急章 《ユーロピア大戦3》





「ボロス様!ラムセイ様!持ちこたえられません!ここは危険です!早くお逃げください!」

血まみれになった兵士が必死に叫ぶ


ラムセイは笑って口を開く

「必要ないよ…見てごらん。おじ様がやって来たよ。」


本陣に突っ込もうとしたスワロフに後方から無数の矢が降り注ぐ。後続した兵士がバタバタと倒れるが、スワロフは全てを打ち落とす。そして後ろに振り返った瞬間、凶暴な笑みを浮かべる。


「久しぶりじゃのぉ!戦友よぉ。<不倒>アラバルト!待っておれ!ここで決着を着けようぞ!」


そこにはヒスパニアと戦争してたアラバルトとシンフォニアが率いるローマ神聖軍がいたのだ。それだけでなく、シュステルベルグとバーゼルが率いるフランク軍を携えて



スワロフは反転してアラバルトへ一直線に突き進む。

「駆けろ我が馬!王馬ブルタヴァよ!駆けろ!何よりも速く!疾風の如く!」

スワロフの愛馬ブルタヴァが最高速度で駆ける。

その後方には重装騎兵が…歩兵が…全軍が着いていく。必死に食らいつく、遅れまいと。



アラバルトはその光景を見てため息をつく

「儂もここまでか…シンフォニア殿、先にあちらに逝ってくるぞ。あとは頼んだぞ!」


シンフォニアは寂しそうな顔をして別れを告げる

「アラバルト殿、あなた様と一緒にいた時間はとても短かったが…忘れませぬぞ…弓兵!矢を打ちまくれ!」


アラバルトは重厚な声を発する

「皆の者!待たせたな!我が軍の目の前にはあのスワロフだ!我らは今まで奴と何度もシノギを削った。だが、それも今日までだ!今日!この場で!決着が着く!皆の者!力を振り絞れ!行くぞぉ!」


アラバルトもスワロフに向かって一直線につこっむ。まるでその姿は限界まで引っ張られた弓から放たれる矢のようだ。


両軍が激突する。ラムセイとシンフォニアが命令する。

「「あの中に突っ込め」」


ラムセイ、ボロスとシンフォニアの軍も外側から突っ込む。




それを遠くから見つめる人がいる。彼の名はピウスツキ、白騎士と呼ばれる男である。

「隣の戦場はグチャグチャだね。入りたくないね…しかも皆が死兵…嫌だなぁ…」


そして振り返り、対峙するフランク軍をみる

「逆にこっちはラッキーだね。あんな暑苦しい戦いをしなくても済みそうだ」


そんなことをぼやいていると…突如本陣に侵入者が現れた。侵入者とは赤騎士、青騎士の配下を引き連れたイゾルテの副官で現在隻腕になったカイザルである。

「ピウスツキ様…どういうことですか…なぜ、あなたはゲオルギー様とイゾルテ様をお見捨てになったのですか…返答次第ではお命を頂戴なさりますぞ!」


その言葉に白騎士直属の兵士が剣を抜きかけて止まる


ピウスツキは馬鹿にしたような目でカイザル達を見る。

「そんなの簡単じゃん。彼らは不必要だったからさ。ヤゲローにはあんな将はいらない。だから戦場で死んでもっらたのさ」


その言葉にカイザルがキレる

「貴様ァァァ!」

カイザルが槍を振り上げピウスツキの喉を突こうとした瞬間…ピウスツキによって腕がはねられる。


「君も…もちろん!いらないよ…」

カイザルの首が飛ぶ


「もちろん君たちも…」

白騎士直属の騎士たちが抜きかけた剣を抜き、次々と赤騎士と青騎士の部下を殺す


全てのゴミを処理した後、ピウスツキは手を叩く

「よし、これで戦える!さっそく彼らを倒そうか…狙いはシュステルベルクだ」



フランクSIDE…

バーゼルがシュステルベルクに問う

「シュステルベルクよ…アレをどう見る」


目の前には今まで見たことがない陣形が広がっていた


シュステルベルクが答える

「わからん!パッと見た感じではデタラメな陣形だ。隙や断点が多いから不合理だ。しかし、妙に空間が多いから、罠にも見える。当ててみないとわからん…」


バーゼルは頭を抱える

「儂は策士は苦手じゃぁ…シュステルベルクいけるか?」


シュステルベルクは自分の獲物を持ち、馬に乗る

「お前が無理なら俺が行くしかないだろう」



ヤゲローSIDE…


伝令が駆け込む

「予想通り、シュステルベルクが突っ込んできました」


ピウスツキは笑う

「やったね!すぐ向かうよ」


ピウスツキは10メートルもある物見櫓に上る

「お~お~、高いね~」


下を見る

「お~お~、やってるね~」


そして顔を真顔にして命令する

「おい!さっきの伝令を連れて来い…シュステルベルクまだ、突っ込んでないじゃん!」



当初、シュステルベルクは突っ込もうとしたが、バーゼルに止められたのである。

「シュステルベルク…危険じゃ…ここは、定石で行こう!」



「弓兵!撃て!」

フランク軍が矢を一斉に放つ


「槍兵!突撃!」

フランク軍槍兵が突撃する


ヤゲロー軍は動かない


「槍兵!そのまま突っ込め!」

フランク軍がヤゲロー軍に突撃に入ろうとする時


突如ヤゲロー軍から号令が響く

「重装歩兵!前へ!」


前列が突如、全身鎧に覆われた一団に変わる


「重装歩兵!盾を構えろ!」


重装歩兵は巨大な盾を構える。下には滑り止め防止のスパイクがあり、それを地面に突きたてる


フランク軍と激突する!


結果は一方的だった…全身鉄で出来た盾により、フランク軍の槍はほとんど折れてしまったのだ。その後、盾をどけて、両手に斧やこん棒を持った重装歩兵によって、どんどん駆逐される。


バーゼルは吠える

「槍兵!下がれ!歩兵と入れ替われ!」


フランク軍の歩兵は軽装歩兵が主力のため、次々と数を減らす…



ピウスツキはそれらを冷めた眼で見ていた

「おい!つまんねーなぁ!僕の策発動できないじゃん!」

ピウスツキは突如キレる


周りは幼少の頃からピウスツキJrをみていたので、何とも思わない


伝令が駆け込む

「本陣後方より、敵兵侵入!騎兵です!先頭はシュステルベルクです!」


ピウスツキは突如元気になる

「やった!よし!行くぞ!」



前方はバーゼルが敵兵の眼を釘付けにし、自分は死角の後方を狙う。

「定石だが、王道だ…強いな!特に、奇策相手には効果的だろう!皆の者!本陣はすぐ目の前だ!ブチ破るぞ!」


シュステルベルクの眼の前に突如柵が現れる


「小癪な!」


シュステルベルクは方向を変える


また、柵が現れる


今度は破ろうとするが、槍が現れ、諦めて方向を変える


何度も繰り返し…


「シュステルベルク様!周りをご覧ください!」


シュステルベルクは周りを見て愕然となる

自分が率いていた軍が細分化され、各々包囲殲滅されてるのだ


「これはね…僕が編み出した迷宮断道の計というんだ」

白馬に乗ったピウスツキが現れる



シュステルベルクはじっと観察する


「初めましてシュステルベルク殿、僕は白騎士ピウスツキというんだ。一応ヤゲロー総大将かな?よろしく」


シュステルベルクは聞く

「その計やらは何なのか…老人にもわかるように説明してくれ」


ピウスツキは笑う

「いいよ!迷宮の計…これは、単純に迷路を作るだけさ!人と柵を使ってね。これで、直進を防ぎ、ジグザグに移動させたら、時間稼ぎと敵の疲労を誘うことが出来る!断道の計…これは行き止まりを作る。行き止まりにぶち当たると止まるでしょ、そこを包囲する。迷路では二股、三股と道を作って軍を割き、途中で横やりを入れて分断し、新たな道を誘導してさらにお互い孤立させる。軍が小さくなったら大勢で潰す。しかも、君たちは本陣に集中し過ぎて自分の軍が見えてなかった。簡単でしょ?」


ピウスツキは背を向け本陣に向かう

「シュステルベルク殿、この迷路攻略出来たら相手してあげるよ」


シュステルベルクは顔をしかめる

「上等だ!クソガキャ」



10分後…

伝令が駆け込む

「ピウスツキ様お逃げください!シュステルベルクがッ!」


伝令の頭が弾け飛ぶ


「オイッ!クソガキャ!来てやったぞ!」

青筋浮かべたシュステルベルクが立っていた


ピウスツキは驚く

「早ッ!まだ10分しか経ってないよ!どうやったらそんなに早く出れるの?」


シュステルベルクはイライラしながら言う

「そんなの簡単だろ!壁をブチ破ればいいんだ」


ピウスツキは笑う

「なるほど、距離的にはそれが一番早いだろうね…約束通り相手してあげよう。装備一式持ってきて!」


全身白の鎧で固め、仮面を受け取る。目元しか開いてない、のっぺりとした仮面だ。


シュステルベルクは眉を顰める

「仮面…」


ピウスツキは笑う

「これをつけたら最後だよ」



一騎打ち…古来から続く伝統的な勝負の形式…シュステルベルクは一騎打ちは得意ではないが、今のところ負けなしである。


シュステルベルクの右腕が吹き飛ぶ

シュステルベルクは必死に合わせるが、間に合わない、左足が飛ぶ


シュステルベルクはたまらずに叫ぶ

「何なんだ!お前はッ!」


シュステルベルクの首が飛ぶ


ピウスツキの視線はシュステルベルクの部下に注がれる。


「とッ、殿オッ!貴様ら!皆の者!一人でも多く道連れにしろぉッ!」

シュステルベルクの部下はピウスツキに向かって突っ込むが…全員切り伏せられた。




アラバルトは落馬した。全ての力を使いきったのだ。それでも、眼だけはずっとスワロフを睨んでいた。

それを見てスワロフは寂しさを覚えながらもにっこり笑った。格下ではあるが、彼の戦法にはずっと苦しめられた。長年しのぎを削った相手である


「今までのお前との戦は楽しかったぞい!」


その言葉にアラバルトは渋面を浮かべる

「ふん!儂にとってはどれも嫌なものばかりじゃ!」

と吐き捨てる


同時代に生まれた二人は幾度も刃を合わせた。何度も…


「儂もすぐにそちらにいくだろう。待っておれ」


「酒を携えて待ておるぞ」

アラバルトが苦笑する。普段滅多に笑わぬ男が笑う


「さらばじゃ戦友よ!」



この地の戦は終わった…結果は双方引き分けだが、痛み分けでもある。

ヤゲロー軍損害4万/ゲオルギーとイゾルテ戦死

ボヘミア軍損害3万/シモンとベルケル戦死

ローマ神聖軍損害8万/アラバルトと百将1~4位以外戦死

フランク軍損害2万/シュステルベルク戦死



ヤゲローSIDE…


ヤゲロー軍が撤退する中、ピウスツキは馬車の中で自己嫌悪に陥っていた。

彼は仮面を着けると隠れた本性が顕われるのだ。それは常軌を逸した殺戮衝動…正気を失い、周りの全てを殺しきるまで虐殺を止められないほどである。彼は戦闘ではなく、殺戮の天才なのである。幼少からその、才能を見せつけ、周囲を恐れさせたが、彼の父はその才能を喜び育てた。訓練により、敵味方の区別はつくようにはなったが、いかんせん殺し方が美しくない…など自己嫌悪に陥るピウスツキである。




ボヘミアSIDE…


ボヘミア軍が撤退する中、スワロフは泣いていた。

「シモン…ベルケル…アラバルト…何故先に行ってしまうのじゃ。儂よりも…儂はもう年じゃ…儂はもう」


そして時が訪れる

「グハッ」

スワロフが倒れる


「閣下!閣下!おい!医者を寄越せ!閣下がお倒れになったぞ」


数日後…スワロフはホルクラム公王に看取られ死亡し、密かに葬られた。このことは亡国まで公表されなかった。



フランクSIDE…


「バーゼル元帥…崩御なさりました」


医者のその言葉に皆が崩れる


「狼狽えるな!」

首相と大統領を兼任する大総統エーヴィヒルトが一喝する


「俺らに泣いてる余裕はない」


後日、シュステルベルク元帥に引き続きバーゼル元帥の死が公表され葬儀が行われた。だが、どの国も攻め込もうとはしなかった。大総統であるエーヴィヒルトが外交で各国と休戦協定と不可侵条約を結んだのだ。これらはエーヴィヒルトが存命中は守られた。



ローマ神聖SIDE…

「アラバルトも死んだか…これで我が国の最高戦力は全て死んだのだな…あとは客将であるシンフォニア殿…あなたのみだ…生き残った百将を使って軍の立て直しを図ってくれ」


ルードヴィッヒ2世はぐったりとする。


数日後、突如息を引き取る。まるで先に死んだ彼らを追いかけるように…


その後、皇帝の座を求めて2皇子1皇女が争いを始めたのだ。それらは国を2つに分ける内戦にまで発達した。


シンフォニアは引退の申し出を行い、自国の領地にひきこもった。




モロッコSIDE…

モロッコに帰ったディエ・エスは口をあんぐりと開ける

何故なら自分の居城が燃えてるのだ


ネスト・エスが呆然という

「バカな…あそこにはディエ・エス様の弟デス・エス様を含めたオプス姓が三名を筆頭に二つ名もそこそこの数がおりましたのに…」



燃え盛る火から一人の男が出てくる。それを見たディエ・エスは歓喜に震える


「オルデアル!貴様か!ここをこんな愉快な感じにしたのは!」


オルデアルはにっこりと笑う

「久しぶりだな…狂戦士よ。どうだ?気に行ってくれたかな?」


ディエ・エスはブチ切れる

「お前はバカか!こんな仕打ち受けて喜ぶ奴はいねーだろ!」


オルデアルは背を向けて歩き出す

「なら行こうではないか!向こうに私の軍を待たせている」


ディエ・エスが声をかける

「オルデアル!テメェ…もう引退したんじゃねーのか」


オルデアルはため息をつく

「ああ、彼女と…陛下と残りの人生を楽しもうと思ったが…どうしても忘れられなくてな…戦いが…ここが俺の墓場だ!」


ディエ・エスはいう

「死にてーなら本気で来な!本気じゃなけりゃ、殺してやらねーぞ!」


オルデアルは壮絶な笑みを浮かべる

「もとよりそのつもりだ!言っとくけどお前を殺した後、死ぬつもりだ!冥途の土産としてな!」



モロッコの砂漠でユーロピア大戦最大の戦いが行われた…その戦いは凄惨を極め、双方に生存者が存在しないほどであった。その後、この戦場は砂漠に埋もれ、人々の記憶から消えた。




カルタゴSIDE…

「オイッ!あれは何だ!」


「あれは…戦車!あの旗は…帝国!帝国が侵攻してきたぞ!」


突如超大国亞洲帝国はカルタゴ、モロッコに攻め入り、北アフリカ全土を併合、ヒスパニアにも侵攻し、5分の4を併合した。

亞洲帝国の謎の侵攻により2年半にわたるユーロピア大戦は終結した。


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