承章 《商売》




僕らは今ヒスパニア人民連邦共和国の首都セビリアにいる。人口150万で首都人口は6万の社会主義国家である。隣のフランク民主共和国と同時期に革命を起こしたが、フランクでは王政に反対する知識人主導の革命に対し、ヒスパニアは反乱を起こした農民が主導した革命であるため、王族、貴族、富豪、あと神を否定してるため僧侶が存在しない。知識人も革命後の権力闘争で多くが粛正されたため、人材が不足し、開発も遅れている。さらに追い打ちをかけるように、周辺国から貿易を禁止する経済制裁を受けているから非常に貧しい。その代り軍隊はほかの国を抜いて12万と多く、総じて学がない者ばかりなので洗脳が効きやすく、非常に精強である。


そして僕らは何故か、グレナム人民代表の執務室にいる。


「お久しぶりですね。ミスメラ、相変わらず今日も美しい、私の婚姻を受け取ってくれないかね。ハハハハ」


灰色の総髪を後ろに上げた初老の男性がにこやかに笑う


メラは露骨に嫌そうに

「いらねーよ、テメェの貧相なナニじゃ、あたしを満足させることなんかできねーょ」



そんな言葉に怒りもせずに返す

「ハハハハ、これは手痛い、私が故イゴール人民委員会最高幹部会議議長最高指導者の下で委員をやってた時からあなたは変わらない…あの時あなたを見た瞬間恋に落ちた…だがあなたは悠久の時を生きるもので、私はあと数年で落ち着いてこの世を去る身であるのだよ、ハハハハ」


…イゴールさんの役職名長くね…

ちなみに今は政治だけではなく、軍のトップを含めいろんな職を兼任してるため、人民代表と呼んでいる


メラは何故か照れて

「ふん、で、話は何だ、世間話で呼んだらぶっ殺すぞ」


それにしてもこの人よく笑うな


「ハハハハ、もちろんビジネスだ。今ヒスパニアは転換期を迎えている。国内の膿を全て出し切ったのだよ。これでヒスパニアは次のステップ、つまり国の発展に努めることが出来る。メラ、君にはここで会社を作って貰いたいのだよ。ヒスパニア王国は封建国家のため、農奴を中心とした零細農業国家だった…私が代表となった時、まず農奴制を廃止し、零細土地を大土地に集約して、農奴を公務員として大規模農業をさせる集団農場を築いた。これで食料を国で管理し、人民には配給を与える。まさに理想の世界ではないか、ハハハハ」



メラが欠伸をかみしめながら言う

「で、あたしはどんな会社を作ればよい?」


グレナム人民代表は真顔で

「ふむ、話が早く助かる。集団農場を管理する会社、集団工場、書類を整理管理する公社、つまり農工服務業だ」



メラがあきれる

「テメェー、このクソジジィ、全てじゃねーか、である程度やったら国有化するだろ」


グレナム人民代表は何を言ってるんだというような顔で言う

「もちろん、だが代金は全て払うよ、不換紙幣ではなく金と銀でね」


メラは何故か負けたような顔をして

「…後で本社に連絡を入れる、連邦にあるからある程度日が空く、あとでゆっくり交渉してくれ」



グレナムはにこやかに言う

「ありがとう、ミスメラ、この国はいつでも君を歓迎するよ。いつもの国賓館でいいかね?」


メラは疲れたような顔で

「ああ、それでいい」



そして僕らは国賓館のフカフカなベットの上でトランプしながら話す


「相変わらずこの国はシケてんなぁ…おい、クロウィン、見たろこの国の貧しさはヤゲローと全く同じだ…」



ネレイアデスもさすがに思うところもあるみたいだ

「ヤゲローのよりはマシじゃない?ヤゲローは金の半分を軍事費に、残りは大公の生活費よ。それよりも…軍人、委員、議員、同志たちが物凄く減ったわね…」


メラはいきなりジョーカーを出す

「ああ、ディエ・エスと互角に渡り合える五元帥のうち三人は死刑、残り二人は隠居という名の軟禁…前の代表が死んだ後の激しい粛正の嵐に勝ち残り、代表まで上り詰めた男だ。奴は連邦支部の首長、軍司令官、委員の推薦権を握ってる。事実上の専制だな」


今度はネレイアデスが二枚目のジョーカーを出す

「しかも世襲によらないね。自分の息子も殺すほどの男よ。イゴールの盟友はライバルだから殺す、軍の支配権が欲しいから軍上層部を殺す、集団農場に反対する勢力も殺したわよね?それだけでなく、連座縁座制も採用…」



僕は疑問に思う

「そんなに優秀な人殺してもいいの?」



二人ともいう

「駄目に決まってるだろう」

「駄目に決まってるじゃない」


そして勝負が決した僕の一人負けだ。なんでこの二人は僕に容赦がないのだろう



ネレイアデスが言う

「この国は農業国よ。けどフランクみたいな豊かな農地を持ってないわ。しょっちゅう干ばつや大洪水が発生して少なくない餓死者を出しているのよ」


メラも続ける

「しかも農民どもの国だからゲルマニスクみたいな工業に関する知識がない、でローマ同盟と北大西洋協商にケンカ売ったためアルビオンみたいに重商主義をやることが出来ない。無理して自由都市カルタゴと貿易しようにもモロッコに船を沈められどうしようもねェ」


ネレイアデスは嗤う

「メラが食糧を闇ルートで売らないとこの国の餓死者はもっといたわね。今回の連邦で廃棄予定の中古機械などを裏ルートで送るつもりね」


それに対しメラは困ったような顔をする

「こればっかりはあたしだけでは無理だ。本社の力がいるな、正直言ってあの国の金と銀以外はいらねー、この国はどうなるのやら…」


ネレイアデスの顔が少し曇る

「内憂外患よ…自国民は飢えてるし、集団化は非効率だわ。人民は配給制、委員は特配制…連邦制の輸入は自国発展を著しく阻害する。外はモロッコ、カタロニア、グラナダで精一杯なのに、聖ローマとの血で血を洗う抗争をやめることが出来ない状態まで追い詰められている。」


翌日僕らは何故か人民最高委員会代表大会、通称人民会議に出席してる。僕らは人民代表とともに二階の代表室にいる。前は連邦製のマジックミラーが使われている


まとめ役が議会を進行させる

「本日の議題は今後についてだ…」



まとめ役が人民代表の意見を代弁する

「今の集団農場は地方の首長の下の地方官僚が各々管理しているが、これを全て中央で管理しようと思う…」


皆が拍手をする


「これであぶれた地方官僚は中央集団農場公社の職員とする。これで、農産物の横領を防ぐ。次は工業化だ…連邦から輸入する機械をもとに集団工業化する。中央集団農場にあぶれた人民を工場に回して生産をあげる…」


「そのために五か年計画を作成した。当分はこの計画に沿って進める…」


「我らは力を合わせなければならない、横領という人民を裏切る行為などを起こして足並みを乱すものは粛正しなければならない…皆の者命を削りながら仕事に従事せよ」


大拍手大歓声である


「…」

「…」

「…」

「ハハハハ」


メラは一旦咳をして

「ゴホン、舵取りはお前次第だぞ、あたしはあくまでも売人だ、面倒までは見れない」


「ハハハハ、わかった、任せろ。膿はもうない、あとは私がこの国を平等で平和を愛する国にする」



「じゃ、バレンシアに送ってくれ、聖ローマには行けないからカルタゴ経由でマケドニアに行く」


「では、私の特別車両で送ろう、またよろしく頼む。この国には君が必要なのだよ、ハハハハ」


僕らは冬都、ビザンティウムと並んで最も豊かな都市、自由都市カルタゴ領カルタゴを目指す

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る