破章 《オリンピア祭とその裏》






 オリンピア祭、それは四年一度しか開かれないスポーツの祭典、この年のこの期間のみ、各国は休戦しこの場で自らの国力を示さなければならない。スポーツは陸上で行われるものだけでなく、海、室内、川、湖、山、森、などあらゆる場で行い、肉体だけでなく、将棋シャトゥランガや計算など知力も競う。つまり、オリンピア祭とはこの世で競えるもの全てを競う競技である。老若男女、季節も関係なしに競うのである。基本春から秋にかけて行うが、冬のスポーツは、連邦と帝国の国境にある8000メートル級の山々が集う大山脈でおこなわれるから問題はない。

 国力を競うためどうしても連邦帝国有利になりがちのため、連邦は8軍管区に分かれ、帝国も加盟国家ごとに分かれる。基本上位に立つのは、連邦8軍管区と、帝国の中の6大国に集中するが、たまにユーロピアや帝国の中小国家が食い込むと、周りから惜しみのない称賛が響き渡るのも、面白さの一つである。

 だがそんなものは所詮、おまけでしかない。そんなものに何の価値もない。オリンピア祭の最大のイベントとは<王侯会議>である。各国のトップが集い今後の4年間を決める会議である。この会議はアフリカ南部と、大八洲以外の国が集まる。まさにビッグイベントなのである。




冬都クレムリン宮殿…


連邦宰相カインが舞踏会の開始を宣言する


「このたびはオリンピア祭に来ていただいたことに、連邦と皇帝陛下を代表して感謝を申し上げます。では舞踏会をお楽しみくださいませ」


この場には各国のトップだけでなく、大臣、将軍、皇族、大貴族などが集っている。彼らの夫人は、自分の衣装、宝石、化粧を見せびらかし、男たちは隅で政治的駆け引きを行う。


クレムリンの大広場を頭上で眺めるアナスタシア2世は戻ってきたカインに言う


「どう見る?今回の会議。だいぶ荒れるわよ、あたしが爆弾を突っ込まなくても」


「それでも言うべきですよ。それが彼らの指示ですから」


「悔しいわね。この国があるのも全て彼らのおかげだもの。ハァ、しょうがないわね。それよりメラちゃんに会いたいわ」


「いけませぬぞ、彼女、<アルテイスト>とかかわるとろくなことがございませぬ」


「わかってるけど、メラちゃんなら彼らも黙るかなと思っただけよ」


「向こうは気分を害しますな。なさらぬほうがよろしいかと」


「あっ、そうそう、ニナちゃんから手紙を貰ってるんだけど見る?」


「ご安心ください、もう見ました。」


「え~、駄目だ。このおっさん、乙女の秘密の手紙を勝手に読んだ」


「何を言ってるのですか。仕事ですよ。もし陛下の身に何かあれば、私が大変ですよ。あと私、あなた様より遥かに年下なのですが」


「ひっどーい、遠まわしにあたしをBBA扱いしやがったよ。このハゲ」


「この頭はあなた様の日頃の行いが原因です」


アナスタシアは申し訳なさそうに

「うっ、なんかごめんね」


ひと目がつかないと、彼ら二人はこうなることを知るのは誰もいない




クレムリン大広場…


ネレイアデスの顔が綻ぶ

「ああ、我が愛しの方よ、久しぶり」


ステッセルニも眩しい笑顔で

「うん、一年ぶりかな。どうだい、ユーロピア旅行は楽しかったかい」


「ええ、とても新鮮でしたわ。あとでお部屋で二人きりでお話いたしましょう」



その言葉にステッセルニは少し困ったような顔をする

「レア、君、僕が結婚してるのを知っているよね」


「ええ、牢獄から祝福いたしましたよ」


「それだとわかるけど浮気はマズいかなと思うんだよね」


「関係ありません、それよりもいつもの口調とは違いますね。私はいつもの口調が好きなのですよ」


「それはお互い様だ。お前の口調もなかなか気持ち悪いぜ」


「ええそうね。自分も思ったわ」



その時、遠くから噂の妻が


「ロムルス、何浮気をしてるのよ!」


「やべっ」


そして捕まった


「あんた家に帰ったら覚えてなさい、で、あなたは帝国のどちら様?」


「私は、ローマ帝国東部帝国艦隊総司令官のネレイアデス・ディルフェルカと申します」


「あなたが…10年前に…」


「ええ、その後どうなったのかはわかりますよね<氷の魔女>セシリア―デ・セルニコフ北方艦隊総司令官殿、でお隣は兄のスレンスキー北西軍管区総司令官殿ですね」


ぶっちょう顔の男が

「よろしく…」


ネレイアデスはすまし顔で言う

「安心してください、セシリーさん、私はステッセルニとタバコを吸い、ワインと将棋シャトゥランガを嗜むだけですよ」


セシリア―デは警戒しながら

「どうかしら、ロムルスは兄に似て全然女の子っぽくないあたしにはもったいないほど最高の男よ。あなたみたいな美人が隣だとあたしが惨めじゃない…」


「セリー、そんなことはないよ。君は十分にイイ女さ。体は少し大きいが、それもキュートだ」


「あたし、胸がッ!その胸筋しかないのよ、ボソッ」


「それもキュートなんだよ」


セシリア―デは顔を真っ赤にしてどっかに去ってしまった。スレンスキーは苦笑しながら言う

「ロム、あまり妹をからかうな。俺のわがままを聞いてくれたのはありがたいが…」



ステッセルニは止める

「違うよ、間違ってるよスレル、彼女に出会ったのは確かに君がきっかけだったが、好きになって結婚したのは君のためじゃない。僕がそう望んだからだ。君が気を負うことはないよ。むしろ僕を見張らなくてもいいのかい、彼女を食べちゃうぞ」


「ははは、それなら妹も俺も歓迎だ早く甥か姪の顔を見たいぜ」


「それよりスレル、君はどうだい?彼女はできたのかい?」


「俺みたいな熊、誰が欲しがるんだい、来たとしても、俺の地位目当てだろう」


「そんなことはないさ、噂によると<雪の女王>タマモ極東軍管区総司令官が君に好意を寄せてるそうだよ」


「おいおい、冗談は大概にしろよな。ロム、あの大八洲出身でほっそりとしてか可愛らしい女性がなんだってこんな熊のことが好きになるのだ」


「本当のことです。スレンスキー様」


突如声が響いた周りを見回すがいない。なぜなら、スレンスキーは2メートル10、ステッセルニは1メートル95、ネレイアデスは1メートル85である。ちなみにセシリア―デは2メートルある。


「あの…みなさん下です…」


3人とも飛び上がる。そこには1メートル60ぐらいの女性が十二単衣姿でいた。


スレンスキーが屈んでいう

「これはタマモ殿、失礼しました」


タマモは眩しい笑顔で

「いいえ、よろしいのですよ。スレンスキー様。私は本気でスレンスキー様をお慕い申し上げております。毎晩恋文を書いては出せずじまいでいるのですが、やっと言えました」


スレンスキーは頬を掻きながら

「いいのか、こんな巨漢で熊みたいな俺でも」


「いいえ、大変立派で勇壮なもののふでございます」



ステッセルニが手を叩く

「ハイハイ、細かい話は各自部屋ですること、さぁ、行った行った」


二人は何とも甘酸っぱい雰囲気を出しながら去って行った



ネレイアデスがポツリ

「まさに、美女と野獣ね。あんなちっちゃくて幼い女の子に、でかく毛むくじゃらの大男がのしかかるのを想像すると何か背徳的だわ」


ステセルニがにらむ

「おい、レア、お前何考えてるんだよ。お前、レズでサドだから、タマモ総司令を脳内で調教してるだろ。ぜってー駄目だからな」


ネレイアデスが話を強制的に変える

「ステッセルニ、あなた親友や新妻の前でも猫を被ってるのね」


「ありのままの自分が出せるのはお前と百貨屋だけだよ」


「それはどーも」


ネレイアデスが言う

「それよりも、あなたは動かなくてもいいの、他の豚どもは動いてるのだけど」


「連邦と帝国は動かなくてもいいさ。彼らじゃ、俺らには勝てない」


「そうね、部屋で一晩どう?」


「いいね」


結局浮気をしてしまうステッセルニであった




翌日…王侯会議


ステッセルニとネレイアデスは将棋シャトゥランガをしている。昨日は素晴らしい夜だった


「暇ね…」


「そうだね」


「どうせ、帝国と連邦が上位をとるもの…肝心の王侯会議はトップにしか入れない。主役以外はみんな外で待つしかないのさ、だからスポーツをやるのだよ」


「司令官は暇よ」


「うん」


試合は結局終わらなかった



王侯会議、それは太古から、オリンピア祭が始まる前から行われた。オリンピア祭は当時のアラビア帝国が多くの国々に王侯会議に参加してもらうために広めたものである。王侯会議は当時のペルシア帝国が、中華、ヒンドゥラ、アラビア、ローマ帝国東部、スエズの現帝国を形成する6大国を中心とする世界会議であった。後に当時どことも関係を結ばなかった連邦が参加し、世界の枠組みを決める重要な会議になる。



現在その会議は大いにもめていた



「貴国が軍事拡張を行ったのがそもそもの原因だ」

「いや、我が国は旧式から新式に切り替えただけで、貴国みたいな増産はしておらぬ、貴国こそ、覇権を狙おうとはしてるではないか」

「双方とも拡張思考が強いようで、ともに自重なされよ」


その時、ホスト席?いや、ホストソファーに寝転がっている。アナスタシア2世が大あくびをし、一言を言う


「下らん、実に下らん」


その言葉に一人が言う。


「アナスタシア2世、いったい何がくだらないというのですかな」


アナスタシア2世は笑いながら言う


「実に茶番だな。この際はっきり言おう、この会議が終わったら、戦争を始めても構わない。そのことに連邦は異議を唱えない」


皆が黙る。その時、眠っていたニナが一言


「帝国も連邦に同意する」


帝国を構成する小国の王が訊く


「よろしいので、天子殿」


「いいよ、田舎が争っても私たちには大した影響もない」


アナスタシア2世が〆る

「それだけではない、我ら連邦はヤゲローを、帝国はマケドニアを支持してる。それを忘れぬことだ。以上で解散だ!」



参加者の一人が


「お待ちください。まだ始まってそんなに時間が経ってませぬ。こんなに一方的にやめてもよろしいので」


「ほう、若いな。君は今回参加するのが初めてか。なら教えよう。この会議はご覧の通りに国王などしか出席できぬ。我らでいったい何ができるのかね。宣言しか出せない。具体的なことは会議の後の二国間協議、や秘密会議などで決めるのだよ。わかったかね」


その時、ニナが言う


「ではアナスタシア2世、香皇国ではなく亞洲帝国として今後の二国間協議を行いたい」


「これはまいったね。大国以上だと無下に断れないが、帝国となると話が変わるね。残りの5人は大丈夫なの」


「ご安心を、同意はとれております」


「ふむよかろう、夜私の寝室で最低限の人数で来なさい」


「わかりました」


この会議で過去に、12年前に参加したことがある君主は皆驚いた。しょっぱなから、超大国がぶつかるなど…誰が考えようかと





夜寝室で…


「いらっしゃいニナちゃん、隣はステッセルニとカインよ。どちらも知ってるでしょう」


「ありがとうございます。アナス…」


「アナでいいわ」


「では、アナ、隣は丞相妹のユニと軍総司令官豪淳です」


「よろしく、で双方の官僚たちは裏で待機させてるから中に入れましょう」


「はい、入らせろ」


「では、はじめましょう。何が出るのかしら、クス」


「私たち帝国は連邦と休戦協定を破棄し…」


皆が息をのむ


「終戦協定を結びたい。そして二国間同盟を結んで、奴らと戦う」


アナスタシア2世は空中を見上げる

「…なるほど、統一ね。シ族の復活か…」

そして続ける

「難しいわね。私にとっては大歓迎だけど、彼らが首を縦に振るかどうか…私たちシ族の末裔は、道を二つに分けてしまった。今更統一するのは難しいわよ」


「わかってる、けど、私はこの血の連鎖を止めたい、ただそれだけ」


「あなたの意志はわかったわ。やりましょう。国境に軍を置かなくても済むし、あの忌々しい神族との戦争にも専念できそうだわ。じゃあね、バイバイ」



ニナは去って行った


「カイン、あの子私と対極ね。理想主義者ね。現実主義の私とは合わないようで合うわ」


「それよりも妹気味が厄介ですな。あれは我々と同類の眼をしておりました。気を付けますように」


ステッセルニが

「陛下、私はこれで」


「ご苦労様、ステッセルニ、このことは他言無用よ」


こうして一日が終わり、楽しくて退屈な日々が過ぎていいった



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