから先ほどリーフの街で見かけた黄昏猟団のプレイヤーなのだろう、彼の周りにも黄色で統一された装備をしたプレイヤーがいることから間違ってはいないはずだ。
話を更に聞いてみると、新しく追加された村に入りきらないほどのプレイヤーが来たが、村の中に入れたプレイヤーのほとんどが黄昏猟団のメンバーだったらしい、それを独占するなというのが野良プレイヤーの主張、黄昏猟団の方は先に村に入ったから問題はないという事のようだ。
列のプレイヤーを見ても様々な反応がある。独占だ!と黄昏猟団に腹を立てている者、まーそうだよな、ときっぱりと諦めてPT内で相談して早々と列から出て行く者、単純に喧嘩を野次馬としてみている者と様々だった。
(どっちも言い分はわかるが……)
疲れないとはいえ、結構な時間をかけて歩いてたどり着いた村で入れないというのは辛い、この長蛇の列からして不安があったが見事に的中した感じだ。しかし、ギリギリ入れなかった人間からしたら1クランが占領して入れた可能性が無くなったとなると腹立たしくもなる。
争いは止まらずどんどんとエスカレートをしていく、争っている野良プレイヤーにもそうだそうだと同じ気持ちのプレイヤーが集まり、黄昏猟団の方もどんどんと人が集まり騒ぎが大きくなる。
『だったら!戦って白黒はっきりしようや!勝った方が村に入れる負けたらリーフに帰れ!』
『なぜ先に村へ入った譲らねばならん!』
『第一調べるのにそんな大勢で行くんだよ、無能ばっかだから人数かけねぇとこんな村もしらべられねえのか!』
『!?、お前俺たちのクランを侮辱したな!いいだろう決闘だ!』
売り言葉に買い言葉、険悪な雰囲気から一気に戦闘の気配が漂い、他のプレイヤーには目もかけずその場でPVP用の戦闘エリアが広がった。人数が人数なので野良連合と黄昏猟団の大人数戦闘の為、PVP戦闘エリアはどんどんと大きくなり、村すらも飲み込んだ
【システムメッセージ、現在PVP戦闘エリア内です。】
エリア境界線が広がり村や自分すらも飲み込んだ。さすがにこれはたまらんと野次馬していたプレイヤー達は一斉にエリア外へと退避し始めた。こんなシステムもあるのかと感心しつつも自分も他プレイヤーと一緒にエリア外へと移動し始める。
戦闘は直ぐには怒らず。ごちゃごちゃになっていた人だかりは何やらアイコン操作しつつ二つの集団に分かれた。そして10分ほど時間が過ぎ、最初に争っていた二人が二つの集団から出てきて何やら言葉を飛ばした。
そしてまた集団へと戻ると、プレイヤー達は武器を取り出し地鳴りのような怒声とともにもう片方の集団へと突っ込んでいった。
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