第11話 如夢如仙 六
「ど――ゆ――ことだ――ッ!!」
「なぜ俺らが
『王国軍紅龍隊、
屯日までは、夜光の弟子である
国王の命令は簡潔だった。しかし騎龍たちが納得できる内容ではなかったようだ。
「何ですか、この命令は! 私たちに琥師のお迎えに行けと!?」
「なぜ我々が! 護衛ならば、常軍の者でもいいはずです」
「陛下は我々と琥師の対立をご存じないとでもいうのですか!」
「いや! 理不尽な命令が来るときは、たいていお偉いさんの心理的に近しい者が秘かに進言した場合が多い!」
「しかし、陛下の御心に近しい者というと……」
そこで、全員がハッと気づく。七人分すなわち十四の瞳が、一斉に玉髄に向いた。
玉髄は思わずサッと目を逸らしてしまった。
「てめえかぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
剛鋭が玉髄に飛びかかった。玉髄は逃げる暇もなく、がっきと首を捕まえられた。
「ぎゃああああ! 将軍! 締まってます締まってます!」
「吐けぇぇぇ! 陛下に何を吹き込んだァァァッ!?」
「おっ俺はただっ、夜光どっのっが、あぶなっ、と、陛下にっ申し上げっあだだひぃいぃ!」
「何を申し上げたァァァァ!?」
剛鋭は見事な関節技を極める。玉髄は小鳥が締められるような声を上げた。
騒いでいると、詰所の扉が叩かれる。
「何だ!? こっちは取り込み中……」
「九陽門下、琥師・一角娘と申します」
空気が変わった。――と玉髄は思った。
一角はひとりだった。美少女が表情を引き締めると、それだけで研ぎ澄まされた小刀のような迫力がある。金茶色の髪のあいだから、銀色の額当てが輝いていた。
「紅龍将軍・
一角が拱手する。普段の能天気そうな雰囲気はかけらもない。
「陛下のご命令、もはやお聞きになられたかと思います。それは、あたしから陛下に無理を申し上げた結果にございます。どうか、
剛鋭が手を緩めた。玉髄はようやく解放されて息をつく。即座に体勢を立て直して、一角を援護しようとしたが――それを一角が視線で制した。
「我らには浅からぬ怨恨あること、重々承知しております。ですが……」
一角は深々と礼をする。
「我が師、夜光の身に危険が迫っているやもしれません。どうか日頃の恨みを忘れ、その玄妙な騎龍のお力をお貸しください」
「……夜光殿は、てめえらの師なのだろう。迎えくらい、てめえらだけで行ったらどうなんだ」
「九陽門は、まだ未熟な者が多いのです。お恥ずかしながら、師をお守りするだけの力を持つ者はほとんどおりません」
剛鋭のいつもより低い声にも、一角は怖じなかった。
「崩国の妖魅に関わることならば、と陛下はほかの武官の方々にもお声をかけてくださるそうです。ですが、時間が惜しい」
まず要人への守りがいる。国王はそう判断したそうだ。
「夜光の命は、元紅龍将軍・
剛鋭の肩が、ピクリと動いた。
「まだ危ないと決まったわけじゃねぇんだろう?」
「そ、それは……」
「退屈な道中のため、恨みを忘れる。その見返りはあるんだろうな?」
「な……っ、将軍!?」
ほかの騎龍たちが色めき立つ。
「黙れ。どっちみちこれは陛下のご命令だ。つまらねぇ怨恨は忘れろ」
一角の言葉が、剛鋭の琴線にふれたらしい。
「度量のでかいところを見せてやるのも悪くない」
剛鋭がニッと笑う。
「ありがとう!」
一角が、急にいつもと同じ声になった。にっこりと笑った顔は、太陽のようだ。騎龍たちが目を丸くしている。
「ありがとうございます。このご恩は、必ず!」
一角は何度も礼をして退室した。
「……ありがとうございます、将軍」
「あれが、てめえと親しい琥師か」
「はい……古い友人です」
「もし俺らが渋ったら、てめえはどうしたんだ?」
国王命令だ。拒否はできないが、遂行を渋るくらいはできる。時間が浪費される。
「そうなったら……俺一人でも、彼女を守ろうと思っていました」
「ひゅう、泣かす~」
「惚気やがって、この裏切り者!」
「の、惚気てなんかいませんよ!」
空気が解けていく。
一角は単身乗り込んできた。度胸と誠意を示したのだ。根は陽気な騎龍たちは、そういうのが好きなはずだ。今度は自分があいだに立って、琥師らと協力する態勢を整えていけばいい。
玉髄は覚悟を決めた。
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