序章 《勉強会》




俺は真っ白な空間にいる。向こうから、参考書をどっさり持ってきたアリスが来た。


早速、勉強が始まる


「まず、地理からですね…お兄様が10年間この世を離れて大分変わりました。例えば帝国…3つに分かれました。広さの関係上、東の香皇国を帝国、東はヒンドゥラ、西は北アフリカ全土を支配する「正統カリフによるイスラーム国」を大帝国と呼んでます。東西に挟まれて存在する小国をシャンバラと呼びます。君主は、帝国はユニ、シャンバラはニナ、大帝国はファティーマの三名の炎の一族の女性です」


「帝国は初めの5年間の政策は亞洲帝国時代に巨大となった国有企業と軍部の解体です。解体すると、軍上層部が失業した兵士を私兵としてかき集めて軍閥となり、民営化した企業は高級官僚などが私物化し財閥と変貌しました。軍閥と財閥は手を組み、地方を治めはじめました。一種の戦国時代ですね。ですが、5年が過ぎると、ニナはこれら軍閥と財閥の上層部を宴会の席に呼び、全員毒殺しました。その直後、彼女は自分の軍を使って全国同時にクーデターを起こし、軍閥と財閥を全て手に入れました。彼女は自分を軍最高司令官として君臨し、軍事独裁体制をしいてます。

シャンバラは先代皇帝のニナが楽隠居するために作った小国です。主な収入源は東西帝国の貢物と国が管理している大量の奴隷によって生産物です。政治は全て宦官へ、軍事は全て傭兵に任せている国家です。

大帝国はイスラームの教えにのっとて治められています。はじめはユーロピアに侵攻しましたがユーロピア東部とは交渉の末撤退し、西部では国土回復運動レコンキスタによって追い出されてユーロピアの領土をすべて失いましたね。今はアフリカ合衆国と戦争中です」


「ユーロピアも変わりました。メラさんがばら撒いた病が猛威を振るい、各国の上層部が初めの5年で皆死亡し、唯一島国のため生き残っていましたエリザベータがフランク(フランス)、ヒスパニア(スペイン、ポルトガル)、自由都市同盟(ベネルックス三国)、旧聖ローマ(イタリア、スイス)、ローマ神聖(ドイツ、オーストリア)を次々と併合しましたが、残りの地域が行方不明になったはずの教皇ピウスを担ぎ上げ激しく抵抗しました。その後、エリザベータが病に倒れました。後を継いだメルランが併合した国を一つにまとめ上げ西ユーロピア帝国という国を作りあげ、皇帝となり、夫に<ファーザー>と呼ばれる反教会勢力のトップと結婚しました。

反対に、ピウスは自分をトップとする新たな国を作りました。彼は連邦と交渉してスカンジナビアとバルト三国を貰い、帝国と交渉してバルカン半島全域の支配権を獲得しました。他には、ヤゲロー(ポーランド)、ボヘミア(チェコスロバキア)、ハンガリア(ハンガリー)を領土とする神国新生ローマノエル・ロマーナが誕生しました」


「今まで謎に包まれていた暗黒大陸アフリカでは、人とは違う種族がそれぞれ集落を作って暮らす緩い連合でしたが、大帝国の北アフリカ併合を聞いて、各集落が自治権を持ったまま、アフリカ合衆国と呼ばれる統一国家を作りました。州と呼ばれる自治集落が大きな力を持っているのが特徴で、国家元首は各州の選挙によって選ばれた総帥と呼ばれる人です」



「東西ヨーロッパは現在戦争中です。まぁ、戦争といっても連邦と帝国のような激しい戦争でなく、お互い長大な塹壕を並べる消極的な戦いをだらだらと続けています」


授業は続く

「そう言えば、お兄様!魔道科学はご存知ですか」


10年間寝たら時代に取り残されたようだ

「知らんな」


アリスは机に、携帯端末、腕輪、手甲、指輪、拳銃を机に並べた

「お兄様の時代、魔法は主に呪文、魔法陣、魔道式、魔道具によって魔法を出してました。まぁ、一部の例外として念じるだけで発現する化物もいたようですが…」


俺は頷く

「<アルテイスト>とかな」


アリスは一拍置いて言う

「今の時代はこの機械…<遺産デバイス>と呼ばれており、かつて魔法に必要だった要素が全て組み込まれてます。呪文は0と1の信号、魔法陣は二次元式、魔道式は計算式、魔道具はデバイスとして機能しています」


俺は感心する

「魔法を科学に組み込んだのか」


アリスは笑う

「あと必要なのは、このマイクロチップとプラグね…あとはナノマシンも場合によってはいるますわ」


マイクロチップは小指大のチップで、プラグは長く細い針で、ナノマシンは目で見ることが出来ない


「マイクロチップは脳に埋め込んで、プラグはこめかみに刺します。ナノマシンは血液中に投与するのが普通です」


「魔法の発動は、<デバイス>に呪文…つまり<起動式>と呼ばれる0と1で構成されるコード、今は時間の短縮のために1~9の数字とアルファベット、記号に置き換えてますが打ち込みます。その後、打ち込んだコードは<軌道衛星Noahに送られ、送受信機を果たすプラグに信号が送られ、その信号がマイクロチップに送られ、脳に干渉して魔法を発動します。その後は<Noah>から魔法の座標、強度規模、終了条件、持続時間などが<演算式>として送られます。座標を魔道式とも呼べる二次元式、その他の事象を計算式として打ち込みます」


俺はどうやら化石のようだ


「最近では音声認識、映像で入力できる方法も開発されており、ますます魔法の展開スピードは上がっております。しかも最近では、<反殺魔法>と呼ばれるコードも続々と発見されており、更に起動式をかき乱す<ジャミング・ノイズ>と呼ばれる起動妨害装置も生まれており…」


止まらない…もういいか


饒舌になりすぎたのに気が付いたのか、顔を真っ赤にする

「コホン、ちなみに私の花飾り…」


アリスは頭の片側に付いた花飾りを撫でる

「これは、プラグです。最近は女の子の要望に応えて先をアクセサリーにしてます」


その話は余計だと思うが


「連邦は科学を至高の物としていますが、科学の進歩のために魔法を存分に利用します。魔法を至高の物として扱い、科学を否定する神族とは違って…帝国では魔法の代わりに法術を使っておりますが…あっ、あとはナノマシンの話もしておりませんでした。ナノマシンは主に人間の限界を超える身体強化、あらゆる毒を分解する強力な免疫、及び再生力、精神コントロール、痛覚遮断などの副産物があります。マイクロチップは他にも仲間同士の視覚、思考同調が可能になりました」


俺ははっきり言う

「全部俺にとっては不必要なものだな」


アリスはにっこりと笑う

「はい!不必要です。お兄様にはすべて不要です」



ここで授業は一休憩だ


このおしゃべりな妹は喋り足りないらしい


「お兄様!明日のテストの成績なんですけど80%以上がA、65%以上がB、50%以上でC、30%以上でD、20%以上でE、20%以下のGがあります。総合計でA~Dのクラスに振り分けられます。Fクラスは不合格を現します。あとは全教科80%の人は特Aと呼ばれるSクラスに入ることが出来ます。私はここに入りますからお兄様も入って下さい」


「このクラスはホームクラスです。授業クラスとは別物です。授業クラスはそれぞれテストの成績で分けられます。例えば、ホームクラスがBクラスでも、音楽の成績がAでしたら、音楽の授業はAクラスとなります。例外はSクラスのみです。S2クラスは全てSクラスの授業を受けます」



授業の再開だ

「軍事学校は全て8つございます。中央、北西、南部、カフカス、沿ヴォルガ、ウラル、シベリア、極東です。明日は中央で入試を受けます。最初の一年は皆、基本を学びますが、二年からは兵科ごとの授業を受けます。私が目指す兵科は中央軍事学校しか存在しない「特殊作戦部隊科」です。もちろん、お兄様も入って下さい」



その後、永遠とも思える授業が続き、やっと終わる


俺らはカプセルから出る。

そこにはタオルと着替えを持ったシュルヴィアが立っていた。


「お帰りなさいませ、お坊っちゃま、お嬢様、お食事のご用意が出来ましたのでご準備をお願いいたします」


静かに去って行く…優秀だな


俺らは現実時間では5時間ほどいたようだ。


その後…長ーいテーブル…ではなく普通のテーブルで手の込んだ料理を食べる…旨いな


食後は入浴をし、諸々の事を終えて用意された自分の部屋に入る


フカフカのベッドに腰をつけて、備えられた大型液晶テレビに端末を接続する。


端末にデータを打ち込むと画面にルヴィアの姿が写る


「順調のようですね…新しい家族と家はどうですか?」


俺はルヴィアを睨み付けて言う

「あの妹の存在は知ってたか?」


ルヴィアは感情を感じさせない表情できっぱり言う

「ええ、存じておりました。私の子孫ですから」


俺は怒ってることをアピールする

「今回の事は予想がついただろ、何故俺に知らせない」


ルヴィアはシレッと言う

「必要がないと判断したからです」


俺はやれやれと首を振る

「この事は不問にしてやる…俺の任務の事は知ってるよな?」


「ええ」


「なら報告は以上だ」


俺は画面を消そうとすると


ルヴィアが止める

「待ってください…あなたなら大丈夫だろうと思いますが…頑張ってください」


俺は頷いて消す



扉からノックが聞こえる

「お兄様…入ってもよろしいでしょうか」


「いいぞ」


「失礼いたします」

アリスが遠慮がちに入る


「お兄様…明日頑張ってください。では、お休みなさいませ」

アリスはそれだけ言って自分の部屋に戻る



その夜、俺はよく眠れた




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