幻想世界と始まりの大陸

第1話 幻想世界というゲームは

『幻想世界』という一つのオンラインゲームがある。


 数百と超える職業に、幾万とあるスキル、一からエディットが可能な防具や武器、やろうと思えば新たな物質の創造だって可能


 他を追従させない自由度を誇った究極のオンラインゲーム!


 これが幻想世界のキャッチコピーだ。


 確かに幻想世界の運営が言っている他を追従させない自由度はある。間違ってはいない


 システムも良く、世界に一つだけのオリジナル装備だって作れる。グラフィックも当時のオンラインゲームとしてみればかなりのものだろう


 確かにこの文だけ見れば大人気のゲームになりそうだ。。


 だが、この幻想世界というオンラインゲームはいいところよりも圧倒的に悪い部分が占めていた。


 まず自由度が高すぎた。武器や防具は確かに一から作れるがエディット機能を全面に押し出したためにオート機能や簡易機能という類のシステムに不備があった。


 そのため防具一式作るためにはデザイン、素材構成、加工方法などなどが必要となり、初心者一式装備を作るのに最低で二週間は必要。


 確かにユーザーが作った装備はNPCが販売している装備より性能がいい、ただ新人鍛冶職人の場合だとちゃんとした手順で制作したとしても、NPCの販売している防具より『斬撃耐性+1』の追加効果が付く程度だが


 幻想世界は、他のMMORPGに比べ、自由度とリアリティーを極限まで高めた。一応はモラルの範囲内だが、その高い自由度のため、色々な問題が発生した。


 プレイヤーが最初に降り立つ通称『始まりの町』が盗賊、敵国に攻められ陥落していたりなど、他のゲームではありえないような出来事が起こった。


 そして極め付けがゲームバランスの悪さであった。


 幻想世界ではゲームコントローラなどにも対応しているが、様々な要素を詰め合わせた幻想世界では、10いくつかのボタンで表現できる訳もなく、実際のところ、キーボードでなければまともに動かせないという有様だった。


 かといってキーボードでやってみようにも、戦闘で最低で20個のボタン、膨大なスキルや戦闘用アイテムを管理するためのショートカットキーを含め、味方NPC及びペットモンスターへの指示出し等、全てを十全にやろうとすればキーボードのボタンが40個も必要で、公式でもMMO用の多機能マウスの他、テンキーが付属されているキーボードが推奨される始末、それらの操作はかなりの頻度で使うという鬼仕様、決して文章を書くためではない戦闘を行なう際の操作に必要なボタンの数だ。




 戦闘もままならない状態でも敵モンスターの強さはオンラインゲーム特有の・・・・いや、オンラインゲームでも随一の強さを誇った。


 例えば、RPGゲームで最弱モンスターとして多いスライムやゴブリンといったモンスターを初見で一体倒すのに、プレイヤーは平均で五回は死んでいるといえば、その難しさがわかるかもしれない


 ダウンロード数は多かったがアクティブはかなり少ない、またやめるユーザーも他の追従を許していなかったのである。


 そんなゲームに一人のゲーム初心者がやってきた。


 彼の名前は新田翔馬、プレイヤー名をペガサスというなんとも安直なネーミングセンスに、オンラインゲームというよりゲームすら碌にやっていない人間がこの幻想世界に来た。


 どんなくそゲーマニアであっても皆やめるゲーム、幻想世界史上最悪のクソゲーだが、なんのゲームもやっていなかったのが良かったのだろう、理不尽すぎる状況でも


「ゲームって難しいなぁ」


 で済ましていたのだから


 最弱モンスターであるスライムとの初戦闘から20連敗してたときでも


「うっわ~スライムってこんなに強いの?俺って才能ないな」


 とか


 パソコン画面ではまず初見では回避不可能である『認識しずらい段差による落下死無意識の自殺ダイビング』の時であっても


「ええっ!?なぜ死んだ?異常状態?近くに敵はいないから画面外からの敵の遠距離攻撃?・・・・落下死ってマジか・・・・」


 などの鬼畜仕様の数々、だがそのゲーム初心者は


「まぁ、俺って初心者だから」


 と、言葉で終わらせた。


 何も知らない初心者は初めて知った幻想世界史上最悪のクソゲーを現代にあるゲームの基準だと思ってしまったのだから


 例え理不尽極まりないバグ、明らかにおかしい難易度設定、複雑怪奇な操作方法


 それがゲームの基本だと彼は思ってしまった。


 そして、彼はゲーマーとしての才能があった。


 MMORPG(多人数同時参加型オンラインRPGゲーム)において、重要なのはあきらめない心と膨大なプレイ時間、そして単調な作業を苦にしないことだった。


 ゲーム初心者、新田翔馬は高校三年生、大学の推薦も決まり、センター試験に向けて猛勉強している同級生と違い期末テストなど色々あるものの、比較的自由な時間がある時期に始めた。幻想世界はその圧倒的ゲームバランスの悪さと操作性の難しさから他のオンラインゲームに比べて常時ログインしているプレイヤー人数、アクティブユーザーの数が極めて少なかった、


 そして幻想世界の運営が行ったのは欠点であるゲームバランスや操作の複雑さの修正ではなく・・・・オンラインゲーム末期によくみられる課金アイテムの爆撃のような超配布であった。


 その頃の数少ない幻想世界のゲーム掲示板では『違う、そうじゃない』や『幻想世界は崩壊しました』など落胆し次々と辞めていくプレイヤーが相次いだ。


 翔馬が中堅と呼ばれるレベルのプレイヤーになるまで出会ったプレイヤーの数は50人を超えなかった。


 一体MMORPGとはなんだろうか


 まぁ、肝心の翔馬は「このゲームって少し人が少ないのかな?」と、疑問を抱いただけなのだが


 で、運営による大盤振る舞いの課金アイテムの配布、ゲーマーとして才能を持っている翔馬が合わさって起きた結果は


 五神の塔最速攻略プレーヤーおよび単独攻略、冥王世界最速攻略プレーヤーおよび単独攻略、九魔神殿最速攻略プレーヤー及び単独攻略、PVPコロシアム723日連続王者、GVGコロシアム693日連続王者、第一回~第十三回バトルトーナメント優勝者、年間最大討伐数・累計ポイント獲得数を二回受賞など幻想世界の称号を独り占めにしたのだった。


 だが悲しいことに、その時期になってくるともはや幻想世界はほぼ空気と化し、時々初心者ユーザーがやり始め、三日もかからない内に辞めるぐらいになっていた。


 そして幻想世界は巷で有名の仮想世界を体験できるVRMMORPG『ファンタジーワールド』として続編が出ることになった。


 半ば空気と化していたため、ファンタジーワールドがあの幻想世界だとは誰にも気づかれないままリリースされた・・・


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