第六話 『The First Step』
昨日はなんだかよく眠れなかった。
ニーナのことが心配というか、ヤマゲンも心配だし、ルームメイトの美霧さんのことも心配。
ニーナが何もしていないと信じたい。
昨日の電話の様子だと、ヤマゲンは普通だったし、問題なさげだけど。
本当かどうかなんて、わからない。
そして、ニーナのことをこれからどうすればいいのか?
いつまでもヤマゲンの部屋においておく訳にはいかないだろうし。
「おはよう。やまねこ♪」
脳天気な笑顔で声をかけてくるヤマゲン。
考え事しているうちに学校に着いていたようだ。
人間の慣れというのは怖いものだ。
自動的に学校まで来てしまったという感じだ。
朝起きた後のことをあまり覚えていない。
ずっとニーナのことを考えていたら、いつの間にかここに居たという感じだ。
「なに深刻な顔してんのよ?」
ヤマゲンの方を振り向くと
「って、なんで居るんだよ!」
ヤマゲンの隣に、うちの制服を着たニーナが立っていた。
「独りっきりで部屋に閉じ込めるのかわいそうじゃんか。」
いや、そもそも匿うって言ってなかったか?
出てきたら匿ってないじゃんか。
さっとニーナの手を握り、ニーナに確認する。
「隠れていなくていいのか?」
( うん。もう落ち着いた。私はこの世界をもっと知る必要がある。 )
「だから、学校に来たのか?」
コクリと頷くニーナ。
まあ、制服着てれば違和感無いからそんな目立たないしな。
ニーナは外見は白人系外国人である。
うちの高校にも白人系外国人の学生はそれなりに在籍しているので、取り立てて訝しがられはしまい。
( やっぱり、ちゃんとわからないと不安で押しつぶされそうです。)
急に自分の身体の周りに寒気がしてきた。
( この世界は、私にとって安全なのでしょうか? )
この世界は安全だ。
ニーナが居た世界のように怪物に襲われたりしない。
普通に暮らしていれば、危険なことはない世界だ。
でもそれは、自分たちにとっての安全であって、ニーナの安全を保証するものじゃない。
言葉に詰まった
言葉に詰まっても、手を繋いでいるため、こちらの考えていることは伝わってしまっているのだろう。
ニーナの碧い瞳に薄っすらと陰りが見えた。
「ねえ、いつまでそうしてるの?」
ヤマゲンが焦れて話しかけてきた。
そういえば、ヤマゲンの存在を忘れていた。
「公衆の面前で、手を繋いで見つめ合ってたら、変な噂が立っちゃうよ。」
まったくヤマゲンの言うとおりだ。
外国人が目立たないとはいえ、ニーナは綺麗な顔立ちをしている。
そんな
手を離そうとすると、ニーナはシッカリと握り返してきた。
どうやら、まだ話があるようだ。
しかし困ったな。
「話があるようだ。」
「えー、後じゃダメなん?」
コクリと可愛らしく頷くニーナ。
「とりあえず人目につかない場所に行こ。」
「お、おう。そうだな。」
こういうときのヤマゲンは頼りになるなあ。
校舎の横にあるちょっとした茂みに隠れる。
特に用がなければ通る人はいない。
「それで、話って?」
( 私は この世界を知る必要がある。 )
「ニーナは世界を知りたいって」
ヤマゲンに通訳する。
「なあ、これって多人数会話は無理なんか?」
( 無理 混乱する )
そっか。
「あ、多人数会話は混乱するするから無理なんだって。」
ヤレヤレ顔のヤマゲン。
「とりあえず、ここやまねこ、あんたに任せたわ。」
ヤマゲンはさっさと立ち去ろうとする。
「二人一緒に授業ふけると、私たちが変な噂立てられるしね。
この前も一緒にふけたし。」
まったくだ。
「先生には巧く言っておくよ。」
「サンキューな。」
いい奴だなヤマゲン。
「やまねこが女の子と二人っきりで、人目のつかないところへ走り去って行きました〜って」
前言を撤回する。
「あははは 冗談冗談」
じゃあね。っと言って去っていった。
ヤマゲンに手を振って見送る。
( 私はこれからどうすればいい? )
そうなんだよね。
どうしたもんだか。
「立ち話もなんだし、ちょっと座ろう。」
少し先にある小さな公園の木製のベンチに腰掛けた。
公園のベンチに手を繋いで座る男女。
端から見たら、どう見てもカップルだよなあ。
( どうすればいいんでしょうか )
なにを?っと一瞬思ってごめんなさい。
いかん、真面目に考えねば。
とはいえ、何も思いつかない。
こういうときは、シンプルに考えよう。
ニーナが、安心して過ごせる場所
それがあれば第一段階クリアだ。
うん。
無いな。
誰かに相談するにしても、事情話せる人なんて居ないし。
ニーナには力を使って欲しくない。
無理ゲー過ぎる。
お金も無い。家も無い。身内も居ない。
言葉も話せない。
そして異世界の住人である。
あまりにもユニーク過ぎる。
ん?
あれ?
なんか閃いた。
でも、どうやって。
いや、やってみる価値はある。
そう思ったとき、手をずっと繋いだままだったことを思い出した。
自分が考えていたことは、全部筒抜けだったんだろうな。
ニーナはこちらを見て頷き
( いいと思います。その案。 )
そう言って
いたずらっぽく笑った
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