第17話 新しい村へ

【定期メンテナンスが終わりました。一部不具合を修正、メンテナンス後より始まりの街『リーフ』周辺のクエストが追加されました。春風の草原に新しく村を追加しました。村では新しいクエストもございますので、ぜひご利用ください】


 五時間という長いメンテナンスが終わった。メンテナンス中に大学へレポートを提出したり、部屋の掃除をしたり、早めの夕飯を食べたりと時間をつぶしていると思いの外早く終わった印象だが、周りのプレイヤーはそうでもないらしく、メンテナンス終了直後、我先にと駆け込むようにプレイヤー達が一斉にログインしてしまったため、開始地点である中央広場は非常に混雑していた。


(なんというか、渋谷駅の交差点って感じだ)


 実際に行ったことは無いが、世界一混雑すると言われている渋谷駅前スクランブル交差点を思い出した。まさに一歩歩けば肩と肩が当たってしまうかのような密集度合いだ。


 しかも全員が行く方向がバラバラのために、辺りで衝突事故が発生している。この広場から抜け出すことが出来たのはログインしてから五分後のことだった。


(そういえば新しい村が追加されたんだっけ?)


 広場から脱出して、さて何をするかと考えていたところ、メンテナンス情報で春風の草原に新しく村が追加されたことを思い出した。どうせ、この前のようにスライム相手にマニュアル操作の練習をするため、中継地点という意味もあるが、新しいもの観たさに行くことに決めた。


 ガヤガヤ


 新しい村の位置は事前にマップに表示されていた。前にトウカさんと事故が起きた洞窟とは方向が逆で、今回は西口から出ることにした。すると俺と同じ目的なのかいつもより多くのプレイヤーが集まっていた。


 街から外へと出る東西南北の各門周辺にはクエストカウンターが設置されており、そこでメンバーを集めたり、クエストを受けたりするようだ。クエストカウンターが中央広場にあった幻想世界とは違い、細かな部分で便利になっているところに俺は少し感心した。


(あれって?)


 人が密集している西門入り口には全員が装備は違えども、各プレイヤーが装備を黄色く装飾している集団がいた。見る限りだと優に百は超えているだろう


 門の入り口には木箱が設置されており、辺りを見渡していたら、少し装備のグレードが周りより高いプレイヤーが木箱の上に登り、演説を始めた


「イエローモンキーズ傘下、黄昏猟団の諸君!良く集まってくれた!、ギルド掲示板では事前に告知した通りに、我々黄昏猟団は上の指示の元にメンテナンス後に新しく追加された村、及びクエストの調査へ赴く!では点呼!」


 リーダーっぽい人物がそういうと、周りからは元気な声で1!2!と点呼が始まっていた。わざわざ門の入り口でやらなくていいだろうと思ってしまうが、あまり見たことのない光景に俺を含めた周りのプレイヤーも気になって野次馬が出来ていた。












「では、出発!」


 点呼が終わり、木箱の上に立っていたリーダーと思われるプレイヤーが街の外へと歩き出した。後続のメンバーはそれについていく形でゾロゾロと動き出し、周りに集まっていた野次馬たちも離れていった。


 クエストカウンター、まさに西部劇に出てくる酒場をイメージすればわかりやすいその場所は、男女問わずエルフ、猫人、狼人、ドワーフといった様々な種族のプレイヤーが入り乱れていた。


 事前にパーティーを組んでおりクエストボードでクエストを選んでいるプレイヤー、酒場で新たな仲間を得るために、いろんなプレイヤーに話しかけている者、もしくは可愛い女性プレイヤーをナンパするものまで、果てには単に酒を飲みに来ている者も居た。


 いっつも閑散としていた幻想世界のギルドカウンターとは違い活気に溢れる場所で俺はどうするべきかと戸惑ってしまった。これでも数年はMMORPGをやっているプレイヤーだというのに


 今は修行中の身であるし、装備の効果上、とてもパーティーを組めるわけではないが、ゲームの世界でNPCでもない実際の人間が今同じ場所にいると思おうと、無性に嬉しさがこみあげてきた。


(実際に、人がやっているんだよな、プログラムで一連の動作をするNPCではなく……)


 幻想世界では冒険者がいても決まったセリフや一連の動作しかしないNPCだらけだったが、こちらでは耳を傾ければ現実世界の世間話、果てには会社の上司の愚痴だったりあちらこちらで会話がされている。こんなことはNPCではできないだろう


(そう思うと師匠ってすごい自然な会話してたよなぁ)


 女性になるという違いはあれど鉄華師匠が鉄火師匠だった頃、他のNPCより個性的ではあったものの、例に洩れずに決まったセリフと動作しか行わなかった。会話なんてコマンド式であったが、FW《ファンタジーワールド》になってからの鉄華師匠はコマンドなんてものはなく、まるで実際の人と話しているかのようだった。


(まぁ、これも技術の進歩ってことかな?)


 そんなことを考えつつ、酒場の心地よい喧騒の中、俺はカウンターへ座り飲み物を注文した。








 注文してから数十分、注文した飲み物も飲み干し、酒場の喧騒を幾分か楽しんだ後、俺はそろそろ新しい村へと移動するべく席を立った。


 村までの道のりは5kmほどか、初めて行く場所のため、実際にこの足で訪れないとテレポートは出来ないため移動は徒歩だ。馬や竜に乗って行ってもいいが、流石に目立つし、せっかくのプチ旅行のようなものだ徒歩で行くことにした。


 徒歩といっても現実世界とは違い疲れがない、実際にはスタミナゲージというものがあるが、極限まで鍛え上げたこのキャラクターで非戦闘時、たかが5キロ走ったり歩いたりしたぐらいで疲れなどしない


(まぁ、道を沿って歩けばモンスターとも遭遇しないだろう……)


 これが第四、第五大陸であったのならば話は別だが、第二大陸辺りまでなら道を沿って歩けば滅多なことで敵とは遭遇しない、まぁクエストや突発的なイベントなどで強制的に戦うこともあるが、そんなクエストも受けてないし、春風の草原で強制イベントなどまずないので安心しても大丈夫だろう


 見渡しのいい草原を見てみれば、道を沿って歩いているパーティーがちらほら見えた。彼らもきっと村へと行くプレイヤー達だろう


(新しい村か、楽しみだな)


 未知の体験に俺は胸躍らせるのであった。


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