第二十七話:The beginning of the struggle

 雨が激しく降っていた。

 風はごうごうと吹き荒ぶ。

 その中を、傘も差さずに走っていた。


 制止も効かずに飛び出していったニーナを追いかけていた。

 夜になると、この辺りは明かりがほとんどない。真っ暗な夜道をただ学校の方角を目指して走る。雨を吸い込んだジーパンが絡みついて上手く走れなくなってきた。


「ええい、ちきしょーう。」


 電話してみようかと思ったが、携帯を持ってきていないことに気づく。そして、おそらくニーナも持って出ていないだろうと思った。


 見捨てる訳にはいかない。なんとしても見つけ出して、止めないと。


 体温を風が奪う。雨に濡れた身体が、ガタガタと震えた。


 まったく無鉄砲なやつだ。何処まで行ったんだよ。

 こんな真っ暗な道を走り抜けて行きやがって。

 学校までの道は簡単だから、迷う事はないだろうけど。


 いよいよ走れなくなって、とぼとぼと歩いていたら、小さな人影が佇んでいた。電信柱に寄り掛かって、肩を揺らすその姿は、ニーナだった。

 やっと追いついた。


「ニーナ、戻ろう。ずぶ濡れじゃないか。闘う前に、風邪ひいて倒れるぞ。」

 

 ニーナは、振り向かずに


「私のせいだ…。私、どうすれば、いいの?」


 ニーナは、自問する様に呟いた。




 ※※※




 ひと仕事終えた。

 

 こんなときに、律儀に仕事している場合じゃないのだろうけど…

 摩耶は、融通の効かない自分自身に苦笑した。


 理事長は、どうするつもりなのだろうか?


 摩耶の霊視は、理事長が対処する気がない事を告げていた。


 事が起きてから、警察とか自衛隊に任せるつもりなの?


「私は、いったいどうすればいいの?」


 摩耶は呟いた。

 

 徐ろにスマホを取り出し、念のために聞いておいた連絡先に電話を掛ける。

 10回ほど呼び出し音が鳴ったが、出る気配がない。


「これは、このルートじゃないという事ね。」


 じゃあ、こっちか。

 別の連絡先へ電話を掛ける。


「あ、鈴王(ずずおう)です。山依さんの携帯でよろしかったでしょうか?」

「はい。えっと・・・ああ、摩耶先輩?」

「はい。摩耶です。」

「あの、なにか御用ですか?」

「お聞きしたいことがありまして。山根さんのご自宅の場所を教えて下さいませんか?」




 ※※※



 まったく、学校というものは、不用心なものだな。


 時間は、午後7時を過ぎていた。

 nullと自称する人物は、校舎内に残っている教員たちに見つからないように注意しながら、上の階へと階段を登っていった。

 nullは、今この学校の制服を着ていない。私服である。迷彩柄のカーゴパンツに、迷彩柄のTシャツ、ミリタリージャケット、深緑の安全靴、そして黒い布が巻きつけられた身の丈ほどもある棒状のものを持っていた。

 各フロアに着くたびに、聞き耳を立ててみるが、特に騒動が起きている様な感じはなかった。窓伝いに降りていく可能性は否定出来ないが、ここは階段に賭けよう。そして、やつが降りた場所に一番近いこの階段が一番可能性が高い。ほんとうは出逢いたく無いのだがな。

 nullは苦笑いしながら、さらに階段を登っていく。


 7Fに着いたときに、違和感に気付いた。

 7Fは1フロア全部図書室である。図書室は午後9時まで開いている。電気は光々と付いているのが階段からでもわかる。が、あまりにも静かだ。図書室だから静かであたり前なのだが、どうにも人の気配が全くない。

 nullの本能が危険信号を鳴らしていた。


 間違いない。やつはここに居る。


 先に見つけた方の勝ちだな・・・・・・


 nullは、手に持っていた棒状のものの黒い布を外した。中からはライフルの様なものが現れた。

 ボルトを引き、ジャケットの内ポケットから用意していた弾を込めて、ボルトを押し戻して装填した。


 さあって、この音、聞こえちゃったかな?


 などとつぶやいて、ニヤリと笑う。


 まあ、ここまで来れば、慌てる事はない。出てくるまで待っててやるさ。徹夜だって厭わないさ。

 壁の影に隠れながら、廊下の様子を窺う。

 電気が付いていることが幸いだった。消灯されていたらやばかったな。


 階段のすぐそばにあるエレベーターが鳴った。

 誰かが登ってきたのか? 

 nullは慌てて階段を降りてやり過ごす。


 エレベーターから教員らしき人物が降りてきて、図書室の方へ向かった。


 くそっ! 余計な事を!


 nullは舌打ちをして、教員の後を追った。 

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