第二十九話:confrontation
ニーナを呼びに行くと、まだ風呂に入っているようだった。
母いわく、「(ニーナは)あんたに代わる為に、すぐ出て来たのよ。だから、あんたは今話し中なんで、もっとゆっくり暖まって来なさいって言ったのよ。」ということで、ゆっくりしているようだ。なら、ゆっくりさせてやりたいと思った。ニーナが上がったら教えてくれと母に言い残し、客間に戻る。
摩耶先輩にニーナはまだしばらく風呂に時間がかかることを告げた。時間は大丈夫ですか? と聞いたら、この後の事は、ニーナと話してから決まるので、待つしか無いとの返事。
客間で、摩耶先輩と二人っきり。すごく苦手な空気なんだけど、摩耶先輩を客間に独りにして放置するわけにもいかないだろうと思い、ニーナが風呂から上がるまで相手をしようと思った。
「ニーナと、何を話すつもりなんですか?」
特に尋問するつもりは無かった。単に、このだんまりの空気が嫌で、話題を振っただけだった。
「屋上に居た怪物の事を一番よく知っているのは、ニーナさんしかいません。」
摩耶先輩は、そう言った後、しばらく沈黙した。
言葉を慎重に選んでいるのだろうか?
やがてゆっくりと
「何か、私に出来る事はないかと思いまして。」
俯いたまま、彼女はそう語った。長い黒髪に隠れ、その表情は見えない。
「どんな事でもいい。情報が欲しい。何もしないでは、いられません。」
なんで先輩がそこまで、そう言おうとしたけど、先輩も同じ気持ちなんだとわかって思い留まった。
知ってしまった以上、放って置く訳にはいかなくなった。それは、自分もおなじだ。
客間の扉が開き、ニーナが入ってきた。
ニーナはグレーのスウェット上下といういつもの出で立ち。
隣に座るのかと思ったら、手を引っ張られた。
「コーイチ、交替。」
ああ、風呂か。でも、摩耶先輩と二人っきりになるけど大丈夫か? と問うと、大丈夫だと答えた。
「何かあったら遠慮無く呼べよ。」
ニーナにそう言って、摩耶先輩に会釈して客間を出た。後ろ髪を引かれる思いであったが、致し方ない。
母が、いろいろ聞きたがっていたが、先に風呂に入らせてくれと、言ってやり過ごす。
風呂桶に浸かり、冷えていた身体を温める。思っていた以上に身体が冷えていたようで、湯の温かさが、身体の隅々まで浸透して来る。うっかりすると、このまま寝てしまいそうになるのを耐えつつ、上がるタイミングを図った。
※※※
図書室に入って行った男性教員と思われる人物の後を追う。
怪物と教員どちらにも気付かれない様に…
まったく、面倒が増えた。あいつが勝手に死ぬのは構わないが、見殺しにするのは、こっちが気分が悪い。仕方がない。助けるしか無いな。
こっちの計画は全ておじゃんだ。このままだと、格闘戦になりそうだな。参ったな・・・・・・
図書室の中を廊下からそっと窺う。明かりは通常通り点いていてる。一見異常は見当たらない。そう、中に先ほどの教員以外誰も居ないことを除けば。
耳を澄ます。教員の歩く音が邪魔だ。他の音は聞こえない。
そもそもこいつは何しに来たんだ?
本棚の影に隠れながら、教員の後ろ姿を捉えて進む。
目的は、司書室か。教員は、司書室へと入って行った。
ちっ・・・そこには入れん。隠れようが無いからなあ。よりによってまた、あんな狭い部屋へ。
グワアガッシャーーーンっという轟音とともに、司書室の窓付き扉が砕け飛び、中から人間二人分ぐらいの固まりが飛び出してきた。その固まりはカウンターを乗り越えて転がり、こっちに向かってきた。
くっ・・・気づかれたか?!
目の前で止まったその固まりは、ゆっくりと立ち上がった。やや透明掛かった身体、少し溶けたように身体中から粘液を出していた。まるでその全身はビニールか何かのようだった。顔には眼だけが存在し、その眼は、金色に輝き、こっちを見ていた。
足元に先ほどの教員が倒れていた。襲われたのだろう。意識は無いようだ。まったく動く気配がない。
ドアを破ってここまで転がってくるとは、相当のパワー、そしてスピードだな。
向こうも警戒しているのか、じっとこちらを睨んだまま唸っている。
どうやら会話が出来そうには見えないな。
ふふふ・・・怯えているようだな。意外と小心者だな。こいつ。
チャンスは一回。この手にした改造空気銃のライフルは、一発撃ったら、ボルトを引かないと弾を装填出来ないボルトアクション式だ。二発目を撃たしてくれる時間は無いだろうな。
まったく・・・・・・私の得意分野は知能戦であってだなあ、こんなアクションは専門外なんだがな。
怪物と睨み合いながら、手に持ったライフルを構えるチャンスを窺う。
怪物の足に力が篭った。
来るっ
こちらに飛び込んで来る瞬間、ライフルを突き出した。身体が宙を浮き、怪物と一緒に後方へと飛ばされる。
その刹那、引き金を引くと同時に、後ろの壁に背中と後頭部をぶち当てる。
ポシュッ!
改造空気銃の高圧縮な空気に押されて、弾が怪物の身体に入った。中で弾が弾ける。
頼むよ。これでダメなら、私も終わりだな。
うつ伏せに倒れこみ、打ち付けた背中と後頭部の痛みを感じた。
背中は問題ないな。後頭部は・・・まずいなあ。
意識が薄れていく。ふふふ。もう夢の中なのかもしれないな。
まあ、終わったら終ったで、別にどうということはあるまい。
そうなったらもう、わたしの預かり知らぬことだ。
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