第15話 誤解のMPK

 MPK、モンスタープレイヤーキラーと呼ばれる行為は、時折プレイヤーをキルする行為であるPKのできないオンラインゲームで起きるPKの一つだ。


 幻想世界と違い、このFW《ファンタジーワールド》ではコロシアムなどの特殊なエリアを除き、プレイヤーがプレイヤーをキルする行為であるPK、それを含めた大量のモンスターを擦り付けてプレイヤーをキルする行為のMPKが禁止されている。


 FW《ファンタジーワールド》の最初の説明でも念を押されたし、攻略サイトなどでも注意されていた。運営もかなり目を光らせているらしく、そのような行為を行ったプレイヤーは瞬く間に処罰されるらしい


 言ってしまえば、PKやMPKというのは一部のオンラインゲームでは一つのプレイスタイルとしているが、この世界においては完全な悪であり、忌むべき物なのだ。


「え?……え、これって、MPK!?」


 洞窟内に押し寄せてくる大量のコボルド達を見て目の前にいる女性プレイヤーは戸惑い、おろおろしている。


 目には段々と涙が溜まってきており、今にでも泣きそうな雰囲気を出している。


「いや、ちょっと事故というか、偶然というか……」


 状況が状況なので仕方ないのだが彼女は完全に誤解している。泣きながらも俺のことを親の仇とばかりににらみつけている。


(あぁ!こういう時はどうすればいいんだ!)


 女性と話すにしてもさすがにこんな状況で話したことは無いので、対処に困る。弁明するにしても段々とこちらへと向かってくるコボルド達を無視することはできないし……


「ちょっと、奥に行っててください!」


 俺はとりあえず誤解を解くことを後回しにすることにして、最初にこちらへ向かってくる敵の対処をすることにした。強引に押したために女性プレイヤーは驚いて「キャッ!」と言ってしまったが、この際仕方ない


(師匠、早速言いつけを破ってしまい、申し訳ございません!)


 幾ら敵が弱いとは言え、事は至急を要する状況だ。後続で来るであろうゴブリンやスライムのこともある。俺は全力を出すためまだ慣れない画面操作を行い、本気装備を装着した。


『オオォォオオォォォォォォ……』


 コロシアム以来の黒騎士装備と絶望と怨念の大剣、装備した瞬間、後ろにいる女性から悲鳴声が聞こえた気もするがとりあえず無視した。


「さぁ、かかってこい……!」



「フン!」


『ギャ!』


 飛びついてきたゴブリンを横なぎに切り払う、先ほどの訓練用大太刀と違い、絶望と怨念の大剣だと豆腐を斬るかのような感触があった。


 そんな仲間の惨劇を見ても、他のモンスター達は臆することなくこちらへ向かってくる。俺はマニュアル操作でとりあえずぶんぶんと大剣を振り回していた。


 マニュアル操作でマイナス補正がかかっているだろうが、それでも余りある火力は序盤のモンスターなんぞ物ともせず。たとえ鎧に飛びつかれても、黒騎士の防具の怨霊により消し飛ばされていた。













(……これで、終わりかな?)





 洞窟の入り口は、地面が抉れていたり、洞窟の岩の部分がところどころ切り傷のようなものから欠けていたりといった状況だった。もしモンスターの死体が消えない仕様だったのなら、洞窟の入り口には死体の山ができ、辺りは血で染まっていたのだろうと思う


 血の海の代わりというか、洞窟の入り口には倒したモンスターのドロップアイテムが大量に落ちてあり、ちゃんとなめされた毛皮だったり、牙だったり、スライムの核だったり、回復ポーションだったりと様々だ。


(これを一々回収するのは面倒だなぁ……そうだ!)


 ぶっちゃけ自分からしたら倉庫に大量にあるので、処分に悩んでいたのだが、神の啓示かの如く、名案を思い付いた。


「あのーー?」


 とりあえず、洞窟の少し奥で待機してる女性プレイヤーに声をかける。女性プレイヤーは口をあんぐりと開けてこちらが近づいても反応を見せない


(……うーん、反応しないなぁ?)


 目の前で、手を振ってみたり様々なアクションをしてみるものの、何の反応も得られなかった。一応視線は動いているっぽいので意識はしっかりしていそうだ。ただ現実逃避してるような感じなので、大丈夫だとは思うのだが









 五分後


 とりあえず、彼女のことは放置しておいて洞窟入り口に散らばっているアイテムを回収し、ひとまとめにしていた。丁度まとめる作業が終わる前ぐらいに、やっと正常に戻ったというべきなのか、直立不動で動かなかった彼女は一瞬ビクッと身体が動き


「なななな何ですかーーーーーそれーーー!」


 数分遅れの衝撃に俺は思わず苦笑してしまった。








「この度は誠に申し訳ございませんでした」


「いえいえ、私こそ勘違いなどいろいろと……」


 やっと話せる状況になって二人が最初に発した言葉は、謝罪であった。


 最初は怨敵を見るかのような目で見ていた彼女も、誤解と自分の早とちりだったことに気が付くと、互いに謝り続けるという奇妙な光景が生まれていた。


 一人はまるで冒険家のような服装、もう片方はRPGゲームに出てくるラスボスのような姿をしていて、そんな奇妙な二人がひたすらに謝るという光景は当人達も次第に気が付き、一旦の話に区切りがついた間に、お互いクスっと笑ってしまった。


 そのあとは、とても和やかなムードで話が進み、今回の事件がモンスターチェインによる事故で、たまたま彼女が居合わせてしまった不運な事故としてまとまった。しかしペガサス自身、彼女に迷惑をかけたことに申し訳なさと、今回の事故によって生み出された。ストレージを圧迫する大量のアイテムを一括にして処理するための打算的な気持ちも兼ねて100を超えかねない敵からのドロップ品を彼女に受け渡すという形で話がまとまった。


 アイテムを渡すと話を聞いたとき、とんでもない!と遠慮していた彼女ではあったものの、ペガサスの渾身の演技?という名のごり押しでアイテムを譲渡した。


 ついでにではあるものの、これも何かの縁ということでお互いにフレンド登録を行った。


 彼女は最初にペガサスのプロフィール欄が非公開になっていることに疑問を述べたが、フレンドになったばかりであまり詮索するのも良くないだろうと思い、お互いにまた何かあればという形で、街で解散になった。



(初めての、フレンドだ……)



 そんな中、洞窟から街へと戻る間、そして街で彼女と解散した後も、ペガサスは幻想世界から続くゲーム人生において、初めてのフレンドができたことに猛烈に感動しているのであった。


 ちなみにフレンドになった彼女の名前はトウカというらしい

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