第16話 イエローモンキーズ

「えぇと、レポートとチャリの鍵とあとは……」


 土曜日の丁度昼過ぎ、昼食も食べ終え、いつもならFW《ファンタジーワールド》をやるのだが、今週は大学のレポートの提出日が近いため、休日ではあるものの余裕をもって提出しに大学へ向かう準備をしていた。


 長い梅雨の時期も終わり、定期試験も無事終わり後は大学特有の長い長い夏休みというわけだが、定期試験が無い代わりに、これでもかというほどの量のレポートを出す講義が幾つかあり、翔馬はゲームをする暇が取れないぐらいには忙しかった。


 FW《ファンタジーワールド》が発売されて、三か月が経とうとしている。俺が始めたのはつい先日なのだが、夏休み前ということもあり、FW《ファンタジーワールド》の盛り上がりは最高潮に達すると言われている。


 彗星のごとく現れたFW《ファンタジーワールド》は情報に敏感な配信者や、企業に伝わり、世間に名が知れている芸能人や、有名配信者たちが連日連夜配信をし続けてネット上でも活気に溢れていた。


 VRという性質上、他のゲーム機に比べて価格が高いはずなのだが、売れに売れ、今現在でもVRキット及びFW《ファンタジーワールド》のパッケージ版は慢性的に不足しており、品薄状態のため、ネット上では定価の数倍以上の価格で売買されていたりする状況だ。


 初夏だというのに、燃えるような日差しに照らされ、駐輪場へと向かう、辺りでは蝉の鳴き声もうるさいと思えるぐらいには鳴き始め、いよいよ夏本番という感じだ。


 一足先に夏休みに入ったのであろう小学生たちが、自転車に乗りどこかに向かっているところを見ると、まだ大学生だというのに、小学生の頃の思い出にふと思いはせた。


 そんな考えをしながら、熱を帯びたサドルにまたがり、自転車のペダルをこぎ始める。スピードに乗り、涼しい風を感じているとき一つの集団を見た。


 コンビニの駐車場にたむろする集団は、上は大学生や若い社会人から下は中学生という普段ならあまり見ない集団だった。


 その集団は全員が首に、黄色いスカーフを巻きスマホをいじっていたり、和気藹々と談笑していたりした。


 その光景は一昔前に居たカラーギャングのようで、周囲の関係のない人たちは不気味がって遠ざかっていった。


(なんだあの集団……)


 よく見れば自分と同じ大学の連中もちらほら見えた。大学ではよくゲームやアニメの話で盛り上がっている連中で、あまり人付き合いの良くない自分からしてみれば顔は知っていても、関りのない連中だ。


(まぁ、俺には関係ないか)










 大学に着き、レポートを提出するために教授の研究室に俺はいた。丁度時間が空いていたらしく、その場でレポートを見て貰い、何とか合格が貰え、帰る直前だった。


「そういえば新田、お前、イエローモンキーズって知ってるか?」


 引き留められる形で言われた。言葉に俺は疑問を浮かべた。


「イエローモンキーズですか?」


 教授は決して冗談を言うタイプの人ではない、イエローモンキーズなるものが何なのかはわからないがきっと意味のあることなんだろう、教授は「そうか」と頷き更に説明を進めた。


「最近出来たゲームサークルみたいなやつでな、新田も知っているだろ?FW《ファンタジーワールド》っていうゲーム、そのゲームのサークルの一つがイエローモンキーズっていうやつなんだが、ちょっと問題が起きていてな」


 教授が言うには、イエローモンキーズというのはFW《ファンタジーワールド》の二人組の有名配信者が作った巨大なギルドのことらしい、実際見て話すVRゲームのため、現実で出会うオフ会なような物が他のゲームに比べて活発で行われているらしく、中には中学生や小学生といったプレイヤーも巻き込んでいるらしい


 それも問題のうちの一つなのだが、一番の問題が、イエローモンキーズのトレードマークである首に巻く黄色いスカーフが、現実での集会でも用いられているらしく、その集会がまるで一昔前のカラーギャングのような風貌で、周囲に不安が産まれているらしい


 俺のいる大学でもそのイエローモンキーズの構成員がいるらしく、教授は一応話を聞いてみたという形だ。


(イエローモンキーズ、ねぇ)


 教授の言っていたイエローモンキーズというのは、大学に来る前にコンビニでたむろしていた集団のことなのだろう、彼たちに人に害を成す気持ちは無いのだろうが、何も知らない人から見てみれば確かに怖い、だからといって……


(俺に何かできるわけでもないしなぁ……)


 他のレポートも提出が終わり、大学を出る前に、売店で菓子や飲み物を買う最中だった。


「やっぱりすげぇよな!剣姫!可愛いし、強いしでやっぱりギルド全力で勧誘すべきだよ!」


 売店内に響き渡る声、剣姫と聞き覚えのある単語に俺は思わず耳を傾けた。


「勧誘っていっても、上の方が勧誘しても駄目なんだろ?剣姫が無所属なのは周知の事実だけど、他のギルドだって彼女を狙っているだろうし」


 そう話していた二人の男はうーん、と考えていた。


 そのうちの一人がハッと思い付いたかのように


「じゃああいつは?姫騎士と戦った例のチャンピオン!」


 それってもしかして俺のことじゃないか?


「といっても、どこにいるかわからんだろ、もしかしたら運営が仕込んだ特別なNPCだって噂もあるし」


 二人組の男たちは互いに意見を言い合い、論争をしている。休日ということもあって売店内に他の人がいないからいいものの、迷惑であることは変わりない


(まぁ、俺のことはバレてないっぽいしまぁいいか……)


 気になる話ではあるものの、聞いたところで何か起きるわけでもないし、脳内ではFW《ファンタジーワールド》をやることで頭がいっぱいになってた。イエローモンキーズ、話題になるほどだからFW《ファンタジーワールド》内でもいつか合うことはあるだろう、その時はあまり関わらないように注意すると心に決め、売店を後にした。






『現在、13時から18時まで定期メンテナンス中のため、サービスをご利用することができません』


 熱い日差しの中、家に帰ってきて早速ログインしようとしたら生憎の定期メンテナンス中に俺は失意のどん底に沈むのであった。



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