転章 《戦火の広がり》





無名都市ネームレス


「ねぇ…メラ…ここって?」


メラは珍しく顔をしかめながら早口にまくし立てる

「クロウィン、安心しろ、目的地はここじゃねぇ。立ち寄っただけだ。相変わらず気持ち悪い町だ」


僕はこの町が何となく嫌いだ

「メラ…ここに来たことがあるの?」


メラは忌々しそうに

「ああ、六角の会合で来たな。まぁ、その会合も一度しか開かれてねーけどな」



「ねぇ、メラ、その六角って何なの?物凄く強い6つの勢力って以外しかわからないけど」


メラは顔をゆがめる

「…今はまだ言えねぇ…だが敢えて言うなら、六角は6つの勢力が拮抗してるわけじゃねえ」


そりゃそうだ、現に<創世の結社>は六角の一つ<アルテイスト>に半壊させられたのだから。ちなみにメラが六角であることはオルデアルに教わった


「<創世の結社>か、ハッ、あたしが殺したのは唯の貴族だよ。結社のクライアントであり、マリオネットである貴族どもだ。実際に奴らにとっては痛いがな」


「<創世の結社>って何?」


メラは幾分か気が良くなったのか少し笑った

「その本体は、元々ディーヤ家の先祖がゲルマニスクが出来るはるかに前に中心となって作った組織で、その後隠れ蓑として6家制度を作ったといわれているが、今のディーヤ家宗主は結社の一員ではないぜェ。あたしは本体をあぶりだそうとしてあの夜、攻撃を行ったが、結局出なかった」


「ほかの六角は?」


「それ以上は言えねーな。だがあと一つ、これは今後のための忠告だ。この町は六角の一人が統治している。正確には北部のみで、南部は自由にさせてる状態だ。だが、こいつだけは怒らせては駄目だ。一つ、いや一人で、あたしら5つが全勢力を結集させても絶対に勝てない。拮抗てレベルじゃねーぞ。イメージとしては、虫とドラゴンが戦うという構図だ。幸い奴はここからは出ない。覚えとけよ」


僕は北部を見るが、南部と高い壁で隔てられており、上空には黒いモヤがあり、よく見えない


「そんなに強いの?」


メラは遠くを見るような眼で

「ああ、あたしが六角になる前、六角が出来る前に戦ったよ」




ユーロピア戦線


北部諸侯国群…


「ウルスラ殿、いかがいたしましょう」


バカでかい禿頭を掻きながら言う

「ふむ、宣戦布告は出しておらぬな」


「はい、ご命令通り、取り消しさせておきました」


「ふむ、いいぞ。では、策を授けよう。儂らは戦わぬ。この地で、ローマ神聖とヤゲローを戦わせるのじゃよ」



皆が「おお」と唸る。だが一人が問う


「では、どのように」


「ローマ神聖は、我らが味方だと勘違いしておる。誘導してやればよい。だが、ヤゲローは天運と超直感の持ち主で、戦の基本などを知らぬ小僧。ということは、下手に動くと我らに不幸が落ちる。一番良いのは放置だが、村を荒らされるのはよろしくない。軍を分けろ!それらを監視につかせるのだ。わざと見つかるようにな。敵が追撃すれば誘導し、追撃しなければ監視と嫌がらせをすればよい。村民は敵が到着する前に連絡をよこし、避難をさせとけばよい。あとはこれに従え」


ウルスラはそれぞれに詳細な命令とマニュアル、敵の予測進路を渡した。これが事務の力である。



北部では静かな戦が始まった




ヤゲローSIDE…


「ピウスツキ様、包囲されております。100人単位の部隊が複数囲んでおりますが攻撃する様子がございません」


ピウスツキは唸る


「う~ん、あれは攻撃しないほうがいいかな、けどなんか僕らの行軍の方向を決めてるようでなんかいやだな。こちらも同じように小分けして追い払おう」


ヤゲローから騎兵が出てきて大慌てで去っていく


今回の侵攻軍を率いる軍団長の一人が


「ふん、たわいない、すぐ逃げよったわ」


その後侵攻を続けると、先程逃げた部隊が戻ってきた。

彼らはその後、弓などを撃ってきたり、伏兵をしのばせたり、夜襲、罠など嫌がらせを行う。到着した村には人どころか、食料もなく、水も汚水しかなかったなどきびしい道のりで皆がイライラし始めたときだった。




ウルスラSIDE


「ウルスラ殿、方向転換に成功いたしました」


「ふむいいぞ、これで町からは遠のいた。双方ともに損害は微々たるものではあるが、向こうは士気が落ち疲れておる。次は、ふむ、決まったな。次の相手は我らではなくローマ神聖じゃぞ」



ヤゲローSIDE


兵の皆の士気が落ち、疲れているときに前方から大軍が見えた


「敵発見、数3万、北部連合ではありません、ローマ神聖国です。先頭に立つのはクロムウェルです」



ピウスツキが大笑いする

「ジジイめ、僕をうまくはめたと思ったでしょう。けど、こうすればいいと僕の直感が言ってるんだよね。皆の者、戦闘準備はしなくてもいいよ。撤退」


ヤゲローが去っていく、見張りの兵はローマ神聖と合流させており、故に彼らを後に見たものはいない。それを聞いたウルスラはいやな予感がする。


突如何かに気づき焦りだすウルスラ

「まさか、ヤゲローはこの土地ではなく、この儂を…いかん!今すぐ、ここを離脱する!」



その時見張りから報告が、

「報告します、前方からヤゲローの軍勢が、その数2万8000です。」


「どういたしましょう。本来2万いる軍勢の大半はローマ神聖と合流しております。彼らが到着するには時間がかかります」



「なぜ、儂の居場所が分かったのだ…仕方がない、降伏しよう」


ヤゲローの陣にて…


「いや~、ご苦労さん、君がウルスラだね」

目の前の少年がにこやかに言う



「いかにも儂がウルスラじゃ、なぜ儂らの居場所がわかった」


「白騎士シャリーン、先先代だ。彼女は、不利であればあるほど有利に変える計を持っていた。反転の計さ、軍を小分けするとどうしても各部隊に伝令速度にムラが出る。それさえわかれば本陣なんて簡単さ」



ウルスラはため息をつく

「世間ではお前の評価は悪いようだが、見直さなければならんな」


「うん、バカを装って正解だよ。戦争なんて天運と直感で勝てるものじゃないのにね。といわけで、死んでもらうよ。僕のこと知られたのと、もう一つは北部連合を潰すためにね」



ウルスラは焦る

「待っ、待てくれ」


「待たない」

ピウスツキはウルスラの首を刎ねた


ウルスラはあっさりと死んだ



「こんなのが英雄なのかい?英雄ってのはずいぶん軽いものだな」



その後ヤゲローは北部諸侯国群の南部の都市をローマ神聖と偽って攻め燃やし尽くした。その時に、多くの男や老人が殺され、女子供は犯されたのある。これにより、北部連合会議はローマ神聖に正式に宣戦布告を行い軍をかき集め、ローマ神聖は報復として同行してた北部連合軍を無抵抗のまま虐殺した。だが北部連合会議ではこのことはヤゲローが行ったと反論するものが多数おり、大いにもめ、果てには過去に合意したことにいちゃもんを持ち出し、売り文句に買い文句となった。ウルスラという重石が消え去ったことにより会議はばらばらとなり、各都市国家はそれぞれ戻り、独自に活動するようになったのである。



現在ピウスツキは絶賛、北部の都市で女にレイプしている最中である。ピウスツキは年上の方が好きなご様子です。実はマザコンです。ピウスツキが生まれたのと同時に死んだため、母親への思慕が強くなり、何かが間違ってこういう性格になりました。


「クロムウェルは虐殺以降自国に戻ったよね。ということは、やり放題だね。この地域には戦国地帯になってもらうからね。弱い都市は僕らが間引いてあげないと、強い都市同士はぶつけて弱くなったら僕らが食べればよいんじゃないかな。あっ、女は僕に寄越してね」


副官は相槌を打つ

「なるほど」


「あと、君にはいってなかったけど、パパ曰く、ここで待機だって。ここを根城にローマ神聖、新生ブリタニカの背後を取れるからだって。あと女も抱き放題だよ。ってあれ?この人死んじゃったよ、別のある?」


白騎士ピウスツキの下で軍団長を務めるこの男の名はカイザル、ユーロピア三位の槍使いで、<笛槍>と呼ばれる。彼の振るう槍はあまりの豪速のため音を奏でるのである。彼は本来イゾルテの配下であり、そして、最も正義感が強い男ではあるのだが、敬愛するイゾルテの命令のため耐えるしかなかった。ちなみに妻子もちである。


北部の地獄はまだ始まったばかりである



ベルリン…


「クロムウェルよ、つまり我々は嵌められたということだな」


クロムウェルは跪きながら首肯する。

「はっ、我々はヤゲローの隠れ蓑とされたのでしょう。故に、撤退するしかすべはございませんでした」



シュビナーが問う

「では、クロムウェルよ。なぜ、連合の兵を虐殺したのだ」

シュビナーが続ける

「彼らは確かに我々と行動を共にし、貴殿らは何もしてないとの証言者となってくれるのではないかね」


クロムウェルの問いは

「確かにそうなるのでしょうが、会議の長達が認めないでしょう。弁明に行ったらわが軍は包囲を受けるでしょう。それなら潜在的な敵となりえる彼らを殺すのがメリットとなる。現にヘルシンキは落ちました。これでかの地は戦で乱れた地となり、攻め込む力を失いました」



ルードヴィッヒ2世は

「ふむ、よくやった。かの地は所詮僻地、なにも生まん、最後に併合するのが良い、それまで遊ばせてやれ。ご苦労じゃった。ゆっくり休め」


「ハッ」


クロムウェルが去ったあとルードヴィッヒ2世は

「シュビナーよ、どう見る」


「戦術的には失敗ですが、戦略的には成功です」


「ふむ、なぜそう思う」


「あの地は事実上、ヤゲローの物になりましたが、ヤゲローはあの地を略奪することしかできませぬ。それで短期だけ国力は伸びますが、かの地は戦争を続けており、生産などできませぬ。故に長続きはしないとおもわれます。あと戦争をしている間、ヤゲローはあの国には手が出せず、故に背後は狙われないのですよ」


「だが、ヤゲローが全てを平らげたらどうする」


「ご安心ください、すでにいくつかの都市に秘密裏で支援を行っております。戦争は続くでしょう」



地獄は始まったばかりなのだ




メラと僕は今、ダークエルフ、獣人族、亜人族のそれぞれの政府が合同で治める都市、アフリカ連合直轄市モガディシオにいる

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