第2話 幻想世界の終わりと新たな始まり
「ぐぬぬぬぬ、白鋼鉄が足りない・・・けど採掘場が遠すぎる」
常に厚い雲が日の光を遮り常闇の大陸リベール、その大陸の中心にそびえ立つ山脈の付近にある洞窟で、全身漆黒の鎧を纏った大男がそう呟いた。
洞窟にともる灯火には、一式そろった鍛造セット、小さな椅子に腰を据え背中に鎧と同じ色をした漆黒の大剣を装備した騎士?がハンマーを持つという不思議な光景の主である漆黒の騎士?は落胆していた。
「まじかよ、白騎士装備一式作るのにここまで素材を消費するなんて思わなかった。これから採掘しに行くとしても時間が」
残り12時間37分
視界の端に表示されたタイムリミットはこのMMORPG『幻想世界』が終わるまでの時間だ。
今俺が遊んでいるゲーム、幻想世界は今から2年前ほどに始めたゲームだ。ゲーム自体はもう少し前から稼働していたらしいのだが、インターネットのあらゆるところを調べてみても、俺が始める前に行われたイベント等が書かれた攻略wikiは存在しなかった。
存在しない、というのは間違いかもしれない、幻想世界というゲームにも一応攻略wikiは存在する。攻略wikiという名だけを付けて、内容が全くないサイトでだったが
そして現在では、過去二年間のイベント情報や、各大陸の情報、全部俺が書いたものだが、自分の知りうる全ての情報を攻略サイトに書き込んだ。そのためか攻略wikiの総閲覧者数は10万人を突破している。が、最近のここ一か月間の閲覧者数はたったの4人だ。
掲示板に書かれる数々の暴言や罵倒、見ていて怒りが沸いてくるがやれ「難易度設定おかしい、システム周りも馬鹿みたいに使いにくい、つまりは運営もおかしい」だの「こんなゲームクソゲー以下だわww」など、ほとんどの書き込みはモンスターが強すぎるとか言われるが、そこまでなのかと俺は疑問を呈したくなる。
確かに始めたころは今や雑魚キャラの定番であるスライムに50回以上殺された苦い思いではあるものの一週間もすれば勝率は8割以上になるし、最初は戸惑った操作性だって慣れてしまえば、細かい操作ができるので、現在ではとても便利だと思うが
確かに俺が中堅プレイヤーと言われる物語が半ばに差し掛かった時に、行われた大規模アップデートで、さらなる操作ボタンが増えたときは、さすがに戸惑ったが、まあ慣れてしまえば(ry
しかも幻想世界は今ではVRと言われる仮想世界を使ったゲーム、VRMMO系のオンラインゲームには劣ると言わざる得ないが、当時ではそこらへんのオンラインゲームがフリーゲームみたいに見えるグラフィックを誇っていたし、自由度だって高い・・・はずだ。
といっても幻想世界以外のゲームはPVぐらいしか見たことないのでどうなのかは分からないが
と俺が幻想世界のいいところを述べたって掲示板では「運営乙w」や「だったら難易度設定どうにかしてください!」の他にも「グラフィックはいい、グラフィックならなぁ・・・」といった言葉しかこない
それを表すかの如く、時が経つごとに、サイトの閲覧者数は減っていき、そしてプレイヤーの数も減り、そして誰もいなくなった幻想世界は、あと12時間半で終わってしまうのだ。今では時々新規プレイヤーが極稀にいるぐらいで、ある意味ゲーム以上に賑わってた掲示板ですら、半年以上書き込みがない
「やっぱりみんな話題のファンタジーワールドやっているのかなぁ・・・」
当時はとにかくがむしゃらに幻想世界しかやっていなかったが、始めてから一年たち余裕が生まれてからは、いろんなゲームの紹介映像や評価を見て回っている。
VRMMORPG『ファンタジーワールド』まさに幻想世界と名前がほぼ同じこのVRMMOは、ネットの住人だけならず世間のあらゆるところで大騒ぎだ。
耳にするには「これまでのVRMMOとは格が違う!」、「やりこみ要素がぱねぇ」など俺のやっている幻想世界とは真逆の絶賛の嵐であった。
他にもゲームのコマーシャルは、一日に見飽きるほど流れるし、コマーシャル自体も。今までにない新しい表現を使った魅力的なコマーシャルが流れる。最初見たときはどれだけ金かけているんだろうと思わず思ってしまう。
その他にもニュースではファンタジーワールドの発売本数が歴代ぶっちぎり、現在も記録更新中だとか、それに伴うVR業界が活発して市場が拡大したなど世はファンタジーワールド一色・・・というわけではないが、世界的大人気なのは間違いない
調べるうちにファンタジーワールドはオンラインゲームの中でもかなり難易度が高い方だと聞く、だがと無理ゲーという訳ではなく仲間と協力しながらプレイすれば攻略できる絶妙な難易度で、難しいが手に汗握る緊迫した戦闘が出来て良いというが、幻想世界しかやったことないから分からないけど、幻想世界よりむずかったらどうしよう・・・俺できる気がしないぞ
といってもまだ幻想世界は終わっていない、まぁ、あと12時間半で終わるけどさ
リリース終了したら考えよう、今は目の前の白騎士シリーズ作成をどうするかだ。
幻想世界で入手難易度が難しいから後回しにしていたが、これを作成しないと武器防具コンプできない、そんな状態で終わるのは心残りになってしまう
しかし、白騎士シリーズには希少鉱石である白鉄鋼が必要となる。
鉄鋼という名が付くので、いかにも簡単に入手できそうな感じはするが、とんでもない、幻想世界で随一の入手難易度を誇る。
ここから約35キロ先のS+級エリア、サビラ樹海の深部にある洞窟の一部に採掘ポイントがあり9回採掘ができる、通常なら白鉄鋼の採掘率は0.5パーセントで、装備の能力やスキルまたはアイテム(課金)などを使えば7パーセントまで引き上げることができるが、今回必要なのはあと13個・・・無理じゃね?
次の採掘ができるようになるのは日付が変わってからである。極めて低い確率で『白鉄鋼×2』とかもあるにはあるが、そんなものはこれまでやってきた中で、片手で数える程しかない
任務やクエストなどの成功報酬でもらえることはできるが、生憎その特定のクエストは別大陸にあったりする。移動だけで一週間もかかる長い道のりだ。プラス旅の準備期間だって必要
「ということは・・・詰んだ?」
後悔先に絶たずという言葉が頭をよぎる。まさにその通りである弁解の余地がない
つい先日まで新イベントがあったのだ。このゲームをやるものなら必ずやらなければいけないだろう・・・だって面白いんだもん
大の男が、女の子口調でしゃべっても単にキモイだけだが、どう見たって無理ゲーなのだ。
「クエストで・・・やっぱり当てがない、これから探すにしても時間が・・・万一入手できたとしても制作時間もあるし」
結局無理なこと変わりないのだが、そんなことを考えていると
ピロリン♪
「ん?」
どこかで電子音が聞こえた。ふと辺りを見渡してみるがそこには二週間ほぼこもり続けた見慣れた洞窟の空間が広がっていた。
「あ、メールか」
よく見てみると、メールボックスにびっくりマークがついていた。なんせメールなんて四か月前のイベントの報酬通知以来のため、気が付かなかった
「えーと、なになに・・・・」
運営
ペガサス様へ
ゲームはお愉しみでしょうか?幻想世界運営一同です。
ペガサス様もご存じでしょうが、本日を持ちましてMMORPG【幻想世界】は終了させていただきます。ですが幻想世界をVRとしてリメイクされた作品、ファンタジーワールドが現在大好評サービス中です。ペガサス様は長きに渡りこの幻想世界を冒険してもらいました。運営一同感謝の証としてVRキットファンタジーワールド仕様を3割引券を特別配布させていただこうと思います。また幻想世界からファンタジーワールドを引継ぎ可能ですので、下記のURLから手順を読みバックアップを取って引継ぎを行ってください。長い間幻想世界をありがとうございました!
VRキットFW[ファンタジーワールド]仕様特別サイト
https;//Fantasy world.jp/net△△○○
FWへの引継ぎ方法
https;//Fantasy world.jp/help□□✖✖
運営一同より
「まじか」
今俺の顔はきっと間抜けな顔をしているんだろう、それほど衝撃的だった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます