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 神罰は二日続けてくることは滅多にない。だが絶対来ないわけではないので、正午の時間帯は生徒が教室に集まっていることが多い。

 別に教室にいる必要はないのだが、一人だと危険なので自然と自らの教室に集まるのだ。

 結局今日は神罰が来ることはなく、天堵先生がそのまま神力について講義を始めた。

 本来なら昼食の時間でもあるのだが、俺には初めて聞く話だし、他の生徒たちも知らないこともあるのか興味深そうに聞いている。

「神力は我々にとっては生命力と同じようなものですが、我々の体以外にもこの島は神力が溜まりやすい場所にあり、建物や木などの物質にも神力が宿っています。また、現在ではほとんど美榊島の人たちだけが持つ力となっていますが、大昔は日本各地に多くいて、その人たちが陰陽師などの役職に就いていたわけです」

「修司先生質問!」

 一人の男子生徒が手を上げる。

「はい、なんですか?」

 天堵先生は穏やかで優しい性格から、今では多くの生徒に修司先生と親しまれている。クラス外からも呼ばれるほどだ。

「先生は神力を持ってないんですか?」

「昔は微量ですが持っていました。私は子どもの頃にこの島に来た、外部の人間です。だから皆さんよりずっと少ない量でした。それに皆さんも知っていると思いますが、神力は子どもの頃から現れ始め、その量は二十歳前後がピークとなります。それからは急激に減少するため、私はまだ二十後半ですが、今ではさらに微々たるものになっています」

 これは神罰への対策として一、二年生と三年生に分けた理由となっているものだ。単に歳が上で肉体的にも技術的にも優れているという理由だけではなく、神力の保有力などの理由も考慮して三年生が戦うことが選ばれているのだ。天堵先生は二十歳前後と言っていたが、平均的には十八歳前後が一番神力が多くなるのだ。だからこそ、神罰で戦う生徒は高校三年生なのだ。

「また、神力は遺伝します。親が神力の素養を持っていると、高い確率で子も神力が使えるようになります。このクラスにも何人かいますが神降ろしで得た神器にも遺伝が関係しています。降ろした神器は似た神力を持った人間でしか使うことができず、血縁者などであれば高い確率でその神器を扱うことができますが、無関係な人間であればまず扱うことはできません」

 これは俺のことだ。芹沢先生が言っていた、天羽々斬が俺と父さんしか使えないのは、血縁者がいないからである。俺は一人っ子、父さんには親戚もほとんどいなかったようなので、同質の神力を持っているのは俺だけというわけだ。

 天堵先生は黒板にすらすらと文字を書きながら説明を続ける。

「普通の人間は神力がなくても生きていけますが、神力を持つ人間が神力を全て失うと生命維持に甚大な影響を及ぼし、まず生きてはいけません。また、神降ろしで得た神器を多様に使用するなどして神力が著しく減少した場合は、寿命を縮める恐れがあります。最も、皆さんの年齢では神力が一番多い時期ですので、問題になることはまずありません」

 神降ろしで得た神器は、所持者と武器とが縁と呼ばれる関係で結ばれる。その縁によって、所有者は神器に神力を供給し力を発現させ、場合によっては神器から力を受けて所持者が力を得ることもある。

 俺は天堵先生の話を聞きながらも、自分の席で本を読んでいる。基本自由なのがこの高校のいいところだ。

 今読んでいるのは美榊島の歴史について書かれたもので、一般常識を勉強中だ。中々に面白いから夢中になってしまう。

 まだこの高校に来て一週間も経ってないから、島がどうなっているのか街の辺りしか知らない。休日にでも島全体を回ってみるとしよう。

 天堵先生はしばらく授業を続け、十二時半頃になると授業を切り上げた。

「明日は皆さんにとっての初めての休日です。神罰がないからと言って、羽目を外し過ぎないようにしてください」

 そう言えば、明日は土曜日か。土日は授業もないし、ゆっくり外を見て回れるな……。

 ん? んん?

 疑問に思って本から顔を上げたが、そのときは既に天堵先生は教室から出て行っていた。それを皮切りに他の生徒たちも動き始める。

「おーい凪、昼飯はどうするんだ?」

 俺が首を右へ左へと傾げていると玲次が近づいてきた。

「休日って神罰来ないのか?」

 唐突な質問に玲次は少し眉をひそめて答える。

「来るわけないだろ」

「……マジで?」

「ああ、神罰は生徒に対する罰だ。だから土日や祝日、長期休暇は神罰は来ない。始まって数十年ずっとそうだから間違いない」

「ふーん、そうなのか」

 つまり明日明後日と土日は神罰の起きない普通の休日になるらしい。

 ならば、この島に来たもう一つの理由も片付けておかねばなるまい。

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