第13話 最もプレイヤーを殺したモンスター
師匠の勧め通り、俺は第一大陸の通称、『始まりの街』へと来た。
幻想世界では、リアリティを追求するためか船や馬といった乗り物が必要で、俺が持っている騎乗モンスターで最速のワイバーンを使ったとしても現実世界の時間で二日はかかる。そのため、非常に億劫ではあったが、FW《ファンタジーワールド》では仕様が変更されたらしく、ファストトラベルなるものが実装されていた。
ファストトラベルでは、大陸間にて約1万ゴールド、街から街への移動で500ゴールドといった感じだ。合計すれば8万ゴールドぐらいの出費ではあったものの、大した額ではなく、第五大陸から第一大陸へ8万ゴールドで一瞬にして移動出来ることに俺は感動の涙をこぼしそうになった。
降り立った始まりの街は、西洋をモチーフとし、別名花の街とも呼ばれるほど、色とりどりの花が咲く美しい街だ。そんな街の建物の外観などは幻想世界に似ているが、俺が知っている街ではなく、街はより現実のように道が複雑になり、建物の種類も増え、NPCの数は増え、何より祭りかと思うぐらい賑わっており、様々なプレイヤーが個々の目的を果たすため、動いていた。
「おぉ、これがFW《ファンタジーワールド》!」
始まりの街のせいか、コロシアムの特別区に比べて初心者装備のプレイヤーが多いようだった。だが決して全員というわけでもなく、中には始まりの街から1つ2つ先で入手できる装備を付けているプレイヤーもいた。
俺が降り立った場所が始まりの街の中央広場の噴水前というのもあるだろうが、この活気はとても驚き、そしてとても新鮮だった。
「あ……」
そんな活気溢れる場所であるが、俺を中心として誰も入らない空間が出来ていた。周りを見て見れば、NPCはこちらをチラチラと見てくるが、俺が見返せばサッと視線を反らし、そそくさと逃げていく、プレイヤーは物珍しそうに見てくるが、NPCの反応を見て察したのか、NPCと同様に警戒して近づいてこなかった。
(幻想世界でも似たようなことはあったが、まぁこんなものなのか)
幻想世界と同様FW《ファンタジーワールド》においても新月流という名は轟いているらしく、道場から遥か遠くの地である始まりの街でもその名は絶大のようだ。
流石に、第四、第五大陸といった。影響が受けやすい大陸ほど大げさではないことに俺はひとまずホッとした。
(第四大陸ぐらいからだと視線が合ったら命乞いされたりするからなぁ……)
何を思ったのか、俺を見た瞬間NPCが命乞いを始めて、それを勘違いした衛兵が飛んできて、色々と大騒ぎになる。なんてことが起きなくて本当に良かった。
そんな昔の思い出にも浸りつつ、この街でやることなどは特にないので、俺は早速春風の草原へ向かうべく動き出した。
「つ、疲れたぁ……」
彷徨うこと30分、街の構造から周辺の構造まで色々と変わっているらしく、一苦労した。
街自体が幻想世界の頃に比べて、大きくなっているというのもあるが、始まりの街の四方にあったマップは全部春風の草原に変更されているらしく、苦い思い出のある深緑の樹海などの、高難易度マップは聞くところによると、第一大陸の終盤あたりに配置されたそうだ。
そんな違いに苦労しつつ、他にも衛兵に職質を三回ほどされたりしたが何とか春風の草原へとたどり着いた。
春風の草原は、まさに見渡しの良い草原で、名前の通りに春風が心地よく吹く、そして一部には森のような場所もあり、難易度の低いエリアだ。街の付近ではスライムやコボルト、奥地へ進むと森に覆われ、さらに奥には山がある感じだ。
街の郊外では、いろんなプレイヤーがスライムやゴブリンといったモンスター達と戦っており、皆楽しそうだ。むしろプレイヤーの数が多くモンスターの取り合いみたいな状態になっている場所もあった。
こんなところで俺が戦い始めれば装備のスキルのせいで、テロになってしまうため、草原と森の丁度中間ぐらいの人気のない場所まで移動し、近くにスライムが単体でいたため、早速戦闘を始めることにした。
スライム、その名のモンスターは某国民的RPGの代表的なモンスターの一匹であり、少しでもゲームをやったことがあるなら知っている有名なモンスターだろう
剣と魔法の世界をモチーフとするゲームには必ず出ると言ってもいい程のモンスターは、もちろんFW《ファンタジーワールド》、幻想世界にも序盤の敵として登場する。
幻想世界でのスライムは、目や口があるわけではなく、青く半透明のゼリーのようなモンスターで、中には赤い核となる部分が存在する。
スライムは、主に第一大陸にて出現する。
他のRPGゲームと同じく幻想世界でも最弱モンスターではあるものの、運営の公式ホームページにある。モンスターがプレイヤーを倒した数ランキングにおいて、堂々の第一位に輝いているモンスターなのだ。
なぜ、最弱モンスターであるはずのスライムが最もプレイヤーを殺したモンスターになっているかというと、単純にスライムと戦ったプレイヤーの数が多いからだ。
他にも、プレイヤーの初めての戦闘の相手としての回数も多く、そして数多の数のプレイヤーの心をへし折ったモンスターだ。
幻想世界での質問掲示板では、必ずと言ってもいいほど最初にスライムが強すぎませんか?という質問があり、それが幻想世界では普通という返しがテンプレとなっており、その後その質問主が再度掲示板に書き込むことはほとんどないというのがいつもの光景だった。
俺自身、スライムと初めて戦ってから20連敗し、攻略wikiにもスライムの弱点だったり、戦い方だったりなどを書いたのだが、なんせスライムに負けるわけがないなどの先入観のせいか、被害者は後を絶たなかった。そしてスライムに心を折られ、くそゲーを言い残し、去っていくのだ。
そしてそんな幻想世界一の殺人モンスターが俺の前に相対している。
大きさは俺の腰に届くぐらいだろうか、大型犬ぐらいの大きさで、実際に仮想世界で見て見ると思っていた以上に大きく、思わず竦んでしまいそうになるが、フォルム自体は幻想世界と変わらず。動きも非常に遅かった。
「------ふぅ、ハッ!」
肺から空気を出し、身体から力を抜く、そして一気に力を籠め、地面をえぐるように殴る。ゼリー状の外殻ははじけ飛び、拳は中央の核に到達する。確かな手ごたえに、俺は思わず笑みを浮かべる。ピシッっと音と共にスライムの核にヒビが入り、はじけ飛ぶ、核が壊れたスライムは形を保つことができずに、ドロドロと液体になって消えていった、
(よし、素手だと一撃で倒せるっぽいな、万が一の場合はこれで何とかなる)
大丈夫だとは思っていたが、一応素手で殴れば訓練用大太刀の固定10ダメージという制限はかからないらしく、一撃で仕留めることができた。
素手が大丈夫ということは、モンスターが増えに増えても処理できるので心置きなく戦うことができる。
ガサッ
今の戦闘でエネミーチェインが発生したため、近くの茂みからスライムが2体現れた。俺は本来の目的である訓練用大太刀を取り出し、スライム達に向けて構える。
「やるか」
俺は一匹のスライムに目標を決め、力任せに振りぬいた。
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