承章 《帝国へ》




海の香りがすごい、自由都市同盟、衛星都市イシュトヴァ-ン、そしてカルタゴの三大自由都市のうち、冬都、ビザンティウムと肩を並べる世界都市のひとつ、カルタゴに着いた。物凄くにぎやかだ。そこらじゅうで商人が声を張り上げている。カルタゴは人口22万で首都カルタゴは人口6万の自由貿易都市だ。地中海に面した天然の良港と豊富な石油資源に恵まれた国である。同じ自由都市である自由都市同盟よりも国土が広いのに人口が少ない理由は、海岸とオアシス都市を除いて国土の大半が砂漠であることとギルドやロッジと呼ばれる商工同盟に参加しないと定住が出来ないというルールがある。そのため、軍隊は傭兵に頼っているのが現状である。政治体制は自由都市同盟の各都市の有力者の連合に似ており、各ギルドやロッジのマスターが評議員を結成し、月に一人づつ交代で総督府で政治をとり、一人で解決不能な出来事が起きたとき評議員を招集する形をとっている。


メラが伸びをしながら

「いいねぇ、カルタゴ~、久しぶりに支社によるかぁ」


僕はふっと気になる

「そういえばメラの会社ってどんな名前なの」



メラの顔が綻ぶ

「Novyi Mirだ。本社は冬都、総支社はバグダートにある。支社はブリュッセル、カルタゴ、イシュトヴァ-ン、ヴェネツィア、ジェノヴァ、ビザンティウムにあり、出張所は大都市なら大体ある。」



ネレイアデスは苦笑しながら言う

「本社も含め全部ダミー会社よ。メラ以外の社員見たことがないもの。噂ではどこかに総本社があるに違いないってね」



メラが気まずそうに

「あー、確かに総本社はあるっちゃ、ある。あいつらは基本外に出たがらないからな、対応は全て電話と電動知性(コンピュータ)で対応してるからな」



「ふーん」


メラが強制的に話をおわらせる

「ここまでだ、うん、この話はここまでだ。おい、クロウィン授業だ。ユーロピアで貿易で栄えてる国を細かく分類しながれ言いやがれ」


「えっ、えーとね。アムステルダム、ブリュージュ、アントワープ、ブリュッセルの四都市を中心とした自由都市同盟、聖ローマのヴェネツィアとジェノヴァ、旧ハンガリア公爵領の主都(首都ではないよ)イシュトヴァ-ン、ここカルタゴ、東ローマの首都ビザンティウムだね」


メラはとにかく人を蹴るのが好きだ

「細かく分類してねーだろ、しゃーねーな。解説してやる。自由都市同盟はアルビオン、今の北部と協商間の貿易の中継地点として活躍してる。聖ローマのうち、ヴェネツィアはカルタゴ、ジェノヴァはビザンティウムとの貿易で潤っている。イシュトヴァ-ンはこれだけは海路ではなく陸路で貿易をしていて、帝国とユーロピア間の貿易の中継地として栄えたからゲルマニスクに併合された。今はローマ神聖国が独占してる状態だな。カルタゴは帝国、ユーロピアとの三角貿易の中心都市として巨利を得ている。ビザンティウムは帝国本土、つまりアラビア、ヒンドゥラ、ツーカー(中国)と連邦、カルタゴだけでなく暗黒大陸(アフリカ)本土、ユーロピア、十字貿易の中心地だ。このうち世俗諸侯に支配されず自立できたのが三大自由都市で今は二つになっちまった」


「ハンガリアは仕方がないわ。もともと帝国とユーロピアの緩衝地帯だったもの…ゲルマニスクが北部諸侯国群で連邦とことをかまえたから、帝国と講和したものね…意味がなくなった緩衝地帯はただの領土となったのよ。おかげで帝国と仲が悪い聖ローマにとっては気が気でじゃない…」


メラが欠伸しながら

「ここはさすがに大丈夫だろう。今日はホテル”エリッサ”だ。明日はマケドニア公国スコピエを通過して帝国に行くぞ」



翌日…船の中


「ねぇ、メラ、なんで聖ローマに行かないの?せっかくだから観光すればいいのに」



メラが露骨に嫌そうな顔をする

「あー、あたしはあの国には入れねんだよぉ、軽いもので破門、重いもので異端宣告がある…」


僕は首肯する

「メラは確かに異端だもんね」



ネレイアデスが補足する

「その程度なら良っかったんだけど、彼女の場合は世界の敵に認定されちゃったの…彼女が入国したら異端審問局だけでなく軍隊までが出動するわよ」


僕は冷や汗をかく

「そ、そうなんだ、へぇ~。メラなにやったの?」


メラは黙る

代わりにネレイアデスが


「先の大戦で三勢力に武器、傭兵、物資をバランスよく売りさばき戦争を長引かせた罪、聖ローマが支払いを拒否した腹いせに機密情報を敵対勢力に売りさばいた罪、それにより聖ローマを滅ぼしかけた罪、借金の取り立てを口実に聖遺物を根こそぎ奪い闇ルートで売った罪、講和の席を設け聖ローマに恥をかかせた罪…挙げたらキリがないわ」



僕は冷や汗をかきながら言う

「そんなにいっぱいしたら恨まれるね…」


聖ローマ、正式名称神国ローマ教皇領である。曰く、旧ローマ全てが本来キリストの土地であり、今の土地は神の代理人である教皇が治める地であるという考え方をするアブナイ国である。人口140万首都ローマは6万である。この国の特徴はなんといっても世界最大の宗教キリスト教の総本山であることだ。国民は皆敬遠な信徒であり、他の神を信奉する者が入ればすぐに拷問処理される。教皇は神の代理人として信徒たちに無条件の崇拝と隷属を求めていて号令ひとつで皆が軍となる国だ。普段は神兵、聖騎士団、神聖騎士団の12万が常駐しており。戦時には諸侯軍18万と信徒に鋤や鍬を持たせて、最大戦力70万の教会軍に編成し100万の十字軍を動員する完全に国力を度外視した戦闘を行うキチガイな国である。



だが、メラは何も恐れずに言う

「安心しろ、今じゃ、100万はおろか、50万もきついぞぉ」


僕は首をひねる

「どいうこと?」


「大戦が終わった後あたしを世界の敵認定しやがったから、内部分裂を起こすよう仕向けた、は、ザマァ!」


…メラを怒らせるのはやめよう…


ネレイアデスも気になるようだ


「まず頭、元権力者の教皇の権威を失墜させるために先の大戦で教皇直属の神兵を全滅させる。その後、マジで滅びそうだから赦してといってきたから、当時飾り物と言われた聖女に勇者降臨の宣託をさせ、勇者と祭り上げられた男を中心に聖杯騎士団を設立する。勇者はあたしが何故か強い魔力を持つ田舎もんを用意した。これが今の救国三英雄の一人勇者王レナードだ。先の大戦が終わったら、無理矢理身に着けさせたカリスマとあたしの支援で聖杯騎士団を聖女護衛を除いて神聖騎士団に改編、下部組織に聖騎士団を設立し、教皇と肩を並べる勢力を作った。当時の聖女は大聖女となり、多くのシスターが聖女となった。次は軍だ。聖ローマには多くの種類の軍がある。教皇や枢機卿団の忠実な神兵、大聖女の護衛を務める聖杯騎士団、大聖女の最高戦力神聖騎士団、その下部組織で教会軍に続き二番目の勢力を誇る聖騎士団、教会と直接関係があるわけではないが旧オストマルクの騎士団達、各教会が保持する僧兵、教会軍、十字自警団などなど。」



ネレイアデスも推察する

「聖女側の騎士団はメラが作ったのね。教皇の神兵と教会軍、僧兵は関係無しっと、あとはオストマルクの遺臣達が…自警団は数に入れないとしても、三角対立してるわね。」


メラは否定する

「いや!4つだ。まさに自警団も数に入れなければならないほど厄介だ。」

メラは続ける

「勇者王レナード、先の大戦で敵の進撃を耐え、貴重な時間稼ぎを行った守護聖人シンフォニア公爵、最後に滅亡間近かから敵の首都攻撃まで反攻に成功した義勇軍団長軍神サイラン、救国の3英雄と教皇を含めた対立が起こっているのが現状だぁ」



「残りの二人もメラと関係があるの?」


「ああ、シンフォニアのジジィにはあたしが時間稼ぎをするようアドバイスをした。その後レナードと組ませて立て直そうと思ったら、どこからかサイランが現れて連戦連勝しやがったから三人を使っただけだ」


「それ教皇に恨まれるわよ。さすがに…教皇が失墜して聖女人気が上がる。国がもう真っ二つじゃない…」


「おかげで枢機卿団は教皇派と聖女派に分裂、各教会もどちらかに着き、教会軍が編成できない始末だ、キシシシ、軍は神兵、最近あたしの言うこと聴かないレナード、権力に一切の興味がないがレナードに嫉妬されまくっているサイランの対立を必死になだめようとするシンフォニア公爵、もっと踊ってくれよ、あたしをもっと愉しまセロヨォ」


メラは誰もが見たら失神するほど恐ろしい顔を浮かべて言った…



そして目の前は帝国の属国マケドニア侯国が広がっている。帝国まではあと少しだ


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