破章&転章 《祭りの終わりと開戦》
オリンピア祭が終わり、それに伴い王侯会議も終わる。オリンピア祭は例年通り、上位は連邦と帝国が独占した。一方で会議は結局最後まで同意することなく、完全決裂し、開戦が決定的となった。それがいつとは誰も言わなかった。王たちが話をしてる間、各家臣は自国の国益のために密談を重ね、順調に準備を整えていた。
各国が冬都から去っていく様子を天から見下ろす存在アナスタシア2世がカインに問いかける
「ほら、言ったとおりに辺境の田舎で小火が起こるわよ。ねぇ、カイン。ヤゲロー、ローマ神聖、フランク、ヒスパニア、聖ローマ、ボヘミアの7国でどれが最初に滅ぶと思う」
カインがサラッという
「普通に考えたらヒスパニアでございますな。あそこの国には優秀な将がおりませぬゆえ。あの国は自ら将を殺したのでございますからな」
アナスタシアが笑いながら言う
「フフ、カインあなた、そんな事ちっとも思ってないくせに。ヒスパニアはしぶとく生きるわよ。たぶん、徴兵や戦奴、囚人部隊を優先に出し、精鋭は最後まで残すわよ。それを踏まえて、もう一度聞くわ」
カインがこれもサラッと答える
「聖ローマ」
アナスタシアの口角が上がる
「なぁぜぇ?」
「簡単なことです。彼らはメラ殿を怒らせた。故に<アルテイスト>の舞台となった。<アルテイスト>は喜劇よりも悲劇を好みます。故にあの国が狼煙となるでしょう」
「せいかーい、偉いわ。さすが私のチルドレンの中で最も優秀な子だわ」
カインは疲れたように言う
「マム、私はご覧の通りにもうよぼよぼのお爺さんですよ」
「ふふ、見た目はお爺さんでも、私が生きてる間は、皆子供よ」
「そうなりますと、私は死ぬまで子ども扱いされますな」
ふとカインが言う
「マム、帝国との同盟の件はどうですか」
「ああ、そのことね。彼らの了承は得られたわ、なんか拍子抜けしたけど…よく考えたら、私たち霜の一族と彼ら炎の一族が争うのが一番嫌な事だものね。彼らから最終的には一つの国、つまり連邦に組み入れろ、との通達よ」
「それは壮大な夢ですな。シ族の子孫である我々が分かれて2000年近く、お互い変わりすぎました…それを一つにする。炎の一族の夢ですな。我らはそんな夢はとうの昔に捨て去りましたが、彼らはずっと持っていた。だから戦争してきました」
「ええ、今回は戦争を捨て、対話による融和を目指した。我々も賛成よ、もう戦争なんてこりごりだもの。これを聞いたらメラちゃん怒るわね。この話にメラちゃんはかかわってないもの。あの子目立ちたかり屋だもんね」
「怒りで冬都を潰さないでもらいたいですね。そんなのシャレになりませんから。いざとなったら、彼ら 《Novi Mir7賢人》、我らが祖、シ族に止めてもらいましょう」
ユーロピア全土…
ここは聖ローマとローマ神聖のの国境…そこに黒の軍勢が現れ、聖ローマの国境を守っていた教会軍を蹴散らし、駆け付けた聖騎士団の部隊を壊滅させた。その数、1万1千、それを率いるのは…
「がははは、ぬるいのう、ぬるい、ぬるすぎるわ。これが昔、動員数100万を誇る国なのか。昔と比べて腑抜けたのではないか。」
この男、最強の傭兵集団、<黒龍軍団>を率いる偉大なる将軍ガトーである。
自由都市同盟にいる虎の子である3000と、ヤゲローにいる傭兵8000を率い、ローマ神聖国を通過して攻めてきたのである。各国が帰国して準備が出来てない時期に、傭兵というフットワークの軽さと王侯会議で結んだヤゲローとの秘密同盟を利用して攻めてきたのである。
「閣下、前方から軍勢が総勢1万5千とみます。それを率いるのは…シンフォニア公爵です!救国の三英雄シンフォニア公爵です!」
ガトーはにやりと笑う
「ほう、さすがだな!この時期で、これだけの兵を集めるとは…オストマルク国軍元帥兼総司令官のシンフォニアか、懐かしいな!俺がまだヤゲローにいたとき、お前は俺に一度も勝てなかったよな、今回も勝てるかな、爪を出せ、一気にぶち抜くぞ!あと牙も忘れるなよ」
「「「「「「「「「「ハッ」」」」」」」」」」
シンフォニア公爵SIDE…
「公爵…敵はガトーです…」
「うむ、多くは語るまい、ここは今は亡きオストマルクではない、勝つ必要はない、耐えればよいのだ。よし、堅陣を引け、敵は軽騎兵を中心とした戦術で来るぞ。敵が接近したら弓射で対応しろ。援軍を待つのだ。敵は速いぞ!急げ!」
「「「「「「「「「「ハッ」」」」」」」」」」
聖ローマ軍が陣を作ってる時に、突然ガトー軍から騎馬兵が出て、突撃する。
それに対し、聖ローマは冷静に矢で応えるが、騎兵は小さな丸盾でいなす。それでも冷静に番え、撃とうとするが、そうしてる間に、想定の2倍以上の距離を詰めていた。それに気づき慌てて撃つ。
「がははは、驚いたか、俺の騎兵「爪」はユーロピア最速、ヤゲローの鉄槍騎兵とは違い、連邦の最西端にいる遊牧民族を使ってるからな。ユーロピアの騎兵とはわけが違うのだよ。ころあいだ、「牙」に合図を送れ」
空に火矢が飛ぶ
突如堅陣の至る所で矢が止まる。それを見たシンフォニアは
「全軍撤退!後ろにアサシンがいるぞ。そいつらを蹴散らせ、後退するぞ!」
突如、後方から黒ずくめの鎧と覆面をした一団が現れる。彼らは連邦と帝国を隔てる大山脈のふもとに住む山の民族によって形成された民族である。これらのようにガトーの傭兵集団は異民族や少数民族が大半である。
「ほう、シンフォニア、気づいたか!けど少し遅いな。残りは俺に続け、穴を食い破るぞ」
ガトーの追撃はやまない、彼らは鉄槍騎兵みたいな細い槍ではなく、極太の長槍を使い、歩兵を次々狩り、騎兵は騎射で倒す。この鬼ごっこは3日続き、1万5000いたシンフォニア軍は7000までに減っていた。その夜では大急ぎで野営が進められていた
「かがり火を多くたけ、アサシンに殺されたくなければな」
副官がシンフォニア公爵に言う。彼はシンフォニアとの盟友だ
「この度も完敗ですな」
シンフォニアは笑う
「いいや、勝負は最後までわからぬよ。我々がこうやって粘ってる間に、あの二人が来てくれれば、私の勝ちだ。やはりやりにくいな。アサシンは二代前の青騎士が使っていたものだ。彼らは常に本軍よりも先にいて斥候している部隊でな。自慢の足で本軍と情報を提供している。戦場にくる前から、我々は見つかっている」
長年連れ添った副官も首肯しながら続ける
「やりにくいな、あの騎馬兵はたぶん赤騎士の物だ。敵の陣が完成する前に側面攻撃を得意とする。森、山、沼地、砂漠、あらゆる環境を走破する部隊だな。白騎士の戦法はたぶんでないな」
シンフォニアもそれには同意である
「反転の計か、私では奴を攻めることはできない。全くレナードとサイランのせいで私は守りしか出来なくなってしまったではないか。私は騎士だ、変則的な相手は苦手だ」
「ガトー様、牙より連絡です。敵、陣にて大量のかがり火を用いて牙を警戒中だそうです」
ガトーはじっくり考える
「今からここを離れるぞ。俺の予想が正しければ、それはダミーだ。青騎士様が使ってた戦法だ。牙で追跡させろ!あの陣はもぬけの殻だ」
ガトーは唸る
「確かシンフォニアは撤退戦を好むな。敵を奥にに引き込み、後方に控えた援軍と合流し、途中で散解させた部隊が敵の補給路を断ち、包囲殲滅する戦術を多用してたな、牙で辺りを捜索させろ、3500はどこかに隠れてるはずだ。撤退は3500だけだ。うん?なるほどそういうことか、我の後方はもう何重もの壁が出来てることか8000は全て死んだのではなく多くは途中で消えたのか。俺を包囲するために、面白れぇ」
その夜、周囲のシンフォニアの軍はいなかった。7000は全員撤退したのである。それは何故か、太陽が昇った時にそれがわかる。
援軍が到着したのである。レナードとサイランが率いる1万8000である。
「やれやれ、ジジイはこれで役目はおしまいだ」
レナードは朗らかに言う
「シンフォニア公爵、お疲れ様です。あとは我々が」
シンフォニアがサイランに
「サイラン、残りは後方で壁を作っている。うまく使え」
サイランがポツリ
「シンフォニア、お前の戦法では国は救えないぞ」
シンフォニアは諦めたように言う
「そんなの祖国が滅んだ時に知ったわ。オストマルクに俺を超える将がいれば守れたさ」
「…ガトーは任せろ」
ガトーは大喜びしてた。救国の三英雄が相手である。武人の彼にとっては強者と戦えることはこの上ない喜びなのである。
サイランが命じる
「レナード、突っ込め、勇者とあの騎馬兵をぶつけろ」
「いわれるまでもない、皆の者、大聖女への忠誠を!大聖女はいつでも我らを見守って下さる!死を恐れるな!突撃!」
その間サイランが声をあげる
「ゲヘル、セリュサ、クナン、ガロン、来い」
突如4人が現れる
「ゲヘル、お前の軽騎兵で、ガトーの周囲を回り遊撃しろ」
黒のロングコートと仮面を着けた男が頷く、素性も全て謎の男である
「セリュサ、ガトーの首を取れ、タイミングはバカがガトーとぶつかった時だ」
片目に眼帯を付けた金髪の女性が、彼女は昔シールドメイデンをして、片目を失ったあとサイランの下に着いた
「御意」
「クナン、重装騎兵で、バカの後方を守れ、あのバカは前しか見ないから、簡単に包囲される。頼んだ」
地味な男が頷く、彼は昔山賊の頭領をしてた男だ
「ガロン、牙を全員殺せ」
「はは」
この男は裏社会の顔役であった男である
そしてサイランは振り返る
「ルナリア、どう見る」
サイランの副官を務めるのはユーロピアでは普段お目にかかれないダークエルフである
「ガトーで決まる」
「わかった、弓隊、牙と爪以外は唯の傭兵だ。弓である程度殺せば、崩れる。全弾撃て」
ヤゲローの傭兵がバタバタと倒れ、陣形が崩れる。
一方中央では…
「はぁぁぁぁぁ」
レナードが魔力で身体強化をし、次々と眼前の敵を切り伏せ、突き進む。他の勇者も魔法を使い各々の敵を倒して突き進む
そして眼前には斬ると刺すの両方の機能を持つ大槍を持つガトーが悠々と馬上で待ち構えていた
「貴様がガトーだな、その首いただいた、シッ」
レナードが聖剣をふり、その首を刎ねようとするが素手で止められる
「なっ!」
「軽いわ!軽すぎる!貴様の剣からは重みが感じん!力任せで剣を振っている。心がこもっておらん。本当の剣はこれだッ」
大槍が振り上げられる。穂先が剣みたいに大きいその槍で斬ろうとする。そして目にも止まらぬ速さで首元に吸い込まれるが、勘で伸びた手が、剣がそれを防ぐが…
「おっ、重い、なんという重さだっ!ふざけるな!俺は勇者だそんなことが許されてたまるか!」
「ほう、止めたか、だがまだだよ」
槍を握っている左腕の筋肉が一気に膨張する。筋力増強魔法である。剣がじりじり押し込まれる。このままでは、首がとられる。その時…
「ガトー様」
ガトーの右側から細く長い槍を構えたセリュサが馬に乗りながら突進する
「しゃらくさい」
ガトーはレナードを吹き飛ばし、セリュサと対峙する
セリュサは目にも止まらぬ速さで心臓を突こうとする。その槍は手首だけでなく腕までも捻りあげることによって回転を生み出し、変則的な動きを再現してた。だが、そんなものはガトーには効かず、弾き飛ばされるが、その勢いを方向転換に使い、戦線を離脱し、ついでにと兵を3人殺す。
ガトーは笑う
「これがサイランか、見事な包囲だ!ところどころに穴があるが全て罠だろう。矢はひっきりなしに降り、穴以外は槍とボウガンで守られている。本陣もダミーを作り絞らせない」
突如ガトーの眼が細まる。白騎士の言葉を思い出す
「自分が不利である時、全てが見えるのだよ」
ガトーはふと、降り注ぐ矢の割合を見る。後方の矢が前方の矢と同じ割合であり、特に左右は少ない。前方が多いのは当たり前だ。本来の本陣や援軍が来た方面であるから間違いがない、だが後方はシンフォニアが途中で置いてきた部隊だけのはず、だが牙との連絡がない、たぶん全滅させられたのだろう。ならば、牙以上のアサシンがいると考えるのが妥当だ。もしそいつらがシンフォニアの部隊と接触してたら?しかも後方は統制がとれている。側面と比べて。
「つまり、サイラン貴様は俺の後ろにずっといたということだ。援軍と共に来たのではなく、初めからこの地が決戦になると考え、軍を隠していたな。お前ら着いてこい、本陣は真後ろだ」
駆けながらガトーは笑う
「がははは、凄いな、サイラン。俺の想像の二周り、いや三周りも違う。俺の策もすべてお見通しというわけだ」
そして本陣にぶつかる。この時、ガトーとサイランが初めて顔を合わせる
サイランが
「さすがです、ガトー将軍」
ガトーが
「貴様がサイランか、その首いただくぞ」
ガトーがサイランに向けて走り出すが、その時何かがすれ違った
その後ガトーの首が飛ぶ
「ご苦労だ、ルナリア」
ガトーを失った傭兵軍は壊滅し、自由都市同盟とヤゲロー連合軍は敗北した。ガトーの死は全ユーロピアに知れ渡り、各国に大きな衝撃を与えた。新しい時代の幕開けを感じさせる予感である。
ガトーが聖ローマに侵攻するのと同時に動いた国が存在する。ヤゲロー大公国である。総大将を白騎士とする北部軍2万とバルト3国軍8000の連合軍が、多くの小国が乱立する北部諸侯国群に侵攻したのである。
ローマ神聖国SIDE
ルードヴィッヒ2世が深刻そうなため息をつく
「シュビナーよ、我はいかにすればよい」
近衛騎士団団長シュビナーが答える
「陛下、北部諸侯国は南部には我が友好国や保護国が多い、今すぐに救援を向かわせるのがよろしいかと」
「して、救援の将は誰が適任だと思う」
シュビナーは頭を悩ませ、クロムウェルとアラバルトを呼び、対策法を聞いて決めようと思った
クロムウェルは
「本国に攻めるのが良いかと、騎馬兵で一気に攻めあげ、侵攻部隊を撤退させるのが良案だと。これはわが中央騎士団が行いましょう」
一方でアラバルトは
「いいえ、北部諸侯国に侵攻いたしましょう。本国には赤騎士、青騎士、そして先代白騎士のピウスツキ大公がいる。南部軍2万も健在でありリスクが高すぎます。それに北部諸侯国には<怪脳>ウルスラがいます。そのため北部諸侯国がよろしいかと」
毎度同じみのように言い争う
「アラバルト、そんなでは時間がかかりすぎる。ボヘミアからの侵攻を止められるのか」
「クロムウェル、お前の作戦ではひどいほうに向かうぞ」
シュビナーが一喝
「陛下の御前である。控えろ」
ルードヴィッヒ2世が言う
「アラバルトの作戦を採用するが、中央騎士団でやれ、済まぬなアラバルトよ。お前にはスワロフを止めてもらう必要がある。今回はこれで納得してくれ」
「御意」
北部諸侯国群SIDE…
「以上で北部諸侯会議の結論を言う、我々はローマ神聖、ヤゲロー、どちらにもつかず独立を維持するため両国に宣戦布告を行う。全都市の限界動員数15万を一つに統合する。総大将は、かつてシュステルベルクが連邦を相手しているときに神聖ローマを退けたもう一人の英雄<怪脳>ウルスラとする。以上のことを全会一致で可決する」
<怪脳>ウルスラ。シュステルベルクが武人だとすると彼は策略家となる。シュステルベルクが当時は将軍であったが彼は宰相であった。その頭脳で多くの敵を殺し、人よりも圧倒的に大きい頭と脳を持つことから<怪脳>と呼ばれた老人である。彼は武人と違い常に進化を続けている。新しい戦略戦術を知ればその分成長するのである。
その時、僕ことクロウィンとメラはアフリカ南部のとある海岸にいる。とても背徳的な雰囲気を感じる都市である。そこらあたりに、売春婦が溢れ、麻薬の匂いが充満し、至る所で銃声、女の嬌声、ヤク中のうめき声、ケンカの音が聞こえるまるで生者が感じられない死の町、この町は人によっては《白色都市》、《無色都市》と呼ぶが、こう呼ぶのが一般的で最もしっくりとくる
どこの国の権力に染まらない完全無法地帯の町であり、六角の会合が開かれる都市である。
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