閑話 ペガサスというプレイヤー

 

 幻想世界、今では話題にも上がらなくなったがつい最近まで稼働していたオンラインゲームだ。




 そしてその幻想世界は私が初めて作ったゲームにもなる。




 無論、ゲームを作るための知識を得るために数多のゲームを作っては来たが自分が製作チームの主軸となって、人様にお見せする物としては初めてだ。




 結果から言えば失敗、それも大失敗と言っても過言ではない




 グラフィックは当時としてはひと際目立つ程の高クオリティではあったが、操作方法、難易度等が大衆受けしなかったのだ。




 確かに幻想世界は他のMMO……いや、ゲーム全体で見ても屈指の難易度を誇るし、そう目指してきた部分がある。




 元々難しい類のいわゆる死にゲーや初見殺しと呼ばれる類のゲームが好きであり、もし自分がゲームを作るのであればそのような類のゲームを製作したいと思って、そのゲームが幻想世界になる。




 操作方法だって最初は戸惑うかもしれないが、一度慣れてしまえば正に自分が思ったように動かせるし、高度な戦闘だって可能だ。




 そんなコアなゲームを好む類のゲーマーというのはやり込み要素や収集要素を好んでいると踏んで、幾千にも及ぶアイテムや毎回入って見飽きない不思議のダンジョン、もしくはローグライクと呼ばれる系統のダンジョンも導入した。




 しかし、余りにも難しすぎ、複雑な為に収益は付かず。時代の流れと共に消えてしまった。




 今思えば、単に難しくしただけであり、ゲームをするプレイヤーに対して挑戦意欲を掻き立てる要素だったり、何度も死んで覚えるのに再チャレンジするまでの過程が長すぎたりといった欠点が生まれた。当時の私としてはそれすらやり込みの範疇であり、会心の出来と思っていたが、客観的に見ればクソゲーでしか無いのだろう、実際にゲームをプレイする側になってみたら確かに酷い出来だった。




 今ではそれらの反省点を生かしつつ、長所であったやり込み要素を取り入れたFWファンタジーワールドはゲーム業界で歴史に名を残すほどの大盛況ぶりだ。




 そして良くも悪くも思い出深い幻想世界はFWファンタジーワールドとして生まれ変わった。それに気が付くプレイヤーは一体何人いるのだろう、FWファンタジーワールドが盛況なことは嬉しいが、例えクソゲーであっても私が初めて主軸となって作ったゲームが忘れ去られるのは悲しい




 だがそんな幻想世界でも目一杯楽しんでくれた一人のプレイヤーがいる。




 幻想世界がいろんなプレイヤーからクソゲーと認定され、稼働一年目にして過疎状態になった頃にそのプレイヤーはやってきた。




 大体この幻想世界というゲームを始める者は、他のMMOからの流れ者だったりが大半のため、序盤やるべきことを分かっているため、効率よくプレイするのだがそのプレイヤーは違った。




「・・・・・・・え?いきなり深緑の樹海に行くの!?」




 彼がとった最初の行動は、序盤では勝つことが不可能なレベルの高難易度エリアへの直行だった。




 念のために説明しておくが、幻想世界は難易度が高いように難しく設定されているがいきなりLv1のプレイヤーに中盤クラスのモンスターと戦わせるほど設定はしていない




 街の住人数人に話でも聞けば、街の東西南北にある各エリアのおおよその難易度は説明してくれるし、最後の砦として街の門番をする衛兵が注意してくれる。




 しかし彼はそんなことを無視して樹海へと突っ込んでいったのだ。




「さすがにそれは無茶だよ・・・・・・・やっぱりほらぁ」




 樹海は濃霧で覆われていて視界も悪く、マップも正常に表示されないようになっているが、そんなことはお構いなしに走っていた彼は目の前に現れた森の巨人に叩き潰されて一撃で絶命したのだった。




「いきなり殺されるのは流石にきついよなぁ」




 その時、私が思ったことは多分ゲーム初心者であろう彼も他のプレイヤーと同じくこのゲームをやめてしまうのだろうという、半ば決めつけのような諦めだった。




 流石に私でも一年も経過して幻想世界がほとんどプレイヤーのいない状況なら流石に幻想世界がクソゲーであるというのは分かっていたし、プレイヤー目線に立ってみればどれだけ理不尽な殺され方をしたのか、今起きた惨状を見て分かってしまった。




「ゲームを作るって難しいなぁ」




 現在、今の幻想世界は収益が付かず、会社で新作ゲームが完成に合わせてサービスを終了することが決まっている。その為か上の方からはもう幻想世界という物は見限られていて結構何をやっても幅が利くようになった状態だ。




 だったら大幅なテコ入れをするべきか?と考えたことがある。どうせ見限られた作品で何でもやっていいなら、時間がかかっても、少しでも改善するべきではないかと思った。




「えーと、彼は・・・・・・・」




 全くプレイヤーのいない状況下、悲しいことに彼を見つけることは造作もない、見てみると彼は数秒呆然とリスポーン地点で棒立ちしていた。




 ログアウトする気配がない所、まだ見限ってはいないようだった。私はそのことに驚きつつも彼が次に何の行動をとるか気になり見守っていた。




「彼は・・・・・・・おっ、まずは街の住人に話しかけるのか、よしよし」




 彼はまた無謀な突撃をかけるのではなく、情報収集をすることにしたようだ。とりあえず手あたり次第話をかけているようで、中には嘘を吹聴する輩だったり、いきなり殴ってきたりと散々な目にあいながらも、最初に挑むべき場所である簡単な春風の草原へと向かったようだ。










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「・・・・・・・・おっ、彼がログインしたか」




 彼がこのゲームを始めてから一か月が経った。




 てっきりすぐにやめてしまうかと思ったのだが、嬉しいことに現在まで続けてくれている。




 プレイする時間帯は平日は夕方、たまに昼過ぎぐらいからやっていて、休日は殆ど一日中やってくれている。プレイする時間帯を見るに大学生かな?仮に大学生だとして、休日もこんなゲームをプレイしてもらってるのは製作者側からして、嬉しい反面、彼の大学生活が不安だが余計なお世話だろう




 廃人とまでは行かないにしても結構な時間プレイしているため、始まりの街がある第一の大陸終盤まで来ていた。これまた悲しいことに、ここまでプレイしてくれるプレイヤーがいなかったため、彼は攻略サイトなどに情報も何もない、まるで開拓者のような形で試行錯誤しながらプレイしなければならない




 はっきり言えば、始まりの街の他、ゲームの序盤は何度か難易度調整を行った為、それなりに遊べるようにはなっている。それでもクソゲーという烙印を押され閑散としてしまい、運営ももはや放棄したも同然なのでそれ以降のゲームバランスに関しては何一つ調整をしていないのだ。だが彼なら必ず突破してくれる。という謎の信頼を寄せるようになっていた。










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「・・・・・・ファンタジーワールド、幻想世界を大幅に調整したVR向けMMORPGゲームか、なるほど」




「はい、幻想世界がなぜ失敗したか、そして今流行しているゲームにはどんな要素が流行する要因になってるかを分析し、それを幻想世界に組み込んだリメイク作品をVRゲーム向けに開発したいと思っています。」




「なるほど、確かに君は失敗したが上でも君の働きぶりは認めている。流石に前回の様な失敗をしないために慎重には行くが、良いだろう、上に掛け合ってみよう」




「ありがとうございます!」




 彼と出会ってから一年が経った。その間、彼のプレイを見るのと同時に、彼が何に苦戦しているか、何に対して喜んでいるのか、何に対してハマっているのかを分析した。そして幻想世界が他のゲームにない面白い要素を浮かびだし、他にも他の会社が運営してるゲームを実際にプレイしてみて何が面白かったのかをこれも分析し、まとめた




 そして、それらの結果をまとめ、幻想世界に組み込んだリメイク作品FWファンタジーワールドの計画書を上司に提出した。




 はっきり言って、これが成功するかは分からない、実際に幻想世界を作ったときにこれは売れると思っていたから今回は慎重にやっていく、私のエゴによって作られたゲームじゃなく、様々なプレイヤーに楽しんでもらうためのゲームだ。










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 そろそろ幻想世界のサービスが終了する。思えば長かったようで短かった。FW《ファンタジーワールド》の開発は、大元が幻想世界のため、思いのほか早く開発が進んだ。そしてFWファンタジーワールドの開発が正式に決まり、リリースされたFWファンタジーワールドは私の予想を遥かに超える盛況っぷりを見せている。同僚や上司でもこれほどFWファンタジーワールドが売れるとは思わなかったため、サーバーが悲鳴を上げ、リリースされて数か月が経つ今でもみんな大忙しだ。




 そしてFWファンタジーワールドが成功させるために半ばテストゲームとなっていた幻想世界のサービスが終了する日だ。最初の頃はよく観察していた彼は今でも幻想世界をプレイしてくれている。FWファンタジーワールドの開発だったりで、前よりは観察できなかったが、幻想世界で彼と共に過ごした時間はもはや友人と言っても過言ではない、といっても彼からしてみれば赤の他人で私の勝手な思い込みなのはわかってはいるのだが




 彼は何年もこのゲームをプレイしてくれた。しかし、彼がプレイしてくれたゲームは今日で終わる。彼が数年かけて集めたアイテムは電子の海で分解され、何もなかったことになるのだろう




「・・・・・・・・もったいないな」




 パソコンの前で私はそうつぶやいた。




 ゲームを運営している人間が特定のプレイヤーに肩入れするのはルール違反だろう、それは分かっているのだが、誰も遊んでくれなかった私のゲームで彼は何年も遊んでくれたのだ。少しぐらい肩入れしても良いじゃないか




 カチカチカチ




 私は運営メールと称して、私のエゴで彼にFWファンタジーワールドへの招待状を送った。本当はVRキットとソフトを同梱で送りたかったのだが、流石に住所を教えてくださいとは言えない、そのため私は現在でも入手困難なVRキットとFWファンタジーワールドの優先購入権と割引券を彼に送った。




 ・・・・・・・・後々上司にバレてこっぴどく怒られたが、数年の彼の行動から自ら目立つタイプでは無いこと、FWファンタジーワールドを作るにあたり彼は知ってないだろうがテストプレイヤーとして活躍してもらったなどで必死に説得して何とか認めてもらった。




 ふぅ、非常に危なかった。

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