第11話 火口野鉄心いう男
火口野鉄心、幻想世界においてその名は主に悪い意味で名を轟かせていた。
幻想世界の設定において、冒険者は人類全体の約四割を占める職業だ。そのため、冒険者に関わる技術が比較的伸びており、戦闘術、魔術、薬学の三つは特に力を入れられている。
つまりは、現実世界にもある様々な戦闘術や道場があるが、現実世界より重要なため、その数はかなりのものになる。
武術家や道場主が稼ぐには主に格闘大会の優勝賞金や、ファイトマネー、道場を開いている場合は、その門下生からの受講料的なもので補われている。
名の知れた道場や武術家になると、冒険者ギルドから新人冒険者への臨時の先生として呼ばれることもあり、しっかりと力のあるものであれば食い扶持に困らない職業だ。
そんな数多の数いる武術家や道場の世界で、火口野鉄心という人間はとても有名で、触れてはいけないタブーのような存在であり、そして幻想世界において、五指に入る武人だ。
火口野鉄心は全ての戦闘術を極めているが、専攻は剣術で、それも大太刀を限定した珍しい道場だ。
ほとんどの道場や武術家が門下生や弟子を集めるために、複数の戦闘術を学ぶことができるようにしている。場所によっては幻想世界で確認されている戦闘術のほとんどを学べる場所も存在しており、その道場は幻想世界においてもっとも大きな道場だ。
そんな中、すべての戦闘術を極めておきながら大太刀のみ教えるというスタンスは異端であり、幻想世界で五指に入る実力者である火口野鉄心の道場も、今では悪名も相まって火口野鉄心が開く新月流の道場の門を叩く人間はほぼいない
俺は幻想世界に存在する戦闘術を学ぶために色々な道場の門を叩き、学んでいった。そして最後にたどり着いたのが新月流だ。
ほとんどの戦闘術において先ほど言ったほとんどの戦闘術が学べる道場、【武術協会】にて九割以上の戦闘術を学べるのだが、【武術協会】で学べない一部武術や格闘術は固有武術と呼ばれ、固有武術はその特定の道場へ足を運び、実際に弟子入りしないと覚えれないものがある。自分が確認しているだけでは、ざっと100種類ぐらいだろうか
ほとんどの戦闘術を学べる【武術協会】ですら、その武術を公開されていない固有武術の道場はどれもが条件が特殊で、はっきり言えば偏屈な道場主が多かった。
そんな偏屈な道場主が多い固有武術の道場の中でも、火口野鉄心という人間は間違いなくトップレベルで偏屈であり、もっとも取得に苦労した武術であると断言できる。
火口野鉄火、齢は大体40過ぎぐらいの男性。男性ではあるものの腰まである長い黒髪をポニーテールで結んでいる。無駄な筋肉をつけていないため、ぱっと見では、細長くひょろっとしており、病人のような色白な肌も相まって、街を歩いている一般人より弱そうに見える。
普段は感情の起伏が穏やかで、比較的温和な男性なのだが、刀を持つとそんな性格が180度変わる。
彼の使う刀、というより大太刀は、長身である彼が背負っても地面にぎりぎりつかない程度の長さを誇り、敵を叩き潰すという意味合いの斬馬刀と違い、まさに刀と同じく敵を切り裂くための大太刀だ。
最初彼の豹変を見たときはその大太刀が呪いの装備なんじゃないかと疑ってしまうぐらいの豹変ぶりで、豹変した彼の性格はまさに、残忍、冷酷、戦闘狂といった感じだ。
そして大太刀というか刀というのも不人気で、戦闘術を学ぶ人間のほとんどが、新人冒険者であるが、貴族の次男坊などのごく一部を除けば皆が皆お金に困っている状況だ。そのため頻繁なメンテナンスと高い技量が必要な刀というのは真っ先に避けられるものの一つであり、拙い技術しか持ち合わせていない冒険者が力任せに切りつければぼっきり逝ってしまう刀はほとんど使い手がいないといえる。
だから道場主の性格と、刀という不人気な武器、これから導き出される答えはおのずとわかるというものだ。
「……」
街のほとんどが亜人で占められるため、亜人に合わせた特徴的な家屋が並ぶ中、まるで周りの家にすら避けられているようなぎっしりある住宅地にぽっかりと空いた土地に、異質な日本屋敷のような道場があった。
テニスコート一つ分ぐらいの広い板張りの部屋には、師範が鎮座する上座に、壁に掛けられている大太刀以外には何もない隙間風の吹くぼろ屋敷といった感じだ。
そんな場所ではあるが、家を支える木柱や壁には大小様々な無数の切り傷があり、柱にいたってはすっぱり綺麗に切り落とされている物もあった。
「……まだかな」
そんな場所で俺は上座を対面として正座でかれこれ10分程度待っていた。
普段ならいつも道場にいるのだが、今日は何やら買い物に出かけているという情報を近所の亜人から聞き、とりあえず道場で待つことにしたのだ。
幻想世界では画面越しの三人称視点からよく見ていた景色は、現実世界と同じような視点から見てみると意外と新鮮であり、幻想世界では無かった刀傷などがあった。
ドンッ……ドン……
「んっ、来たか……」
そんな風に新しい発見を見つけながら暇をつぶしていると段々と近づいてくる足音が聞こえた。この道場に師匠以外は絶対といっていいほど入らないのできっと師匠なのだろう
「では、」
正座で待っていた俺だが、カチャリと横に置いておいた大太刀を手に取り抜刀する。
ガラッ
「ん?おぉ、ペガサスきていた---」
「先手必勝!鎖絶!」
師匠が戸を開けた瞬間を狙いスキルを発動させる、オート操作のスキル発動ではあるものの、大太刀はまさに一瞬と呼べる斬撃に、完璧な不意打ちのタイミングで師匠に切りかかった。なぜいきなり切りつけたかって?だってそれがこの道場のルールであるからだ。
「フッ!……って全く、不意打ちか、綺麗な斬り方ではあるが、信念が籠っていないな!」
「むっ!」
上段の構えから振り下ろした太刀筋は、パシンっと師匠の真剣白刃取りによって受け止められた。受け止めた衝撃で、ミシミシと板張りの床が鳴るが、師匠は平然とした顔だ。大木でも断ち切れそうなほどの業物の大太刀を師匠は、まるで女性のようなか細い腕で……女性?
「あ……あれ……師匠……?」
元々師匠が女性のように髪が長く、体つきも細かったため不意打ちした瞬間は気が付かなかったが、痩せこけてた男性ではなく、意思の強さがハッキリわかる目がキリッとした大きな目に、幻想世界よりさらに長くなり、それは地面に着きそうなほど長く、そして漆のような黒髪、そして色白といえるきめ細かい肌、まさに日本の美人といえる女性が目の前にいた。
「あなたは誰ですか?」
本当に、あなたは誰ですか?
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