序章 《王女とアリス》





翌日…


試験会場は多くの人間に溢れていた。

テストが始まる。



テストははっきり言って簡単だった…アリスの勉強のお陰でもあるのだがとても簡単だが…目立つのを恐れ、全教科82%ぐらいの点数に調整する…これでSクラス入りは確実だ。



テストは全て終わり結果を待つだけになった




結果発表日…

壁に続々と合格者の名前が順位順に並べられる。そして上位が貼り出されるとどよめきが起こる…何故ならば


1位 900点

エレオノーラ・ル・ユースタシア(女)

アリシア・シェ・ウィンコット(女)

ユリア・アンゼルム(女)


2位 898点

ユリウス・アンゼルム(男)


3位 856点

ヴィクトーリア・ヒ・サンドニア(女)


4位 812点

イズミ・カセン(女)


5位 798点

アントニウス・ル・カッサンドラ・ウィンスター(男)


1位満点が3人…しかも2位が2点差…歴代最高レベルらしい。特に満点は3年前に一人しか取れてない成績で、他の軍事学校でも取ったことが無いらしい…

そして2位も凄いらしい…毎年の各学校の1位の平均点は882点である


3位以下は例年通りらしいが…つか、女子勢強すぎだろ…


ちなみに俺は8位で768点だ…Sクラスは今年は歴代最多の13人…毎年の平均は9人で…最低は4人だったみたいだ


アリスが駆け寄る

「お兄様!やりました!満点です」


俺は頭を撫でてやる

「よく頑張ったな」


アリスが顔を真っ赤にさせてはにかむ

「エヘヘ、お兄様の手…気持ちいいです」


そうしてる中、美しい声がかけられる

「アリシアさんですね」


アリスは振り替える

「はい…そうですが…あなたはッ」


アリスは突然、臣下の礼を取る


俺は冷静に見る

顔立ちはとても美しい…アナスタシアとよく似てる…髪は輝くベージュ色だ…瞳は珍しい紫だ


俺は今回の護衛対象…エレオノーラ・ル・ユースタシアを目に焼き付けた


エレオノーラはアリスの手を取って立ち上がらせる。

「堅苦しいのはやめて、今日からはクラスメイトよ。私のことはエレナと読んでね。これからよろしくね」

手を差し出す


アリスは慌てて、手を握る

「こちらこそよろしくお願いいたします。私のことはアリスとお呼びください…えっ、と…お隣にいる方は…」


エレナの隣には顔立ちが全く同じの…双子がいた。


エレナは二人を紹介する

「こちらは私の護衛よ」


少女は無表情で言う

「初めまして、私は国家倫理委員会KGMの特務機関VM機関所属のユリア・アンぜルムです」


隣の眼鏡をかけた少年も同じく無表情に言う

「同じくVM機関所属ののユリウス・アンぜルムで、ユリアの弟です」


アリスが驚く

「国家倫理委員会って10年前、親衛隊から分離独立して組織された情報機関ですよね…」


アリスは頷く

「10年前、王政府と連邦政府が当時、皇帝の私軍であった特務機関SATと浄化機関CNIを親衛隊から分離独立解体をして、彼らの資料を基に出来たのがKGMです。その下で今回のような特別な任務は我々のような特務機関VM機関が担当します」



後で、聞いたのはKGMは政府の情報機関・秘密警察であり、要人警護を行う特務機関のVM、防諜機関である清掃委員会異物審問局インクィジジョナーのMSB、諜報機関である危機対策管理局特別室のUKS(S)K…長いから特別室を意味するSKの3つに大まかに分かれている。下部組織はもっとあるらしいが…軍にも連邦軍情報管理局FARUと呼ばれるKGMに匹敵する組織が存在する。



アリスは焦る

「そんな大事なこと私に言ってもいいのですか?結構な機密事項だと思われるのですが…」


ユリアはぴしゃりという

「問題ありません…何故ならあなたは反NovyiMir企業連合<SECT>の社員ですから…こちらが情報を封鎖しても突き止めるでしょう。故に、あなたのみ教えます。他言は無用ですよ…漏らしましたらこちらにも考えがございます。アリシア班長」


ちなみに班長は係長の上らしい。<SECT>の階級は上から最高顧問、顧問、相談役、名誉会長、会長、社長、副社長、専務、常務、監査役、執行役員、取締役、ここまでが上層部で、本部長、局長、部長、次長、課長、室長、課長補佐、班長、係長、主任、社員である。

<NovyiMir>では、会長、副会長、は共に欠員、本社長、支社長、専務、ここまでが上層部で、部長、部長補佐、室長、課長、課長補佐、係長、主査(俺)を上中下級の3つに分け、ここまでを幹部と呼び、幹部候補、主任、主事、社員、アルバイト・パートとなる。

<SECT>とは、当時連邦の全GDPの半分以上を占めていた<NovyiMir>に対抗して、ビッグファイブと呼ばれている5つの企業が中心に設立された企業連合体である。5つを除いて非公表のため、どの企業が加盟をしてるのかは予想でしかできないが、10年で生産力を爆発的に上げ、現在<NovyiMir>の生産力ががGDPの35%に対しGDPの50%を占めるまで上り詰めた。資金と人数も完全に上回っているが、謎に包まれている。最近の調査では最高顧問がアナスタシアであることを突き止めた。<NovyiMir>の予想ではアナスタシアが自社に対抗して作らせたのではないかと予想している。


アリスは冷や汗をかく

「わかりましたわ…あと、三方に紹介いたします…隣にいますのは私のお兄様のクロード・ウィンコットです」


アリスが俺を紹介するが…


エレナが訝しむ

「アリスちゃん…隣には誰もいないわよ?」


アリスは驚く

「エッ?」


アリスは隣を見るが、そこには俺がいる

アリスは申し訳なさそうに言う

「失礼ですが…隣にいますけど…」


エレナは困った顔をして両隣にいる二人に聞く

「あなた達…見えますか?」


二人は首を振る

「いいえ」

「見えませんし…気配も感じません」


エレナは形のいい眉をハの字にして言う

「ゴメンね…全く分からないわ…多分、アリスちゃんにしか見えないわ」


アリスは食い下がる

「けど…成績表の8位に名前があります」


ユリウスが驚く

「本当ですね…我々が見落とすとは…Sクラスはあなたが最後だと思ったのですが、もう一人いたとは…」


エレナはあたりを見渡す

「クロード君いる?」


二人も辺りを見渡すが見当たらない


アリスは俺の方を向く、俺はにっこり笑って首を振り、言う

「諦めろ…こいつらでは俺の存在を認識することが出来ない」


アリスはため息をついて言う

「申し訳ございません…お兄様は恥ずかしがり屋なので、もう行っちゃいました。私の勘違いでした。ずっと隣にいると思ったので…」


エレナは笑って納得してくれた

「こんな可愛い妹をほっぽり出すとはひどい兄だな」


「ハハハ…」

アリスは笑う


「では、入学式で会おう!」


「こちらこそ」



三人は去って行った


アリスは俺の方に向いて頬を膨らませる

「どういうことですかお兄様!光化学迷彩でもしたんですか!」


俺は薄く笑う

「それだとお前も見ることが出来ないぞ…しかもそれは光の屈折が起こって変な輪郭を出す。護衛の二人なら一発で看破出来るだろう」


アリスは不思議そうな顔をする

「では…何故…」


俺は地面に落ちている小石を拾う

「アリス…お前はこの石の存在感を感じることが出来たか?」


アリスは呆れる

「お兄様…そんな石っころに存在感なんてありませんよ…敢えて言うならお兄様が持ったから初めて感じることが出来ました」


俺は頷く

「つまり、俺はこの石と同じだ。誰も路上に落ちてる石のことなんか気にも留めない。意識の外にあるんだよ…俺という存在は。先程では、お前が俺の話題を出したことで初めて意識が向いたわけだ。だが、奴らは俺の名前に意識を向けただけで、姿には向けてない。だから、見えなかった」


アリスは理解する

「つまり、私はお兄様のことをいつも考えてるから見える」


俺は頭を撫でてやる

「そうだ、そしてこの石を再び路上に落とすと…」


石は他の石に紛れわからなくなる

「一旦意識を外すとわからなくなる。あの三人はお前と離れたことにより俺の名前を忘れたはずだ」


アリスは目をトロンとさせながら聞く

「どうしてそんなことが出来るのですか?」


俺は耳から垂らした紐の付いた鈴と、目に着けたコンタクトを指さす

「人間は情報量の多い順に視覚、聴覚、嗅覚で情報を集めている。幻覚は主にこれらを通して相手の脳の支配を奪う。俺は耳に着けた鈴で聴覚を、目に不可視光線を放つ装置を埋めたコンタクトで視覚を、あとは特殊調合した香水で嗅覚で奴らの脳を奪ったのさ」


アリスは気持ちよさそうな顔をしてる

「そんなことが…何故そこまでを」


俺は苦笑する

「目立たないためだ。わかるだろ?俺は表の人間じゃない…裏でも最も深淵にいる人間だ」




アリスは光を失いどんよりとした虚ろな眼を俺に焦点を合わせずに向けて言う

「では、私もそちらに参りましょう…そして、一緒に落ちましょうお兄様…どこまでも…永遠に…そう永遠に…一緒に…」

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