第十一話 『忘れてしまいたい。』(I want to forget that.)
ヤマゲンは実に楽しそうにしている。ニーナと一緒に、婦人服やらアクセサリーやらを物色していた。ようするに、ニーナに普通の女の子らしい生活をさせようって魂胆なんだろうなと思う。ヤマゲンなりにニーナのことを考えているんだろう。
集合場所の中央公園からすぐのところにショッピングモールがある。どうやら今日の目的はここだったようだ。ニーナはというと、戸惑いやら驚きやらいままであまり見せなかった表情を見せていた。手をつなぐことが無くなって、直接の会話でしかニーナの状態を把握出来なくなった。後は、そのあまり変わることのない表情のかすかな変化を捕らえるしかなかった。そのことを考えると、今のニーナは表情が豊かになったように思う。こんなことは、自分には出来なかったことなので、よかったと思う。
思うのだが、暇である。一緒に物色するわけにもいかないので、遠目に見ているだけである。
美霧はというと、彼女たちに混ざるわけでもなく遠目に、ニーナをずっと見ているようだった。その瞳には疑惑の文字が浮かんでいた。
「美霧さんは、行かないのか?」
「美霧でいいです」
なんでいきなり呼び捨てを所望なの?! いまいち、この子の感覚が掴めない。
「えっと、じゃあ、美霧」
「はい。わたしは別に。う~ん。あーいうの、ちょっと苦手です」
「あーいうのって?」
「みんなできゃっきゃしたりすることです」
「はぁ・・・」
まあ、人それぞれか。
ん? 待てよ。じゃあ、なんで美霧は来たんだ? ヤマゲンが無理やり誘ったとか。まあ、あり得る話だな。
「ニーナさんに会うために、山依さんにお願いしました」
そうなんだ。ニーナが人外かどうか確かめるためだけに来たのか。でも、確かめてどうするんだろう。いや、まあ、人外だったら普通びっくりするよね。実際、自分でもまだ半信半疑でもあることだし。
「おわぁっなんだ?!」
気が付くと、すぐ目の前まで、美霧が近づいていて、こっちを見上げていた。
「山根さん」
こっちにはさん付けなんだ。
「山根でいいよ。やまねこでもいいけど」
「山根さん」
わかった。この子は強情なんだ。
「山根さん。お聞きしたいことがあります」
「なんでしょおお?」
なんかこの子の質問は怖い気がする。
「山依さんのこと、どう思ってるんですか?」
「は?」
え?
また、ニーナのことだと思ってたので意表をつかれた。ヤマゲンの事だとお? 面白いやつで、うっとおしいやつで、頼りになるやつだ。
いやいや、それよりもだ。なぜここで、ヤマゲンが出てくる? 何のための質問なんだ?
「いままで一度たりとも、異性としては見てなかったんですか?」
ん? どういう意味だ? 未だかつて、ヤマゲンを異性だと思ったことなどない。
「質問を変えます。ニーナさんをわたし達の寮に連れてきた日に、山依さんとニーナさんは出逢ったのですか?」
「ん? えーっと、たぶんそうだったかな。うん。そうだ。その日に初めて会ったはずだよ」
「そうですか。わかりました」
そういって、彼女は、う~ん と唸りながら俯いて悩み始めた。
「えっと、その質問にどんな意味があるのか、教えてくれないか?」
「・・・」
考え事に夢中になっているのか、それともあえて無視を決め込んでいるのか返事する様子は無かった。
「寮に連れてきたとき、山依さんは、ニーナさんを親友だと言ってました。おかしいですよね? 会ったばかりなのに」
ヤマゲンのやつ、そんなこと美霧に話したのか。
「ああ、あの時は」
ええい、ヤマゲンがどんな話したのかわかんねーから話合わせられねーじゃねーか。しょうがない、当たり障りのない部分だけ正直に話そう。
「ヤマゲンからどう聞いたかしらねーけど、ニーナと出会ったときに記憶喪失だったので、どうしたもんかと思い、ひとまずヤマゲンの寮に一晩泊めようってことになったんだ。親友とかって言ったのは、美霧に不審がられないためじゃないかな」
「別に、普通に話してくれてもよさそうですけど」
「あいつなりに気を使ったんだろうよ」
「でも、わたしが言いたいのは、そういうことじゃないんです」
「ん? というと?」
「山依さんのあれは、フリとかじゃありませんでした。本当に、昔っからの親友として認識されていました」
なんか、言葉使いに違和感がある。どうも美霧の使う単語がどうもおかしく感じる。
「ヤマゲンが騙すの上手かっただけだよ。あるいは、すっごく気が合ったとかじゃないのか? ほら、今もあんなに仲良しだし」
遠目に、ニーナとヤマゲンが楽しそうにウィンドウショッピングをしている。ニーナが楽しそうに笑ってるよ。あー、そうだよ。忘れかかってたその事実を、ちゃんと思い出してしまったよ。
ヤマゲンは記憶をいじられている。ニーナの親友という偽の記憶がヤマゲンにはある。
「確認しておきたいことがあります」
「あのなあ、もういい加減に」
美霧に対する警戒心からだろうか、この会話はすぐにでも終わらせたいと思った。
「山根さんの質問に答える前に、どうしてもこの点だけは確認しておかないといけないんです!」
突然の美霧の迫力に気圧された。そして、さっきの質問は聞こえていたんだな。美霧の質問の意味について。そのせいで、彼女の質問を受け入れてしまった。こっちの疑問の答えを聞きたいと思ってしまったのだ。
「お・・・おぅ。いいよ。なんだよ?」
「山根さんは、」
彼女は眼を静かに
「山依さんの味方ですか? それとも、ニーナさんの味方ですか?」
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