第三十三話:sink or swim
「被害者は、この人だけ?」
摩耶先輩の合流後の第一声。心配そうに、横に寝かした教員男性の側でしゃがんで様子を見ていた。
「nullさんっていう知り合いも、一緒に襲われたみたいですが、意識を取り戻して、今、怪物の追跡をしています。」
簡単に説明したところ、摩耶先輩の表情が怪訝な色に染まった。
「追跡しているのは、そのnullって人とニーナさんなのね。」
うーん、摩耶先輩は大きく唸った。
「自分もすぐにnullさんに合流したいんで、摩耶先輩、この人お願いします。」
「ちょっと待ちなさい。」
摩耶先輩の強い口調で制せられた。
「倒そうなんて考えないで。あいつの位置が分かったら、連絡ちょうだい。」
摩耶先輩に頷き、階段を登る。ヤマゲンとすれ違いざま、摩耶先輩と一緒に居るように告げる。ヤマゲンは、何か言いたそうな素振りを見せたが、無視して足早に立ち去った。
途中でニーナ達の居場所を確認するため、ニーナの携帯に電話する。
「はい。どうしたの?」
ニーナが電話口で心配そうに返事をした。
「今、何処に居る?」
しばらく待った後、6階だと応えが返ってきた。
「ヤツは見つかったか?」
「うん。」
「今から、そっち向かう。ヤツは何処に居る?」
「えっと、廊下の先でじっとしている。」
「どういう状況なんだ?」
「わからない。」
「わからないって…」
電話の向こうで、nullさんとのやり取りが微かに聴こえる。
「ああ、わたしだ。」
nullさんが、電話口に出た。
「端的に説明するぞ。ヤツは、わたしが負わした手傷のせいか、じっとしている。まだ死んではいない。今から、ヤツを始末する。いいか、おまえは来るな。邪魔だ。」
「ちょっと、邪魔って。」
「邪魔だから、邪魔といったんだ。いいから、大人しくしておけ。10分経って連絡が無かったら、失敗したと思ってくれ。その時は、後を頼むぞ。」
「えっ!? ちょっと、」
ツーツーツー
電話を切られた。
大人しくしておけと云われて、大人しく出来る訳が無い。ましてや、失敗したらって、失敗する可能性があるんじゃないか。
なら、なおさら、助けに行かなきゃ。
※※※
「おまえの彼氏は心配性だなぁ。」
ニーナに向かって、思いっきりいやらしく微笑みかけてやった。
ニーナのやつは、顔を赤らめながら、ブンブンと両手を振って、違う違うと叫んだ。
「ほう? あいつは心配性じゃないのか?」
「そっちじゃない!」
「あははは」
ふふふ、これで少しは死ぬなんて気を起こさないと良いが。
さて、
「彼氏が来る前に片付けようとしよう。」
理科実験室の扉のカギを、チョチョイと開けて、中に入る。この手の扉のカギは簡単に開くんだよ。
掃除道具用のロッカーを開けて、箒をニーナに手渡す。
ニーナは、何?って顔をしたので言ってやった。
「おまえは、これで闘うんだよ。」
「あの、、、ちょっと、意味が、、、」
「いいから、言う通りにしろ。そうじゃないと、二人とも死ぬぞ。」
ニーナは渋々箒を受け取った。
「では、戦闘開始だ。」
理科実験室を出て、10メーターぐらい先に居るヤツに見せつける様に、空気銃のボルトを引く。
先に入れていた弾が飛び出して、廊下に落ち、カランカランと、周りに反響した。
ヤツは、身を震わせ、こちらに向き直った。
新しい弾を込めて、空気銃をヤツに向ける。
グルルル
ヤツが唸る。
ゆっくりと、理科実験室に戻り身を隠す。
「今だ、ニーナ、突っ込め!」
手筈通りに、ニーナは、箒を構えてヤツに突っ込んだ。
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