第14話 エネミーチェイン

 パァン!という破裂音と共に、大太刀がスライムにめり込む。そして振りかぶった大太刀が止まるが、スライムは依然として健在だった。


(素手で一撃だったから、武器を使って一撃じゃないとなるとやっぱりスキル発動しているっぽいな)


 今装備している訓練用大太刀のスキル、攻撃倍率が1.1倍以下の場合は与えるダメージが10に固定される。春風の草原に出てくるスライムのHPは大体200~300程度、素手でも一撃600ダメージぐらいは入るから、例え補正が無くても固定10ダメージが無ければ一撃で倒せるはずだ。


(しっかしどうすればいいのやら……)


 とりあえず分かったことは、力任せに武器を振っても駄目ということだ。一応確認のため、二十数回殴ったらスライムは溶けたように消えていった。


 残り一匹、攻撃するためにノロノロとこちらに寄ってきてるスライムから一定の距離を保ちつつ考えてみる。色々記事を読んでみたが、剣の重心だったり、ブレだったり力の加え方だったり色々書いてあったものの、最後は個人の感覚と書き記してあったため、半ば手探り状態でやっていた。


 ドムッ!パァン!っと、斬りつけたり、突いてみたり様々な方法で攻撃してみるものの依然としてスライムを倒せる気配がない、こればかりは様々なやり方を試していかないといけないと思いながら剣で斬り続けた。



 ~一時間後~


「さっ、流石にイライラしてくるなこれ……」


 草原と森の境目辺りのため、敵は絶え間なく出現するが困るほどでもない中、30分程度ずっとスライムだけを斬り続けていた。


 しかし一向に攻撃倍率が1.1倍以上いかないらしく、ずっと固定ダメージが出続けている状態だ。困ったことに、倍率補正は表示されないのでどの斬り方が一番良かったのかも分からないのだ。それも相まって非常にイライラしている状況だった。


「……おらぁ!」


 地道な作業はそこまで苦にしない方だと思っていたが、結果が出ない、どれが最善なのかがわからない状況がここまで辛いものだとは思わなかった。


 怒りの沸点は静かに頂点へと達し、先ほどからわらわらと現れるスライムが丁度手前まで来ていたので、大太刀をバットのように持ち勢い良く振りかぶった。


 ドン!と確かな手ごたえと共に俺は思いっきり振りぬいた。すると大型犬ほどの大きさがスライムは、物凄いスピードで森の中へと飛んで行った。


 ザワザワッ!


 スーパーボールのように勢いよく飛んで行ったスライムが森に入った直後、ハッキリと聞こえるほど大きな音で森がざわついた。そして一瞬シーンと静寂が訪れたが、その直後、何やら地響きが段々と大きくなっていった。


「ん?スライムが一体二体と、おっ、ゴブリンも出てきたか……え?」


 森の中からスライムが数匹現れて、ゴブリンの姿も確認した。だがその後ろからさらに一体、どころではなく数十体単位でこちらに向かって突撃してきた。


『グギャギャギャギャ!』


 スライムより動きの速いゴブリンたちが先行する形でこちらへと向かってくるが、ゴブリンだけでも軽く30体は超えるだろう、さらに奥からスライムが来るとなると下手すれば100体以上いるかもしれない


「ちょっとこれは聞いてないぞ!」


 今のレベルであれば、例え袋叩きにあったとしてもダメージは無いだろう、しかし仮想世界だが、現実世界でいえば不良たちが自分に向かって大量に向かってきてると思えばいいだろうか


 まさに迫力負けである。ゴブリンの集団が見えた瞬間、俺の中では戦うという選択肢は完全に消えており逃亡という二文字が頭の中を占めていた。


(こ、これなら何とか逃げれそ……ってあれは!?)


 物凄いスピードでゴブリンの集団が襲ってくるものの、脚力ではこちらに分があるようで、どんどんと距離が離れていくことに段々と心に余裕が生まれてきた。しかしゴブリンたちはまだ諦めて無いようで、まだまだ追いかけてくる。


 先程見る余裕すらない周りを見渡してみると、少し距離が離れた前方にて、ゴブリンと戦っている初心者と思われるパーティーを見つけた。ゴブリンたちは森から出てきてそのまま反対方向へと逃げてきたため、方向的には難易度が低く、街から近い草原のため、俺は無意識のうちにモンスターの集団を引きつけてしまったようだ。


 そのパーティーは至って真剣で、悪く言えば視野が狭いといえるのだが、こちらを認識していなかったようだ。


(流石に巻き込むのはまずい!)


 さらにギアを上げればモンスター達を撒いて擦り付けることはできるだろう、しかしその犠牲者になるのはFW《ファンタジーワールド》を始めたばかりの、名前も知らぬプレイヤー達だ。故意ではないにしろ、モンスターを擦り付けるような行為は憚られた。


(くっそおおおおおおおおお!)


 流石にそのまま来た道を戻ってモンスター達の中に突っ込むのは怖いので、競技場のトラックを回るような形で迂回し、ながら人気のない森を目指した。












「ちょ、これは、さ、流石にまずい!」


 森の中は周りが視認しにくく、モンスターの多い危険地帯だ。しかし先ほどの状況下ではこの方法しかなかったため、俺はガサガサガサと草木の中を突き進み、森のさらに奥地へと突き進んでいった。


(モンスターもやっぱり多くなっている!)


 追ってくるモンスターの量も先ほどより一回り二回りも多くなっており、ゴブリンに加え、まるで野犬が二息歩行になった様な風貌のコボルドというモンスターまで加わっていた。追跡能力も高く、さらに足の速いコボルドは非常にやっかいで、ついでに石を投げてきたり、追いながら遠吠えで仲間を呼んでくるコボルドに対して、ひそかに殺意が沸々と湧き上がってきていた。


(やるにしてもここじゃ戦えない!場所は……あそこか!)


 現実世界ではありえないスピードで草木をかき分けながら進みつつ、目の前に丁度良い洞窟があったので、そこに向かった。


 戦うなら1対10を一回より、1対1を10回する。


 これは俺が幻想世界で学んだ1対多との戦いで学んだ教訓だ。


 集団で襲ってくるというのは、1対1のような状況下に持っていければ、場合によっては他のモンスターの強さより、強さが一回り弱くなる場合がある。


 また使ってくる戦法も逃げ道を塞いだり、死角を突いてきたり、傷つけば後退し、回復すれば戦線に復活する。という集団戦に特化した戦法だ。見た目や言動は知性の無い獣そのものだが、集団で動いてくるモンスター達はこれらのような非常に高度な戦法をとってくる。


しかし場所を選べばそのような厄介な戦法は効果が薄れたり、全く機能しなかったりする。そうなればこちら側が有利になる。そのため戦う場所というのは非常に重要なのだ。


 それらの教訓を生かすため、逃げ道は無いものの、死角も多く、360度どこから襲われてくるかわからない森の中よりは、洞窟の外、もしくは洞窟内の二方向に敵の方向が絞られる洞窟が良いと考えた。


(うおおおおおおぉぉぉ!)


 ゲームの世界だからか走り続けていても疲れは無いものの、長い時間狙われるというのは思いのほか精神的に疲れるもので、先程から嫌らしい戦法を使いながら追いかけてくるコボルド達をぶっ飛ばしたいのも相まって急いで洞窟内へと入っていった。


「発光石!」


 洞窟内へと入ったら、すぐにアイテムストレージを開き、手を掲げて、名の通り発光して周囲を照らす石、【発光石】を使用し、暗い洞窟内を照らす。


発動キーを唱えた発光石は瞬時に暗闇を照らし、辺りが見渡せるようになった。


「キャッ!」


 発光石で洞窟を照らした瞬間、女性の叫び声が洞窟内に反響する。何事かと思い見て見ると、リュックを背負い、ピッケルやロープ、それに長時間の使用によって、光が弱くなった発光石をペンダントのようにつけた如何にも、採掘しに来ましたという格好の女性プレイヤーが居た。


「……どうしよう」


まだまだイベントには尽きないようだ。

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