第二章 美霧
第九話 『美霧』
「遅い・・・」
ヤマゲンに呼び出されて、日曜日の朝から中央公園で、ニーナとふたりで待っている。中央公園というのは、うちの高校の敷地内というか、学校とは区分けされてるんだけど、高校と同じ海の上に浮かぶ巨大な円形の土地の中にある。ここらでの待ち合わせの定番の場所である。昨日の夜にヤマゲンから電話があり、ニーナを連れてここで待てと半ば一方的に告げて電話を切られたのだ。まあ、その前にニーナといろいろと電話で話していたようだが。
ニーナの私服は、うちの母が買い揃えた。母は、けっこうウキウキしていたな。ニーナが不安そうだったので、一緒に付いて行ったんだけどね。婦人服売り場は居心地が悪すぎる。
それはともかく、母は、たくさん買わなくて済むようにどこでも着れるような無難な服ばかりを揃えたようだ。貧乏だから仕方がない。今日のニーナは、白のブラウスに、赤いショートスカートというシンプルな出で立ち。
まあ、ニーナは美人だから、こういう服でも見劣りとかしないんだな、っと思った。
「なんだ、何も起こらないから出てきちゃったよ。」
ヤマゲンが、ルームメイトの美霧を連れて現れた。
「なんだよ。来てたんならさっさと出て来いよ。」
ヤマゲンは、くすくす笑いながら変な目でこっちを見た。
「なんだよ。その眼は。」
「いんやぁ〜やまねこさんのデレてる姿が見たくてねぇ。進み具合はどうかなあっと。ふふふ。」
とんでもないことを言いやがる。
「なんでデレなきゃならないんだ?」
「ふふ〜ん。もうデレ期は終わりですかなぁ?」
くすくす
「もうだって、一緒に、住んでひと月経ってるんでしょ? ひと月も経てばねぇ。そりゃあ、あんなことや、そんなことを」
「美霧さん、お久しぶりです。」
「ちょっと、やまねこ、無視すんなぁ」
美霧はぺこりと頭を下げた。彼女とは、まともに話したのは今日が初めてである。染めているのか、薄い茶色の髪をソバージュっていうのかな? あまり詳しくないけど、多分そんなやつ、にしている。小柄な子で、フレームレスの眼鏡っ子っていうやつだな。眼鏡のレンズが下半分しかない感じのお洒落なやつだ。
「ふむ、ヤマゲンのルームメイトには勿体無いな。」
つい素直に声に出てしまった。
「ちょっ、なによそれ?!」
ヤマゲンから抗議の声があがる。
「あなた、素直な人ですね。」
はじめて、美霧の声を聞いた。その声は、透き通っていて、なんだか心地良かった。
「素直なってなに? 美霧ぃ!」
「あ、いえ、あなたに勿体無いのを肯定したわけじゃなくって、その、思ったことそのまま言っちゃう人なんだなぁって思ったのよ」
「あー、まあ、こいつ何も考えてないからねぇ」
「人を馬鹿みたいに言うな。ヤマゲン。」
べぇーっと、舌を出して、ニーナの手を掴んで先に行ってしまった。
「おい、どこ行くんだよ?」
問いかけを無視してヤマゲンとニーナは、ずんずん進んで行った。慌てて追いかけようとしたところ、美霧に腕を掴まれた。
「あのぅ・・・山根さん。」
彼女は、深刻な表情でこちらを見上げた。
「ちょっとお話しがあります。」
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