第四十話︰witch hat
放課後、ニーナに先に帰ってもらい、図書室に向かった。
ニーナはぶつぶつ言っていたけど、摩耶先輩の呼び出しは、いい話じゃなさそうだったので、ニーナには聞かせない方がいいと思った。
図書室に着いた。例の事件で、司書の先生が行方不明のまま。恐らくは、ヤツに。そして、ここに居たであろう数名の学生も同様に行方不明のまま。
図書室は、静まり返っていて、奥のでかいテーブルに座っている摩耶先輩以外の生徒は見当たらなかった。
「来たわね。座って。」
摩耶先輩は、そう言って、隣の席に座るように促した。
席に座ると、目の前に分厚い黒いファイルを三冊どかっと置いた。
「これは、内密の資料よ。特別にお借りしたの。このファイルを見て知り得た情報は口外してはダメよ。」
ファイルをめくると、学生の顔写真と簡単なプロフィール、そして住所や電話番号などが記されていた。
「えっと、これを見て、何をしろと?」
「これらの顔写真を全て見て、nullさんが居るかどうか調べて頂戴。」
は? nullさんの正体が知りたいのか? そりゃ、こっちも興味があるが、しかし、何故、こんな極秘資料まで持ち出してまで。
なんか、嫌な予感しかしないんだが。それに、nullさんの秘密には非常に興味があるものの、暴く事はなんだか、nullさんを裏切る様で嫌だった。
「断ったら、山依さんとニーナさんにもお願いする事になるけど?」
どういうことだろう? 別にお願いすればいいじゃないか。
「よく飲み込めて無いようね。そんなにあなた、察しが悪かったかしら? それとも、平和ボケ?」
摩耶先輩は、目の前まで詰め寄って来た。
「あなた達は、例の事件の関係者。協力的じゃ無いと、二人にも影響するのよ。」
冷や汗が出た。そうか、確かに平和ボケしてたかも知れない。此処いる摩耶先輩は、摩耶先輩個人じゃ無いんだ、たぶん。学校側の関係者として、動いているんだ。
仕方なくファイルをめくって、協力の意思を示す。見つからなかったらいいけど、このファイルにnullさんが居たら、そのときはどうしたらいいのだろうか。
「あなたの話から推測すると、そのファイルに居ない可能性の方が高いでしょうけどね。」
摩耶先輩には、nullさんのことを、出逢いから簡単に以前説明した。そして、自分も、nullさんは、この学校の生徒じゃ無い気がしている。じゃあ、なんで摩耶先輩はこんな事を。そう聞くと、念の為よと、応えた。
「ちなみに、可愛い娘の写真見つけたからといって、名前とか連絡先とか、メモしたらダメよ。」
「そんなことしませんよお。」
そう、メモなど必要ない。ちゃんと暗記できる。
一通り見終わるまで結構骨が折れた。こちらが見終わるまで、摩耶先輩は側でずっと待っていた。その資料から目を離すわけにはいかないかららしい。
「やっぱり、居ませんね。此処の生徒じゃ無かったようですね。」
「そうね。ありがとう。」
さして興味無さそうに、そう言うと、三つのファイルを紙袋にしまった。
「もういいわよ。急に呼び出してごめんなさい。」
「あ、摩耶先輩、一つ質問があります。」
摩耶先輩は、何かしら? という顔をして、どうぞと言った。
「金太郎、じゃなかった、ええっと、麗美香って編入生、ええと、神鏡麗美香だったかな、この編入生って、何者か知ってますか? 学校側の関係者ですか?」
「いえ、わからないわ。そう、むしろ、ありがとう。あなたが、そう言うって事は、何かありそうね。何かわかって……そうね、伝えても問題なさそうなら、連絡するわ。」
そう言って、図書室から出て行った。
あの感じ、本当に知らないって態度だよな。そうなると、摩耶先輩がすべて知っているわけじゃないってことか。
おっと、そろそろバスの時間だ。乗り過ごすと、また一時間近く待たないといけないからな。そう思って、急ぎ図書室を後にした。
正門を抜けた所で、でっかいリムジンが停まっているのが目に入った。見覚えがある。
麗美香のリムジンだ。
でも、あいつ、早退したんじゃないのか? わたし帰る〜って階段駆け降りてった気がしたが。
リムジンの外に黒服の運転手が直立不動でいた。かなりガタイがいい。ボディガードの様だった。というか、運転手兼ボディガードなんだろうな。あいつも一応お嬢様だし。
でも、そうしたら、あいつはどこ行ったんだ?
まさか独りで屋上に?
そう考えると同時に、屋上を見上げていた。
夕暮れ時の朱い空の手前、校舎の屋上に、何かが浮いていた。
麗美香?
一瞬そう思った。
よく見ると、その何かは、屋上のフェンスの上に器用に立ち、魔法使いの様なとんがり帽子を被り、マントを翻していた。
だれだ?
どうやって屋上へ?
麗美香が感じていたであろう何かが、あれだろうか?
そうではなく、ただのコスプレした人だったら、屋上の危険を知らないで入っちゃったのだろうか?
そうならば、ほっとくわけにはいかない。
スマホを取り出して、先程暗記した電話番号に掛けた。
プルルルル プルルルル プルルルル
10コールぐらいで相手が出た。
「あ、山根だけど、山根耕一。ちょっと頼み事があるだが、鍵貸してくれない? そんで、出来れば一緒に来てくれると助かるんだが。」
麗美香は、電話の向こうでパニクっていた。
屋上をもう一度眺めると、相変わらず、とんがり帽子はマントをゆらゆらと揺らしていた。
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