第6話 一際目立つ彼女

 取りあえず当分パーティーも組むこともないので、先ほどの山賊シリーズと双蛇剣を装備してPvPコロシアムに戻ってきた。


 先ほどの騒ぎも収まり各プレイヤーは、それぞれの目的をもって活動しており、今まで見慣れたルートを繰り返し移動するNPCだらけの町とは大違いだった。しかも見える景色は幻想世界で見たパソコン画面から見る景色ではなく、現実世界と同じ視線から見た景色である。感動と驚嘆は大きい


 先ほどは普通の装備といった山賊シリーズや双蛇剣はまだまだ珍しいらしく、持っているプレイヤーも少ないこともあってか、なんどかパーティーを組まないかというお誘いをもらったが丁寧に断っておいた。


 辺り一帯は冒険者だらけ、ほとんどが似たような初心者装備で中には俺のような職業の特徴が表れた装備をしている。中には金属鎧を纏っているプレイヤーもいて、他プレイヤーから羨望の眼差しを一身に受けていた。


「どうしようか、まず試合でも見てみようかね」


 FWファンタジーワールドの元となった幻想世界のプレイヤーなので、ここら辺のプレイヤーより、アイテムの種類や攻略情報は知っていると断言できる。


 だがしかし戦闘などはパソコンから見るような視点ではなく実際現実と同じ視点、しかも詠唱に至っては、タイピングではなく実際に恥ずかしいセリフを言わなければいけない


 放つ魔法にもよるだろうが、絶対幻想世界より魔法を放つスピードは速くなる。ということは今まで戦ってきた敵への攻略の幅が増えるし、PvPのような対人戦でも立ち回りが変わってくる。ならば見学するしかないだろう


 俺がいるリーグは一番上のチャンピオンーリーグS、各リーグごとにある階級C~Aの中の一番上にあるチャンピオンーリーグじゃさらに細かくC~Sまである。


そしてその一番上のリーグの一番上の階級であるチャンピオンリーグSに居るNPCキャラクターははっきり言うと、とんでもなく強い、そこらのダンジョンボスとは比べるのがおこがましいほど強い


 初期に設置されているNPCキャラクターのレベルから考えて行けてもブロンズAぐらいには人がいるのではないだろうか、俺はそう思いブロンズリーグのランキング表を開いた。


「ん?これは・・・・」


 ランキング表をスクロールしていたら、少し気になるプレイヤーがいた。


「シルバーA、このプレイヤーはダントツで強いぞ」


 シルバーAとは、各リーグ、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤ、マスター、チャンピオンの7つのリーグの内の下から二番目のリーグである。リーグはブロンズCからB、Aまで上がると、シルバーCにランクアップする。同リーグのCからBに上がるときも敵は強くなるのだが、リーグがブロンズからシルバーへと変わると極端に敵が強くなる。


 というのも各リーグのNPCの強さはブロンズで第一大陸、シルバーで第二大陸のモンスターの強さと大体同じぐらいに設定されている。


 今の攻略状況は第一大陸の始まり、やっとトップ集団が第二の町へ到着し始めたころだから今表示しているシルバーAのプレイヤーは異様に強い、Aなので第二大陸終盤レベルはあるのだ。


「もしかしたら俺と同じタイプかもしれないな」


 もしかしたらこのプレイヤーも幻想世界から引継ぎでやっていたプレイヤーかもしれない、そのプレイヤー名は『ユウ』とあり、男性か女性かは分からないが幻想世界では見たこともない、もしかしたら思い違いかもしれないが


「おい、あの『姫騎士』がまた戦うらしいぞ!」


「まじかよ、今日こそゴールドへ上がるかもしれねぇ!行こうぜ!」


 そうやって走りだす二人組のプレイヤー、ふむ、俺も行くか


 姫騎士って聞くに女性だろう、騎士ってことは騎士職にでも就いたのだろうか、確か騎士の職を受けれるクエストは第一大陸の第四の町だからかなりの進行具合だ。これは見ておかねば


 ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナの四つの転移門がある。補足するとマスターリーグの転移門はコロシアムの二階にあり、プラチナCから入場が可能になる。


「さて、行きますか」


 勿論行くのはシルバーリーグへの転移門、昔画面上で見た転移門をくぐるのは感慨深いものがあるが、ためらわずくぐった。


 =コロシアム・シルバーA 東口=


「「「うおおおぉぉぉぉぉぉ!」」」


 転移した瞬間、思わず耳をふさいでしまうほどのまるで怒号のようなあふれんばかりの歓声が飛び交っていた。観客は老若男女と幅広い人間で、ほとんどがNPCだろうが周りを見る限り100人以上の多くのプレイヤーが見えた。視界の端っこには


『コロシアムシルバーA  エリア1:プレイヤー数9583人【混雑】、』


「9583人っ!」


 このコロシアム全体じゃなくシルバーAの一部エリアだけでプレイヤーが約一万人もいるのか!どれだけ有名なんだ姫騎士は!


「っと、驚いている場合じゃない、プレイヤーが入場してきた」


 歓声と同時にコロシアムの中心の丸い石床のステージに立つ二人の人間


 あれが姫騎士で対戦相手は・・・リュウ・ケンシローかやっかいだな


 リュウ・ケンシロー、シルバーリーグAの暫定王者であるNPC、無しというか素手の格闘家だ。


 リュウはゴールドへ上がるためには絶対勝たなくてはいけない相手、もちろん俺も何度か戦ったことがある。そう、何度も


「まじで初見殺しだわ・・・師匠共々」


 リュウの師匠、東方不敗もリュウと同じ徒手空拳の使い手だ。リュウの完全上位互換が東方不敗というところだが


 リュウ・ケンシロー、ヒューマン族の格闘家、黒髪短髪で身長は170と割かし小柄、ゴリマッチョではなく必要最低限の筋肉しかつけてない青年である。


「さて、どう立ち回るか・・・っと、なんだこれ?」


 ちょうど空いていた席に座ると、目の前にステージがはっきり見える映像と二人のプロフィールが出てきた。


 プレイヤー1661 Lv28

 総合戦績 582戦317勝265敗

(対リュウ・ケンシロー0勝6敗1分)



 リュウ・ケンシロー Lv53

 総合戦績 806戦506勝300敗

(対ユウ6勝0敗1分)


 リュウはNPCのためすっきりした戦績、そしてプレイヤー名を非公開にしているのかプレイヤー1661というプレイヤーは約50戦でシルバーA、勝率がかなり高いことに俺は驚いた。


 シルバーA当時の俺の戦績はこうなる


 ペガサス Lv89

 総合戦績 7083戦503勝6580敗

(対リュウ3勝189敗)


 見ての通り俺はリュウに対しての対戦成績が非常に悪い、大体の敵とは負け越してるが勝率で言えばリュウは特に負けているのだ。


 そして昔散々な目に合わせたNPCであるリュウの脅威は二つ、【撃拳】と【鬼術】である。


 撃拳は防御貫通、ガード崩しの格闘術スキル一つで、それらのスキルは総じて威力が低くあまり強力なスキルが少ない、しかしこの撃拳と鬼術はとても強力で、格闘術支えている二大スキルだ。


 そして二つ目の鬼術、これはリュウのHPが半分以下になると使ってくるスキルで。防御DOWN(中)、HP減少し続けるという大きなデメリットがあるが、攻撃UP(大)、移動速度(大)に加え、リュウの攻撃パターンも変わってくる。


 一番難しいのはこの鬼術状態のリュウ、攻略法としてはひたすら避ける。逃げに徹するのが一番、この状態だと自分自身のHPがリュウを上回っていて時間切れを狙い判定勝ちをもぎ取るというものだがかなりやっかいである。


 まず移動速度アップ、この状態だと移動と攻撃だけでゴールドBクラスのNPCまで能力が上昇する。そして次が逃げる最大の理由


「双撃竜、か・・・」


 鬼術発動状態のリュウが使うユニークスキル【双撃竜】、上位互換に東方不敗の【覇龍・二式】があるが似たようなもので、防御貫通、ガード不可、ダウン確定の効果が付随した攻撃を硬直無しで二連続で飛ばすトンデモスキルなのだ。


 これのおかげで軽く二十回は死んだ。リュウよりレベルが高いのにかかわらず双撃竜の一発目でHPが七割削れてダウン状態になり、倒れている状態で二発目が飛んで終了・・・って感じだ。


 はっきり言うと俺の考えた幻想世界トラウマTOP50位以内にはにランクインする。


 プレイヤー1661っていうプレイヤーは、リュウよりレベルが低いので双撃竜どころか撃拳を食らったら即死だろう、どうやって勝つつもりなのか見ものである。


「さて、どんな戦いをするんだろうか・・・」


 そう呟いた瞬間、戦いのゴングは鳴った。





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