起章 《授業とその裏》
屋上…
「惡の華…」
ホノリアがポツリという
「確か、主義も主張も政治も宗教も全くない国際テロ組織ね…彼らの行動は規則性が全くないデタラメで何を目指しているのかも不明な組織ね」
俺は頷く
「ああ、こいつについては考えるだけで無駄だ。天災みたいなものだから無視するのが一番だが、今回はそうもいくまい…これを受け取れ、奴らのアジトと構成員のリストだ…」
ホノリアが面白そうに顔をゆがめる
「よく彼らの居場所が分かったね?」
俺は苦笑する
「売人のネットワークを舐めるなよ。奴らがテロで使っているのはほとんどメラが売ったものだ」
俺は続ける
「あとは俺の指示に従え!以上で解散だ」
皆屋上を離れる…俺は屋上で引き続きドラッグを吸う
ギィー
屋上の扉が開かれる
一人の男が入ってきた
俺は嗤って迎える
「初めまして、東部貴族会会長リチャード・スン・クレイマン」
リチャードは俺の胸元を見て言う
「<NovyiMir>に話すことは全くない」
俺は質問する
「何故俺が<NovyiMir>だと?」
リチャードは鼻を鳴らす
「胸のそのバッジ…HとN…どちらも新しいを意味する単語の頭文字を組み合わせたバッジだ。普通は手に入らん」
俺は真顔になって言う
「クレイマン商会の御曹司…俺は<NovyiMir>に席を置いているが、正式な社員ではない」
名刺を渡す
名刺を見たリチャードの顔が驚きに包まれる
「売人…なるほど、聞こうではないか」
「いいのか」
リチャードは嫌そうな表情をしながら吐き捨てる
「<NovyiMir>は嫌いだが、売人は別だ…売国と売人…この二つの称号は二人しか名乗ることが出来ない。売国はイリテム、もしくはイリユム…どちらも同一人物だ。男性がイリテム、女性がイリユムだ。こいつは滅多に動かないから情報が少ない。逆に売人はメラ…こいつは活発に動くからこっちの世界でも有名だ。ここ十年消息不明だがな。だが、最近はその弟子というものが出てきた…お前だな」
俺は頷く
リチャードは続ける
「売人の称号は重たい…<NovyiMir>に認めてもらうのが最低条件だからな…偽物は全て奴らの怒りを買って抹殺されたからな。お前は消されてないし、バッジもあるから本物だろう」
俺は笑う
「さすが<SECT>に加わることが出来た企業の御曹司ですね。聞いたところクレイマン商会はビッグファイブの傘下に入られてないと…<SECT>は人、金、規模などは<NovyiMir>より多いですが、所詮連合という緩いつながり、<NovyiMir>が本気を出すと脆く崩れ去る。最近ビッグファイブが、<SECT>に所属する中小企業を必死に買収して傘下に加えてるようですね。てなるとあなたのお父上は相当なやり手だな」
リチャードは苦笑する
「そのビッグファイブも<SECT>と呼ばれる会社の傘下に入ったぞ。結束を強めるためにな。自分のところはその<SECT>には参加しているが傘下には入ってはないが、いずれは…」
つまり、アリスは連合ではなく会社の<SECT>の社員である
「早速だがビジネスの話といきましょう。東部貴族会はこの学園に多くの寄付をしている。故に特別校舎、校則外の制服などの特例が認められている。けど、伝統的に生徒会長とクラブ連盟会頭は南部と西部で交互に担当し、副会長と風紀員は中部と北部で交互に担当している。東部は何をしているのか?それは監査委員会、そうだろ?筆頭監査殿」
リチャードは無表情になる
「言っとくが、今年度の奴らは罷免する気はないぞ。ねつ造するのはお断りだ」
俺は笑う
「そうではない。監査だから色々と調べてるはずだ。この学園の黒いところも…この学園にネズミが紛れている。全貴族会を洗ってくれ」
俺はリチャードに一通の書類を渡す
内容を見たリチャードはぎょっとする
俺は薄く笑いながら言う
「<NovyiMir>35%、<SECT>50%、この二企業がこの国の大半を牛耳っている。冷静に考えると残りの15%の企業は潰れるか、取り込まれるのが道理だ。何故、こいつらは生きているのか?」
リチャードは顔をしかめる
「売人メラが保護してたからだ。売人の売る商品は安いことで有名だからな…この書類、メラが保護してた企業全てが帝国の企業と合弁する…本当なのか?」
俺は頷く
「いいだろう。この情報で契約は成立だ。必要な指示は任せる」
俺は言う
「正直、先輩のことは盲点でした。学園内の組織ではなく、理事会直属の組織だったとは」
リチャードはくるりと振り向いて屋上を離れる
俺が後ろを向くとホノリア一味の親衛隊が待っていた。
「陛下がお呼びです」
教室…
エルがスクリーンで説明している。今回の授業は国際情勢入門である。
「これが世界地図だ。覚えとけ、ここでは連邦、帝国の過去と現在、ユーロピアの現在、アフリカはサラッと触れ、大八洲は時間があれば触れてやる」
イズミの顔が悲しく歪む
エルは気づいたが知らんぷりだ
「亞洲帝国、これは中央アジアを除くアジア大陸と東アフリカを版土に持っていた超大国だった国だ。元々は中華を統一した香皇国が西進して支配したのが始まりだ。初代皇帝閻が前の王朝、嘉を滅ぼして打ち立てた王朝だ。閻は元々嘉の皇子だったが、自分の家族を全員殺して打ち立てた王朝だ。これ写真な」
スクリーンに一人の男性が現れる
イズミが
「まるで閻魔大王見たい…」
と呟く
閻は豊かに伸ばした髭とぎょろりと見開いた眼が特徴なゴリゴリに筋肉を付けた男である
「閻は統一したらまず、連邦に攻めた。これは迷惑なことに中華の伝統でな。新しい王朝は全て連邦に挑戦するのが伝統らしい。全部負けてるが。それで大敗北した。以前までの王朝なら二度と攻めてこずに長城を改築する。閻も改築したぞ。嘉では2400㎞だった長城が2700㎞まで伸びたからな。けど閻はその後、国力を高めるために大国を攻めた。まずはヒンドゥラ王国、ペルシア帝国、アラビア国、東ローマを攻め、東ローマ以外を滅ぼし、東ローマは首都以外を占領し、首都を包囲した。その後、包囲網を維持したままスエズ王国を攻め、志半ばで崩御。次の皇帝は殿だ」
写真が出てきた。長い髪をし、キツい目つきに眼鏡をかけた細マッチョの男だ。
「殿はまずスエズ侵攻を停止し、内政に力を入れた。先代は支配地には過酷な負担と横暴を行ったため、殿はまず、朝貢を各国にさせて冊封した。普通はここから亞洲帝国となる。その後、東ローマも冊封した。冊封された国は高度な自治が与えられた。高級官僚や将軍が中華の人で構成されているがその他は地元民を採用するなど寛容な統治を行った」
エルが突然生徒に質問する
「殿がとった朝貢システムは普通のとは少し違う。その特徴と背景、誰か言えるか?」
ユンファが手をあげる
エルは促す
「閻は滅ぼた国の国民だけでなく、全てを奴隷に落としたのが有名です。その後、自分の国の官僚と兵士を派遣し、過酷な税と横暴を黙認したため、地獄となったはずです。次の殿は反乱を恐れ、懐柔策を行いました。それが朝貢です。普通の朝貢と違うのは回賜がないことですね。普通は朝貢を受けたら何倍にして返すのが普通ですが、それを行う必要がないと判断したからです。つまり、貴族や皇族を奴隷から元の身分に戻し、自治を与える代償と考えればわかりやすいかと」
エルはにかっと笑う
「ありがとう。ユンファ、続きだが、二代目は初代から仕える優秀な家臣と初代は脳筋だが二代目は謀略の才能が備わっていた。これらを使い亞洲帝国が…史上二番目の超大国が出来たわけだ。三代目になると大変になる。三代目は景だ」
次の写真は殿から筋肉と眼鏡を取った感じの男だ
「景は再び、スエズに進行して滅ぼしたんだ。その後は連邦にリベンジして10年間戦争して連邦に国土を荒らされた。その後は何度も遷都して逃げたが、家臣に殺されたというのが現実だ。彼の時代には二代目に仕えた家臣は皆、引退したり、死んだりしてたからな。景は前の二人を超えて歴史に名を残そうとしたが失敗した。次の皇帝は初の女性皇帝ニナだ」
写真には薄紫の髪をした青い眼の少女が写っていた
「彼女は連邦に正式に謝罪をして王侯会議の場で終戦協定を結んだのが有名だ。その後、亞洲帝国は支尼華帝国、シャンバラ、正統カリフのイスラーム国、通称大帝国の三つに分裂したな。帝国はニナの妹ユニが、シャンバラがニナが、大帝国は二人の遠い親戚にあたるファティーマがそれぞれ統治したな」
エルは手をパンと叩き質問する
「この三つの国の違いを誰か詳しく説明できるか?」
アラリヤが手をあげる
エルは頷く
「大帝国はヒンドゥラ、中東、北アフリカに版土を持ち、中華を版土に持つ香皇国から昇華した支尼華帝国との国境には緩衝地帯としてシャンバラがあります。」
エルは質問する
「他には」
アラリヤは
「帝国と大帝国はどちらかというと以前のような一つの国というよりも連邦に近いです」
エルが補足する
「大帝国はアラビアを中心として、ヒンドゥラ、ペルシア、東ローマのアジア地域、北アフリカ、そして連邦との交渉で得た中央アジアの部族連合が、自分たちの国教であるイスラム教を守るための反帝国反連邦の軍事同盟である
「帝国は香皇国をいったん解体して再編した国だ。中心となる中華(中原、関中、江南など漢民族地区)が国内の少数民族地区や東南アジアの諸王国を独立させ、中華を中心として各国と個別に貿易協定を結び、その後、更に全体でブロック経済圏協定である東南シナ海条約機構を発足させて出来た経済協商国家だ」
「最後にシャンバラは連邦の脅威にならんから各自調べろ」
エルが一旦息を吹いて休憩した後、続ける
「次は西ユーロピア帝国、これはアルビオン、フランク、ヒスパニア、ゲルマニア、イタリアを領土に持つ国だ。昔これらの地方にはそれぞれ国があったがアルビオンが勝ち、一つの国となった。特徴は王族以外…自国民を含めて全員奴隷身分に落としたことだな。その後、今の皇帝が多くの条件を出し、条件を満たした者から奴隷身分を解放し、彼らにぴったりの職業に割り振った。これらの作業は<NovyiMir>と<SECT>が全て代行したようだが…未だに奴隷の数が多いな。奴隷とそれ以外の比率は20:1だ。その他、皇帝がぶっ飛んでるから歪んでるな」
「神国新生ローマはそれ以外のユーロピアを全て領土としている。面白いことにこの国は大帝国からバルカン半島と連邦からはバルト三国とスカンジナビア半島を交渉で手に入れたことだ。田舎が領土を拡大で来たことに拍手だな」
「この二つは現在戦争中だ。両国とも国境にアホみたいに長い塹壕を掘って悲惨な塹壕戦を繰り広げていた。今は国民の厭戦感情が高ぶったため、にらみ合いをしてるな。ところで最近新しい国が出来たけど名前知ってるやついるか?」
アリスが手をあげる
「オストマルク誓約者同盟(オーストラリアとスイス)ですね。ユーロピア東西の緩衝地帯で永世中立を謳っている国です」
エルが笑う
「ちなみにこの国を攻撃したら連邦と帝国と大帝国が報復するぞ。この国はユーロピア東西が小競り合いを起こしたとき講和の場を設ける国だ。シャンバラを含むこの国の詳しいことは次回に回す」
「アフリカは元々は各種族の部族が乱立する土地だったが、大帝国が北アフリカを併合したから、お互い手を組み一つの国を作った。アフリカ合衆国だ。この国は部族の支配地域である州に権力がある所が面白い。州の代表者が統一議会を作り、更に国の代表者を決めるという民主主義を採用してる国だ。これも残りは次回だ」
「最後に大八洲だが、詳しいことは不明だ。あの国は1000年間鎖国してるからな。詳しい情報は連邦が支配するエゾと帝国が支配するキュウシュウから入ってくるわずかな情報しかないからな」
イズミが嬉しそうに笑う
エルが待ちに待ったぞという顔をする
「最後に連邦をやる。連邦を一言で表すならこれだ。婚姻などの血族的な関係で強く結び付いた同君連合国家だ。今の上位貴族は全て初代皇帝ユースタシアの子孫だからな」
「連邦の歴史はざっと1000年さかのぼる。その時、ユーラシアは大中小の国々が争う土地だった。連邦の始まりは、当時、たまたまその中で頭一個分抜き出たモスクワ大公国とキエフ公国とペテルブルグ帝国の3強が同盟を結んだのがきっかけだ。お互いの王妃を交換して、血縁関係を結んだんだよ。その後、三国は周辺の国々と同盟の話を持ち出した。多くの国が同盟を結び、王妃を交換し、逆らうものは滅ぼした。残った国々で作った新たな国が西ユーラシア王侯連合、ユーラシア連邦の前身だ。その後、誰がトップとなるのかを選挙で決めたらペテルブルグ帝国のユースタシアが初代皇帝となったわけだ。その後、彼は首都をモスクワに決め、名前をユースタシアグラードにした。何故、モスクワを首都にしたのかというと、モスクワ大公のメンツを潰さないためだ。ユースタシアはキエフ皇女を妻にしたため、キエフ公とつながりがあるが、モスクワ大公とはない。故に、つながりを残すために首都をモスクワにしたんだよ」
エルは水を飲む
「その後、ユースタシアが行ったことは面白いぞ。その後、モスクワから王妃を貰い、キエフ皇女と共に、夜、必死に腰を振ったのさ。子作りにいそしんだんだよ。二人の間で確か50人ぐらいかな?伝説ではそれぐらい作ったそうだ。その後、自分の息子娘を全て連合に加盟する君主の息子娘の婚約者として送ったんだよ。これが上位貴族はユースタシアの血縁と云われる要因だ。その後、一旦、全ての君主の土地を直轄地として帝国に併合し、その直後、各君主に返した…かの地に封ずるという体裁を立ててな。これが連邦が封建制の国といわれる由縁だ。彼が死んだあと、モスクワは皇帝の代替わりごとに名前を変え、ユースタシアの生まれ育ったペテルブルグをユースタシアグラードと名前を変更したんだ」
「これから500年時を進める。ユーラシア東部には一つの大帝国が出現した。遊牧民族による大帝国だ。西方ではタタール、当方ではモンゴルと呼んでいる帝国だ。当初は騎馬兵により蹂躙され、一旦臣従したが、当時、連合と同じように蹂躙されていた中華の大国京が反撃を開始し、中華から追い出したんだよ。それを知った連邦も反撃を行い、西方から追い出した。当時の皇帝の名はアナスタシア1世、彼女は不思議なことに、追い出した後、単騎タタールに乗り込み、大帝国の長大カーンにプロポーズをして、周囲が反対する前に勝手に結婚し、子供を孕み帰国するという珍事件を起こしたんだ。その後、連合と大帝国は今までの険悪な雰囲気が吹っ飛び、合併してユーラシア連邦と昇華したわけだ。そのため、大カーン家は一応連合の皇帝と肩を並べる立派な身分だし、皇族の一員であるため、選帝侯という位に就けたわけだが…ちなみにアナスタシアは変人の代名詞だ。今の皇帝は自他共に認める変人だからこの名を自分に付けたのかもしれんな」
授業の終わりを告げるチャイムが鳴る
授業時間は途中休憩10分入れて3時間…長い
エルが高らかに言う
「これで、個の授業は終わりだ。次の時間は、戦史だ。やる内容は25年前起きた大帝国との戦争だ」
一方で…クロウィンはアナスタシアの書斎の前にいた
ノックする
「入りなさい。クロウィン君」
ルヴィアの声が室内から響く
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